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SUPER GTシリーズチャンピオン記者会見、36号車 au TOM'S GR Supra伊藤監督「重いときにこそポイントを取ることがSUPER GTでは重要」

SUPER GTシリーズチャンピオン記者会見、左からGT500 36号車チーム 伊藤大輔監督、宮田莉朋選手、坪井翔選手、GT300 52号車チーム 吉田広樹選手、川合孝汰選手、青柳浩監督

SUPER GTシリーズチャンピオン記者会見

 シリーズ最終戦となるSUPER GT 第8戦もてぎが、モビリティリゾートもてぎにおいて11月4日~5日の2日間にわたって開催された。11月5日13時からは決勝レースが行なわれ、最終戦までもつれこんでいたシリーズタイトル争いに決着が着いた。

 GT500のシリーズチャンピオンは今回の決勝レースでも優勝した36号車 au TOM'S GR Supra(坪井翔/宮田莉朋)が獲得し、GT300のシリーズチャンピオンは今回のレースで7位に入った52号車 埼玉トヨペットGB GR Supra GT(吉田広樹/川合孝汰)が獲得した。

 レース後には両クラスのチャンピオンを獲得したドライバー、チーム監督が「チャンピオン会見」と呼ばれる特別な会見に臨み、シリーズチャンピオンを獲得した気持ちなどについて語った。

ディーラーチームとして7年で頂点に立った埼玉トヨペット Green Brave

──それではタイトルを獲得した、今の気持ちを説明してほしい。

青柳浩監督:SUPER GTは夢にまで見た舞台だった。販売店の人間としてモータースポーツに挑戦しはじめて、難しいタイトルだと思っていたGT300の頂点に7年で立てたことはうれしいことだと思っている。ディーラーである我々が活躍することで、モータースポーツを盛り上げる一助になっていきたい。

青柳浩監督

吉田広樹選手:このチームに加入させていただいてから5年になっている。それからコロナ禍になって不規則なスケジュールになったり、シリーズでランキング2位になったりなどもあったが、詰めが甘いというか詰め切れない部分があって、チャンピオンには手が届かなかった。

 しかし、今年は毎回ミスをせずにベストをつくしてきて、紙一重のよい方を拾ってきて、ここまで来ることができた。前戦でも(2位の2号車を)最後まで抑えないといけなかったし、最後まで厳しいレースが多かった。

 チーム全体がプレッシャーを感じていて、クルマをいじれる場所が多いGT300車両だからこそリスクもある。今日のレースでも何かパーツが当たってカナードのようなものが取れかけた。ドライバーもチームも強いプレッシャーに晒されている中でやってきた結果がこのチャンピオンだと思う。

吉田広樹選手

川合孝汰選手:「うれしい」の一言。埼玉トヨペット Green Braveでお世話になってから4年目。チームに加入するころは、F4をやっていたチームが撤退したころで、(困っていた時期に)声をかけてもらった。コロナ禍が始まったばかりのころで、右も左も分からないまま、先輩の吉田さんやチームの関係者のみなさんにいろいろと教えていただいてここまでやってくることができた。

 それを結果で返したいと思っていても、なかなかそれができていなかったので、今回結果を残してチームやメカニックさんの笑顔が見られたことがうれしい。

川合孝汰選手

伊藤大輔監督:ほっとしている。強力なドライバー2人を揃えたことで、まわりのチームからは必ずチャンピオンが獲れるなどと言われていた。プレッシャーもあったけど、2人がエンジニアと話しているときに、ドライバー時代の経験を持っておかしな方向に話が行かないようにするのが自分の役目であるのだが、2人ともタイヤメーカーともマニファクチャラーともスマートにやりとりができていた。2人とも本当に難しいコンディションの中よくがんばってくれた。(最後までタイトルを争った)3号車は、最後は残念なことになってしまったが、年間を通して強力なライバルで、よい戦いができた。

伊藤大輔監督

坪井翔選手:最高の結果が出せたと思う。2年前にもタイトルを獲得したが、そのときは他力本願での決定という状況で、追う立場でシンプルに優勝するしかない状況だった。しかし、今回は追われる立場で挑んで、勝って自力でチャンピオンを決められた。いろいろあるのがSUPER GTなので、いろいろが自分たちの不利益の方に行かないでほしいと思っていた。今日のレースでSUPER GTは改めて難しいレースだと感じた。

坪井翔選手

宮田莉朋選手:もてぎは苦手という意識が強かったので、まずはQ1を突破できればと思っていて、Q2でトップ3に入れれば御の字だと思っていた。先週末にスーパーフォーミュラでチャンピオンを獲って、チームとしては士気高くこのレースに臨めた。

 今日のレースに関しては不安定な天気の中で、ドライでも3号車はとても速かった。そして同じミシュランの23号車も順位を上げてきているという状況のなかで、なんとか3号車との順位を詰めようとしていて、ああいう展開(残り5周で3号車がスピンアウトしてグラベルに埋まったこと)が起きた。このレースはチームとしてやってきたことの集大成で、パートナーの坪井選手、監督、チームには感謝しかない。

宮田莉朋選手

──両チームに今日レースの自分の担当を振り返ってほしい。

川合孝汰選手:今回は、日が陰ってくれた方がいい方向に進めると思っていた。7番グリッドからのスタートで、前後にストレートが速いクルマがいて、タイム的にはついていけたが、今回はタイヤ無交換作戦を選択したので無理もできなかった。

 このコースはストップ&ゴーのコースで、ブレーキングで離されてしまっていた。しかし、雨が降ったりやんだりという状況の中でチャンスあるかなと走っていたら何かモノが飛んで来てボンネットに当たってしまうなどもあって冷や汗をかいたりしたが、しっかりと吉田選手にバトンを渡すことができた。

吉田広樹選手:川合選手から変わったのは20数周という段階で、残り40周程度を無交換で走らないと行けない状況で、とにかくタイヤを持たせようと走った。自分たちとしては(タイトル獲得のライバルである)2号車の順位に関係なく、とにかくベストな順位を取ろうとだけ考えて走った。

 そうした中で川合選手が前に詰まったので、早めに入れた。最後、雨が降ってきたときには、自分がミスするとタイトル獲得にわるい影響があるかもしれないと考えて、できるだけリスクを冒さないように走った。今回はチャンピオンになれたこともそうだが、そういうコンディションでもしっかり戦えたことが次の自信につながるレースとなった。

青柳浩監督:レースが始まる前から、ライバルの2号車を意識するよりは、自分たちがやるべきことをしっかりやろうという話をしていた。吉田選手は、時々闘争心の方が先に言って行き過ぎてしまうことがあるのだが、今日は冷静に戦えていたと思う。

坪井翔選手:予選で3位になれたことが大きかった。前の2台を抜けば優勝できるとなって、今年の36号車のレースペースを考えれば、前2台とも抜けると考えていた。

 しかし、実際にはなかなか17号車を抜けなくて3号車が離れていった。最終的には17号車を自力で抜くことができて、その時点でチャンピオンの権利を得たため、そのままの順位で終わればなどもあったが、なるべく3号車との差を詰められるように、燃費などのことを考えながら走っていて、結局2番手で宮田選手にバトンタッチできた。

宮田莉朋選手:3号車と23号車のペースはわるくないと思っていた。その中で最低でも2位で終えないといけない、それを遂行しようと考えていた。しかし、それは簡単ではなかった。23号車もこちらと同じようなペースで走っていて、雨の影響でラップタイムが変わっていった。自分も何度も雨に関して危ない目にあったが、とにかくコース上に留まることを意識していた。36号車らしいレースができていた。

伊藤大輔監督:シリーズを獲得するためには2位を獲ればオッケーという状況になっていたが、それもこれもシリーズを通してミスなくポイントを取ってきたからだ。苦しいレースでも1点取れたことが2位で大丈夫という状況を作り出した。

 毎レース、毎レース、サクセスウェイトで厳しくてドライバーからはぐちがでるような状況でも粘り強く戦ってきてくれたことが、今シーズン全体の結果につながった。

岡山でミスをしたメカニックが、最終戦を前に不具合を見つけてくれたと伊藤監督

──4月の岡山から最終戦、23年シーズンを振り返ってほしい。このラウンドがチャンピオンを獲れるきっかけだったと思うようなラウンドがあれば教えてほしい。

青柳浩監督:今シーズンのターニングポイントになったのは、やはりスポーツランドSUGOでの第6戦だ。しっかりというレース運びができて、チェッカーの数メートル前まで1位を確信していた。その後18号車に逆転され、そこから天国へ地獄、そしてもう一度天国へなどとメディアに記事で書かれたりしたが、そこで優勝できたことがシリーズタイトルを獲る大きなきっかけになった。うちのエンジニアが作戦を立てたのだが、流速値などが違っていて最後ガス欠になってしまった。レースは最後の最後まで分からないということを思い知らされた。しかし、そのレースを拾わせてもらったことで、大きく飛躍ができた。

川合孝汰選手:今シーズンを振り返ると、前半の富士と鈴鹿で連続して表彰台を獲り、2戦目の鈴鹿をリタイアで終わってしまった。その時点では厳しい状況だったと言える。我々のクルマはこれまで富士が得意と言われてきたが、今年はスポーツランドSUGO、そしてサクセスウェイトが半分になったオートポリスで連勝できたことが大きかったと思う。

吉田広樹選手:大事なことは取りこぼしをしないことと分かっているのに、第5戦鈴鹿をマシントラブルでリタイアしてしまった。しかし、その後のスポーツランドSUGOで落としかけたけど結局取れたのがターニングポイントで、次のオートポリスでも連勝できたことが大きかった。今年のオートポリスは450kmレースと長くなり難しいレースになったが、最終的に2号車に勝てたのはチームの作戦をしっかり推敲できたからだ。今日のレースも余裕をもって望むことができたので、スポーツランドSUGOとオートポリスを連勝できたことが鍵だった。

伊藤大輔監督:8つのレースのうち、どのレースでも同じようにミスなく戦うことが大事だと常に言っていて、サクセスウェイトが重いときにこそポイントを取ることがSUPER GTでは重要だと考えている。開幕戦の岡山では、今のチーム体制になって最初のレースで、雨が絡んでいる中でタイヤがきちんとハマっていなくてリタイアになってしまった。ドライバーもチームの作戦もよかったため、細かいミスさえなくせば勝てるのだということを実感できたレースになり、それを第2戦富士の優勝で結果として実証できた。

 メカニックもとてもつらい思いをしたかもしれないが、実はこのレースに臨む前、そのメカニックが何かを感じたのかもしれないが普段開けないところを開けてみたらいくつかの問題を発見し、もしそれを処置しておかなかったら今日のレースを序盤でリタイアしていたかもしれない致命的なトラブルを発見することができ、今日の結果に結びついた。

坪井翔選手:開幕戦は残念だったが、それ以降は全員がやるべきことをやった。これでチャンピオンを獲れなかったらどうやって獲るのだというレースをしてきた。ターニングポイントではないけど、チャンピオンの獲得を意識しだしたころ、鬼門になるのはここ(モビリティリゾートもてぎ)のレースだと思っていた。そのため、9月のメーカーテストだったかで、ここでテストができたことが非常に大きかったと思っている。そこでセットアップやタイヤに関してしっかりと情報を得ることができたので、鬼門であるはずのここで勝てた理由だと考えている。

宮田莉朋選手:開幕戦の岡山では結果を出せなかった。その直後に翌周のスーパーフォーミュラに関してのミーティングなどがあってチームのファクトリーにいって、お話しをさせてもらった。それ以前にもスーパーフォーミュラでもピット作業でロスがあったりして表彰台や優勝を逃していた。そこでみんなで改善すべき点はなんなのかは見直して次のレース以降に臨んだ。

 岡山ではピット作業のミスさえなければ、十分表彰台に乗れる実力があった。その後、スーパーフォーミュラでも優勝できて、5月の第2戦富士でも優勝した。そうした小さなことを積み重ねてきたことが結果につながっていき最終戦までレースができるようになった。

 中盤はサクセスウェイトが厳しくて、真面目に速く走っていると辛くなるのは厳しいなぁとは思っていたが、しかしその状態でどうやってポイントを取っていくかがSUPER GTの醍醐味。鈴鹿のレースで1点取るとか、それがあって2位以内でチャンピオンを獲得できるという状況につながった。

2冠を獲得した宮田莉朋選手、「国内でやるべきことはすべて達成した」と来期以降の挑戦を見すえた発言も

──宮田選手は、スーパーフォーミュラと2冠を達成したが、その気持ちを教えてほしい。

宮田莉朋選手:SNSなどでは2冠を最年少と書いていただき、ダブルタイトルを獲れたことはとてもうれしい。僕はFIA F4、スーパーフォーミュラライツ、スーパーフォーミュラ、そしてこのSUPER GTと日本の主要なカテゴリーでチャンピオンを獲ってきて、もはや日本で達成すべきことはすべて達成したのではという感がある。それもこれもチーム、監督、そしてチームメイトのお陰だ。

 実際、スーパーフォーミュラとSUPER GTの2冠というのはTGR・トヨタのドライバーでは獲ったことがなく、トヨタ陣営では初めてと聞いている。日本のカテゴリーはレベルが高いと感じているので、来年以降の飛躍につなげていきたい。

──36号車の2人に、ベストレースとワーストレース、そしてお互いのチームメイトに助けられたときを教えてほしい。

坪井翔選手:全部がベストレースだが、1つだけを選ぶなら第7戦オートポリスだ。宮田選手の追い上げがめちゃくちゃ格好よかったし、予選12位から追い上げることができたのがよかった。

 ワーストレースは岡山で、(ピット作業でタイヤが適正に装着されていないという)トラブルがなければ少なくとも2位か3位で、シーズンの展開ももっと楽だったかもしれない。

 宮田選手に助けられたのも、基本的には全部だ。すべてのレースで本当に力強いレースをしてくれて、各レースでミスなく抜くところは抜くし、燃費を稼ぐところは稼ぐし、そういうことを的確にやってもらえた。本当助けられてしかいなくて一緒にチャンピオンが獲れてよかった。

宮田莉朋選手:ベストレースはやはりオートポリスだ。そこまで作戦どおりにいくとは思っていなかった。作戦どおり優勝できたし、FCYが出たりする中できちんと作戦を実行できたことがよかった。

 ワーストレースは、2つの鈴鹿のレースだ。5月の第3戦はポールを取れたのに、決勝はウォームアップに苦しみつつも2連勝が見えていた(23号車の事故により赤旗終了)。8月の鈴鹿はサクセスウェイトによる燃料リストリクターの制限が厳しく、3号車と自分達が飛び抜けてストレートが遅くて、初めての隣のクルマのインジケータ(エンジンの状態を示すLEDなどのこと)が見えて、ぜんぜん向こうの方が回っている!と、意味はないのだけど車内で伏せて空力をよくしようとしてしまうほど、一生忘れないぐらいの大変なレースだった。

 坪井選手には全部のレースで助けられていて、前半で17号車をオーバーテイクしてくれていたので、後半に3号車とレースができた。F3時代からいつもすごい先輩で、こうしてチームを組んでからも僕の意見を飲み込んで採り上げてくれて、前回のオートポリスなどでも提案した作戦を受け入れてくれた。そうした年上の頼れる先輩として本当にありがたい存在だった。

──伊藤監督に最初からチャンピオンを期待されていたドライバーの組み合わせの、それぞれの強みを教えてほしい。

伊藤大輔監督:走りの面では2人とも速さは最初から感じていた。坪井選手は、エンジニアとの会話の中で、非常に理にかなっている話を最初からしていた。なかなかそういうことができるドライバーは多くないのだが、彼がよかれと提案したことが次のセッションで実際に活かされる、それが彼の優れたところだ。

 宮田選手は、みなさんご存じのとおりテンションが高く、ラジオでワーって言ってくるところもあるが、こういう風にしたいという自分の意見を明確に表現してくれるので助かる。今日も午前中の練習走行を走った後、あまり状態がよくないと自分で判断して、Q1を担当するはずだったけど、自信がないから坪井選手と替わってほしいと自分で申告してきた。

 僕らの時代のドライバーはそうした自分の弱みを見せることは絶対しなかったのだが、宮田選手は正直に話をしてくれるところがいいと思う。また、バーチャルと二刀流と言われることが多いが、実際彼はオンボードカメラなど少しでも情報を勉強して勉強して頭に焼き付かせて自分の走りに役立てている現代風のドライバーとしてレベルが高いと思う。

──埼玉トヨペット Green Braveがディーラーチームとしてモータースポーツに参戦する意味を教えてほしい。

青柳浩監督:我々がモータースポーツに参戦する目的は、クルマ好きを増やしながら、人材育成を行なうというものになる。ディーラーの販売活動の中で、花形は営業であり、サービスは裏方という見方をされることは多く、クルマが売れ、成績があがれば褒められるのはセールスで、サービスは脚光を浴びることは少ない。

 しかし、モータースポーツ活動は、ドライバーが速く走らせることはもちろんだが、同時にメカニックがしっかりとしたクルマを作ることが両輪の活動だ。そこに光を当てるという意味で、意味がある活動だと思っている。我々の活動により、例えば未来を担う子どもたちにディーラーの整備士になりたいなと思ってもらえるということが大事だと考えているし、同時にメカニック自身にとってもフォーカスがあたる重要な活動だと考えている。