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NSX-GTの開発者に聞く カーボンニュートラルフューエルの導入はトヨタ、日産、ホンダが協力して開発していく

伊沢拓也選手(右)と語る、本田技術研究所 HRD Sakura LPL チーフエンジニア 佐伯昌浩氏(中央)

 SUPER GT第6戦オートポリスが10月23日~24日の2日間にわたって開催された。23日に行なわれた決勝レースでは8号車 ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺組、BS)が優勝。ホンダ勢は第2戦、第4戦、第6戦と今シーズンの偶数のレースですべて優勝し、シーズン3勝目を挙げている。

 サクセスウェイトが重くなっていたポイントリーダーの1号車 STANLEY NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐組、BS)は6位に入賞し、実質2位(ランキング2位は牧野選手だが、開幕戦を病欠していたためチャンピオンの権利はすでにない)の17号車 Astemo NSX-GT(塚越広大/ベルトラン・バゲット組、BS)も8位に入り、サクセスウェイトが半減する第7戦もてぎを最良のシナリオで迎えることになった。

 ホンダのSUPER GT活動を統括する本田技術研究所 HRD Sakura LPL チーフエンジニア 佐伯昌浩氏、シャシー開発をリードする同 SUPER GT 車両開発担当 徃西友宏氏の2人に決勝レース後、第6戦オートポリスの勝因や、今後の見通しなどについてうかがった。

カーボンニュートラルフューエルの開発は3社で協力しながらやる

SUPER GT第6戦オートポリスを優勝した8号車 ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺組、BS)

佐伯氏:今日の総括についてだが、レース終了後にあまり時間がなくてまだ各チームから聞き取りができていない状況でやや大まかな総括になる。これまでホンダはオートポリスでポールポジションは取れていたが、なかなか優勝はできていなかった。そうした中でNSX-GTでなんとか勝つことができて、九州のホンダファンの期待に応えることができた。

 レース前半は波乱の展開が多くてどうなるかと思ったが、レースが終わってみればサクセスウェイトがしっかり効いている順位になっている。ホンダとしてはポイントリーダーの1号車が、ピット作業やインラップ、アウトラップなどを最小限に抑えたことが要因になって上位にジャンプアップできた。タイトル獲得に向けて大きく意味があることだと思っている。

 次戦はサクセスウェイトが半分になるツインリンクもてぎのレースで、ここでもしっかりポイントをとって有利になった状況で最終戦の富士を迎えたい。

往西氏:佐伯氏と同じだが、NSXがオートポリスでこんなに長い間勝てていなかったのはびっくりしたので、なんとか勝ちたかった。また、選手権争いで重要な1号車と17号車がポイント争いを繰り広げている車両よりも前でゴールすることができたのはよいことだった。ダンロップの2台に関してはマッチングも進んだので、上位でのゴールを期待していたが、残念な結果に終わってしまった。毎レース前に来ることができるようにはなっているので、次戦以降ではNSX5台すべてが活躍できるようにしていきたい。

──往西氏にうかがいたいが、前回(2019年、2020年はコロナ禍の影響で中止)以前のオートポリスのレースでは、NSX勢はピックアップに苦しんでいるという印象があった。今回のレースではその影響はあったのか?またレース後半に8号車は30秒の差をつけていたが、その要因は?

往西氏:オートポリスを走る機会というのが昨年や今年はこれまでなくて、FRに変更されたNSXで走るというのは初めてのことになった。そうした他社よりもピックアップしてしまうことが多かったのは、重量配分の影響が大きいということがあった。しかしFRになり他社と同じような重量配分になったことで、ピックアップはでなくなってきた。実際にここのサーキットで試してどうかということは、他社と比較してピックアップが多いということは特になかった。

 オートポリスのレースに向けて車両側で何か新しいことを入れてきたかと言われればそれは特になくて、ドライバーの乗りやすさや速さなどをセッティングを詰めた程度だ。8号車のペースに関しては、ちょっと聞いた限りでは路面温度の変化に合わせてアジャストしたのが効いたと聞いている。それが功を奏してそうした結果になったのだろう。

──ツインリンクもてぎの第7戦、富士スピードウェイでの最終戦はウェイトを減らしたりなくしたりした勝負になる。ホンダ勢は今回8号車が2基目を入れたが、ライバルはエンジンの3基目を入れ、今回ペナルティを消化している。そのため、次戦以降そうしたライバル勢の方が、マイレージ(エンジンを使用した走った距離)が短い状態で臨むことになるが影響はあるか?

佐伯氏:今日の結果見るとあまり感じなかったが、昨日の予選での14号車のタイムなどを見ていると、あれだけのサクセスウェイトを搭載して出したタイムだと考えると脅威であり、自分達のクルマももっと速くしないとまずいなという印象。2基目と3基目とスペックが違うのかどうかは我々には分からないが、3基目を搭載した14号車の予選2位のセクタータイムやトップスピードを見ると、かなり厳しい戦いになると考えないといけない。

──マイレージで性能に差が出るというのは特段ないか?

佐伯氏:それはない、エンジンというのは保証しているマイレージで性能が出るように設計しているので、その点は問題がない。

──残り2戦、どんなタイトルバトルになると考えているか?

佐伯氏:みなさんもご存じのとおり、富士スピードウェイにいくとストレートスピードが負けているという現実がある。去年のようなこと(自分たちにとって幸運なこと)は起きないだろうから、なんとしてもツインリンクもてぎでポイントを獲り、最終的にチャンピオンが獲得するポイント、例えば75点とかにNSXのうちの1台が近づくようなレースにしなければならない。そして富士では少ないポイントでチャンピオンを決められる、そういう展開にもっていかなければいけない。

──GTAが「カーボンニュートラルフューエル」に関しての発表を行なった。その中でトヨタ、ホンダの両メーカーがベンチテストをすでに行なっていることを明らかにした。

佐伯氏:基本的には市販のハイオク(のガソリン)を置き換えても、マップの特性の変更ハードウェアの変更がなくてもいいような性状(燃料の特性のこと、ガソリンであれば例えばオクタン価の違いなど)や、開発費をかけずに燃料はカーボンニュートラルにしていくということを目指している。ホンダ、トヨタさん、日産さんの3社で情報を持ち合いながらやっていく。

 そのため、燃料が変わったから開発しないといけないとか、ハードウェアの開発が必要とかマップも全部作り直しなんてことがないようにやっていくということだ。そしてカーボンニュートラルの燃料は化石由来のものは使わないというものを目指して各メーカーがいろいろなメーカーと調整し、テストしているというのが現状だ。

──それは将来、ガソリンとカーボンニュートラルフューエル、どちらでも同じマップで動くというエンジンになるのか?

佐伯氏:それはガソリンにせよカーボンニュートラルフューエルにせよ性状次第だ。現状は実際にカーボンニュートラルフューエルでどのぐらい変更が必要なのかなどをテストで試している段階になる。

すでにカーボンニュートラルフューエルのテストは、トヨタとホンダで始まっている。トヨタ自動車株式会社 執行役員 GAZOO Racing Company President 佐藤恒治氏(左)と、本田技術研究所 HRD Sakura LPL チーフエンジニア 佐伯昌浩氏(右)