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トーヨータイヤ、セルビア新工場で記者会見 清水隆史社長が新工場開設の狙いやグローバル戦略について説明

2022年12月16日(現地時間) 開催

セルビア新工場で記者会見するTOYO TIRE株式会社 清水隆史社長

 TOYO TIRE(トーヨータイヤ)は、セルビア共和国のインジヤ市に建設した、自動車用タイヤを生産する新工場を報道関係者に公開。工場見学後の12月16日(現地時間)、清水隆史社長が記者会見を行ない新工場開設の狙いやグローバル戦略について話した。

 セルビア新工場の特徴としては、会社全体として取り組みを進めているオペレーターのスキルに左右されることなく高性能・高品質なタイヤを生産できるよう生産設備の自動化が進められていた。また、材料工程〜成型工程を一体化して工程設備をコンパクト化するなど、多品種少量生産に適した生産システムであるとのことで、市場の需要動向に素早く対応できる生産体制を整えた。

セルビア新工場
セルビア新工場の材料保管スペース
原料の混合、タイヤの材料、成型、加硫、検査、タイヤを保管する倉庫、出荷と、工程に合わせたレイアウトになっている
成形工程などは自動化されており、タイヤ性能と生産性を両立させる混合技術で差別化を図っていく
タイヤのパーツとなる各種構造部材
各種構造部材は自動化された生産設備により組み上げられ、加硫前のタイヤができあがる
加硫後のタイヤは検査施設に移動する

 また、工場棟に隣接して直線距離720m、周回1690mとなるテストコースが敷設されていた。欧州地域で細かく定められている法規制認証に対応した評価をスピーディーに実施する体制も整えたといい、取材日当日もテストコースで実車装着でのタイヤの騒音テスト、水まくを張った路面でのブレーキテストが行なわれていた。そのほか、敷地内には、同国内最大規模となる発電電力容量8.4MWの太陽光発電システムを設置。年間10.15GWhの発電電力をまかない、同7100tのCO2の削減を果たすとしている。

タイヤの騒音試験やブレーキテストなど、実車装着での走行テストが行なわれていた
工場敷地内に太陽光発電システムを設置
テストコースの概要
サスティナビリティ対応に向けた取り組み

 新工場について、清水社長は「セルビア工場では、最新の技術と設備、製造実行システムを導入して、生産管理の効率化を図ることで、コストパフォーマンスの高い製品をスピーディーに供給できるようになります。例えば、EV化に対応したタイヤ性能を引き出すために、欧州R&Dセンターで進めている最先端の材料技術を活用して、摩耗や転がり抵抗を抑えて、軽量化を図った高性能なタイヤを生産することも可能です。隣接するテストコースで実装評価することによって、ヨーロッパの細かく定められた法規制にも対応した商品開発をマーケットの動向を見ながら進めてまいります。欧州のお客さまに対して、地産地消で当社のタイヤをタイムリーでデリバリーできるという点と、供給が担保できるという点で、欧州での戦い方が大きく変わると期待をしています」と話した。

 欧州市場に対して、清水社長は「ヨーロッパでは、基本的に乗用車、タイヤの中でもウルトラハイパフォーマンスタイヤやオールシーズンタイヤが最近の主流となっています。加えて、EV化で低燃費化が進んでいくため、安全性能と低燃費性能の両立が非常に大切です。セルビア工場に導入したミキサーでは、こうした性能を両立できる配合の開発が可能となったミキサーを導入しています」と、欧州市場のニーズに合わせて柔軟な生産体制を整えたことを強調した。

「北米販売シェア5位に挑戦する」中期経営計画で掲げた目標に向けた体制が整う

セルビア新工場で行なわれた記者会見。写真は左から取締役 執行役員 守屋学氏、取締役 執行役員(Toyo Tire Serbia d.o.o. 社長)の井村洋次氏、代表取締役社長 & CEO 清水隆史氏、取締役 執行役員の光畑達雄氏、執行役員(Toyo Tire Holdings of Europe GmbH 社長)の栗林健太氏

 セルビア工場の生産体制については、2023年下期には年産約500万本(乗用車用タイヤ換算)を確立するとし、欧州向けに250万本、北米向けに250万本を供給する計画。これまで同社は、自動車用タイヤを日本、米国、マレーシア、中国で製造・販売してきたが、セルビア工場の新設により欧州地域での地産地消を進める一方で、同社の主力市場である北米も主要ターゲットとして既存工場のバックアップとなる位置付けでタイヤを供給していくことになる。

欧州向けに250万本、北米向けに250万本を供給する計画

 清水社長は「来年下期には500万本(年産)のフル生産体制が整う予定です。ヨーロッパでの地産地消を進めることはもちろん、主力のアメリカ市場に向けてもコスト競争力のある高い商品を戦略的に供給していく拠点として、フルに機能を発揮して、存在価値の高い工場に成長させていく考えです。セルビア工場の生産体制が整うと、これまでヨーロッパへ供給を行なっていた日本工場やマレーシア工場でも地産地消の促進が可能となります。日本工場はタイミングを見ながら設備更新を図っており、オープンカントリーをはじめとする高付加価値商品の生産能力増強を進めています」との戦略を話した。

 2021年のグローバル販売実績をもとにした業界ランキングで11位にいる同社であるが、主力となる北米市場においてはワイドライトトラック用タイヤでの圧倒的なポジションを得ているといい、2020年実績では北米市場で7位のポジションにある。今回のセルビア工場の稼働により、2021年2月25日に発表した、新中期経営計画「中計’21」(2021年~2025年)で掲げた目標「北米販売シェア5位に挑戦する」に向けた体制が整うことになる。

 セルビア工場の新設に対して、清水社長は「ヨーロッパに工場を作るということをいつから考えていたかと申しますと、2017年度の中期経営計画発表時にさかのぼります。当時から世界的に見ると、タイヤの需要は堅調に推移しており、日本、アメリカ、中国、マレーシアの拠点からの生産体制では、世界の需要に追いつけなくなるのではないかという懸念があり、生産供給体制を充実させなければならないということが念頭にありました。世界地図を広げて、当社の供給体制を考えた時、空白になるエリアがヨーロッパでした。ヨーロッパで販売しているタイヤは、日本、もしくはマレーシア工場から輸出しており、船便で1か月以上かけて運び、一部では関税も大きくかかっておりました。中東やアフリカといったエリアも、日本から持っていくよりかは、ヨーロッパから運んだ方が近く、世界的に見て、供給体制をより地産地消に近づけることを目指すと、ヨーロッパに生産拠点が必要だという判断に至りました」と説明した。

 また、記者会見の中で、清水社長は「(2015年の)免震ゴム問題が発覚する前、私がタイヤ企画本部長をやっておりまして、その時にはアメリカの工場をどこに建てるかということで、アメリカの州でここがいいんじゃないかというところまで決まっていました」と、免震ゴム問題によりアメリカに工場を新設する計画は白紙になったことを明かした。

 清水社長は2015年11月の社長就任後、免震ゴム問題への対応とともに、基盤事業の立て直しに取り組んできた。2019年1月1日付で、社名を「東洋ゴム工業株式会社」から「TOYO TIRE株式会社」に変更して、社名にTIRE(タイヤ)を掲げるメーカーとして、名実ともにモビリティ・ビジネスを事業経営の中核に据えることを宣言。そして、2019年7月30日に同社初の欧州生産拠点となるセルビア新工場建設の決定を発表。北米市場への供給体制増強となる新工場の建設は清水社長の悲願であったに違いない。

 セルビアに工場を新設することに、清水社長は「アメリカはいいけれど、コストが高いという意味ではアメリカは難しい。マレーシアに第2工場ができて、さらに作っていくことはできるけれど、あまりマレーシアに集中するのもリスクだと。そして、日本を考えた場合に増産できるかというと、もう増産する余地がない。むしろ工場を回し続けて、なかなか設備の改装ができないという現状を考えた場合に、やはりヨーロッパに1つ作ることによって供給が安定する」との考えを明らかにするとともに、「なぜ、セルビアを選んだのかと申しますと、国全体の取り組みとして経済の健全化を図っていくこと、雇用面で非常に優秀な人材を採用しやすいこと、外資系企業を積極的に誘致しているということが挙げられます。自動車産業も進出を始めていて、国と一緒になって経済活動を底上げしようとしている環境の中で、当社がビジネスを行なう上での環境も整っているということを感じました」と説明した。

開所式にはセルビア共和国のアレクサンダル・ヴチッチ大統領が出席し、だるまの目入れ、鏡開きなどの日本的な儀式でヴチッチ大統領の訪問を歓迎した
セルビア共和国選定についてのスライド

 清水社長は「セルビア工場を開設したことで、空白のエリアが解消され、地産地消が進むことにより、各工場が持つ本来のキャラクターが活かされてまいります。グローバルにおけるタイヤ、生産供給体制の充実が図られ、ターニングポイントに入ったと感じています。セルビア工場の稼働を軌道に乗せ、転機をつかみ、成長へつなげることができるように、しっかりと取り組んでまいります」との意気込みが語られた。

セルビア工場の概要
セルビア工場で生産された第1号タイヤ
セルビア工場で生産されるタイヤラインアップ