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マツダ、自らドライバーとしてS耐に参加する前田育男常務が「MAZDA SPIRIT RACINGの役割と今後の方向性」を明かす
2022年3月22日 13:15
MAZDA SPIRIT RACINGを通じてユーザーと相互コミュニケーションを取れるツールも検討中
スーパー耐久シリーズの2022年シーズンが、3月19日~20日に鈴鹿サーキットで開催された「SUZUKA 5時間耐久レース」で幕を開けた。
マツダは2021年の最終戦でMAZDA SPIRIT RACINGの活動をスタートさせ、今季はマシンを「MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio concept」に変更し全戦に参戦する。シーズン途中からは「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER」も加わり2台体制でスーパー耐久シリーズを戦うことになっている。
MAZDA SPIRIT RACINGは、マツダ本社が直接関わるワークス体制のチームで、代表は前田育男常務執行役員が務める。1990年代前半のル・マン24時間やWRC以来となるこのワークス活動は、どのような目的と方向性を持っているのか、スーパー耐久の現場でチームをまとめドライバーとしても参戦する前田氏に話をうかがった。
まずMAZDA SPIRIT RACINGを立ち上げることになった理由を聞くと、「もともとは個人的にスーパー耐久にスポットで参戦していました。そのころからいつかはマツダとしてチームを作りたいという思いがありました。過去にはワークスの存在としてマツダスピードがありましたが、事実上なくなっています。そのためモータースポーツを好きな人に向けてのメーカーの受け皿がなく、何かしらの活動を起こしたいと考えていました。そこに昨今の豊田章男社長の『モータースポーツの敷居を低くしたい』という考えへの共感や、カーボンニュートラルへの挑戦などの機会が重なってMAZDA SPIRIT RACINGの活動がスタートしました」と理由を明かす。
続けて、「ただ単にメーカー直系のレーシングチームを作るだけでなく幅広い活動を想定している。近いうちにお披露目する予定ですが、MAZDA SPIRIT RACINGを通じてお客さんと双方向にコミュニケーションを取れるツールを検討しています。モータースポーツだけに限ると狭い世界となってしまうので、スポーツとして広い視野を持ちお客さんと一緒に楽しみ、共感してもらうかを考えています。第一歩としてはカーボンニュートラルへの取り組みに興味を持ってもらい、MAZDA SPIRIT RACINGの活動を広めていく施策を行なっていきます」と語ってくれた。
このようにレーシングチームでありながらもお客さん(オーナー)との積極的なコミュニケーションを取ることを活動の一環としていて、ブランドを通したマーチャンダイジングも検討しているという。
ご存じの読者も多いと思うが、前田氏はマツダ車をはじめすべてのデザインやブランドスタイルを担当する執行役員で、MAZDA SPIRIT RACINGに関するデザインもチェックしている。「モータースポーツでもCI(コーポレーションアイデンティティ)は重要です。活動やブランドをアピールするためには見た目のカッコよさが大前提だと思います。チームロゴはもちろん、マシンのカラーリング、チームウエアなどに統一感を持たせています。デザインのリーダーとしては譲れないところでした」と語る。
MAZDA SPIRIT RACINGのロゴは、○の中に「R」の文字が入っている。○は地球を意味しているそうで、その中のR(レーシング)に炎をともすということで赤のアクセントを採用したそうだ。
さまざまなデザインを監修しながらチーム代表としての側面も持つが、実際の役割について前田氏は、「新米のチーム代表なのでまだまだですが、チーム全体のバランスをいかに取っていくかが役割の1つです。レースではスタッフが極限状態の中で働いています。個と個のバランスを取りつつ、うまく潤滑させることができればと思っています。また他のチームやメーカーとの連携、チームの活動を周知してもらうことも重要な役割です。そして勉強中ですが、JAFやFIAなどの団体との折衝も担当していかなければいけません」という。
また、チーム代表とデザインの監修だけでも重責だが、それに加えてレースウィークにはドライバーとしてMAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio conceptのステアリングを握っている前田氏。「これまではロードスターでレースを戦うことが多く、MAZDA2は駆動方式やトルクの出方、シフトタイミングなどまったく別物です。まだMAZDA2には慣れていないので修行中ですが、ドライビングが難しい半面で面白さを感じています。速く走らせるためには今まで以上に考えることが必要で、ディーゼルエンジンの特性を活かしながらタイムを出すことが課題となります」とドライバーとしての課題も語ってくれた。
開幕戦はMAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio conceptのみの参戦となったが、第3戦からはロードスターもチームに加わることが発表されている。「ロードスターは世界的にみればもっともモータースポーツで利用されているマシンです。多くのオーナーやチームに選んでもらっているので、メーカーが関与する活動としては必要なモデルです。スーパー耐久でのロードスターの役割は、グラスルーツのカテゴリーからのステップアップを想定していて、パーティレースなどで活躍したドライバーを起用したいと思っています」というように、マツダとしてもドライバー支援を行なっていくようだ。
いずれはニュルブルクリンク24時間にも参戦したい
スーパー耐久の開幕戦にはマツダの丸本明代表取締役社長兼CEOが現場を訪れていて、記者会見で「300PSを出す2.2リッターディーゼルエンジンをシーズン後半に投入する」とサプライズで発表した。
このことについて前田氏は「当面はMAZDA2を磨き上げることが課題で、われわれはレースの場でもプロダクション(市販車)で使っているパーツを利用しています。レーシングスペシャルなパーツを使えばさまざまなトラブルは回避できるはずですが、それだとメーカーとして知見が残りません。戦うごとに速さを増していくことが目標ですが、一方で同じクラスにエントリーしているトヨタ『GR86』、スバル『BRZ』とガチンコで勝負することはMAZDA2だと難しいのも事実です。86やBRZのパワーウエイトレシオを考えるとディーゼルエンジンで300PSは必要だという考えからの発表でした。このパワーを受け止めるシャシーやトランスミッションなど茨の道だと思っていますが挑戦しがいはあるはずです」というように、MAZDA2の次のステップはSKYACTIV-D2.2を搭載したマシンで、おそらくベースはMAZDA3になるはずだ。
MAZDA3の登場も興味深いが、MAZDA SPIRIT RACINGの将来的な活動や方向性については、「レースチームとしての活動は継続していかないと価値がないです、小さく産んで大きく育てるという思いのもとに、がむしゃらに投資することなくマツダらしく着実に進めていきたいです。そして、今はレーシングノウハウを持つ『NOPRO(ノガミプロジェクト)』さんに手伝ってもらっていますが、メーカーとしての独り立ちは考えています。どの程度の期間がかかるか想像できませんが、自分達の手を汚していかないと経験にもならないし、知見も残りません。現場では人が育つといわれますが、その通りで自動車の開発現場とは異なる経験ができると思っています。実際に活動に関与してもらっているパワートレーンやシャシーのエンジニアはモチベーションが違っていることを感じています」と前田氏。
このように長期的なビジョンのもとにMAZDA SPIRIT RACINGは活動していくという。そしてゆくゆくの活動目標としては「スーパー耐久では富士スピードウェイで24時間レースがありますが、同じ耐久のニュルブルクリンク24時間レースには出たいです。そのほかにもサンダーヒル25時間などいろいろな耐久レースがありますが、やはりニュル24時間は戦いたいレースです」と語ってくれた。
まだ産声を上げたばかりのMAZDA SPIRIT RACINGだが着実なロードマップは描かれているようで、新たなコミュニティとしての役割も含めてぜひとも継続していってもらいたい。
【お詫びと訂正】記事初出時、MAZDA SPIRIT RACINGの表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。