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茨城県境町で自動運転バスの定常運行開始 生活路線バスとして往復5kmを運行

11月26日から無料で利用可能

2020年11月25日 発表

茨城県境町で自動運転バスの定常運行開始

 茨城県境町は11月25日、ソフトバンク子会社のBOLDLY(ボードリー)、マクニカの協力の下、仏Navya製の自動運転バス「NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)」を3台導入して、生活路線バスとして定時・定路線での運行を11月26日から開始すると発表した。国内初の自治体による公道での自動運転バスの実用化になるという。

 11月25日に、茨城県境町の橋本正裕町長、BOLDLY代表取締役社長 兼 CEO 佐治友基氏、マクニカ 代表取締役社長 原一将氏らが出席する自動運転バス出発式が開催され、境町が導入する3台の自動運転バスが公開された。

 1台の外装には、境町とBOLDLYが境町の近隣を流れる利根川をテーマに一般の方から募集したデザインを採用。そのほかの2台の外装や座席のカバーには、境町出身の美術家である内海聖史氏が制作したキービジュアルを採用して、境町のコンセプトである「自然と近未来が体験できる境町」をイメージしてデザインされた車両となる。

仏Navya製の自動運転バス「NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)」
茨城県の境町に導入された自動運転バス「NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)」
安全な運行管理を実現するため自動運転バスの状態監視や、緊急時の対応、走行前の車両点検、走行指示機能などを備えるBOLDLYの「Dispatcher」を搭載する

 境町では、自動運転バスのNAVYA ARMAを町内の往復約5kmのルートで運行。当初は3台のうち1台で平日10時~15時30分に8便を運行し、将来的に同時に2台を運行して、その間に他1台の充電やメンテナンスなどを行なうとしている。

 運行コースは、多目的ホールや集会室、テニスコートなどを備えた「境シンパシーホールNA・KA・MA(境町勤労青少年ホーム)」と、境町の地域活性化の活動拠点である「河岸の駅さかい」をつなぎ、無料で乗車可能。

境シンパシーホールNA・KA・MA(境町勤労青少年ホーム)
河岸の駅さかい
茨城県境町自動運転バス出発式で関係者が揃ってテープカットを実施

クルマがないと生活ができない

 境町では、これまで人口減少や高齢化に伴う活力の低下、交通網の脆弱性などの構造的な課題を抱えていたが、境古河バスターミナルから成田空港への直通バスなど、首都圏中央連絡自動車道を活用した公共交通網の整備、スポーツや観光、福祉、住居施設などの拠点整備を積極的に推進した結果、人口減少に歯止めがかかりつつあるという。

 今回、自動運転バスのNAVYA ARMAを導入したのは、これらの拠点を中心として町内の回遊性の向上を図り、さらなる人口の増加、ひいては地域活性化を促進するためとしている。また、同車両は国土交通省が推進するグリーンスローモビリティに該当しており、環境への負荷を抑えて、ゆっくりと高頻度で運行することにより、住民の生活の足として役立つとともに、交通の流れが低速になり、安全性が向上することに期待している。

茨城県境町 町長の橋本正裕氏

 自動運転バス出発式で、境町の橋本正裕町長は「今回、茨城県境町が全国に先駆けて、往復5kmの道のりを自動運転バスで運行することを実施させていただきます。茨城県境町には駅がございません、そしてクルマがないと生活ができないところでございます。免許を返納したくても返納できない方がたくさんいる、そんな町でございます。この境町の取り組みが、コロナ禍において全国に明るい未来を照らすような、そんな1つの話題になればと思っております」と述べた。

 また、橋本町長は「今回この自動運転バス、半年間コロナにより延期をさせていただきました。その間に、町民の皆さんの声も聞かせていただきました。やはり高齢者の方はこれで今すぐは免許返納できなくても近い将来に免許が返納できる、そんな未来が来るということで、大変喜ばれておりました。われわれがチャレンジする今回のこの取り組み、ぜひとも皆さんで応援をいただいて、そして各地方が課題解決に向けて取り組めるような、そんなモデルケースになったらと思っております」との意気込みを述べた。

自動運転バスが走る未来が今になった

 自動運転バスの運行業務を行なうBOLDLYでは、これまで自動運転バス導入に向けてルートの選定・設定や、3Dマップデータの収集、障害物検知センサーや自動運転車両の設定など、走行までに必要な作業を行なってきた。今後は自動運転バスの運行業務を行なうとともに、複数の自動運転車両の運行を遠隔地から同時に管理・監視できる自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」で、自動運転バスの運行管理を実施していく。

BOLDLY株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 佐治友基氏

 BOLDLY 代表取締役社長 兼 CEOの佐治友基氏は「私がこの会社を起業したのは約5年前になりますが、その時からずっと未来、未来、未来のことだというふうに言ってきたのが、今日、今になりました。この未来が今になったというのは、本当に感極まる思いでして、同時にスタートラインに立ったという自覚もございます。これからBOLDLYという会社では、安全に皆さまに安心してご利用いただける、そんな地域の足を作るべく、しっかりと取り組んでいきたいと思っております」との意気込みを述べた。

 また、境町で自動運転バスを走行させることについて、佐治氏は「もともとわれわれがこのフランス産の自動運転バスをどこで実用化できるか、技術に言い訳をするのではなくて、今ある技術を、今ある法律の中で、今あるビジネスモデルで実現するんだという志で、どこでやるかを選んだ時に境町を選んだ理由は1つです。それはモビリティは単なる移動手段で、どんな街づくりをしていきたいのか、どうやって街を盛り上げていきたいのか、というシナリオを明確に持っていたので、そこには移動手段も必要だよねという町長の言葉に即決して、完全に同意して、そうであればこのモビリティは生きてくるだろうと思えた。それが、昨年の12月27日、町長との初めての出会いでした。そこから非常にスピーディーに決断いただいて、この日を迎えられたということも大変嬉しく思っております」と明かした。

境町を走行する自動運転バスに試乗

手動運転が必要な際にははアクセルやブレーキ、ステアリングの代わりとなるゲーム用コントローラーによって人間が操作する

 この自動運転バス出発式後、実際に報道陣も自動運転バスに試乗することができた。自動運転バスには安全を管理する2名のスタッフが同乗しており、ルート上の駐車車両を避ける必要があるときなど、適宜手動運転を取り入れるといった、現状の規制に合わせるかたちで運行される。

 乗車してみた印象としては、自動運転中のコーナリングやブレーキングなどの動きはスムーズで、乗っていて安心感が高いと感じた。ただ、速度は18km/hとなるので、ルート上には退避ポイントも用意され、後続車両を先に通す配慮もとられていた。片道2.5kmの距離については、この距離を歩かなければならないと考えると、ありがたい乗り物であると感じた。

片道2.5km、往復5kmを走行するルート

 この自動運転バスに関わる事業予算は5億2000万円で、事業期間は2024年度までの5年間。今後、便数やルートは住民の要望に合わせて順次拡大するほか、スーパーマーケットや医療施設、小学校などの生活に密接に関連する施設にもバス停を設置して、利便性を高めていく予定としている。