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ホンダ、モバイルバッテリーで電動アシスト自転車を駆動する「シェアサイクル用2電源システム」説明会

2021年10月21日 開催

「シェアサイクル用2電源システム」の利用イメージ。シェアサイクルのハンドル部分に設けられた充電ホルダーにモバイルバッテリーを接続して車載バッテリーの残量不足の不安を解消する

 本田技研工業は10月21日、スマートフォンやPC向けのモバイルバッテリーを活用し、シェアリングサービス用の電動アシスト自転車の充電残量低下を解消する新しいモビリティサービスの取り組み「シェアサイクル用2電源システム」に関するオンライン説明会を開催した。

 同日発表されたシェアサイクル用2電源システムは、ユーザーが日ごろ持ち歩くモバイルバッテリーを接続することで、充電残量が少ない状態でも安心してシェアサイクルを利用可能にする技術。これにより、「充電不足でユーザーが利用できるシェアサイクルがない」「事業者がシェアサイクルを充電するコスト負担」といったシェアサイクルの普及拡大に向けた課題を解消していくという。

オンライン説明会で説明を行なった本田技研工業株式会社 モビリティサービス事業本部 eMaaS戦略企画部 友谷浩之氏

 オンライン説明会では本田技研工業 モビリティサービス事業本部 eMaaS戦略企画部 友谷浩之氏が登壇。友谷氏はこれまでにNTTドコモ、メルカリでシェアサイクル事業に携わり、2020年にホンダに入社してからはMaaS領域の新規事業立ち上げを進める各プロジェクトの全体統括を行なっていることに加え、マイクロモビリティ新規事業のLPL(ラージプロジェクトリーダー)を務めている。

 ホンダでは独自の調査により、この10年でシェアサイクルの利用が都市部を中心に拡大しており、公共交通機関やクルマなどでの移動をファーストマイル、ラストマイルの部分で補完する重要な存在になっていくとの見解を示した。

 しかし、今後のさらなる拡大に向けてシェアサイクルは多くの課題を抱えており、ユーザー調査では「車両密度」「メンテナンス」「充電関連」という3点が主な不満になっているとの回答を得た。また、シェアサイクルを運営する事業者側としても、ユーザーに不満を抱かせないようにするメンテナンスや充電の作業で必要となるオペレーションコストが収益を圧迫しており、ユーザーと事業者の双方にとって課題になる充電関連の問題解消がシェアサイクルをさらに普及させるキーになるとした。

シェアサイクルの利用実態
シェアサイクルの利用はこの10年で急速に増えている
シェアサイクルは公共交通機関やクルマでの移動を補完する存在になっていく
シェアサイクルのユーザーが感じている不満点の調査結果。およそ半数のユーザーが充電関連に不満を持っているという
ユーザーの不満を解消するためのコストが事業者にとって大きな負担となっている
ユーザーと事業者の双方にとって課題になっている充電関連の課題を解消することがシェアサイクル普及のキーになる

 シェアサイクルの充電問題を解消するために生み出されたシェアサイクル用2電源システムでは、ユーザー側はこれまでに起きていた「ポートまで行っても充電不足でシェアサイクルを使えないかもしれない」という不安がなくなり、事業者側は充電済みのバッテリーをシェアサイクルに交換していく人件費を下げ、予備バッテリーの保有数を減らすことができるといったメリットが発生。ユーザーは気軽にシェアサイクルを利用できるようになり、事業者はコスト負担が低下することに加え、利用率の向上で収益アップが期待できるようになるという。

シェアサイクル用2電源システムの仕組みとメリット

 具体策としては、ホンダがシェアサイクルでの利用に対応する高出力と持ち歩きやすいコンパクトさを両立させた専用モバイルバッテリーと、シェアサイクルに充電ホルダーなどを追加するための「後付けキット」を用意。専用モバイルバッテリーは45Wの出力と15000mAhの容量を備え、重量は300g以下になる予定。USB Type Cポートを備え、スマートフォンやノートPCの充電にも活用できるものになる。

指定モバイルバッテリーはシェアサイクルで利用されることを想定したスペックが与えられ、45Wの出力と15000mAhの容量を備え、重量は300g以下になる予定
USB Type Cポートを備える指定モバイルバッテリーは、スマートフォンやノートPCの充電にも活用できる

 車載ポートにはモーターで必要となる電圧を発生させるためのDC/DCコンバータを備えており、車載バッテリーを充電するだけではなく、シェアサイクルで走り出すときに求められる高出力時には車載バッテリーと共同でモーターに電力供給し、負荷が低い巡航走行中はモーターに電力供給しつつ、余った分を車載バッテリーに充電していく。モバイルバッテリーの電力をモーターの駆動力に活用する部分はホンダの特許技術となっており、経済産業省 特許庁の「スーパー早期審査」を活用して取得したホンダ初の特許となっている。

シェアサイクル用2電源システムにはホンダで初めて特許庁の「スーパー早期審査」を活用して取得した特許技術が用いられている
走り始めたり坂道を上ったりするような高出力時は、車載バッテリーとモバイルバッテリーの両方の電気を使ってモーターを駆動させる(特許技術)
平地を巡航走行するような低出力時は、モバイルバッテリーの電気でモーターを駆動させるほか、余力の電気を車載バッテリーに蓄える(特許技術)
信号待ちなどで停車しているときはモバイルバッテリーから車載バッテリーに充電
モバイルバッテリーを持っていない、または充電を使い切っているようなシーンでは普通のシェアサイクルとして利用できる

 ホンダが行なった技術検証では、標準アシストモードで20分走行した場合、通常であれば車載バッテリーの残量は2%~3%ほど低下するが、シェアサイクル用2電源システムを利用すると走行中に消費される電力のすべてをモバイルバッテリーでまかなうことができ、さらに車載バッテリーに充電することで、車載バッテリーの残量は走行前より1.9%増える結果になった。また、強アシストモードを使って同じく20分走行した場合でもほとんどがモバイルバッテリーからの電力供給となり、走行後の車載バッテリーの残量は0.2%減っただけで済んでいるという。

ホンダによる技術検証の結果。20分ほど走行して通常なら車載バッテリーの残量が2%~3%ほど低下するような状況で、標準アシストモードでは車載バッテリーの残量が1.9%増え、強アシストモードでも0.2%の低下で済んでいる

 最後に友谷氏は、新たに発表したシェアサイクル用2電源システムはすでに存在しているモバイルバッテリーを利用するシンプルなアイデアだが、これまでホンダが電動車両で培ってきたハードウェアの技術や知見、ビジネスの基盤などを活用。移動にまつわる課題解決によってモビリティサービスをさらに充実させ、世の中の便利さ、楽しさを増やしていきたいと開発の意図を説明した。

シェアサイクル用2電源システムを導入することで、シェアサイクルの事業者はコスト削減と収入増を期待できる
ホンダらしいシンプルなアイデアと技術力によってシェアサイクルの普及を拡大していく

 後半の質疑応答では、2022年からのスタートを予定する事業化に向けた実証実験について、すでに一部のシェアサイクル事業者にアプローチを始めているものの、具体的な決定はなく、この発表を契機として多くの事業者に興味を持ってほしいとの考えを示したほか、ホンダとしてはすでに事業開始に向けた準備が整っており、可能であれば実証実験からそのまま事業化していきたいと考えているが、事業化はシェアサイクル事業者と共同で行なう形を想定していることから、事業者側とも協議して事業開始のタイミングを決定するとした。

 シェアサイクルに追加する「後付けキット」は充電ホルダー、DC/DCコンバータ、接続する配線類などで構成され、価格は非公開となるが、シンプルな構成なのでそれほど大きな負担にはならないと説明している。

 指定モバイルバッテリーを用意することになった理由については、市販の製品はスマホ向けの9W~13Wといった出力帯が中心となっており、シェアサイクルのアシストモーターで求められる高出力に対応し、同時にユーザーに日ごろから持ち歩いてもらえる軽量・コンパクトさを兼ね備えるため必要になった。また、ユーザーの使い勝手の面でも、すっきりと収まるホルダーを車両側に設置することで、簡単に使えるユーザー体験を提供することも理由になっているという。

 指定モバイルバッテリーの提供方法や価格はまだ決まっていないが、ユーザーに持ち歩いてもらうことがサービスの前提になるため、負担感のない価格や提供方法を模索したいと友谷氏は回答している。