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京セラ、白色光と近赤外光一体型ヘッドライトを世界初搭載する「車載ナイトビジョンシステム」説明会
2022年10月12日 10:43
- 2022年10月11日 開催
京セラは10月11日、世界で初めて白色光と近赤外光の一体型ヘッドライトを搭載する「車載ナイトビジョンシステム」を開発したと発表。都内で記者説明会を開催し、合わせて技術デモを実施した。
京セラの車載ナイトビジョンシステムでは、米国子会社であるKYOCERA SLD Laser,Inc.が独自開発した高輝度、高効率、小型パッケージを実現するGaN(窒化ガリウム)製白色光レーザーを採用。新たに開発された「White-IR照明」では1つの発光素子に照明となる白色光に加え、近赤外光を生み出すダイオードも搭載。2種類の光をリフレクターを介して照射する仕組みで光軸を一致させ、指向性の強いレーザー光をヘッドライトとして利用しやすいよう分散する。
この可視光と近赤外光の反射を車両のフロントウィンドウに搭載する「RGB-IRセンサ」で捉え、生成した画像データを独自の「フュージョン認識AI技術」によって物体検出。夜間、雨、霧などの影響で視界がわるい環境でも、危険要因になり得る物体を高精度に認識して車内のディスプレイなどで警告を行ない、安全な運転を支援する。
2027年の市場投入に向けて開発中
記者説明会では最初に、京セラ 研究開発本部 先進技術研究所 所長 小林正弘氏が車載ナイトビジョンシステムの概要について説明。
小林氏は「私たち先進技術研究所では、さまざまな社会課題の解決に向け、要素研究、およびシステム研究を行なっております。今回は要素研究の成果を具現化し、ADAS車載システム向けに開発した車載ナイトビジョンシステムを発表いたします。運転時の危険因子をどのようなシーンにおいても検知できるシステムを開発して社会に提供することで、京セラは交通事故の撲滅に貢献していきたいと考えています」と、新技術の開発意図について語った。
開発に至った背景や技術的特徴などについては、京セラ 研究開発本部 先進技術研究所 自動走行システムラボ 大島健夫氏が紹介。
車載ナイトビジョンシステムは京セラが開発を進めてきた「危険検知に使用するセンサ技術」「認識AI技術」をベースとした技術であり、クルマの危険検知機能が抱えてる問題点に着目。近年のADAS技術普及によって交通事故は減少傾向となっているが、夜間の交通事故は昼間と比べて死亡事故率が2.5倍、霧発生時の死亡事故率は事故全体に対して3.3倍にもなり、夜間や霧の発生といった視界がわるい状況での交通事故が死亡事故につながるケースが多いことから、死亡交通事故を削減するため、今回の車載ナイトビジョンシステムの開発をスタート。
既存のADAS技術ではさまざまな危険要因を検知するため、用途に合わせてカメラやミリ波レーダー、LiDARなどの各種センサを採用しているが、それぞれで対応する条件が異なり、悪条件での危険検知性能はまだ十分ではないことから、危険検知性能のさらなる高度化、搭載するセンサ数削減を両立することが課題になっているという。
こうした課題を解決するために生み出された京セラの車載ナイトビジョンシステムは、大きく分けて3つの特徴を持っているという。1つめは「白色光と近赤外光の光軸一致・一体型レーザーヘッドライトによる高精度かつ省スペース化」で、White-IR照明ではヘッドライトの光源で白色光と近赤外光を一体化。同じ光軸から発光可能とすることで2種類の光の当たり方に差が出ず、経年変化も起きにくいため、より精度の高い認識結果を得ることができる。また、白色光と近赤外光を一体化したことで、ヘッドライトの省スペース化が可能になり、車両デザインにも影響しない装備となる。
2つめの「京セラ独自のフュージョン認識AI技術による高精度検出」では、色の判別も可能な可視光画像は他のセンサと比較して豊富な情報量を誇り、通常時の外界認識では高い精度を発揮。一方で近赤外光画像はモノクロながら、夜間や霧発生時など悪条件での認識でアドバンテージがある。車載ナイトビジョンシステムではこの両方を併用でき、2つの画像から信頼性の高い領域を組み合わせて判断することで高精度検出を実現する。
3つめは「大幅なAI学習コストの削減と高精度な認識を両立」で、画像認識AIの開発では膨大な学習データが必要になることも大きな課題。AIは事前に学習したものしか認識できず、さらに可視光画像と近赤外光画像の両方を危険検知に利用しようとすれば、通常は学習データをそれぞれに用意することになり、コストも倍になってしまう。しかし、京セラでは学習用画像を自動生成する「学習データ生成AI技術」を開発。これを使うことで大幅なAI学習コストの削減と高精度な認識を両立している。
このほか今後の展開について大島氏は、この車載ナイトビジョンシステムを10月18日~21日に幕張メッセで開催される「CEATEC 2022」に出展して製品デモを実施。さらに2023年1月に米国 ラスベガスで行なわれる「CES 2023」のKYOCERA SLD Laser,Inc.ブースでも展示を予定していることを紹介した。
車載ナイトビジョンシステムは2027年に市場投入する計画で開発を進めており、車載のADAS装備として以外にも、V2I路側機などと連携するインフラ側の交通環境見守りシステム、夜間の警備や配送などに活用される小型低速モビリティなどに発展させていくことも考えているという。
異なる光源の画像を組み合わせて使うフュージョン認識AI技術
システムの技術解説は、京セラ 研究開発本部 先進技術研究所 コンピュータビジョンラボ 林佑介氏が担当。
これまでにも紹介されているように、ヘッドライトに搭載されるWhite-IR照明は光源の白色光と近赤外光を一体化し、同じ光軸から発光可能な技術として米KYOCERA SLD Laser,Inc.が独自開発。高輝度・高効率で小型パッケージなGaN製白色光レーザーを搭載することで実現している。一体型にすることで「ヘッドライトの省スペース化」「クルマのデザインに自由度を提供」という2つの特徴を持ち、ヘッドライト内の白色光をロービーム、近赤外光をハイビームとして利用するなど、人や物に応じて配光を変化させることも可能で、歩行者に眩しさを感じさせないよう配慮しながらのセンシングにも対応する。
独自開発したフュージョン認識AI技術では、可視光と近赤外光の異なる光源で撮影した画像から信頼性の高い領域を組み合わせ、視界のわるい環境を含めたあらゆるシーンで危険要因の検知する。従来技術では、可視光と近赤外光で撮影した画像をそれぞれにAIで画像処理。2つの認識結果を比較して信頼性の高い方を選択して採用するため、フュージョン認識AI技術のように異なる光源からの画像を組み合わせ、歩行者や車両を高精度に検出することはできないという。
なお、この技術は2021年6月に開催された「第27回 画像センシングシンポジウム」で優秀学術賞を受賞している。
AIによる画像認識では学習データの収集が大きな課題となっているが、京セラは学習データ生成AI技術の確立でこれに対応。近赤外光の画像では物質ごとに違う近赤外光に対する反射率で明るさが異なるため、可視光の学習用画像を単純にモノクロ化しただけでは近赤外光の学習用画像として利用することはできない。しかし、京セラでは生成AI技術を用いて可視光画像と近赤外光画像の特徴を解析、学習させて、可視光画像から近赤外光の学習用画像のデータを自動生成できるようにした。この開発によって学習時間の大幅な削減と高精度な認識を両立している。
夜間走行を模したジオラマで車載ナイトビジョンシステムを体感
説明会の後半には、ミニチュアカーとジオラマを使った技術デモを実施。電動ラジコンカーを利用したデモ機のヘッドライト内にWhite-IR照明が埋め込まれ、フロントグリル中央にRGB-IRセンサを設置して車載ナイトビジョンシステムを再現。部屋の照明を切って、夜間走行時に車載ナイトビジョンシステムがどのような効果を発揮するのか体験できた。
照明を消して部屋が暗くなると、車載ナイトビジョンシステムが持つ高精度な検出能力が一目瞭然となった。ディスプレイ表示を白色光だけの画像認識、白色光と近赤外光の画像をフュージョンさせた車載ナイトビジョンシステム本来の画像認識、2種類を左右に並べた状態の3つのモードを切り替えながら見ていったが、白色光だけを利用する場合はヘッドライトを模した光が当たる中央以外は車両、歩行者ともに障害物として検知されないが、近赤外光も併用する車載ナイトビジョンシステムでは両サイドの暗闇に配置された駐車車両や黒い服を着た歩行者までしっかりと検知した。
とくに道路右側にある低い生け垣の脇から黒系の車両が出てくるシーンでは、白色光だけを利用する場合は検知が途切れがちになっており、肉眼でも瞬間的な見落としが危惧されるような状況だが、車載ナイトビジョンシステムは安定してイエローの枠が表示されていたことが印象的だった。