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豊田章男社長、タイ25時間耐久レースで水素GRカローラをドライブ タイで「循環型、自立型のエネルギー社会を作ることができれば」

タイ25時間耐久レースの予選タイムアタックに挑む、モリゾウ選手ことトヨタ自動車代表取締役社長 豊田章男氏

CPグループとのカーボンニュートラル協業検討発表後、タイ25時間耐久レースに参戦した豊田章男社長

 モリゾウ選手というレーサー名で知られるトヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏が「IDEMITSU 1500 SUPER ENDURANCE 2022」(タイ25時間レース)の予選日である12月16日、水素GRカローラでタイムアタックに挑んだ。

 豊田章男社長は先週からタイに入り、タイでCPグループ(Charoen Pokphand Group、セブン-イレブンを1万2000店舗展開するほか、農畜産業で高いシェアを持つ大企業)とカーボンニュートラルについて協業を協議。12月12日にトップ同士の合意に達し、14日に「タイでのカーボンニュートラルに向けた協業を検討」との発表を行なった。この発表には、家畜の糞尿から生まれるバイオガスを活用した水素製造、水素を活用した配送トラックのFCEV(水素燃料電池車)化などの項目が盛り込まれ、今後CJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)も一緒になって脱炭素に取り組んでいく。

バンコクでの60周年記念式典

 発表を行なった14日には、タイのバンコクでトヨタ モーター タイランド60周年式典を開催。豊田社長自身で、新型ピックアップトラック「IMV 0」とバッテリEV化したハイラックス「ハイラックスRevo BEVコンセプト」を発表。そして16日にはタイ25時間レースの予選にモリゾウ選手として挑んでいたことなる(同じ16日には、日本自動車工業会 豊田会長として令和5年度税制改正大綱についてコメント発表もしている)。

「循環型、自立型のエネルギー社会を作ることができればものすごくいいこと」

モリゾウ選手は夜の予選走行も行なった。戻ってきたドライバーからコースの情報を確認する

 予選走行を終えたモリゾウ選手に手応えを聞いたところ、このレースには3年前にも参加しており、それと比べてとくにクルマのレベルが上がっているとのこと。今回持ち込んだ水素GRカローラは、スーパー耐久最終戦を終えたものを船で運んできたもの。スーパー耐久で鍛えられたクルマだけに、予選でのタイムも総合で10位以内を記録し続けているなど高いレベルでの戦いとなっていた。

 モリゾウ選手とともに水素GRカローラをドライブする佐々木雅弘選手は、「クルマのレベルも上がっているし、社長のレベルもものすごく上がっている」という。とくにモリゾウ選手はこの2年、富士24時間レースなどスーパー耐久を走り込んでおり、2022年末には欧州帰りのWECドライバーと勝負、ラリージャパンの後の蒲郡の陣ではラトバラ監督と勝負しており、自分に有利な条件に持ち込めば世界のトップドライバーと勝負できるほどに進化している。それがタイのレースでも発揮されている模様だ。

モリゾウ選手とともに走る佐々木雅弘選手。タイムを確認したり、モリゾウ選手と打ち合わせたりと大忙し

 ただ、今回のタイ25時間耐久レース参戦に関しての意識はモリゾウ選手というより豊田社長のようだ。レースへのコメントを求めると、ピットに帰ってきた第一声はタイでのカーボンニュートラルについて。タイで「こうやって水素GRカローラで走っているのを見てもらうのが大切」(豊田社長)だという。

 バイオガスを活用した水素製造などでCPグループとの協業検討発表もあったことから、今回使っている水素などや協業検討の意図に関して聞いてみたが、「CPグループとは商用車での協業となる。ここで(水素GRカローラの)開発をアジャイルでやっている。こういう活動がこの国(タイ)の将来のカーボンニュートラル実現のお役に立つ。それにつなげていきたい。そのためにこの(25時間)レースにどうしても出たかった。『どこの水素を使うのか?』というのは今は問題ではない。将来はCPグループが作る水素とか、サイアムが作る水素とか、タイのいろいろな人が作る水素で、循環型、自立型のエネルギー社会が作ることができればものすごくいいことだと思う。それこそが国によって(脱炭素への)登り方が違いますよってことになるでしょ」と、タイにおけるカーボンニュートラル社会の新しい姿に協力したいと語る。

 そして、この1週間のめまぐるしい動きについて「パワフルですね」と素直な感想を記者が述べると、「パワフルで片付けてほしくない」「本当によくやりますねと言って」と笑いながら返してくれ、タイは今の豊田社長を形作った場所であり、「ここで自分のスタイルができたと思うし、トヨタ人生で一番楽しいときだった」という。当然こう言われてしまうと記者としては「今は?」と聞かざるを得ないのだが、それに対しては「今は苦労ばっかりですよ」と語り、「トヨタとはその土地土地で一番必要とされる企業になりたいし、その場所にいきたい。そこでできる限り貢献したい。僕は気持ちがアジアに相当移ってますからね。逆に日本気をつけてよって言いたいです」と言葉を続けた。

 この「日本気をつけてよ」の背景には、規制でものごとが進まない日本への悲しみが込められている。

「日本はなにをするにも、規制、規制でできない理由ばかりを言われる。タイではエネルギーを『つくる』『はこぶ』『つかう』を構想段階から2か月、実際の話は2日で決まった。CPのトップと話をして、サイアムセメントと話をして。サイアムセメント側が気持ちよくなかったら(疑念があったら)やらないからというぐらいで最後の最後を動いています。これはトップダウンでないと動けなかった。このスピードでは」「タイでは国民が応援してくれる。政府も副首相と会いました。『ありがとう』と言ってもらえました。あまりこういうことは日本ではない。雇用を作っても投資をしても(声が)聞こえてこない。僕は本当にジャパンラブなんだ。このジャパンラブな人がこんなことを言っているということはニュースです」(豊田社長)と、日本でトップクラスの企業でもなかなかものごとを進められない日本の現状に対する思いを聞くことができた。

 もちろん、日本におけるさまざまな規制については歴史的な背景があるには違いないのだが、いざ新しいことをやろうとするとその規制がブレーキとなってしまう。そのためには大規模な水素特区などを国や自治体が用意し、ある程度規制を緩めたり廃止したりしながら、新たな規制をゼロから検討して世界へ提案していくなどの取り組みが必要になる。しかしながら、そういったスピード感のある声も聞こえてこないのが現実だ。

 逆にタイでのトヨタとCPグループの取り組みが、余剰水素を使うことでコスト的にもうまく行くものであったら、タイがそういった実績のトップランナーになってしまう未来もある。そのような意味を含めての「日本気をつけてよ」発言なのだろう。

 トヨタのタイにおける多様な脱炭素の挑戦は始まったばかり。どのような結果が出るかは誰にも分からないけれど、25時間耐久レースに豊田章男社長がカーボンニュートラル車で参戦することに「意思ある 情熱と行動」が込められている。

「意思ある 情熱と行動」