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ミシュラン、日本未発売の「X One」新シリーズも初公開した「2019年アドバンスユーザーミーティング」

菅原義正氏&菅原照仁氏も「日野レンジャー」と共にゲスト参加

2019年9月20日 開催

「2019年ミシュラン アドバンスユーザーミーティング」で3種類のタイヤが日本初公開

 日本ミシュランタイヤは9月20日、同社のトラック・バス用タイヤユーザーなどを対象としたイベント「2019年ミシュラン アドバンスユーザーミーティング」を新潟県糸魚川市で開催。今回はミシュランと提携している高瀬商会 糸魚川工場で行なわれているリトレッド作業の工場見学会、糸魚川市内にあるホテル国富アネックスに場所を移してのセミナーの2本立てで実施された。

 前半の工場見学では糸魚川工場の見学に加え、60人ほどの参加者を4つのグループに分け、高瀬商会の代表取締役社長である高瀬吉洋氏による「リトレッド工場に関する研修」、トレッドゴムがすり減ったタイヤを使って実際にリグルーブを体験できる「リグルーブ体験会&製品展示」、ミシュランにゆかりのあるスペシャルゲストが登場する「特別展示」の4セッションが用意された。

 なお、今回の工場見学は1グループの人数が多いことなどから工場見学については撮影禁止となったが、この糸魚川工場については2018年8月に行なわれた報道関係者向けの見学会(ミシュラン、環境負荷低減活動の「3R」を促進する「X One リトレッド」のリトレッド工場説明会)の記事で内容を紹介しているので、こちらを参照していただきたい。

ミシュランのトラック・バス用タイヤのリトレッドを行なっている高瀬商会 糸魚川工場
今回は工場内の撮影がNGとなった。タイヤをリトレッドする工場の詳細は関連記事を参照いただきたい
2019年のはアドバンスユーザーミーティングは60人ほどのミシュランタイヤユーザー(運送事業者などの代表者)が参加した
株式会社高瀬商会 代表取締役社長 高瀬吉洋氏

 高瀬社長から行なわれたリトレッド工場に関する研修では、走行によってトレッド面のゴムがすり減った使用済みのタイヤを「台タイヤ」として使い、適切な処理を行ないながらタイヤのトレッドゴムを再生するリトレッドについて解説。リトレッドタイヤは新品タイヤの7割ほどの価格で販売でき、ライフ性能も新品タイヤの9割近くが期待できることから費用対効果が高く、欧米などでは古くから普及。日本などのアジアでも近年は普及が進んでおり、さらに近年は地球温暖化の対策としても注目されるようになった。なお、ミシュランではタイヤによる「3R」として、ロングライフ化による「リデュース」、一定段階までトレッドゴムがすり減ったタイヤの溝を再生させる「リグルーブ」、そしてこのリトレッドを大きく訴求しているとのこと。

 このほかに高瀬社長は、日本でリトレッドが普及しにくい要因として、とくにリトレッドの利用率が高い北米などと比較すると日本は信号機が多く、大型車でも右左折が必要となる道路が多いこと、山がちな地形でアップダウンが多いことなどタイヤにかかる負荷が大きく、ユーザーとなる事業者も安全面に対して神経質であることなどを紹介。

 また、タイヤの購入者である運送事業者が自分たちのお客さまとなる荷主がタイヤを見たときにリトレッド品であると知られることに抵抗があり、仕上がり具合にも関心が高いと説明。このため日本では。初期費用が高くなり、バリエーション展開が難しいものの加工後の見た目がより新品に近い「リモールド方式」が主流になっていることを紹介。実際に高瀬商会での取り扱いでもリモールド方式がメインとなっているが、ミシュランで推進している「プレキュア方式」は初期費用が低く、加硫時に必要となる温度がリモールド方式の160℃に対して120℃前後まで引き下げることが可能で、台タイヤに対する負荷を抑えられることも大きなメリットになると述べた。

リトレッドタイヤの概要。2002年には「グリーン購入法の特定調達品目」に指定され、国や地方自治体などが使用を推進している
リトレッドタイヤにはモールド内で加硫しながら形状やトレッドパターンを仕上げる「リモールド方式」と、加硫済みのトレッドゴムを台タイヤに貼り付けて低温加硫する「プレキュア方式」の2種類がある
リトレッドタイヤは新品タイヤと比較して、製造時の石油資源を約68%、CO2排出量を約59%抑制できるという
ミシュランが推進している「3R」は環境負荷の低減に加え、ユーザーのコスト低減も目的としている
リトレッドタイヤは長年に渡る使用で安全性や耐久性が実証されているが、操舵輪となる前輪での使用は非推奨
「リグルーブ体験会&製品展示」

 アドバンスユーザーミーティングで恒例となったリグルーブ体験会も実施。参加者にはすでに機材も導入して自社でリグルーブが可能な体制を整えているという人も多かったが、導入を考えている人、まだよく分からないという人にとっては、実際にすり減ったタイヤを使ってリグルーブの作業が詳しく実演され、自身でも体験できる貴重な場となった。

ミシュランスタッフが講師としてリグルーブを解説
どれだけリグルーブ可能か専用の計測器でチェックする。トレッド面にチョークで書かれた数字がリグルーブ可能な深さ(mm)。トラック・バス用のタイヤは直径が大きいため遠心力の影響が強く、とくに中央部分が偏摩耗しやすい
U字型の刃先がゴムの反発力で押されると通電し、刃先が赤熱してゴムを柔らかくする専用器具でリグルーブする
講師によるお手本
右がリグルーブ前、左がリグルーブ後。多くの場合、縦3本のストレートグルーブだけで問題なくウェットグリップが回復するとのこと
タイヤごとのリグルーブパターンをまとめたガイドブックも用意されている。体験会では参加者に分かりやすくなるよう、トレッド面にチョークでガイドラインが引かれていた
参加者もグローブと作業着代わりのレインコートを着用してリグルーブ体験
数回繰り返してコツをつかむとスムーズにリグルーブできるようになっていた
ミシュランのトラック・バス用ワイドシングルタイヤ「X One(エックスワン)」シリーズを使った3Rの解説
新品タイヤ
トレッド面の左側半分にリグルーブを施したタイヤ
リトレッドタイヤ。素人目には新品タイヤと見分けがつかない
ミシュランタイヤを使ってダカールラリーに挑んできた菅原義正氏&菅原照仁氏が2018年の参戦車両である「日野レンジャー」とともにゲスト出演

「特別展示」では、「日野レンジャー」にミシュランタイヤを装着してダカールラリーに参戦している「日野チームスガワラ」の菅原義正氏と菅原照仁氏がスペシャルゲストとして登場。

 展示された車両は2018年のダカールラリーで菅原照仁氏がドライブし、排気量10リッター未満クラス優勝、総合6位フィッシュを飾った日野レンジャー 2号車。運転席も開放され、輝かしいクラス9連覇を果たしたマシンのドライバーズシートに座って記念撮影することもできた。

日野自動車の中型トラック「レンジャー」(500シリーズ)をベースとしたダカールラリー参戦車。ミシュランのトラック・バス用タイヤ「XZL」を装着している
車体のサービスリッドなども開放され、過酷なラリーを戦うマシンの細部を見学できた
運転席に上がりやすいようステップも用意され、ドライバーズシートで記念撮影する人も
キャビン内は2人乗り。砂漠のラリー走行ではマシンが横転する危険も高く、ルーフ部分までがっちりとロールバーが張り巡らされている
「ダカールラリーの鉄人」の異名を持つ菅原義正氏だが、マシンの構造について解説したり、いっしょに記念したりと気さくに参加者と交流していた
「日野レンジャー 2号車」エンジン始動デモ(33秒)

日本未発売の「X One」や同日発表の「X Multi Grip Z」も展示

ダイワ運輸株式会社 代表取締役 木村泰文氏

 会場を移して行なわれた後半のセミナーでは、ミシュランタイヤユーザーの導入実例として、6年ほど前から自社のトラックにワイドシングルタイヤ「X One(エックスワン)」を導入しているダイワ運輸 代表取締役 木村泰文氏が登壇。

 木村氏は石油製品を取り扱う業界から運送事業に参入した会社設立当時、それまで取引のあった潤滑油のメーカーから新しく開発した大型トラック向けとなる100%化学合成のエンジンオイルを試験的に導入してほしいと頼まれ、自社のトラック数台に導入したときのエピソードを紹介。そのエンジンオイルは一般的な製品と比較して単価が10倍以上と高価だったものの、大型トラックのエンジン交換サイクルの目安と言われている1万kmの10倍になる10万kmを超えてもまったく潤滑性能に問題が起きないどころか、15万km以上走行してもJIS規格で定められた性能を維持していたという。

 依頼元のメーカーからは念のため10万kmで交換してほしいと頼まれ渋々それに従ったが、エンジンオイルで必要となる出費は同程度でも、その間に発生するオイル交換の費用や待ち時間などを考えれば高性能オイルを使うことには何の問題もないと考え、現在でも全車で使い続けていると紹介。また、高性能オイルを導入したトラックでは、走行距離が伸びていってもターボチャージャーのオーバーホールや交換が不要となっていることも大きな副産物だと説明した。

 木村氏はこのエピソードについて、近江商人の思想である「始末してきばる」になぞらえ、目先のコストだけでなく、本当によいものを見極めて使うことが重要だとコメント。自社のトラックにミシュランのX Oneを採用していることも同様で、タイヤ2軸をX Oneに置き換えることでトラック1台につき約300kgの軽量化を実現。また、ダイワ運輸では3年ほど前からスペアタイヤの搭載を廃止。スペアタイヤ+固定装置分の約100kgを軽量化して、合計400kgの軽量化を果たしているという。

 大型トラックにスペアタイヤを搭載していても、万が一使うときにドライバーが自分で交換するわけではなく、結局タイヤサービスを依頼して交換してもらうのであれば、新しいタイヤを持ってきてもらっても大差ないとの割り切りを行なったほか、ダイワ運輸ではX Oneの導入に合わせて「TPMS(タイヤ空気圧監視システム)」を導入し、窒素充填も実施。空気圧をしっかりと管理してトラブルを初期段階で発見できるようにしているほか、空気圧の低下による燃費悪化も防止していると説明。

 また、木村氏は運送業界が仕事をすることで環境負荷が起きることを「原罪として持っている」と表現。事業のサスティナブル化に向け、ちょっとした内容でも環境によさそうなことがあれば積極的に取り組む姿勢を会社ごと、働く1人ひとりが意識していく必要があると語った。

日本ミシュランタイヤ株式会社 B2Bタイヤ事業部 マーケティングディレクター 田中禎浩氏

 続いて日本ミシュランタイヤ B2Bタイヤ事業部 マーケティングディレクター 田中禎浩氏がミシュランのタイヤソリューションについて解説。田中氏は運送業界の現状について、ここ数年は日本経済が安定して推移していることで物流の仕事は増えており、トラックの入れ替えも進んで新車のトラックが増えているものの、一般にも知られるようになったドライバー不足の問題は解消されておらず、労働基準法が改正されてドライバー1人あたりの稼働時間が減少し、人件費も増えていると解説。

 この現状の対策として、ミシュランでは「コスト削減」「安全性」「生産性」という3点から価値の提供を図っていると田中氏は語り、安全性の面では「ロングラスティングパフォーマンス」として、使い始めてからしばらくの間ではなく、使い終わる直前まで高い性能を維持できるよう心がけてタイヤ開発を実施。ウェットグリップ性能の評価では、新品状態以上に摩耗状態での性能強化に取り組んでいるという。

 コスト削減では今回のアドバンスユーザーミーティングでも取り上げているとおり、3Rの推進によってユーザーのタイヤ使用本数を削減していると説明。会社単位での購入本数が1000本から700本、600本と減る一方、そういったミシュランの取り組みに賛同してもらい、導入企業が増えることで収益を上げて、運送会社と共に成長していくことを目指していると解説した。

 生産性では「タイヤが原因でトラックがストップすること」を極限まで削減。パンクのようなトラブルだけでなく、ローテーションやタイヤの摩耗による交換も頻度を下げることで、貴重なドライバーが働けない時間を減らし、収益性を高めていく。

「コスト削減」「安全性」「生産性」の3点からミシュランは価値を提供
摩耗状態でのウェットグリップ性能に注目して開発を実施
3Rによって運送会社の収益性を高め、導入する会社数を増やすことでミシュランも成長していく
トラックとドライバーの稼働時間を最大化して収益性を高める
セミナー会場に並べられた3つのトラック・バス用タイヤ。左と中央が日本初公開となるX Oneシリーズの北米向け製品、右は同日に発表されたばかりで同じく初めての公開となった「X Multi Grip Z」

 タイヤでの生産性アップに関連して、会場に用意した3つのトラック・バス用タイヤを田中氏は紹介。同日に発表し、11月から販売を開始するトラック・バス用のオールシーズンタイヤ「X Multi Grip Z(エックス マルチグリップゼット)」(11R22.5)は、かつて販売して人気を集めていた「XJW 4」のトレッドパターンを継承しつつ、ノイズ低減技術を追加。従来品の「XZN+ MIX ENERGY」で14.5mmだった溝の深さをX Multi Grip Zでは16.5mmに増やしてロングライフ化を実現したほか、摩耗が進んでいってもより高いウェットグリップ性能を発揮できるようにしている。

 これに加え、X Multi Grip ZではX Oneシリーズだけに採用されてきた「インフィニコイル」をトレッド面の下に備えており、X Oneシリーズで定評のある耐偏摩耗性、耐久性を継承。偏摩耗の抑制でローテーションの回数を減らし、リトレッドの台タイヤとして再利用できる確率も高まるとしている。X Multi Grip Zは日本のユーザーをターゲットに開発された日本専用パターンのタイヤとなっている。

X Multi Grip Zはかつて人気を集めていた「XJW 4」のトレッドパターンを継承
スタッドレスタイヤなどでも用いられている「ブロック同士が支え合う構造」などを導入し、溝の深さを14.5mmから16.5mmに拡大。より長く使い続けられるようにした
X Multi Grip Zもリグルーブ、リトレッドに対応
パターンデザインを最適化して、摩耗が進んでいっても高いウェットグリップ性能を発揮できるようにしている
X Oneシリーズ以外のタイヤで「インフィニコイル」を初採用

 トレッドパターンが異なる2種類のX Oneは、これまで11R22.5サイズのダブルタイヤをシングル化するワイドシングルタイヤとしてラインアップされてきたX Oneシリーズはそれぞれ455/55R22.5というタイヤサイズを採用してきたが、用意された新しいX Oneはそれよりもひとまわり小さい445/50R22.5を採用。どちらも販売量が多くラインアップの豊富な北米市場では販売されているタイヤだが、日本で実物を公開するのはこの場が初めて。

 既存のX Oneシリーズは2017年5月に三菱ふそうトラック・バスが発売した新型「スーパーグレート」でメーカーオプション装着タイヤとして採用されており、メーカー純正採用をさらに拡大していくため、「こんなサイズ展開もありますよ」と各トラックメーカーにアピールすることも視野に入れて用意したという。なお、2種類のうち「X One LINE GRIP D」は455/55R22.5の製品が4月1日から日本でも販売されているが、「X One LINE ENERGY D」はサイズだけでなく、製品自体が日本未導入の次世代タイヤとなっている。

「X One LINE ENERGY D」(445/50R22.5)
「X One LINE GRIP D」(445/50R22.5)

 田中氏はミシュランのタイヤについて「ミシュランではパターン技術、構造技術、コンパウンド技術を組み合わせることによって『トータルパフォーマンス』を実現しています。このトータルパフォーマンスは乗用車、トラック・バス、建機、農耕用とすべてのタイヤで共通の基本概念です。これは『目指す性能を手に入れるために何かを落とす』ということはなく、例えば、相反関係の部分だとしても、『転がり抵抗を低減するためにウェット性能が下がる』『ロングライフを求めてグリップが落ちる』といったことはミシュランの考えにはありません。すべてのパフォーマンスを高い次元で維持する。そのトータルパフォーマンスがミシュランの基本概念です」と紹介。トラック・バス用タイヤでもトータルパフォーマンスによってユーザーに貢献していることをアピールした。