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日産、下請け企業への代金引き下げ問題について調査結果 「パートナーシップ改革推進室」「お取引先専用ホットライン」新設で対応
2024年5月31日 21:28
- 2024年5月31日 開催
日産自動車は5月31日、パートナーとの取引に関する説明会を日産グローバル本社で開催。日産自動車 代表執行役社長 兼 CEO 内田誠氏と専務執行役員 長谷川博基氏、社外弁護士である長島・大野・常松法律事務所(NO&T)の辺誠祐氏と持永勇揮氏の計4名が出席して行なわれた。
日産の下請け企業に対し、納入時に支払うべき代金を一方的に引き下げていた問題。同社は下請法の適用対象となる36社との取引において、30億2367万6843円(2021年1月から2023年4月まで)を一方的に引き下げていたとして、3月7日に公正取引委員会から下請法に基づく勧告を受けていた。
この時点で日産は、下請事業者に対して代金の減額に該当すると判断された金額を返金するとともに、割戻金の運用も廃止すると発表していたが、勧告を受けた後も下請法違反を行なっていたとの報道を受け、調査を実施。その調査結果が今回の説明会の場で明らかにされた。
調査はNO&Tが受け、2024年5月11日~5月31日まで日産コンプライアンス室が補助しながら行なわれた。調査の目的はあくまで報道されたような問題事案というものがあったかどうかという点であり、報道で出てきたA社、B社を特定することを目的とするものではないとした。
冒頭、内田社長は「当社は今年3月の公正取引委員会からの勧告を受け、取引の適正化に向けて法令順守の点検体制を強化し、役員や取引に関わる従業員への教育を徹底しながら再発防止策に策定を現在取り組んでいるところですが、こうした中、今月一部のテレビニュース番組において、当社が勧告後にも違反行為を行なっているのではないかとする報道がなされました。国および業界を挙げて適正取引の徹底に向けて取り組みを進める中、こうした報道がなされたこと、ならびに各方面において当社の取引先より厳しい声が上がっていること、これを大変重く受けとめております。報道後、直ちに私を責任者とする調査チームを立ち上げ、これまで報道された内容についての事実確認を進めてまいりました」とし、その結果について辺氏から説明が行なわれた。
調査の方法について辺氏は報道では2024年4月付の見積書、そしてメールというものに言及があったため、日産の購買担当者260名の4月のメールの内容をまずチェック。そこから報道で言及された見積書や「当社の目標」等と記載されたメールでの連絡が確認されたため、それと関係を有すると考えられた部門の関係者合計37名に対し、延べ43回のヒアリングを実施した。
調査ではA社、B社という形で分けてあるが、A社事案では電子メール、見積書、原低回答書等の資料を確認、精査。 また、B社事案では同様に電子メールを確認するとともに、見積書、日産内の見積金額算定に関する資料等を確認・精査した。
A社事案について
A社事案の報道内容は以下のとおり。
①下請け先(A社)は、日産が作成したフォーマットに従って作成した見積書を提出することとなっている。
②フォーマットには、日産が指定する一定の減額率(「原低率●%」)が記載され、自動計算式が設定されている。
③A社が正規価格をフォーマットに入力すると「数%から数十%」の原低率相当額が控除された金額が、自動表示され、価格が一方的に減額される。
④A社が日産に2024年4月●日付けで提出した見積書には、日産のフォーマットにより「個別原低とは、弊社より依頼したもの」との記載が当初から存在するところ、「弊社」はA社を意味しており、A社側が原価低減を依頼しているという見積もり上の体裁を日産が作出している。
辺氏はこのA社事案について、「まず、報道されたような計算式と個別原低に関する記載が存在する見積書のフォーマットの利用というものが確認されております。ただし、日産と取引関係のあるサプライヤーさんは2000社を超えるところ、このフォーマットというものは量産品サプライヤーとの間では利用されておらず、あくまで試作品のプレス部品を製造する数社とのお取引により限定的に利用されるものであったいうことを確認しております。このフォーマットが利用されるようになった経緯は過去に遡るんですが、2015年に一品一様の試作品プレスの価格レベルの妥当性・一貫性を担保する目的で、日産自動車と各サプライヤーは原単位コストテーブル(試作品の仕様等に応じて、加工費等の単価を統一的に想定したもの)というものにより算出される単価の使用を合意しました。試作品のプレスということで、なかなかその単価というものを算定することが難しいということで、作ってもらう試作品の難しさであったり、そういった個別の事情に応じて単価というものが算定される、そういった原単位のコストテーブルを合意したということでございます」。
「そして、FY16からFY19にかけて、日産自動車と各サプライヤーは、そのフォーマットから導き出される査定値というものを基準に毎年6%の原価低減の実施を合意し、このフォーマット上にその計算式というものを設定するという取り扱いにしました。したがって、毎年6%ということですので、1年ずつこの6%というものが増えてまいりますので、FY19時点では6%の4乗という計算式が設定されたフォーマットということになり、FY19以降ですけれども、サプライヤーさんと合意する中、協議する中で、原価低減率の加算というものは行なわれませんでしたけれども、この計算式が設定されたフォーマットを利用する運用というものは継続することになりました。したがって、2024年時点もFY15の時点で合意した原単位コストテーブルに基づく査定値、それに所定の原価低減を行なうことで見積もり金額が算出される仕組みになっていたということになります。繰り返しの説明になりますが、あくまで見積書を提出する際にサプライヤーさんが入力する金額というものは、サプライヤーさんご自身のお見積もり金額ではなく、FY15に合意した原価低減前の当該コストテーブルにより算出される査定値、それを入力する運用となっていたところでございます。この原単位コストテーブル、個別の原価低減にかかる合意の交渉経緯に関して、先ほど申し上げた資料の検討やヒアリングのプロセスで特段の問題は確認されておりません。また、報道ではこのフォーマットに『個別原低とは、弊社より依頼したもの。』という記載があるということでしたけれども、実際のフォーマットにはそれに続けて報道されてない文言として、『御社で独自に取り組んだもの。等の原低内容です。』(原文ママ)という記載が存在しました。したがって、このフォーマット上は弊社、御社両社に言及するもので、日産自動車とサプライヤーの双方が原価低減に取り組んでいる、そういう内容の書面だったということが確認されております」と説明した。
B社事案について
B社事案の報道内容は以下のとおり。
①日産の担当者が、下請け先(自動車部品メーカーB社)に対し、「当社の目標は●円以下」という内容のメール(「B社宛メール」)を送付するなどし、日産が納得する水準の価格になるまで見積書の再提出を複数回求める。
②日産の担当者がB社に対し、「長い付き合いだからといっていつまでも仕事もらえると甘く見るなよ」などと告げる。
③減額率は「ほぼ30%」、「ひどいときは50%」である。
辺氏はこのAB社事案について、「まず、設備手配案件の調達プロセスにおいて、日産自動車の購買業務の委託先がサプライヤーさんに対して『当社の目標』としての金額等を示すメール、それを送付していた事実が確認されています。いずれも報道で言及されたB社宛メールと同様の体裁であり、報道で黒塗りされている部分も含め、以下の記載が確認されました(いずれも原文ママ)」。
「御社の最終見積書をご提出お願いいただけますでしょうか」
「御社のベストプライスで最終見積書を」
「尚、ご参考ながら、当社の目標は●円でございます」
「このようなメールは、日産自動車の購買業務の委託先が日産自動車の調達依頼部門による見積もり査定結果を踏まえ、一時見積もりを提出したサプライヤーさんに対し、業務手順書に基づき送付するものでございました。このメール中で言及されている金額は、日産自動車の調達依頼部門が過去案件等を参考に技術的な観点から査定したもので、一定の根拠のある数値であったということを確認しております。また、その内容について、調達依頼部門からサプライヤーさんに対しそれを説明する場合もあるということでございました。また、業務委託先の担当者の供述では、こういったメールを送るのは2回までであるということが述べられております。メール中の記載の通り、報道で黒色になっていたところですけれども、この目標金額というものはあくまで参考として示されていて、これを下回る提案がサプライヤーさんからなされなければ取引が成立しないというような運用ではございませんでした。実際にメールで示された目標金額よりも最終的な契約金額が高額となっている取り組み事例というものも存在してございます。過去約8年間のこの委託先が関与する設備手配取引を確認しましたところ、減額率が30%を超える取引、報道ではほぼ30%という形で言われてましたので確認しましたけれども、それが多数であるというような状況はわれわれの調査では確認されておりません。こうした設備手配の案件において、日産自動車、そして委託先が長い付き合いだからと言って、いつまでも仕事もらえると甘く見るなよとつけるなど、威圧的なコミュニケーションがなされている事実は、先ほど申し上げたわれわれの調査で確認されておりません」とした。
また、辺氏は「以上がわれわれの調査結果でございまして、計算式が設定された見積書のフォーマットであったり目標の金額を示したメール等、報道に関する事実が確認された一方で、コストテーブルや原価低減に関して日産自動車とサプライヤーさんが合意していたり、また、示されていた目標金額というものは一定の根拠を持つ参考値であることなど、必ずしも報道されているわけではない新しい事実が私どもの調査で確認されているということになります」として調査結果の報告を締めくくっている。
こうした不満の声がなくなるよう努力をしてまいりたい
これを受け、内田社長は「先ほどご説明いただいた試作事前見積書及びメールに記載していた誤解を招く表記については、直ちにその運用を廃止しております。また、こうした状況を踏まえ、取引全般まで範囲を広げた追加点検を現在実施しております。辺先生から報道にあったような当社からの一方的な行為は調査では確認されなかったとのご説明がありました。これについて私の方からコメントすることは差し控えさせていただきますが、いずれにしましても、各方面において取引先からご不満の声が上がっていることは事実であると思い、より厳しい目線で自らを振り返り、日々のやり取りにおいて当社に至らない部分があった点、改善すべき点を含め、今後適正な取引が実現できるよう取り組みを強化し、こうした不満の声がなくなるよう努力をしてまいりたいと考えております」。
「その一環として、すでに取り組みを決定・開始している事例、また今後予定している事例の一部をご紹介させていただきます。まず、世界中で広がるインフレのコスト上昇については、取引先に対しヒアリングを行ない、負担を軽減する対応をすでに開始しております。今後、これをよりスピーディに進められるよう社内プロセスを見直していく予定です。また、割戻金制度を全面的に廃止し、われわれが取引先の現場に入らさせていただきながら一緒にアイデアを出し合い、競争力を高めていきます。さらに開発費の別建て払いなど、台数の変動に伴う取引先の経済的負担を軽減する措置も充実してまいります」。
「一方で、当社の取引先は2000社を超えております。そのため、こうした取り組みが隅々まで行き届くまでどうしても時間がかかってしまう部分は正直ございます。しかし、当社は1社1社に真摯に向き合い、十分な協議を踏まえて対応してまいります。これらの取り組みにより、各社の事業環境、困りごとをしっかりと理解し、共に考え、共に解決策を考えていく。そうしたパートナーになっていきたいと考えております。今年4月には購買部門にコンプライアンス部門を立ち上げておりますが、今回の件を受け、さまざまな課題に網羅的に対応できる新組織を追加することで、さらなる体制強化も図ってまいります。重要なことは、取引先の困りごとを正しく理解し、速やかに対応していく、これだと思っております。
「その一環として、社長直轄の新たな組織を作り6月から活動を開始します。ポイントは2つあります。まず、法令違反の疑いなどがある場合に、その声を匿名でもお寄せいただけるようなホットラインを外部に設置します。さらに、物づくり部門ならびに関連部署の担当者からなるパートナーシップ改革推進室を新設します。このチームは積極的に取引先の元へ足を運び、いただいた声を速やかに社内にフィードバックします。各部署の通常窓口に加えて、新たに2つのルートを設けることで、取引先の状況把握であったり、法令順守の徹底をより一層図っていきたいと考えております」と説明した。
内田社長は最後に、「以上、すでに開始している取り組みと今後の計画についてご説明させていただきました。自動車業界がこれまでの経験のないスピードで大きく変化する中、今後の競争を勝ち抜いていくためには新経営計画『The Arc』の発表の際にも申し上げた通り、取引先の皆さまとともに新たな価値を創造し、互いに成長していくことが不可欠と考えております。そのためには、まずわれわれが率先して行動し、取引先と未来志向の関係を構築していくことが必要と考えております。必要なことは仕組みを作ることだけではなく、そこに血をしっかりと通わせていくこと。その先頭に立つのは、私をはじめとする経営陣です。強い責任感と覚悟を持って、今後、社内のプロセス、企業風土の改革を率先して進めていくことを今日この場で皆さまにお約束いたします」と述べ、説明を締めくくっている。