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ブリヂストン、第3世代「エアフリー」の自治体向け試乗会 グリーンスローモビリティ向けの“パンクしないタイヤ”を体験してみた

2024年10月24日 開催

走行中の第3世代「エアフリー」、タイヤの空洞部分が透けて見える

 ブリヂストンは10月24日、東京都小平市にあるブリヂストン 技術センターにおいて、空気のいらない「AirFree(エアフリー)」の説明会と試乗会を、グリーンスローモビリティ(グリスロ)を導入済か導入検討中の自治体向けに開催した。

メンテが減り、自動運転やグリーンスローモビリティに最適

ブリヂストン AirFree

 AirFreeはパンクをしないだけでなく、空気がないことで空気圧の管理も不要。ドライバーがいない自動運転車や、ボランティアドライバーが運転することの多いグリーンスローモビリティに対して「安心安全」「移動を止めない」「メンテナンス効率化」「サステナビリティ」といった価値を提供することができるという。

第3世代になったAirFree
歴代のAirFree
月面タイヤにも応用している

 現在、AirFreeは第3世代まで進化、2008年に登場した第1世代や2013年の第2世代とは違い、2024年に公道実証実験を開始するなど社会実装を見据えたものとなっている。対応車両も車重が1000kg程度、速度も最高60km/h程度を想定したものとなる。

 タイヤの構造としては、専用形状のアルミホイールに、熱可塑性樹脂の基本骨格、さらにゴムによるトレッドで構成する。熱可塑性樹脂は熱で溶かして再原料化ができ、トレッドは摩耗した場合にゴムを交換するリトレッドに対応するサステナブルデザインとなっている。骨格の樹脂部分は小型EVの場合、暫定的目標として10年程度使えることを想定している。

 公道実証実験を踏まえたタイヤのため、旧世代にはなかったタイヤサイズや耐荷重、製造年と週が通常のタイヤと同様に刻印され、タイヤの溝のスリップサインまで付けられている。

 また、実際に走行した場合の耐久性についても十分に実験を実施。たとえば空洞部分に石が詰まった場合でも走行時の骨格の変形で弾きだされること、寒冷地で骨格の空洞部分に雪が詰まって氷のようになってしまった場合でも、走行時の変形で氷が排出されるように考えられているという。

AirFreeのロードマップ、いよいよ公道実証試験へ
AirFreeのターゲット
AirFreeはサステナビリティを中核に
ミッションは地域社会のモビリティを支える。デザインコンセプトも当初から変化
サステナブルデザインを実現する技術
「Empowering Blue」の技術コンセプトから視認性のよい青を選んだ

 そのほか、グリーンスローモビリティの場合はボランティアドライバーが運転することもあり、縁石へタイヤを当ててしまうことや、段差や舗装道路損傷時にできる穴をそのまま通過してしまうことも想定されるが、すでに対策と試験済。通常の空気入りタイヤでは縁石に当てた場合にサイドウォール損傷でパンクすることもあるが、AirFreeでは空気が入ってないためパンクにはならずにそのまま使用でき、耐久性が高い一面もあるという。

 AirFreeの骨格の青は、視認性向上も狙った「Empowering Blue」の技術コンセプトのもと、明るい場所でも薄暗い場所や時間帯でも視認性がわるくならないよう色を選んだという。

 なお、ホイールとタイヤの合計の重量は通常のタイヤよりも重くなる傾向がある。今後、AirFreeをどのように販売し、AirFreeのリトレッドをどこで対応するかなどの体制はこれから検討することになるという。

素材はリサイクルしやすい熱可塑性のエラストマーを使った。右にあるサンプル樹脂は手で曲げられるほどしなやか

 ブリヂストンとAirFree事業について説明したブリヂストン 新モビリティビジネス推進部長の太田正樹氏は、ブリヂストンの歴史から解説し、AirFreeの今後について「モビリティの未来になくてはならない存在になる」とした。AirFreeの技術説明を行なったソリューション開発第2部長の岩淵芳典氏は「デジタルの仮想空間の中で、数多くの試作を繰り返して最適化したものを、リアルなものに落とし込んだ」と、あらゆる利用シーンを想定して開発したものだと強調した。

株式会社ブリヂストン 新モビリティビジネス推進部長 太田正樹氏
株式会社ブリヂストン ソリューション開発第2部長 岩淵芳典氏

自治体でのグリーンスローモビリティ

 今回は自治体向けの試乗会ではあるが、グリーンスローモビリティについては、東京大学公共政策大学院 交通・観光政策研究ユニット 特任准教授で、国土交通省出身の三重野真代氏から説明があった。

東京大学公共政策大学院 交通・観光政策研究ユニット 特任准教授 三重野真代氏

 グリーンスローモビリティとは三重野氏が命名し「20km/h未満で公道を走ることができ、電動車を活用した小さな移動サービス」だという。これまでの移動スタイルは大量輸送機関だったものから、グリーンスローモビリティでは少量輸送機関になり、地域内短距離移動の手段として利用される。

 徒歩とクルマの間の選択肢としており、速度を遅く設定しているため景色を楽しむことも容易で、比較的高齢のボランティアドライバーが運転することも容易になる。グリーンスローモビリティはEVであるため、静か、匂いがない。空気が清潔といったメリットもある。

グリーンスローモビリティの例
移動スタイルが時代で変化
グリーンスローモビリティの価値
グリーンスローモビリティから見るAirFreeへの期待

 今回のAirFreeについて三重野氏は、パンクレスという点が山間部や離島など道路状況が整っていない場所での活用が期待されるとしたほか、サステナビリティにも期待しているとした。

 なお、グリーンスローモビリティに利用する車両は、ヤマハ発動機の電動カートの公道仕様や、タジマモーターコーポレーションのNAO/NAO2、シンクトゥギャザーのeCOM-10などがある。ドライバーはボランティアドライバーによる運転で無償で運行しているところもあれば、道路交通法にある自家用有償旅客運送の規定によって二種免許なしのドライバーによる有料の運行を行なっているところもある。

AirFreeに試乗、違いは感じるが違和感や不快感はない

 今回の試乗はブリヂストンのテストコース。AirFreeが想定した車重や速度は、グリーンスローモビリティや小型の自動運転車に合致しているが、今回の試乗会で使われた車両はハッチバックタイプの軽自動車であるスバル「プレオプラス」。車重はおよそ650kgと、電動カートタイプのグリーンスローモビリティに近いものとなっている。

試乗はブリヂストンのテストコースで実施、最高50km/hまで速度を出した

 試乗はコースを2周。最高50km/hで走行するとともに、少しざらざらした路面を走ったり、カーブを体験したりした。試乗した自治体関係者などからは通常のタイヤと変わらないといった声が聞かれた。

視認性の高い青のタイヤが目立つ

 実際に筆者がハンドルを握ると、違和感や不快感は感じないというのが第一印象。細かく見ていけば、空気の入ったタイヤであれば吸収する非常に細かい凹凸を拾い、コーナーや制動時にタイヤに荷重をかけたとき、空気入りタイヤの変形とは違った独特のコシある感触があり、樹脂骨格の変形でゴムが擦れるような音が聞こえる。

 そして、トレッドのショルダーが角ばっていることもあり、ステアリングの反応が良いようにも感じた。

試乗車と展示車に装着しているAirFreeは最新版で、専用ホイールにはボルトが見え、タイヤをボルトで止めている
タイヤサイズは535×115N305 66Lとなり、トレッド幅は115mmと細い。スリップサインも見える
室内展示されたAirFreeは別バージョン。ホイール部分にボルトが見えずサイズも535×115N305 67Lとなる

 ただし、細かい凹凸の振動はさほど気になるものではなく、音も窓を閉めれば分からない。タイヤの感触も違和感を感じるものではない。特にグリーンスローモビリティの20km/h未満という速度であれば、違いも感じられないと考えられる。

AirFreeを装着して展示車したクルマは試乗車とブランド違い同型車、ダイハツ・ミライース
「Empowering Blue」のタイヤが映える

 縁石に擦ったり、大きな段差を乗り越えるといった試験はできなかったが、説明どおりの耐久性があるとすれば、空気入りタイヤとの違いよりも、パンクレスといったAirFreeのメリットだけが際立ってくると思われる。

試乗会には富山市、滋賀県東近江市、群馬県みなかみ町、東京都杉並区の4つの自治体が参加した