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白いハイブリッドの「センチュリーGRMN」でリエゾン区間を巡る豊田章男社長 ショーファーカーに込めた思い

豊田スタジアムへと向かう白いセンチュリー

各所で話題になっている白いセンチュリー

 12年ぶりに日本で開催されている世界的なモータースポーツWRC(世界ラリー選手権)において、ほかのモータースポーツと最も異なる点が公道を走ること。ラリーはSS(スペシャルステージ)と呼ばれるクローズドにした速度を競う区間と、その途中で公道を一般車と同じルールで走るリエゾン区間から構成されている。そのため、ラリーの舞台となっている豊田市内などでは、世界的なモンスターマシンが信号待ちをしているなど、不思議な光景が随所に見られている。

 そんなリエゾン区間で話題になっているのが現行車であるハイブリッド化された白いセンチュリー。しかも世界に1台だけの「センチュリーGRMN」だ。Day1、Day2では、このセンチュリーにはトヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏が後席に乗っており、各所に出没。GRMN仕様、かつ黒塗りではなく白いボディということで目撃例がSNSなどに投稿されている。

 本来Day2の午前中に豊田社長が豊田スタジアムのサービスパークに来場する予定はなかったが、突然行きたくなったとのことでスケジュールが調整され、白いセンチュリーで現われた。WRCが地元で行なわれているため、いろいろ見て楽しみたくなったということらしい。

 GRMN仕様の白いセンチュリーは豊田章男社長の専用車で、VIPを送迎するショーファーカーであるため後席に乗って会場に登場。豊田社長というと自ら運転するモリゾウ選手としての印象が強烈なため、いつも運転をしているように思いがちな記者であったが、世界的な自動車メーカーの社長でもありショーファーカーの後席に乗っているのが一般的だなと改めて思った。

白いセンチュリーの開発背景

TOYOTA GAZOO Racingのメンバーとフォトセッションに臨む豊田章男社長

 ただ、今回この白いセンチュリーで各所を巡っているのは、ショーファーカーというクルマ文化をしっかり理解してほしいという思いが込められているのではないかと思う。その点についてTOYOTA GAZOO Racingのチームテントで談笑していた豊田社長に、今回白いセンチュリーで巡っていることについての意味を聞いてみた。

 豊田社長は、センチュリーで巡っていることの第1の理由に、センチュリーが疲れないクルマであるいう。その上で、「ラリーは1つの開催で、SSやリエゾンを含むと1000kmを超える。トータルを持ってラリーの競技としている。リエゾンのところは普通の交通流に入るから、そこの沿道には必ず人がいるはずなんですよ」「(社長であると)セレモニアルスタートでフラッグを振るとかを一般的に想像されるでしょうが、モリゾウさんの立場だとピットにいるとか、ドライバーと話をしているとか、リエゾンのときに手を振るとか、どれがいいかなと思ったのです。ただ、やはり(WRCは)モリゾウさんの立場だろうと。そのときに、やはりセンチュリーだろうと思った」という。

 確かにこの2日間の豊田社長の服装を思い返すと、TOYOTA GAZOO Racingのチームウェアを着ており、社長として会見に臨むときのピシッとしたスーツ姿ではない。めがねもスポーツタイプのアイウェアとなっており、モリゾウ選手の目でWRCを見ているのだと気がついた。

 そしてこの白いセンチュリーでリエゾン区間を走っていると、白いセンチュリーGRMNの認知度の高さに驚かされるという。「驚かされるのは、愛知県でここまで白いセンチュリーの認知が高かったのかと。そして、トヨタの社長とは言われず『モリゾウさん』と言ってくれる」と語ってくれたが、記者にとって白いセンチュリーGRMNは豊田章男社長の専用車だから認知度高くて当たり前。記者がとまどった顔をしていたのに気がついた豊田社長はその背景を説明してくれた。

「センチュリーGRMNは2台あるのです。黒塗りのクルマとこの白いクルマ。白いクルマは東京本社にあり、黒塗りは愛知県にあるのです。なので、白いセンチュリーは箱根駅伝などで用いているのです」と、センチュリーGRMNは配置場所に違いがあるとのこと。今回は、あえて東京本社の白いセンチュリーで走ってきており、この後は福岡の駅伝で使われていく予定があるという。陸送の途中でイベント的に使用するなど効率化を図っている部分は「さすがトヨタ」といったところだが、記者のとまどいの表情を見逃さずに丁寧な追加説明してくれる豊田社長の鋭さには、背中に変な汗が出てしまった。

「元々センチュリーは僕にしてみると名誉会長、父親が乗るクルマだったのです。センチュリーは僕のクルマでないでしょ、僕は違うでしょということでかかわっていなかった。ただ、現行のハイブリッドモデルに代わるときに、『僕が乗りたくなるセンチュリーを作ってみたら』と言ったのです。ただ、やっぱり(ハイブリッドセンチュリーができてみたら)これは名誉会長のクルマだなと。『たとえばGRMNとかはないの?』って聞いたら、(開発陣が)作りましょうと。そのときに白のセンチュリーにしてくれと、GRMNのカラーが白なので。それで白いセンチュリーができたのです。これまで白いセンチュリーはなく、初めての白いセンチュリーになります。ただ、黒いセンチュリーもということで、GRMNの黒も作ったのです」と、白いセンチュリーの誕生の背景も語ってくれた。

 東京本社の白いセンチュリーは主に自工会の会長としての会合時に使っており、豊田社長はあまり知られていないはずという思いもあったとのこと。ところがWRCのリエゾン区間で後席に乗っていると、それだけで「モリゾウさん」と言われる認知度の高さは想像していなかったようだ。

土曜日からの後席には誰が乗っているのか?

 運転手がVIPを送迎するショーファーカーである白いセンチュリーに乗ってリエゾン区間を走っているのには、やはりショーファーカーというクルマ文化を知ってもらいたい気持ちがあるという。そして、ショーファーカーを運転する、プロの運転手の職業を大切にしたいとも語ってくれた。

 トヨタはショーファーカーというクルマ文化を活かすために、センチュリーをハイブリッド化し、燃費面での大幅改善を図った。そのショーファーカーをモリゾウ選手が運転するのではなく、後席に座っている姿、後席から降りてくる姿を見てもらって、ショーファーカーを改めて理解してほしいとの気持ちを発言のいくつかから感じ取ることができた。

 では、「Day3以降はモリゾウ選手が乗っていると思って、手を振ればいいのですね?」と豊田社長に聞くと、「明日からは僕じゃないかもよ」と茶目っ気たっぷりに笑う。ルーキーレーシングの大島選手も同席していたため、大島選手に豊田社長が「明日から乗ってみる?」と聞くと、大島選手も「乗ったことがないので、乗ってみたいですね。でも、(自分だと分かったら沿道の方を)がっかりさせるのでは」という会話がされていた。

 土曜日のDay3以降は、白いセンチュリーの後席に誰が乗っているか謎だが、世界に1台しかないクルマのため、公道を走っているのが見られるのは貴重な機会。モリゾウ選手が乗っているのか?大島選手が乗っているのか?はたまたそれ以外の誰かか? 白いセンチュリーがリエゾン区間を走っていたら、リエゾン区間でWRCマシンと並んでいたら、まずはスマホで撮っておきたいところだ。