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勝田貴元選手、ラリージャパンを終えSS2のクラッシュについて語る 転落を防いだ木については「勝田貴元の木とか御神木という人もいる」
2023年12月1日 14:38
ラリージャパンでSS最速タイムを最も多く記録した勝田貴元選手
11月16日~19日の4日間にわたってWRC(世界ラリー選手権)最終戦ラリージャパンが愛知県・岐阜県を舞台に開催された。このラリージャパンで大きな注目を集めていたのが、地元愛知県出身のWRCドライバーである勝田貴元選手。勝田選手は2022年のラリージャパンでトヨタチーム最高位の3位表彰台を獲得し、日本のラリードライバーが世界に通用することを地元開催されたWRC戦で示した。
勝田貴元選手の2023年シーズンは速さを追求。前半戦は速さが結果に結びつかなかったが、8月に開催されたラリーフィンランドではヨーロッパの高速ラリーコースで3位表彰台を獲得。日本人が通用しないと言われたヨーロッパの高速グラベルラリーで、日本人初の表彰台を獲得した。シーズン後半へ向け調子を上げている中でのラリージャパンでもあり、勝田選手自身も自分を奮い立たせるように昨年以上の活躍をと語っていた。
結果は、ラリーとしては序盤にあたる2日目のSS2、雨が強く降るなかで立木にあたりクラッシュ。マシンが大きく破損したため、そこからEVモードでステージを終了。さらにロードセクションでマシンを応急修復し、SS3に挑むもタイムロスとなった。天候悪化でSS4がキャンセルされたため、それ以上のタイムロスなくサービスパークに戻ることができ、お昼のサービスパークの限られたサービ時間でマシンを修復。
午後に行なわれたSS5、SS6、SS7で3連続のトップタイムをたたき出したほか、最終的にはトータルで22あるSSのうち、10のSSでトップになるほどの驚速ぶりを見せた。ちなみに、そのうち3つのSSは、トヨタ勢がなぜか不得意とする豊田スタジアムのスーパーSSが含まれており、実質的には半数以上のSSでトップとなり、とくに峠道を走る山岳ステージで勝田選手は圧倒的な走りを見せた。
ちなみに、勝田選手がトップとなったのはDAY2のSS5、SS6、SS7、DAY3のSS9、SS10、SS13、SS14、SS15、DAY4(最終日)のSS19、SS21の10のSSだが、SS9はステージトラブルの救済タイムでオジェ選手と同タイムでのトップ。そのため、勝田選手がタイムをたたき出したという意味では9つのSSでトップ、順位としては10のSSでトップとなり、9つのSSでトップ、10のSSでトップと2つの報道が混在するのは、タイム的な意味か順位的な意味かという視点の違いによる。
いずれにしろ、ラリージャパンで最速のドライバーは誰かと聞けば、最終的には最後尾近くから5位まで巻き返した勝田貴元選手であったのは間違いない。レースの世界に「たられば」はないのがお約束だが、それでもSS2のアクシデントがなければと思った人がほとんどだろう。
ラリージャパンの翌週、TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ豊田にデモランのために訪れていた勝田選手は、そのSS2のアクシデントと、今の気持ちについて詳細に語ってくれた。
「思いが後押ししてくれた」「本当に感謝したい」と勝田貴元選手
──(今の気持ちについて)
勝田貴元選手:率直なラリージャパンを終えての感想というか、気持ち的には本当に非常に悔しいという思いが1週間経った今でもずっとやっぱりあって。それが自分の中でも、いつもだったら割とすぐに切り替えて次にっていう感覚でいられるのですけど、今回に関しては自分がかけていたものも非常に大きかったですし、ラリー前にも言ったように、本当に優勝争いをして、今後のラリー文化もそうだし、少しでも多くのファンの人に、また来年、また来年って1年ごとにどんどんスケールも大きくしていきたいという思い、そういった思いもすべてあったので。
ここで結果を出して、さらに来年のラリージャパンに向けて、ラリー人気、モータースポーツ人気も。やはりそういう思いからすごくその分、何か自分の中でのプランが、勝手なプランではあるのですけど一周遅れてしまったんじゃないかっていう思いと何かそんなことを考えて、ちょっとモヤモヤしているという、そんな率直な気持ちで現在います。
ただですね、やはり週末を通してあったスピードっていうところが来年に向けて非常にポジティブな部分も見せれたと思います。
──(SS2のアクシデントについて)
勝田貴元選手:金曜日の雨になってからは、本当にものすごい豪雨だったので、レッキのときとはまったく違ったコンディションでした。今回の日本の道だと落ち葉だったりとか、僕たちニードルだったりパインっていう呼び方をするんですけど、大きな葉っぱの落ち葉ではなくて、本当に細かい小さな木の、何て言うのかな? 木の実っていうんですかね。本当に小さな枯れ葉のような何て言うか、そういったものが落ちている路面上に、それが散乱しているような状況で、ラインもできていないような状況でした。
そこでの雨だったのでより難しいコンディションになってしまっていたのですが、走り出してからクルマのフィーリングが非常によくて、自分の中でも、もちろんプッシュしてラリーを進めたいという中で、スタートして……。
ただ、そこまで自分の中で行き過ぎてるなっていうようなプッシュではなくて、本当にいい感じで、うまくコントロール下に置いて乗れてるなっていう。ただ全然グリップしなくて乗れていないという感覚ではなかったので、自分の中でもこのままいけば、タイム的にはトップ3、いいタイムが刻めるんじゃないかなという、そういう感覚で序盤セクション走っていました。
その(アクシデント)後に見たら、タイム的な部分で見ても13秒ぐらい最初の10キロ9キロでキロ1秒以上速い。トップタイムだった選手より速かったので、ステージでしっかりとフィニッシュできたら、非常にいいマージンを取れてたと思うのです。
(アクシデントが起きたのは)11km地点ですね。右コーナー手前のブレーキングで完全にフルロックしてしまって。後にレッキのビデオだったりとか、他のオンボード見たり、いろいろと検証したのですけど。
30mの直線があって右コーナーという。その30mの直線の中に10mだけ舗装がし直されてる部分がありました。この舗装がし直されてる部分の舗装の種類が(それまでの舗装とは)違ってその上を水が弾いて浮いてるような。そこだけ極端に水溜りというか、水が浮いてるようなコンディションだというのが後に分かりました。
走っているときは結構なスピードなので、一瞬何が起こったか分からない状況であったのですけど、後に検証すると路面の舗装の違いがある中で、その舗装の違いによってその区間だけ、10mの部分だけ非常に水が浮いていた。
その水の上でハイドロプレーニング現象現象を起こしてしまって、コントロールを失い、真っすぐに突っ込んでしまったという、そういう状況でした。
不幸中の幸いで僕の場合は、そのまま真っすぐ行ったところに木があったのです。その木にフロントから当たって、その木に当たったことでコース上に何とかとどまれたという状況でした。
その後、僕の後に出走した2台が、ソルド選手とフルモー選手、それぞれが同じコーナーでまったく同じシチュエーションでクラッシュをしてしまって。僕は今言った木で何とか持ちこたえたのです。けれどもソルド選手とのフルモー選手はそのまま木に当たりながらもかすめて落ちていってしまって。
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— World Rally Championship (@OfficialWRC)November 22, 2023
結構な崖という崖ではないんですけれども、2、3mぐらいのギャップがあるようなところに落ちてしまったので、そのまま2台はリタイヤになってしまって。
僕は本当にその木のおかげもあって運よくコースにとどまって、その後ラジエータに損傷があったので、EVモードでステージを走り切ることになり、何とかステージは走り終えました。
その後、ラジエータの損傷と足まわりの損傷があったので、ロードセクションで修復を試みて、ラジエータの方は何とか応急処置できたのですが、足まわりの方はターマック戦ということでスペアパーツをグラベル戦のように十分に持って行ってないこともあり、本当に応急処置で真っすぐ走らないような、そんな状況での走行となりました。
2本目(SS3)が豪雨だったので、本当に気を付けなくてはならなくて。何とかフィニッシュはしたんですけど、運良くSS4がキャンセルとなったので、何とかロスするタイムも1分半ぐらいですか、おそらく2分弱ぐらいで(大きく)失わずにすんだのかなと思っています。
そこからはサービスへ何とか戻ってきて、チームが修復してくれて、本当にかけていたものも大きかったので、なかなか残念な気持ちが大きかった。
まずはラリーがまだ終わってないですし、とにかく自分ができることを精一杯やろうということで。スピードも後に区間タイムを見たらダントツで速かったので、走りを多少抑えてもトップタイムを出せると思い、午後にその走りをそのまま実践したら、タイムがそのままポン、ポン、ポンと出ました。
そこでももちろんプッシュはしていたのですけど、何かこう、自分の中でこれ以上いけないっていうプッシュというよりかは、コントロール下に置いてまだマージンが多少残るような形でのプッシュだったので、本当にクルマと自分のフィーリングっていうところでも、合っていたんじゃないかと思います。
──(最終的な5位という結果について)
勝田貴元選手:最終的には総合5番手ですね。4番手に追いつくことができず終わったのですけど、ラリーを通して一番速さは示すことができたと思うのでそこは一つポジティブな部分だったと自分に言い聞かせて。
先ほど最初に言ったように、何か自分の中でもまだモヤモヤっていうか。何か違った展開にできていたんじゃないかなと。やはりいろいろ考えること、思うこと、一杯あるのですけど。
本当に終わったことですし、来年に向けて進んでいかないといけないと思うのですが、こういったポジティブな部分を、来年のまずはモンテカルロですね。モンテカルロから同じようなスピードで新たなシーズンを走り始められるように、そこに集中したいと思います。
──(2度目のラリージャパン参戦について)
勝田貴元選手:今話したのですけど、ラリーを通して、本当に昨年以上に観客の人の多さ、あと熱量ですね。その辺りが走っていても伝わってくるぐらい、感じることができました。もちろん豊田スタジアムのステージでというところもなのですけど。
雨でも本当に寒い中の僕の例えですけど、ラジエータに問題があって、溝から水を汲みながら直してるのがライブで映ったみたいです。その後の帰りのロードセクションでは水の大きなタンクを持ったお客さんたちが(来てくれて)、本当にびっくりするぐらい、ちょっと感動しました。
その人たちがロードセクションで手を振りながら、大きなボトルの水を抱えて「水あるよ」って。もちろんレギュレーションでそれを受け取ることはできないのですけど、もちろん水は足りていたのですけど、(自分の)この状況を見て何か手助けできるんじゃないかということで。
その気持ちを見せていただけて、それが僕の中でも改めてしっかりとプッシュして最後まで走り切って、その上で走り切るだけじゃなくて何か見せようっていう、本当にそういった人たちの思いが後押ししてくれたと思うのです。本当に感謝したいです。
なかなかほかのラリーでは、そこまでのことってないと思うのです。何か日本のファンの人が熱さとか、それをステージ上で見られるところがないっていうのは残念なんですけど、それゆえロードセクションでそれだけの人、それだけの熱が感じられるというのは、ほかのラリーにないすごいところ。改めて昨年以上に感じました。
勝田貴元の木、勝田貴元の御神木
勝田選手はラリージャパンを詳細に振り返ってくれたが、レースを終え1週間たっても割り切れず、「モヤモヤしている」という言葉が印象的だった。オンサイトで記者と同席した自動車研究家の山本シンヤ氏は、アクシデント発生からそのリカバー、ギャラリーの応援やサービスでの修復、そこからの最速タイム連発は、ラリーの醍醐味を日本の観客が見ることができたと勝田貴元選手に伝え、勝田選手のモヤモヤは少し解消しているようだった。
記者もそれは同感で、2022年は世界レベルのラリーで表彰台に立つ姿を見せてくれた勝田選手が、今年は世界最速のラリードライバーの一人であることを示してくれた。残念ながら表彰台獲得とはならなかったが、毎日トップタイム連発などそれ以上のものを伝えてくれたことは間違いない。
ラリージャパン2023が始まる前に話題になっていたのが、Googleマップに「勝田貴元土手」というポイントが表示されていたこと。これは2022年のラリージャパンで勝田選手が乗り越えてしまったポイントが名所になった部分だが、2023年のラリージャパンでは勝田選手やソルド選手、フルモー選手を飲み込んだSS2の11kmポイントが印象的だった。
この場所について勝田選手に「名前を付けるなら、どのような名前を付けますか?」と質問してみたが、勝田選手は「自分が名付けたわけではないが、『勝田貴元の木』とか『勝田貴元の御神木(ごしんぼく)』と呼ばれているのは知っている」とのこと。
結果的に木にぶつかってマシンにダメージが発生してしまったが、その木によってリタイヤせずにすんだのも事実とのことで、その木に対する印象は強いと語ってくれた。
鈴鹿サーキットのデグナーカーブのように、名手がミスをしたポイントは強いインパクトを見ているものに与える。豊田スタジアムのスーパーSSのイン側最終コーナーは「ノリさんコーナー」と名付けられていたが、ラリージャパン2023のSS2ポイントも長く語り継がれていく場所になるだろう。