ニュース

日本自動車殿堂2023、豊田章男会長が受賞した父・章一郎氏への思いを語るなど殿堂者、歴史遺産車を顕彰

日本自動車殿堂表彰式典が開催された。写真は殿堂者(殿堂入り)の受賞者の記念撮影

 日本自動車殿堂は11月14日、学士会館(東京都千代田区)において2023年度の表彰式典を開催した。

 日本自動車殿堂は2001年に設立され、日本における自動車産業・学術・文化などの発展に寄与し、豊かな自動車社会の構築に貢献した人々の偉業をたたえ、殿堂入りとして顕彰し、永く後世に伝承してゆく活動などを行なっている。

日本自動車殿堂会長 兼 早稲田大学教授 兼 東京大学名誉教授の藤本隆宏氏

 賞は自動車産業・文化・学術等に貢献した人を顕彰する「殿堂者(殿堂入り)」、歴史に残すべき名車を顕彰する「歴史遺産車」、「日本自動車殿堂イヤー賞」の3つあり、イヤー賞については、「カーオブザイヤー」「インポートカーオブザイヤー」「カーデザインオブザイヤー」「カーテクノロジーオブザイヤー」の4賞が設けられている。

 日本自動車殿堂会長 兼 早稲田大学教授 兼 東京大学名誉教授の藤本隆宏氏は、「自動車業界は100年に一度の大変革期などといわれていますが、いろいろ調べてみると今起きていることは100年前に起きていることと似ている部分もある。まさに歴史は繰り返すで、こういう未来に向かって大きく舵を取らなければいけないときこそ歴史が大事なんだと思います。賞は野球の殿堂入りと同じで、普段はチームで活動していますが、あえて選手、つまり個人をたたえております」とあいさつした。

2023 殿堂者(殿堂入り)

 2023年度の殿堂入りは、トヨタ自動車を世界的な企業に育てあげ、日本を世界の冠たる自動車大国に導きつつ、幾多の経営課題を克服。“もの作りは人作り”の信念のもと人材育成にも注力した「豊田章一郎」氏と、人とクルマの運転制御メカニズムの解明に尽力し、世界で高く評価された横運動走行試験台の開発、四輪操舵理論の確立と実用化への貢献とともに、安全運転教育理論の構築とその講演活動、さらに多くの後進や技術者を育成してきた「小口泰平」氏。

 また、航空機構造をもとに独創的F1車両を設計して、ホンダの初優勝に貢献するとともに、歩行者の安全性向上の実験安全車ASV(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車)の開発、世界で初めての四輪操舵システムの実用化など自動車技術の発展に貢献した「佐野彰一」氏と、自動車技術者として進取の精神をもってEV(電気自動車)の開発に挑戦、幾多の困難を克服してリチウムイオン電池を搭載した世界初の量産車「i-MiEV(アイミーブ)」を世に送り出し、その後の世界的なEV化の端緒を開いた「相川哲郎」氏の計4名。

 表彰式には豊田章一郎氏の息子である豊田章男氏が登壇。章一郎氏の受賞のお礼を述べるとともに、「父が他界した2月14日は、偶然にも尊敬する祖父佐吉の誕生日でした。父は幼いころより、佐吉や父親の喜一郎から、もの作りの精神を学び、論より実行と最後までやりぬくことを実践してまいりました。そして27歳のときに喜一郎を亡くし、取締役としてトヨタに入社いたしました。戦後の混乱期から半世紀以上、責任者としての重責を果たしながら、『障子を開けてみよ、外は広いぞ』という佐吉の言葉どおり、まさに障子を開けて、日本のトヨタから世界のトヨタへ、その礎を築いたと思います」とあいさつ。

日本を自動車大国へと導いてきた豊田章一郎氏の代わりに表彰式典に登壇したトヨタ自動車株式会社 代表取締役会長 豊田章男氏

 また、「昨年殿堂入りされた中村健也さんのことを、豊田綱領の研究と創造に心をいたし、常に時流に先んずべしを生涯貫いた技術者だったといって、大変尊敬しておりました。その中村さんと一緒に苦労して作り上げたのが、父の愛車のセンチュリーでした。90歳を超えてもなお、その後部座席で気づいたことをトヨタの技術者に伝え続けておりました。父が後進に伝えたかったのは、常にお客さまを思う心であり、クルマ作りに終わりはないという技術者魂だったと思います。そんな父でしたので、尊敬する中村さんに続いて、この日本自動車殿堂に選んでいただいたことを、本人が一番よろんでいると思います。本日は誠にありがとうございました」と締めくくった。

人とクルマの運転制御メカニズムの解明に尽力してきた小口泰平氏

 安全研究に従事してきたという小口泰平氏は、「もう半世紀も前になりましたけれども、通産省の大型プロジェクト、EVの研究を手伝わせていただきました。また、自動運転にも携わることができました。時速100kmで、東村山テストコースを自動走行したことが懐かしく思い出されます。また、こうした流れの中での研究の日々、そして学生諸子の教育に携わることができたこと感謝しております」と振り返った。

自動車技術の発展に貢献した佐野彰一氏

 自動車技術の発展に貢献した佐野彰一氏は、「私の構想を現物にするためには、図面作成、もの作り、組み立て、テストといった作業が必要になりますけれども、それらの作業でたくさんの人々に助けていただいたので、その方たちにお礼を申し上げたいです」と感謝を述べた。

 また、当時の本田宗一郎氏や会社の上司がとてもやりがいのあるテーマを与えてくれたと振り返るとともに、一緒に登壇していた小口氏とも関りがあり「小口先生が開発された横運動走行試験台を使わせていただいたわけですけど、もしそれができなかったら、私どもの四輪操舵システムは存在しなかったかもしれません」と直接感謝を伝えた。

リチウムイオン電池を搭載した世界初の量産車「i-MiEV」を開発した相川哲郎氏

 リチウムイオン電池を搭載した世界初の量産車を開発した相川氏は、「18年前に怖いもの知らずで始めたEVの開発は、始まってみますとこれまで経験したことのない困難の連続でした。道なき道に道を作りながら進んでいく作業に、若い技術者たちが励んで取り組んできた結果であります。また、社内だけでは解決できない問題に数多く遭遇しましたが、そのたびに運や縁の助けを借りながら、量産の電気自動車i-MiEVが世の中に出たと思っています。また、当時はイノベーションという言葉は使っておりませんでしたけれど、今思うとまさにオープンイノベーションであったかなという気がします」と受賞をよろこんだ。

歴史遺産車

歴史遺産車の受賞記念撮影

 日本の自動車史にすぐれた足跡を残した名車を選定する「歴史遺産車」の2023年度の受賞車は、大正時代末期に日本初の量産自動車として約300台が市販されると同時に初めての輸出も実施。また、国産車開発を目指す多くの技術者を輩出した日本の自動車産業の端緒となった「オートモ号」、多くの新技術を積極的に導入した小型乗用車として国内とアメリカでも高く評価されたほか、国際ラリーなどでも活躍し、日本車の知名度向上に貢献したダットサンの「ブルーバード(510型)」。

 さらに、高い悪路走破性に加え乗用車感覚で乗れる多目的車として開発され、四輪駆動車の新たな市場を開拓するとともに、パリ・ダカールラリーなど、国際的な自動車競技で活躍した三菱自動車の初代「パジェロ」、最高峰の耐久レースであるル・マン24時間レースで純国産車およびロータリーエンジン車として初の総合優勝を果たすとともに、飽くなき挑戦を続け、日本の技術を世界に知らしめたマツダのレーシングカー「787B」の4台が受賞した。

豊川順彌氏が設立した白楊社が、1924年~1928年にかけて300台ほど製造・販売されたオートモ号
国立科学博物館 産業技術史資料情報センター長 前島正裕氏

 表彰式ではオートモ号の展示を行なっている国立科学博物館の産業技術史資料情報センター長の前島正裕氏が登壇し、「当館のオートモ号は、もともとエンジンだけが昭和の初めごろ文部省より移管され、ずっと保管されておりました。それが今のように大変美しい姿に復元されるまでには、多くの方々の思いと尽力がありました。まずオートモ号を作った豊川順彌氏。次に昭和41年にオートモ号の図面やそれを製造していた業者の資料などを大量に当館に寄贈してくれた方々。さらに実際にオートモ号を復元したトヨタ自動車とガレージ木村のみなさまのおかです」と感謝を述べた。

マイカー需要が拡大する中で、ダットサンの「ブルーバード(510型)」は月に1万台ペースで売れたという
日産自動車株式会社 グローバルコミュニケーション本部 グローバルエクスターナル広報部 部長 中西章裕氏

 510型ブルーバードの表彰では、日産自動車のグローバルエクスターナル広報部の中西章裕部長があいさつ。「ブルーバードは1959年に初代モデルが発売されました。古くから欧米では“青い鳥は幸福の象徴だ”とされていたことから、当時の社長である川俣勝治によって命名されました。当時の開発陣の情熱と才能が凝縮されていただけでなく、女性向けの特別仕様車を設定するなど、当時としては画期的なバリエーションも話題を呼びました」とブルーバードの歴史を紹介するとともに、「アメリカにも輸出され、当時のアメリカ市場開拓の原動力となり、グローバルで150万台以上の累計販売台数を記録しています」と人気の高さをアピールした。

1982年に発売されたパジェロは、国内でRVブームの火付け役となったほか、パリダカールラリーで活躍したこともあり、170か国以上に輸出されていた
三菱自動車工業株式会社 理事 兼 広報部チーフエキスパート 兼 第1車両技術開発本部 システム実験部担当部長 兼 ラリーアートビジネス推進室 担当部長の増岡浩氏

 パジェロの表彰式には、パリダカールラリーの活躍でパジェロを一躍有名にした立役者でもある増岡浩氏が登壇し、「初代パジェロは1982年に誕生しました。この年は東北新幹線や上越新幹線が開通した年です。それまでのクロスカントリータイプの4WD車はオフロード性能を重視するあまり、一般道や高速走行を苦手とする、決して扱いやすいクルマではなかった。そして使用用途も限られていました。そこでパジェロは高い走破性と乗用車的な乗りやすさを両立させたことで、アウトドアやスポーツなどたくさんの方が使ってくれて、1980年代中盤から始まった4WD、RVブームをけん引してきた1台になりました。また発売翌年には世界で最も過酷なパリダカールラリーに参戦し、初年度は無改造クラスで優勝。2年目は市販車改造クラスに参戦して優勝。3年目には徹底的に軽量化を施し、総合優勝を飾りました」と振り返った。

マツダ787Bは、1991年のル・マン24時間レースに出場した「FIA グループC カテゴリー2規定」のプロトタイプカー
マツダ株式会社 取締役 専務執行役員 営業領域・商品戦略統括、コスト革新統括補佐 青山裕大氏

 マツダが歴史遺産車を受賞するのは、2003年の「コスモスポーツ」、2019年の初代「ロードスター」に続き3台目。マツダの取締役専務執行役員 青山裕大氏は「マツダのル・マン24時間レースの挑戦は1970年からで、参戦当初は完走もままならないような結果でしたが、1983年からはマツダスピードの名でチャレンジを継続。1991年の第59回、13回目の挑戦で、日本車として、レシプロエンジン以外のエンジンで初めて、悲願の総合優勝を成し遂げました」と787Bの歴史を紹介した。

 また、2011年に大規模なレストアを行ない当時の状態にまで復活させ、さまざまなイベントでデモランを行なっていることを紹介したほか、当時787Bのドライバーとして参加していた寺田陽次郎氏からも「このクルマの開発およびレース参加の一員として関われたことを大変誇りに思います。おめでとうございます」との祝辞が届いていた。

日本自動車殿堂イヤー賞

日本自動車殿堂イヤー賞の受賞記念撮影

カーオブザイヤー(国産乗用車)

 日本自動車殿堂カーオブザイヤーを受賞したのは、モノフォルムを先進的に追求したスタイル設計と、あらゆる人々に受け入れられる乗りやすさと運動性能、さらに進化させた燃費性能向上のPHEV&HEV技術が評価されたトヨタ「プリウス」が受賞。表彰にはトヨタが2016年に発足した新たなビジネスユニットで、製品群ごとに7つのカンパニー体制へ移行した中の「Toyota Compact Car Company」のPC製品企画主査の大矢賢樹氏が登壇。

 大矢氏は、「昨年は初代プリウスが日本自動車殿堂の歴史遺産車に選定されております。初代プリウスは1997年に世界初の量産ハイブリッド車として誕生し、日本はもとより、世界のお客さまに愛されて育てていただいております。そして5代目となったプリウスは、多くの方々の手に届くエコカーであり続けると同時に、デザインと走りにとことんこだわったクルマに作り上げております。今回の賞をいただいたことで、さらにモチベーション上げまして、今後一層クルマ作りに精進してまいりたいと思っております」と感謝を述べた。

新型プリウスは2023年1月にHEV、3月にPHEVが発売された
トヨタ自動車株式会社 トヨタコンパクトカーカンパニーPC 製品企画主査 大矢賢樹氏

インポートカーオブザイヤー(輸入乗用車)

 輸入乗用車から選定されるインポートカーオブザイヤーは、フォルクスワーゲン初の電動SUVとなる「ID.4」が受賞。後輪駆動方式のバッテリEVによるダイナミックな走行性能や、すぐれた空力特性を実現させた流麗なSUVデザイン、さらにバッテリEV専用プラットフォームによるパッケージングが評価された。

 受賞式でフォルクスワーゲンジャパン広報のドロテア・ガストナー氏は、「日本における最初のIDファミリーであるID.4が受賞できて大変うれしく思っております。本社にも伝えていて、一緒に喜んでおります。ID.4は“EV for Evryday,for Evryone”と呼んでいて、EV専用プラットフォームで、たくさんの人、たくさんの荷物を載せられるスペースを確保しています。1stエディションはあっという間に完売しました」と感謝と同時にID.4の好調さをアピールした。

フォルクスワーゲン初の電動SUV「ID.4」
フォルクスワーゲンジャパン株式会社 広報マーケティング本部広報課 企業広報プロジェクトマネージャー ドロテア・ガストナー氏

カーデザインオブザイヤー(国産乗用車)

5代目プリウスのエクステリア
5代目プリウスのインテリア

 デザイン部門である「カーデザインオブザイヤー」も新型プリウスが受賞。存在感のあるモノフォルムシルエットのコンセプトや空力フォルムと室内空間の確保の絶妙なバランス、ランプ類など機能部品の斬新なデザイン表現などが高く評価された。なお、5代目プリウスは、2023年度の「グッドデザイン賞」の大賞候補となるファイナリスト5点にも選出されるなど各方面でデザインが評価されている。

 授賞式では当時チーフデザイナーを務めていた藤原裕司氏(現在はテクノ&リサーチ 制作部シニアエキスパートデザイナー)が登壇、「新型プリウスは、お客さまの日常を彩り、長く愛していただけるクルマを目指し、デザインチームはただ単に流行やトレンドを追うのではなく、素直にかっこよくて、美しいという本質的なデザインを志してきました。多くの開発メンバーが“このデザインを実現してやる”という思いで、知恵を出し、工夫を凝らし、新たなもの作りのチャレンジを実行してくれました。今回の賞はデザインチームだけでなく、もの作りの情熱をかけてくれたメンバーと分かち合いたいと思います」と関係者全体への感謝を述べた。

株式会社テクノ&リサーチ 制作部シニアエキスパートデザイナー藤原裕司氏

カーテクノロジーオブザイヤー(国産乗用車)

 技術部門の賞となるカーテクノロジーオブザイヤーでは、カメラ視野角拡大による交差点での事故防止技術の向上やステレオカメラによる進化させたハイレベルな安全技術、さらに危険回避技術の向上と普及への持続的貢献が評価され、スバルの「広角単眼カメラ付き新世代アイサイト」が受賞。

3つのカメラをもつ新世代アイサイト
新世代アイサイトを搭載する新型「クロストレック」

 授賞式では、スバルでADAS開発部に所属する安藤祐介氏が登壇。安藤氏は、「交差点をもっともっと安全にしたい。そんなわれわれのこだわりが、今回受賞した広角単眼カメラ付き新世代アイサイトを生み、新型クロストレックより国内に展開しております。今回の受賞を励みに、スバルは2030年の死亡事故ゼロに向けて、本気で邁進してまいります。この開発を支えてくださいました社内・社外のみなさま、そしてスバルの安全を信頼し、期待してくださっているお客さまに心からお礼を申し上げます」と感謝を述べた。

株式会社スバル ADAS開発部 安藤祐介氏
アイサイトの機能
アイサイトの機能