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京セラ、ミリ波を利用した「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」の開発に関する説明会
2022年10月7日 15:56
- 2022年10月5日 開催
京セラは、低ノイズのミリ波センサによりマイクロメートル単位の微細な振動を非接触で高精度に検知・抽出できる「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」を開発。2022年10月18日~21に開催される「CEATEC2022」に出展する。この出展に先がけて10月5日に説明会を開催した。
京セラが開発した「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」はミリ波帯域でマイクロメートル単位の微細振動を機器やセンサーが対象に触れることなく(非接触)高精度に検知することが可能な装置。この「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」を生かせる後段の技術(京セラにてあわせて研究中)とあわせることにより、従来のように人体に機器を装着することなく人の心拍や呼吸変動の計測が可能になる。また、工業用としても機械や構造物の微細な振動等の情報も収集して状態をみたり、今後の予測などができたりするので、建物の安全性や工場で使用する機械の異常をを早期に発見することも可能にするという。
京セラから公表されたデータによると、センサー方式は60GHz帯域 FCMミリ波方式。電波形式及び周波数はF3N 60 5GHzだ。現状のサイズは64.5×63.0×23.82mmで、使用温度は-40度~60度。防塵、防水性はIP6X。振動可能検知能力は3m(振動量、分析内容による)となっている。
「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」は京セラがこれまで培ってきた独自の材料や基板製造技術を生かし、低損失なミリ波基板と高度な統計的信号処理技術を用いている。その結果、高額なセンサー(LDVセンサー)と比較しても高精度と言える振動検知ができている。これは心拍数の計測だけでなく、心臓の右心房、左心房の動きをそれぞれ別々に計測できるので心拍の感覚も非接触で計測ができる。
こうした計測技術を使用することにより、日々のヘルスケア測定はもちろん、感情の分析や自律神経分析などの分野にも応用が可能となっている。
「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」をクルマにどう生かす?
さて、この「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」だが、クルマへの導入も検討されていた。用途は乗員に対する高度なモニタリング。ドライバーや同乗者の心拍や呼吸、そして身体の動きを計測することで乗員の体調変化などをいち早く察知。事故が起こる前に対策を促すことができるようにするものだ。
なお、最近問題になっている車内への置き去り事故についても「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」によるセンシングとIoT技術があれば人の存在をクルマから離れていても知ることができるようになる。ちなみに車内への置き去り検知システムについては各車が研究を進めているし、欧州の自動車安全テストの「Euro-NCAP(ユーロエヌキャップ)」でも評価基準のロードマップに幼児置き去り検知システムの有無を取り入れることになっている。なお、この基準は日本の国土交通省と自動車事故対策機構(NASVA)が進める自動車アセスメント事業においても採用されるものだ。
「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」は空間を真っ直ぐ飛ぶ直進性の高いミリ波を使用しているので計測するもの(乗員)とセンサーの間に距離があっても高精度な計測が可能。また、電磁波の波長が数mmと短いので振動をより高精度に測ることができるという。これは衣服を着用していても問題ないそうだ。
ただ、正確に計測するという面だけで言えばレーザーを用いた方がより精度よく計測できるそうだがレーザーはシステムの価格がかなり高くなるので、それを車載すると車両価格に直接響く。ただでさえ最近のクルマは装置の価格が反映されていて高額化しているので、価格を抑えつつ必要な性能を持つ機器を作ってくれるはありがたいことだ。
話を戻すと、検出が可能な距離は現状で1.5mは確実に取れているとのことだが、今後、無線技術を含めて開発を進めることで2m、さらに3mと拡張していくという。なお、この1.5mと言う数字は人間の心拍を取るときの距離であって建物などに使用する場合は、もっと遠距離からの計測が可能と言うことだ。
心拍データを高度に検知することで可能になる技術はいくつかあるが、昨今問題になっているペダル踏み間違いによる暴走事故についても、異常な心拍データやドライバーの身体の動きを見ることで、スロットルを閉じて出力を絞ったり、予防安全ブレーキを作動させるなどの技術展開も可能になるだろう。
さらに「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」で取った心拍の変動のデータはドライバーの集中直の低下や眠気の状態も掴むことができる。そして病気や加齢による体調不良で突然意識を失うという状態になっても、クルマ側の予防安全システムでの対応を可能とするものである。ただ、これらすべてを心拍の変動だけで決めるのは困難なので、呼吸の状況や身体の硬直状態も採れるのであわせて判断するようになるのではないかということだった。いずれにせよ、こうした機能は「交通事故死亡者をゼロにする」という自動車社会が掲げる目標にたいして有効なものである。
クルマへの装備に関してはドライバーのモニターができる場所への配置を想定しているが、この点はインテリアデザインとの兼ね合いもあるので自動車メーカーが決めていくもの。ただ、機器のサイズについては現状でもコンパクトだがさらに小型化も進めていくという。
この「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」は2023年にサンプル出荷が開始される予定という。その後、本格的な出荷となる。なお、ヘルスケア市場では2025年に全体で約33兆円、建物の予知保全については6000億円の市場規模があるといわれているのでここが「非接触インテリジェントミリ波センシングシステム」の主な進出先となるだろう。
こうした機器へのニーズは少子高齢化や人口減少による労働力低下が起きている現在の日本においては業務の省人化につながることである。また、各種建造物、工場機器の診断についても同様のメリットがあるということだ。