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フランスのテックイベント「Viva Technology」にウーブン・バイ・トヨタの隈部肇CEO登壇 背景を豊田章男会長に聞く
2024年5月28日 12:29
フランス「Viva Technology」でウーブン・バイ・トヨタ CEO 隈部肇氏がウーブンシティをプレゼン
フランス国内外のオープンイノベーションを推進する企業や有力スタートアップ、イノベーションに関するキーパーソンによる展示・プレゼンテーションが行なわれるテックイベントとして知られる「Viva Technology: 2024」が5月22日~25日、フランスはパリで開催された。
このViva Technologyに、ウーブン・バイ・トヨタの代表取締役兼CEOを務める隈部肇氏が登壇。現在、静岡県裾野市に建設中のWoven City(ウーブンシティ)に関するプレゼンテーションを行なった。
隈部氏はデンソーにおいて電子プラットフォーム開発などに従事。先進モビリティシステム開発、先端技能開発を行なってきた。記者もデンソー時代にお話をうかがったことがあるが、AIに関するデータの持ち方など、深い知見をもとに開発を率いていたことが印象的だったことを覚えている。
隈部氏は、その後デンソー、アイシン、アドヴィックス、ジェイテクト4社により設立された自動運転の統合制御ソフトウェアを開発する株式会社J-QuAD DYNAMICSの代表取締役社長(CEO)に就任。同時にデンソーのAD&ADAS事業分野を担当するなど、トヨタ車の開発、とくに近年では自動運転分野におけるトヨタグループ企業間での連携を担ってきた。2023年10月1日よりウーブン・バイ・トヨタのCEOとなり、ウーブンシティ開発の先頭に立っている。
隈部氏がViva Technologyで紹介していたのは、そのウーブンシティの現在地。ウーブンシティは、2020年のCESで当時トヨタ社長であった豊田章男氏が基本構想を示し、大きな話題となったコネクティッドシティで、富士山のすそ野に未来都市を作るというもの。人々が生活を送るリアルな環境のもと、自動運転、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できるというその構想の大きさから、誰もが驚くとともに、あまりに壮大なビジョンのため実現可能性も疑問視されてきた。
隈部氏は、そのウーブンシティの建設風景をプレゼンで示し、トヨタグループの開発者、企業の開発者、スタートアップ/企業家、個人の発明家など発明をする人(インベンター)と、その家族や普通の人々ら2000人が暮らすことで実証できる自動運転などの可能性を語った。
このウーブンシティは、リアルに建設が行なわれているが、バーチャルの仮想空間でも同時に建設が行なわれているデジタルツインの街となっている。街の建設を仮想空間で検討し、リアルの街へ実装。未来のあるべき姿を、多くの発明家が検討できる。
また、隈部氏はトヨタ自動車が開発中のクルマ向けOS「アリーン」についても紹介。アリーンがトヨタのクルマの基本プラットフォームとなることで、街とつながることも示した。
富士24時間レースの際、ウーブンシティ構想のオリジネーターであるトヨタ自動車会長 豊田章男氏に会えたので、パリでプレゼンテーションした背景などについてうかがった。
パリの「Viva Technology」でウーブンシティ構想の現在地を報告した理由を豊田章男会長に聞く
豊田会長に、パリという舞台でウーブンシティの現在地を発表したのは、グローバルに発表したいというのが一番の理由になるという。「私が最初にプレゼンテーションしたのもCESだったでしょ」と、アメリカにおいてウーブンシティ構想を発表した理由も、グローバル発信が大きという。
その目的は、英語でいう「invest(インベスト)」近いニュアンスがあり、未来に対して時間を割く、未来に対して力を割くなど、未来を一緒に作っていく人を募りたいという。
実際、記者自身もCESでの豊田章男氏の発表を現地で取材したが、その発表は現地において衝撃と言ってもよいほどの興奮とともに迎えられた。
また、今回のパリでの発表は、2か月後に迫ったパリ五輪が行なわれる地である背景も大きいとのこと。ウーブンシティの現在地を発表する提案がいくつか豊田会長のもとに上がってきて、タイミングや場所がマッチしたのがパリの「Viva Technology」になる。
パリが選ばれた背景には、やはり世界に向かって呼びかけたかったとのこと。アメリカに続いて、ヨーロッパのテックイベントでウーブンシティを発表したことになるが、パリはとても適しているように思える。
フランス政府はスタートアップの育成に力を注いでおり、米国ラスベガスで行なわれるCESにも早くからフレンチテックコーナーを設置。フランスのスタートアップを支援してきた。文化的に世界トップクラスの国であるのはもちろん、自動車業界でも多く使われている「CATIA」のダッソー・システムズなど世界的なソフトウェア会社も多く、ソフトウェアの国でもある。
なにより人と違う新しいことを構想する人や企業に対しても、とてもポジティブである。
豊田会長は、ウーブン・バイ・トヨタでは66か国、2200名の人々が働いているなど、なによりも国際的な働き方を重視していると語り、構想を前へ前へと進めてくれる仲間を国内外に求めている。
アメリカで発表し、ヨーロッパで呼びかけたウーブンシティ。デジタルツインを全面採用するなど建設の進捗については漏れ伝わってくるが、その全貌はまだ分からないことが多い。隈部氏のパリでのプレゼンテーションによると2025年が一つの目標であることが明らかにされた。今回のプレゼンテーションで次のステップに進んだことは間違いない。