ニュース

ブリヂストン、トップ交代へ。次期CEOと現CEOが記者会見

2019年12月13日 開催

新たにブリヂストンの代表執行役 CEOに就任することが内定した石橋秀一氏(左)と、2012年3月からCEOを務めてきた津谷正明氏(右)

 ブリヂストンは12月13日、取締役会を行ない、2020年1月1日付けとなる新しい役員人事を実施。合わせて2020年3月下旬に開催予定の定時株主総会後に行なわれる取締役会での承認を条件として、同社のグローバル CEOとなる代表執行役 CEOに、現職の津谷正明氏に代わり、現代表執行役 副会長の石橋秀一氏が就任することを内定した。

 これを受け、ブリヂストンは同日に都内で津谷会長、石橋副会長の両氏が出席する記者会見を開催した。

株式会社ブリヂストン 代表執行役 CEO 兼 取締役会長 津谷正明氏

 最初に登壇した津谷会長は、同日決定した新しい人事について説明。自身は石橋副会長に代表執行役 CEOのバトンを渡した後、代表権のない会長になると語った。

 また、過去10年ほどのブリヂストンの経営体制について振り返り、ブリヂストンでは2012年からCEOとCOOを2トップとする執行体制を採用していること、2013年からはグローバル化を推進するため、グローバル経営執行会議の「Global EXCO」を導入していること、2016年から指名委員会等設置会社に移行していることなどを紹介。

 2018年から新しいトップの人事構想が始まり、2018年12月に津谷会長がCEOに就任した2012年3月からCOOを務めてきた西海和久氏が代表執行役を退任。江藤彰洋氏が後任の代表執行役 COO 兼 社長に就任しており、今回のCEO交代につながっていると一連の流れを説明した。

 また、自身がCEOに就任した2012年前後からの売上高、純利益、平均株価などをグラフで紹介。就任後は「米州事業を持続的にグループ全体の利益に貢献させること」を最優先課題に位置付けて取り組みを実施。ブリヂストンにとって一大イベントとなった1988年のファイアストン買収には自身と石橋副会長が直接携わっており、苦しい時期を経ながら約四半世紀の歳月を費やし、ようやく持続的にグループ利益に貢献できる体制が整えられたとした。

 長期的な取り組みである米州事業にめどが付いてきた一方、新しい変革として「グローカル(グローバル+ローカル)」「ソリューション事業化」「デジタル化」を今後の課題として取り上げ、後任となる石橋副会長や新しい執行体制のもとでさらなる展開を果たしてほしいとの期待を述べた。

ブリヂストンにおける執行とガバナンスの体制
約20年における売上高や純利益、平均株価などの推移
「グローカル(グローバル+ローカル)」「ソリューション事業化」「デジタル化」の3点を今後の課題として指摘
2020年1月1日付けの新人事では、現執行役 専務の東正浩氏が代表執行役 副会長に昇格する
株式会社ブリヂストン 代表執行役 副会長 石橋秀一氏。なお、創業者の石橋家とは親戚などの関係ではないとのこと

 津谷会長からCEO職を引き継ぐことが内定した石橋副会長は、自身の就任後に取り組む目標は大きく2種類あると述べ、1つはこれまで津谷会長が進めてきた経営改革を継続・強化していくこと、もう1つは来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックの開催を契機として企業価値をさらに高めていくことがミッションになると説明。

 経営改革については、ブリヂストンが掲げる「最高の品質で社会に貢献」という企業理念をベースに90年近い歴史の中で作り上げてきた力を使い、「グローバルで断トツのタイヤゴム会社」から「グローバルで断トツのソリューション会社」になることを目指すという。

 このためにブリヂストンのビジネスプラットフォーム「Bridgestone T&D PaaS」を積極的に活用。これまで培ってきた「断トツのもの作り」「断トツのサービス」「強い現場」をベースとしてデジタル技術と融合させ、社会課題を解決して新しいビジネスモデルを構築。競争での優位性を担保して成長戦略につなげていくというビジョンを明かした。

 オリンピック・パラリンピックについては、2024年のパリ大会までトップスポンサー契約を結んでおり、この中で「ブランド」「イノベーション」「ビジネスサポート」「ダイバーシティ」「インクルージョン」の5つのテーマで「断トツのブランド」になることを目指していくという。

 石橋副会長は現在の社会状況を「激動の時代」と指摘し、リスクに対しては脇を固めてしっかりと備えつつ、一方で変化をチャンスに変えることにチャレンジしたいと意気込みを語り、「ブリヂストンは創業以来、数々の激動期、数々の修羅場をくぐってきました。その都度正面から向き合い強くなっていく。これがブリヂストンの歴史でございます。私どもはグローバルのチームとして課題に正面から向き合い、新たな挑戦、新たな未来を自分たちで造っていきたいと考えています。創業者(故石橋正二郎氏)の言葉を借りるなら『進取独創』で、将来を切り拓き、『熟慮断行』したいと考えております」と締めくくった。

津谷会長、石橋副会長との質疑応答も行なわれた

 後半に行なわれた質疑応答では、このタイミングでCEOの交代が行なわれた理由について、津谷会長が「当社が指名委員会等設置会社に移行して初めてのことなので、いろいろなことを議論して、やり方を考えながら進めてきました。1つは(前COO)西海さんが退任するということで後任を探す必要がありました。そこで時期をずらして継続性を維持することを考えました。(ブリヂストンでは)経営は1人でやっているのではなくチームでやっており、その中で動いていくことを意識して進めています。また、次のオリンピック・パラリンピックがあります。世界中の皆さまに新しい経営チームをご紹介する絶好の機会にもなりますので、今が一番いいタイミングであろうと判断いたしました。私は(CEOを)8年間やってきましたが、今はある意味でほっとしているところです」と語った。

 石橋副会長が次のCEOに選ばれた理由について、津谷会長は「この2年間、社外の指名委員会の3人と実にいろいろと緊密に議論して、その3人も国内外の執行役員などにインタビューをしてくれて、ずっと議論を深めてくれていました。ですので、私だけではなく、委員会も含めた私の思いになるのですが、グローバルに見ても一番素晴らしい人だと思っています。アメリカでの経験が非常に長く、こう見えて非常に苦労人で、当社でこれほどいろいろな部門を担当してきた人はそれほどいないと思います。先ほど本人からも出ましたが、課題が出た時に逃げずに正面から向き合ってきた強さがあります。海外のメンバーからも非常に信頼され、尊敬されています」と説明した。

新たにCEOとなる石橋副会長に対し、課題が出た時に正面から向き合ってきた強さで今後の取り組みを進めてほしいと語りかけた津谷会長

 また、8年間のCEO在任中で印象に残っていく事柄としては、「先ほどもお話しましたが、アメリカでの事業が軌道に乗ったことにはとくに思いがあります。石橋さんも私も若いころに直接関わったということで、当時の経営陣の方々がどんな思いで、どんな考えで取り組んだのか直接見てきました。ただ、残念ながらなかなか思ったとおりには進まずに苦しい時期が続き、これをグループに貢献する事業に変えるということが、先輩方からの思いを引き継いだ私たちの悲願でした。これができたということが、諸先輩方に対してとてもうれしく、誇りに思っていることです」。

「もう1つ思い出深いのはGlobal EXCOで、2013年からグローバル化を進めようといった時に、どうしたらいいのか迷いながら、実験的に作ってみたものでした。(Global EXCOで)日本語でやった方がいいのか、どういったメンバーでやろうか、どういった進め方をしようかと試行錯誤で進めていき、思いのほかの展開を見せていいチームができていきました。この2つが8年間で思い出深いところです」と津谷会長は答えている。

CASEに対応する新しい技術開発にも取り組んでいることを明らかにした石橋副会長

 新たにCEOに就任する石橋副会長に対し、取り組みで力を入れていきたい部分についての質問では、「Bridgestone T&D PaaSについて、これまでも何度か説明させていただいていますが、われわれは自分たちの強みを生かしたソリューションとしていきたいということで、まずは『断トツの商品』をしっかり作り上げていく。そして『断トツのサービス』『断トツのグローバルでのサービスネットワーク』といったものを組み合わせてソリューションを生み出していく。そのソリューションではリアルに存在するものを組み合わせるだけではなく、デジタルの世界も一緒にして新しい価値を生み出していく。これが大きなフレームになります」。

「今年の春に、Tom Tomのデジタルフリートソリューション事業を買収しましたが、これはまさにデジタルのソリューションで、物を売っているわけではありません。情報できちっと価値を作ってビジネスにして、お客さまの困りごとを解決しているわけです。そんなデジタルの専門家700人が僕らの仲間になってくれました。その仲間と一緒になって新しいデジタルの世界を進めていきたいと思っています」

「加えて、お客さまのいろいろな情報を私どもと共有していただく『共創』で、従来の例えばタイヤの故障などは結果からしか分かりませんでしたが、要因も分かるようになる。そうなるとわれわれのタイヤ開発の段階に情報がフィードバックされていき、よりよい製品ができる。そういったところで商品もよくしていく。そんなところのチャレンジしていきたいと思います」と回答した。

 ソリューション事業の今後の展開について質問され、石橋副会長は「まず、生産財系がソリューション事業に親和性が高いと考えています。それはお客さまがプロになるので、解決すべきお客さまの困りごとが分かりやすいところです。さまざまな困りごとがあって、例えば鉱山や飛行機、農場などで車両が突然止まることが非常に困る。それをどうやって解決するか、そのためにデジタル情報も含め、兆候管理をしながら未然防止をしていく。そしてきちんとメンテナンスをする。そういったところが1つのモデルになって、生産性の向上とか、トータルコストの低減につながっていきます」。

「しかし、消費財系でもだんだんと変わってきています。例えばドイツでは、乗用車のビジネスはもうBtoBになってきています。消費者が直接新車を買うのではなく、フリートという形でクルマに乗る。今はさまざまなMaaSによって新しいモビリティの仕組みができつつあります。従来の乗用車用のタイヤでは、ご存じのように使われている期間が4%~5%で、後は駐車場に止まっているという形でした。しかし、今後はCASEの中でさまざまな形で使用頻度が上がっていく。例えば50%とか60%に上がっていくと、タイヤでも生産財的な耐久性や耐摩耗性が求められるようになり、形は乗用車タイヤでも中身は鉱山用タイヤやトラック用タイヤのような、実はもう技術的なコンバージョンもやっておりまして、そういった意味から消費財でもだんだんと生産財的なビジネスモデルになっていくだろうというのがまず1点」。

「また、現在のBtoCのビジネスでも、一部ヨーロッパでスタートしているサブスクリプションという形で、一定額をお支払いいただき、ハードであるタイヤとメンテナンスを含めたサービスを提供する。これも生産財でいいますと、飛行機用タイヤでは着陸1回あたりでいくらというコストパーランのビジネスモデルもすでにありまして、そういったビジネスモデルがBtoCの世界でも出てくるだろうと考えています」と回答。CASE対応で求められるようになる、これまでの乗用車用タイヤとは異なる性能を持つタイヤの開発にもすでに取り組んでいることを明らかにした。