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日本EVクラブの地球に優しい「氷上EVカート」に乗ってみたら、トンでもなく楽しかった

なんと走っているのはスケートリンクの中です

アイススケート場でカートレース!?

 日本EVクラブが主催するERK(電気レーシングカート)の大会に編集部の塩谷氏と共に出場した。会場となるのは何故か新横浜スケートセンターで、そこにはスパイクタイヤが装着されたERKが準備されていた。走行中の排出ガスがゼロ、そして熱をそれほど出さないという特性がスケートリンクに見事にマッチしたということのようだ。

 日本EVクラブの代表を務める館内端氏は開会式でこんな言葉を残している。「ご存知のように地球の気候はわるくなってしまいました。たぶん戻らない。けれどもいまから、CO2の削減に取り組み、2050年までに排出をゼロに持っていければ何とか持ちこたえられるかもしれない。自動車、鉄道、飛行機などで排出されているCO2の量は、全体の25%ほどです。これはおよそ中国一国が出している量に相当します。再生可能エネルギーを利用してCO2の排出量を少なくする努力をしたいですね。しかし、こんな難しい話をしてしまうと、EVはつまらないと思われがちです。そうではないということを味わっていただきたく、今回はこんなERKによる氷上カート大会をご用意しました。エンジンのカートでは、ここでのイベントは成立しなかったでしょう」。

日本EVクラブの代表を務める館内端氏

 準備されたカートは日本EVクラブ会員の方々が手作りしたもので、モーター、バッテリ、そしてバッテリの繋げ方なども異なるため性能はまちまち。中には100万円近くの製作費がかかったものもあるのだとか。そのため、各チームには速いカートと遅いカートの2台が与えられる。競技はパシュートというスケート競技と同じような戦いで、オーバル状のコースのホームストレートとバックストレートに2つのスタートラインが設けられ、それぞれのチームの2台が整列。レースが開始されると2チーム4台が一斉に走り出す。その後、2台共に3周して自らがスタートした地点をクリアしたらゴールだ。だが、1周を終えた時点で速いカートと遅いカートが一度入れ替えをするというルールが存在する。実はソコがとても難しい。

EVカートは手作り。シートの左右に大きなバッテリを搭載していた

 今回は遅いカートに編集部塩谷氏が乗り、速いカートにワタクシ橋本が乗るということに。最初の1周は塩谷氏が先行し、2周目に入った時点で橋本が抜き去ってゴールまで行こうという作戦だ。速いカートはおそらく発進加速で空転が多く、スピードを重ねるのが難しいという判断。遅いカートはトルクがないためスタートは得意だろうという予測を立てたのだ。

氷上ではパワースライドも楽々です

 レースが開始するとその作戦は大成功! 塩谷氏は僕からみるみる離れていく。だが、コチラもスピードが乗ってしまえば変わりはない。というより、コーナー進入時にはかなり追いついている。ただ、実はコーナーリングがかなり難しい。スロットルワークに対してかなり敏感にトルクが反応をみせ、簡単にテールスライドを開始。スリックカートのようでかなり面白い! フルカウンター状態でコーナーを進入から脱出まで走れば、気分はD1ドライバーのようでもある(笑)。だが、その後の直線では簡単にグリップが回復せず、実は直線でスピードを乗せるのが難しいのだ。いくらピンスパイクを装着しているとはいえ、ERKの常に湧き上がるトルクは、そのグリップを簡単に飛び越えていく。

塩谷氏がクジ引きで2番を引き当て、いきなりの第1レース。しかも練習走行なし
レースはパシュート形式を採用。2つのチームが反対側で同時にスタートする
1チーム2台編成で、2週目に順番を入れ替える特殊ルールを採用

 結果として塩谷氏に追いつくのは至難の業。「どこが速いカートなのよ!(汗)」。塩谷氏に「まって~」と叫ぶものの、その声はなかなか伝わらず、結局は塩谷氏が呆れてペースダウンして抜かせてもらうという失態に……。前に出ても動きは派手で面白いのだが、速さは全くなく、暴れ馬を乗りこなせぬまま1回戦で敗退となってしまった。その後、トーナメント戦でその暴れ馬は結局乗りこなせる人がおらず、カートのチャンピオンが乗ってもなかなか速く走れずに敗退という状況だった。それを見て、ホッとしたのは言うまでもない。後に聞いたのだが、そのカートは舗装路だと最速のERKなのだとか。氷上の難しさ、そしてERKのやりようによってはかなり暴力的なトルクを生み出せてしまうことに驚くばかりだったのだ。

誰も完璧には乗りこなせなかったジャジャ馬の63号車。だが、超楽しいのも確か

 まさか電動カートにここまで手こずるとは想像もしていなかった。どうせ大したことないと高をくくっていたからだ。その想像を見事に打ち破り、破天荒な走りを見せたERKは、手放しで面白い。レーシングエンジンのようにスロットルに対して敏感に反応するリニアすぎる仕立ては、ドライバーの気分を高揚させるに十分なポテンシャルが宿っているように感じる。それと氷上との組み合わせはクールながらもかなりの刺激をもたらす。この意外すぎる組み合わせは今後、どんどん発展してほしいと思えた。

 逆に、普段手にする市販車のEVは、かなり扱いやすく仕立てられているのだと改めて感じることもできた。EVの面白さはまだまだ始まったばかりかのかもしれない。スポーツドライブの未来を期待しても良いのかもと思えた1日だった。

4チームはメディアで、4チームは一般チーム(といってもモータースポーツの達人が紛れていた)
優勝したKRFレーシングチーム(左)、準優勝のアルボルアルデア(右)
うちのカミさんはレースの先導走行を務めておりました

 ちなみにこの日はわれわれが参加したマスタークラスとは別に、エキスパートクラスとビギナークラス(20人)のレースも行なわれていた。

カートは未経験という佐伯拓也さん。友達がEVの充電器を製造している会社に勤めていることから今回誘われて参加したという。「氷上って聞いたからすごい滑るんだろうと思ったら、意外とスパイクタイヤがグリップして驚きました。アクセルを踏み過ぎると滑ってしまうので、アクセルを抜いてあげてちゃんとグリップさせるのがコツでしょうか。想像していたよりもうまくコントロールできましたね。それに車体が低いからスピード感もあって楽しかったです」と感想を教えてくれた
友人に誘われて参加していた中沢友一さん。カートは初めてだったけれど、最初の練習走行で「お、意外といけそうだ」とコツをつかんだという。しかし、本番のレースになったら「勝ちたい」という気持ちが沸き上がり、「ついついアクセルペダルを踏み過ぎてしまった」と話してくれた。「舗装路面ではなく氷上ではステアリングが軽くなるので、女性でも乗りやすいと聞いていましたが、本当に乗りやすかったです。あとエンジンよりも素早くトルクが立ち上がるのでアクセルワークは慎重さが求められますね」とERKの特性も語ってくれた
第2回 SDGs ERK on ICE 氷上電気カート競技会(4分19秒)