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マツダ「コ・パイロット・コンセプト2.0」初の公道試乗会 走行シーンを動画で紹介

東京・お台場でマツダの次世代安全技術「マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0」初の公道試乗会が行なわれた

 マツダは、2025年以降の市場投入に向けて開発を進めている次世代安全技術「マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0」で初となる公道試乗会を東京・お台場で開催した。

 マツダ・コ・パイロット・コンセプトは、クルマの運転をより安全に満喫してもらうことを目指した安全思想「マツダ・プロアクティブ・セーフティ」をさらに推し進めた技術。車両がドライバーの状態を検知して、体調不良や居眠りによって運転が続けられないと判定した場合にシステムが作動。減速や路肩退避を行なって安全を確保し、ホーンの断続音や自動緊急通報などによって周囲に助けを求める。

 まずは「異常自動検知」と「居眠り検知」でドライバーの状態を把握し、緊急時には「減速停止/車線維持/路肩退避」などを行なう「マツダ・コ・パイロット・コンセプト1.0」として完成させ、2022年に発売する「ラージ商品群」の車両に搭載して市場投入する予定。次の目標としては、ドライバーの状態把握技術を「予兆検知」に発展させ、緊急時に「車線変更/路肩・非常停止帯待避」なども行なえるようにするマツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0に進化させ、2025年以降の実用化に向けて開発を進めている。

 このほか、マツダ・コ・パイロット・コンセプトの開発思想や技術詳細などについては関連記事「マツダが最新安全技術『マツダ・コ・パイロット・コンセプト』を解説、2022年投入のラージ商品群から搭載」を参照していただきたい。

 また、Car Watchでは周辺環境が安定したマツダ 三次テストコースで実施されたマツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0の運転席試乗について、モータージャーナリストの島下泰久氏が執筆した試乗レポート「マツダの“人間中心の自動運転コンセプト”『コ・パイロット・コンセプト』とは何か 進化版2.0を体験してきた」も掲載されているので、合わせてお読みいただきたい。

試乗に先立ち、マツダ株式会社 常務執行役員 R&D管理・商品戦略・技術研究所・カーボンニュートラル担当 小島岳二氏(左)とマツダ株式会社 商品戦略本部 主査 栃岡孝宏氏(中央)から、あらためてマツダ・コ・パイロット・コンセプトについて解説が行なわれた
マツダ・コ・パイロット・コンセプトの1.0と2.0の違い。高精度地図やロケーター用のECUも採用される
「MAZDA3」をベースとしたマツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0の技術試作車両。マットブラックのカッティングシートを貼り、ゴールドのラインと技術名のロゴを設定。実証実験を行なっている車両であり、普通の市販車とは違うことを周囲の人にアピールしている
ボディには周辺の状況を確認する12個のカメラを追加
MAZDA3が標準装備している先進安全技術「i-ACTIVSENSE」は基本的に車両前方の情報を中心にセンシングしており、車線変更を行なうマツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0では車両の側方や後方にいる歩行者や自転車などの状況確認が必要となるため、カメラを増やしているという
車内で追加されているのは、ステアリングコラムに設置されたドライバーの状態を検知するカメラと、実証実験のガイドラインで定められている緊急停止スイッチの2種類。i-ACTIVSENSEの「ドライバー・モニタリング」では、インパネ上に設置された「マツダ コネクト」のディスプレイ右上にあるカメラでドライバーの疲労や眠気を検知しており、マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0の市場投入時にはこのようなスマートな形での提供を目指している。しかし、マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0の「予兆検知」で利用しているパラメーターは多岐にわたることから、技術試作車両では新規のカメラを追加して対応している

 なお、今回の公道試乗は自動運転技術の公道実証実験の一環となっており、警視庁が定めているガイドラインに準拠した形で行なわれた。試乗はマツダのテストドライバーが運転する車両の助手席などに座って体験するスタイルで実施。また、ガイドラインではテストドライバーが常に周囲の状況を監視して、必要なときに運転操作ができる状態を保つ必要があるため、テストコースで行なわれたようなドライバーの体調不良を車両が検知する方法ではなく、テストドライバーがルーフ部分に設置された「緊急通報システム」のスイッチを押してスタートさせる形式を取っている。

 実証実験ということで、停車後の自動緊急通報は車内にメッセージが流れるだけで実際には行なわれず、ドライバーの異常を周囲にアピールするホーンの断続音についても、車内のスピーカーから効果音を模擬的に鳴らして再現している。

公道試乗シナリオ1「車線変更を含む路肩待避」

マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0公道試乗 シナリオ1「車線変更を含む路肩待避」(1分1秒)

 最初のシナリオでは、マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0の基本動作を確認。中央分離帯寄りの第2走行車線を走行している状態でテストドライバーがスイッチを押してシステムを起動させると、ドライバーに異常が発生したと車両が認識してホーン(の効果音)の断続音が鳴り、安全な場所まで自動で移動してクルマを停止させる旨の音声ガイドが流れる。

 システムが作動しているときはドライバーの意識がないので音声ガイドは不要そうにも思えるが、これは助手席や後席にいる同乗者に向けたもの。ドライバーが運転できない状態でステアリング操作による車線変更やブレーキングが行なわれるため、同乗者を不安な気持ちにさせないよう、音声ガイドの内容には細心の注意を払っているという。

 マツダ・コ・パイロット・コンセプト1.0では第2走行車線の走行中は車線内で停車することになるが、2.0では車両左側と後方の安全をカメラなどで確認し、安全だと判断した場合は第1走行車線に車線変更。車線変更後に減速して左側に車体を寄せて停車する。助手席側からドアを開けて人が出たり、車外からの救助が行なわれることを想定して、路肩から70~80cmの位置に停車するよう設定。

 動画内ではスイッチを押してから路線バスに追い抜かれ、それ以外の後続車がいないことを車両が確認して車線変更し、バス停の先にあるオープンスペースに停車していることが見て取れる。車線変更などのステアリング操作やブレーキングなどもスムーズに行なわれている。

 なお、各動画でシステムの作動内容などを解説しているのは、テストドライバーではなく後席に同乗している説明員。テストドライバーは実証実験のガイドラインに沿って運転に集中しており、試乗中は基本的に話しかけないようにと事前説明されている。

公道試乗シナリオ2「路肩駐車車両の側方通過」

マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0公道試乗 シナリオ2「路肩駐車車両の側方通過」(57秒)

 2つめのシナリオではスイッチを押した後に信号機のある交差点が登場。前方にある信号機が青であることを車両が確認して交差点を通過。第2走行車線から第1走行車線に車線変更してから路上駐車しているトラックなどの右側を通り過ぎ、次の信号機より手前にあるオープンスペースに停車した。

 動画の試乗ではマツダで想定している状況でシナリオが進んだが、クルマの通行量が多い別の時間帯に行なわれた試乗では、スイッチを押した後も試乗車と同じペースで第1走行車線を2台のクルマが並走。2個目の信号機が赤になっており、結果的に停止線での停車で制御が終了した。

 この状況について質問したところ、国土交通省が定めている「ドライバー異常時対応システムのガイドライン」(ドライバー異常時対応システム 発展型[路肩等退避型]一般道路版 基本設計書:PDF)により、一般道については「制御開始から車両停止までの距離の上限を150mとする。並びに、制御開始から車両停止までの時間上限を60秒とする」と規定しており、この範囲内で路肩に寄せて停車できないと車両が判断した場合には走行中の車線内で停車することになるという。また、安全確認が難しいことから、停車後に周辺の状況が変化しても再発進などは行なわない。

 しかし、今回の試乗ではホーンが効果音として車内に流れていただけなので並走する車両に気付いてもらえなかったが、実際のシステム作動時はホーンの断続音が周囲に響くことになるため、ほかのドライバーが異常を察知して何かしらのアクションを起こしてもらえるのではないかと考えているとのことだ。

公道試乗シナリオ3「幹線道路を避けた路肩待避」

マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0公道試乗 シナリオ3「幹線道路を避けた路肩待避」(1分22秒)

 最後は走行中の幹線道路から側道に進んでいくというシナリオ。マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0では標準装備品のセンサー類や追加されたカメラなどのほか、高精度地図を使って車両周辺の状況を認識。今回の試乗時にはシステムが作動してから制御を続けられる範囲内に幹線道路から続く側道があり、より安全な状況での停車が見込めると車両が判断して最終的な停車位置に選んでいるという。

 動画では片側2車線の幹線道路が右側に曲がっていく状況で。幹線道路から片側1車線の側道に続く車線に進んでいき、前後にある2つのカーブの中間あたりにあるオープンスペースに停車している。音声ガイドが早い段階で「100m先の路肩に停車します」と告知しており、カメラなどでは見えない場所の情報をシステムが利用して停車位置を判断していることが分かる。また、ドライバーの異変で窮地に立たされた同乗者も落ち着いて停車を待てそうだと感じる。

マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0公道試乗 シナリオ3を車外から撮影(42秒)

 停車位置の前後で車外から撮影した動画では、徐行しながら側道に入ってくる技術試作車両が車線変更や路肩に寄せる場面でウインカーを作動させるほか、減速するシーンでブレーキランプを高速で明滅させていることが分かる。余談だが、車外にいると車内で鳴り響いているはずのホーンを模した効果音はまったく聞こえず、MAZDA3が高い遮音性を持っていることも感じさせる。

公道を走るマツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0の技術試作車両。後方に続く「CX-5」は試乗会用のサポートカー
周囲の安全を確認しつつ、車線変更、横断歩道の通過、路肩への接近などを自動で行なっていく
路肩に停車してシステムの作動は終了する

ドライバーの「受動的な視線挙動」を異常予知に活用

マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0で開発を進めているドライバー状態の異常予兆技術について紹介するデモも実施

 このほか、マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0の進化ポイントの1つであるドライバー状態の異常検知、異常予知については公道試乗では体験できないため、駐車した技術試作車両の前方に大型ディスプレイを設置して走行状態を再現してデモが行なわれた。

 マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0のドライバー異常予知では、そのドライバーが日ごろ行なっている運転操作から逸脱していないかを判定する「運転操作」、顔の上下や傾きを検知する「頭部挙動」、視線の向きが特定の箇所に偏っていないかを検知する「視線挙動」という3つのパラメーターを総合的に判断してドライバー状態を推定しており、デモではこの中から主に視線挙動について解説。

 視線挙動の検知では、ドライバーの体調不良に起因する内因性事故で症例の90%を占めるてんかん、脳血管疾患、低血糖、心疾患の4疾患で、脳の機能低下による症状が出ることに着目。視線挙動を脳の働きで大脳が司る能動的な動き、脳幹が司る受動的な動きに分類して視覚の注意特性をモデル化しており、能動的な視線挙動ではミラー類やメーターのほか、危険が予測される場所に注意が向き、受動的な視線挙動では色や輝度、動きなどが目立つ場所に注意が引きつけられるという。

技術試作車両がドライバー異常予知に使っているデータをケーブル出力で車外のディスプレイに表示。左の画面が車両前方のデータ、右の画面が車内にいるドライバーのモニターデータ、中央のタブレットに表示しているのはマツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0のドライバー状態判定結果

 技術試作車両ではドライバーが何を見ているかを検知するため、車両前方の状況についてはフロントウィンドウに設置されたi-ACTIVSENSEのカメラで撮影したRAWデータを流用。これにステアリングコラムに設置された追加カメラで捉えたドライバーの視線情報を組み合わせ、ドライバーの視線がどこに向いているか分かるようにしている。

 また、車両前方の画像情報については、その中にある人間の注意を引きつけやすく、受動的な視線挙動が引き起こしやすい場所を特定するため、脳科学の知見を使って計算モデルに置き換えるアルゴリズムを作成。運転中に意識するべきミラー類などの能動的な場所ではなく、目立つ色や光っている物といった受動的なところに視線が偏っている場合に「脳機能が低下し始めている」と判定する仕組みとなっている。

i-ACTIVSENSEのカメラで撮影したRAWデータを外界認識に利用。デモではフロントウィンドウの前に大型ディスプレイを設置して走行状態を再現した
目立つ服を着ている人、横切っていく自転車、日差しを反射しているガラスなど、無意識(受動的)に注意を引きつけるポイントを、黄色や赤に色付けして可視化するアルゴリムを開発。赤い丸印は実際にドライバーが見ている部分

 デモでは運転席に座った説明員が車両前方に設置された大型ディスプレイに表示される、目立つ服を着ている人や日差しを反射して光っている部分などを意図的に注視。この様子はディスプレイに表示されたフロントカメラ映像の視線情報でも確認でき、映像内に黄色や赤で表示された「受動的な視線挙動」を示す部分に視線が集中する時間が数秒間続くと、表示の外枠がグリーンからオレンジに変化し、画面右下の文字が「Normal(正常)」から「Abnormal(異常)」に変化。

 また、別のタブレットに表示されたマツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0のドライバー状態判定内に示されたドライバーのアイコンもグリーンからイエローに変わり、ドライバーがどこに視線を向けているかを車両が検知することでドライバーの異常を予知していることが示された。

 現状では予知の段階でマツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0は特にアクションを起こさないが、将来的にはi-ACTIVSENSEの「ドライバー・モニタリング」のように、休憩を提案するような機能を実装していく予定とのこと。

乗車している説明員が目立つ服を着ている人や日差しを反射して光っている部分などを注視して「受動的な視線挙動」を再現すると、数秒間続いたところで車両がドライバーに異常が出はじめていると検知して、ディスプレイ表示やタブレット内のアイコンの色使いが変化した

 このほかにもデモでは、車内にあるカメラでドライバーを撮影したデータのディスプレイ表示により、両目の開眼度や頭部の位置を車両が検知してドライバーの体調不良や居眠りなどを検知しているパラメーターなどが紹介された。

ドライバーの顔を捉えた四角い枠の両サイドに設置されたブルーのバーで開眼度を表示
頭部の「ロール」「ピッチ」「ヨー」という3種類のパラメーターでも異常予知を行なっており、頭部の動きと車両挙動の関係性もデータとして活用。また、頭部が既定のエリアから外れると姿勢崩れと判定される
マツダ・コ・パイロット・コンセプト2.0の緊急停止機能が作動すると、メーターパネル中央のマルチインフォメーションディスプレイ、マツダコネクトのセンターディスプレイ、フロントウィンドウに投射されるアクティブ・ドライビング・ディスプレイに警告表示が映し出される