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OmniVision、300万画素のカメラ4つを1つのISPで処理できる「OAX4000」説明会

2021年5月13日 開催

OmniVisionが発表したOAX4000(出典:OmniVision「Announcing the OAX4000」)

 OmniVision Technologiesは5月13日、車載向けの次世代ISP(Image Signal Processor、画像信号プロセッサ)となる「OAX4000」(オーエーエックスフォーサウザンズ、日本語ではオーエーエックスヨンセン)を日本でも発表した。

 OAX4000は5月5日(米国時間)に報道発表された製品で、強力な画像信号処理性能を備えていることで、従来は4つのISPが必要だった4つの300万画素カメラの画像処理を1つのISPで済ますことができるなどのメリットがあり、自動車メーカーにとってはコスト削減効果が大きくあるという。

日本での研究開発拠点も拡大。2020年は高崎に、今年は仙台に研究開発拠点を設置

オムニビジョン・テクノロジーズ・ジャパン 日本支社長 薄井明英氏(会見より筆者キャプチャー)

 OmniVision Technologiesの日本法人となるオムニビジョン・テクノロジーズ・ジャパン 日本支社長 薄井明英氏はOmniVisionの現況などについて説明を行ない、「OmniVisionはセンサー、アナログに取り組んできたが、最近ではディスプレイ用のタッチソリューションの提供も開始している。今後もイメージセンサーの新しい技術を開発していく計画で、PureCel、グローバルシャッター、HDR、RGB-IRなどの開発を続けていく」と述べ、OmniVisionが取り組んでいるイメージセンサーの技術を拡張していくと説明した。

OmniVisionの3つの事業(会見より筆者キャプチャー)
世界中の研究開発拠点(会見より筆者キャプチャー)
日本でも新しい研究開発拠点を2つ追加(会見より筆者キャプチャー)

 その上で、自動車メーカーが集中する日本での研究開発にも力を入れていることを強調し、これまでOmniVisionが横浜に開設してきたCMOSイメージセンサーの開発拠点だけでなく、2020年から高崎にパワーデバイスの開発拠点を、そして2021年1月から仙台にパワーマネージメントデバイスの開発センターを新たに設けたことを明らかにするとともに、「今後も研究開発センターの拡張を検討していく」と述べ、今後もさまざまな形で研究開発拠点の拡張を行なっていくと強調した。

4つの300万画素カメラを1つのISPで処理する性能を持つOAX4000、自動車メーカーにはコスト削減のメリットが

OmniVision Technologies オートモーティブ シニア・マーケティング・マネージャ ケルビン・チャン氏(会見より筆者キャプチャー)

 続いて登壇したOmniVision Technologies オートモーティブ シニア・マーケティング・マネージャ ケルビン・チャン氏は、次世代ISPとなるOAX4000の概要などに関して説明を行なった。

 ISP(Image Signal Processor)とは画像信号プロセッサと日本語に訳されるプロセッサ(処理機)で、画像の処理を専門に行なうものだ。近年ではスマートフォンやPC向けのSoC(System On a Chip、1チップでコンピューターの機能を実現する半導体)にも内蔵されており、カメラが撮影した映像を処理する用途に利用されている。

 例えば、スマートフォンの場合にはカメラで撮影した時にはRAWデータと呼ばれる非圧縮な形式のデータとしてデジタルデータに変換される。しかし、そのままのRAWデータだとデータサイズが大きすぎるため、JPEGなどのデータを圧縮した形式に変換されてストレージに保存される。その圧縮や、その圧縮時にできるだけ高画質にするという処理を担当するのがISPになる。

OAX4000の概要(出典:OmniVision「Announcing the OAX4000」)

 自動車の場合、こうしたISPは撮影した動画の圧縮や高画質化の役割を果たしている。カメラが撮影した動画はRAW形式と呼ばれる非圧縮な形式になっているため、これを適切なプロトコルを利用して圧縮する役目を果たし、かつ撮影した後でHDR(High Dynamic Range)という手法を利用して明暗をくっきりさせたり、低照度の動画をできるだけ明るくして暗い環境でも物体が判別できるような処理を施したりする必要がある。自動運転やADAS(先進安全運転支援システム)などではそうした動画を元に自動運転したり、運転支援を行なったりするため、ISPの性能は死活的に重要と言える。

 チャン氏によれば、OAX4000は「世界初の4つの300万画素カメラを同時に処理することが可能で、140db HDR、LEDフリッカー処理などに対応しながら従来世代に比べて30%の省電力を実現する。また、7×7 BGAという小型のパッケージに対応しているほか、ASIL-Bの機能安全を実現している」という。

4つの300万画素カメラを1つのISPで処理可能に(出典:OmniVision「Announcing the OAX4000」)
解像度を1080p/30fpsにすると3つまで対応(出典:OmniVision「Announcing the OAX4000」)
800万画素の場合には1つのカメラに対応(出典:OmniVision「Announcing the OAX4000」)

 チャン氏によれば、OAX4000の最大の特徴はそうした300万画素のカメラのサポートを1つのISPで行なうことができることだという。これまでの製品では、300万画素のCMOSカメラ(解像度は1920×1536ドット/30fps)を4つサポートするには、ISPが4つ必要だったが、OAX4000ではそれが1つで済むという。これにより、前後左右4つのコーナーに4つのカメラを設置する、そうした設計を1つのISPで実現することが可能になり、チャン氏は「自動車メーカーはISPのコストを大きく削減できる」と、自動車メーカーにとってコスト削減効果が大きいと説明した。

 あるいは解像度を1920×1080ドット/30fpsにすると3つまでを1つのISPで実現できるので、FDM(Full Display Mirror、カメラを組み合わせたデジタルのルームミラーのこと)、デジタルサイドミラー×2を3つのカメラで実現することが可能になる。

カメラモジュール側に内蔵可能(出典:OmniVision「Announcing the OAX4000」)
RGB-IRを利用可能(出典:OmniVision「Announcing the OAX4000」)
RGB-IRの仕組み(出典:OmniVision「Announcing the OAX4000」)
トーンマッピングの機能(出典:OmniVision「Announcing the OAX4000」)

 さらに、800万画素のCMOSカメラと組み合わせると、車載のシステムへの出力と、ドライブレコーダーなどへと2系統の出力をOAX4000だけで実現できるほか、カメラモジュールにOAX4000を搭載したり、RGBとIR(赤外線)を混載して利用できるRGB-IRの機能を利用することで、IRの方でドライバーモニタリングを実現し、同時にRGBの方で後席の子供をモニタリングしたり、複数の機能を1つのISPだけで利用することが可能になる。

LFM、低照度対応、HDRなどのデモで効果を確認。すでにサンプル出荷/量産出荷が開始されている

LFM、LEDの速度規制標識がきちんと見えている(会見より筆者キャプチャー)

 チャン氏はそうしたOAX4000のデモを行なった。具体的にはLFM(Led Flicker Migration、LEDフリッカー軽減)、Low light(低照度対応)、HDR/詳細キャプチャーの3つだ。

 LFMは、街中でよく見かけるLEDを利用した電光掲示板や信号などのフリッカー(ちらつき現象のこと、人間の目には気にならない程度のちらつきだが、カメラで見ると点滅しているのが気になるので、ISP側で処理が必要になる)の軽減機能では、電光掲示板を正しく視認できていることが確認できた。

低照度でも物体の判別が可能に(会見より筆者キャプチャー)

 また、低照度対応では0.05ルクスという人間の目にはほとんど何も見えない現状で看板を認識したり、壁のイラストを確認したりという様子が分かった。

壁面の詳細が判別可能に(会見より筆者キャプチャー)
ホワイトアウトなく木や空が見えている(会見より筆者キャプチャー)

 HDR/詳細キャプチャーのデモではトンネルの模様をきちんと把握できたほか、HDR処理の機能を利用すると、トンネルの出口で一瞬真っ白になるホワイトアウト現象を避けることができていることが動画で確認できた。

 OmniVisionによれば、OAX4000は2021年5月12日~13日に開催されるAutoSens Detroitでお披露目される予定。すでにサンプル出荷と量産が開始されている。