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アストンマーティン初のPHEVスーパーカー「ヴァルハラ」特注オーダープログラムを体験してみた! 果たしてお値段は
2025年5月19日 18:55
アストンマーティンが、初の量産ミッドエンジンPHEVスーパーカーとして開発を続けてきたのが「Valhalla(ヴァルハラ)」で、先ごろ東京・青山のブランドセンターで限定999台が生産される予定の最終プロトタイプが報道陣に公開された。
PHEVスーパーカー「ヴァルハラ」とは?
ファラーリやマクラーレンに対抗すべく登場したヴァルハラの開発期間は長く、2019年のジュネーブショーで公開されたコードネーム「AM-RB 003」が最初のコンセプトモデルで、“AM”はアストンマーティン、“RB”はレッドブルの頭文字だ。
ボディはレッドブルF1チームのテクニカルディレクターだったエイドリアン・ニューエイ氏の空力設計を取り入れており、社内開発した「TM01」型の3.0リッターV6ターボハイブリッドを搭載していた。
正式名称が、北欧神話の「戦士の楽園」を意味する「ヴァルハラ」に決定するとともに、2021年には搭載するパワートレーンがメルセデスAMG製をベースにした4.0リッターV8ツインターボエンジン&前後2基のモーターを搭載するハイブリッドシステムに変更された。
ちなみにコードネームのAM-RB 001は、アストンの究極のハイパーカーである「Valkyrie(バルキリー)」で、002はそのサーキット専用トラックバージョン。ヴァルハラはAM-RBの3番目となるモデルで、公開されたモデルのサイドパネルには「03」の数字が書かれている。
開発に時間がかかった理由としては、2020年にF1チームを所有するローレンス・ストロール氏が筆頭株主となって経営方針が一新したことが大きい。収益性確保やブランド再構築のため、高コストの自社エンジン開発の中止、レッドブルからアストン単独での空力設計への変更、カーボン技術やハイブリッドシステムなど新たに登場した最先端技術の実装、パンデミックの影響など、数々の要因が挙げられる。しかしそれを乗り越えてお披露目された最新モデルは、それゆえに完成度が非常に高いものに仕上がった。
搭載するPHEVのパワートレーンは、828PSを発生するフラットプレーンクランク(高出力と好排気音が得られる)のV型8気筒4.0リッターツインターボエンジンと、251PSを発生する3基のモーターを組み合わせたもので、フロントアクスルに搭載した2基のモーターによりトルクベクタリングやリバース、トルクフィル、EV専用モード、回生ブレーキを実現。最高出力1079PS、最大トルク1100Nmは8速DCTと電子制御リアディファレンシャルを介して路面に伝えられ、0-100km/h加速2.5秒、最高速度350km/hを達成するという。
ヴァルハラのパーソナライズを体験
ヴァルハラの発表会が行なわれた数日後、筆者は再び青山のブランドセンターを訪れた。チーフクリエイティブオフィサーのマレク・ライヒマン氏が来日しており、彼のインタビューを行なうという話だった。そして到着して握手を交わすと早速、「では私と一緒に、ヴァルハラを1台作ってみましょうか」というではないか!
つまり、アストンマーティンのオーダープロセスである「Q by Aston Martin(キュー バイ アストンマーティン)」と呼ばれる専門のビスポーク部門で、エクステリアとインテリアのカラー・素材を決めるというパーソナライゼーションの過程を体験し、自分だけのヴァルハラを1台制作するということ。
しかも1対1でライヒマンさんのサジェスチョンを得つつというのだから、こんな貴重なイベントを断る理由はない。スタイルとしては、店内にある大型スクリーンを前にライヒマンさんと私が座り、反対側に座るヘッド・オブ・Qのサム・ベネッツ氏がオーダーに応じて画面にそれを反映していくというものだ。
スタートは、ボディのベースカラーの決定だ。アストンといえば、ショーンコネリーのジェームス・ボンドが駆るDB5のシルバーバーチボディが頭に浮かんだのだが、ライヒマンさんからは、「それは説明のしようがないよね。でも、同じシルバーでもおすすめはこれですよ」と紹介されたのが「Spectral Silver(スペクトラルシルバー)」で、水面に浮かぶ石油の膜のように、見る角度や光線状態によって、ブルーだったりグリーンだったり、パープルだったりに輝くというもの。「ちょっと高いけれども、お持ちのアップル・ペイでも払えるからね」と笑う。またアストンのバッヂも通常ものではなく、40ミクロンの薄い塗装膜の中に描きこまれたタイプのものにして、軽量化を行なった。
続いてアクセントカラーやカーボンファイバーの種類、グリルやホイールなど、画面上で試しながらをどんどん選んでいく。そしてインテリアは、「エクステリアから想像できるものではなく、ちょっとハッとするようなカラーがいいね」ということで、鮮やかなブルーの「Cote d’ Azure Blue」をベースにした内装で仕上げることにした。
画面だけでなく、目の前には選んだカラーで塗装した模型や、レザーやステッチの見本が並べられるので、両方を見ながら選んでいく作業はとても楽しい。1時間ほどかけて作り上げたのが、写真のもの。さらに画面上では、完成した車両を、たとえば海辺を走らせたりアストンF1チームのピット内に置いてみたり、いろんな天候の中に配したりすることができるので、この時点でかなりリアルな仕上がりが伝わってくるのだ。
「アストンマーティンのお客さまは、実車を走らせるだけでなく、こうした買う前のストーリーも楽しんでいるのです。さらにスペシャルカラーで塗った場合には自分だけの世界に1台だけのクルマに仕上げたいので、“同じものを絶対に作らない”という誓約書を書かされる場合もあります。今日のデータや価格は後日お知らせしますので、今これでオーダーをいただければ、2026年の第3四半期には納車できると思います」とのことだった。
“月の石”を砕いて塗装に!
自分のセンスが問われるというヒヤ汗をかきながらの作業を終えて、ライヒマンさんに話を聞くことができた。
まず驚くようなカラーを選んだお客さまはいましたか? という質問に対しては、「ピンクやパープルなどを選ばれる方もいらっしゃいましたが、色で驚くことはありません。ただ、ヴァルハラでなくヴァルキリーでしたが、月の石(購入できるというだけでも驚き。アポロが持ち帰ったものではなく、隕石として飛んできたものらしい)を砕いて塗装にしてくれというオーダーがあったのには驚きました」とのこと。
次に、手描き時代とデジタル時代のカーデザインの違いについて聞いたところ、「私が考えるに、デザイナーというのは自分の頭の中、つまり脳の中にAIを持っている人ではないかと思います。通常のAIは、既存のアイデアやカタチをアルゴリズムを使って色々シミュレーションしてアウトプットしてくるというもので、それは予想された未来がそのまま出てくるというものになります。一方、脳の中のAIは、その予想を超えたもの、非常にランダムで、センセーショナルで、アーティストらしいものを導き出します。そこが重要なところで、人が脳を使って紙に書き出すのは美しさであり、個性であり、ユニークなものを表現できると思っていて、想像を超えたものが出てくる。その一例が今回のヴァルハラだと思っています」。
「また、日本という国は非常に先進技術があるとともに、文化のある国ですね。折り紙一つとっても、シンプルで美しく、世界で称賛されている。実は数年前に着物を作っていただいたのですが、素材の選び方とかデザインなど、本当に細かいところまでこだわる。そのフィーリングやセンセーションというのは、AIでは絶対に出てこないものだと思っています」とのこと。先のヴァルハラの制作過程も、それに似たようなところがあるのかもしれない。
最後に聞いたのは、F1との関係。「アストンマーティンF1は、巨大な風洞施設を持つファクトリーの稼働を開始しており、まだまだ強くなる要素をたくさん持つことになります。それらの要素は、ヴァルハラをはじめ、次世代の製品に影響を与えることになります。そして最後に一言、『フェラーリ、気をつけろよ』と申し上げたい。サンキュー」と話を締め括った。
完成した自分だけの「ヴァルハラ」は総額約1億6000万円
さて、1週間ほど経ってベネッツさんから届いたのが「VALHALLA Personal specification for Mr Akira」の各データと価格。お値段はabout 160,000,000 JPY(約1億6000万円)となっていた。ベースの車両価格が1億2890万円だったので、1時間ほどのオプション設定で、約3000万円を使ったことになる。仕上がりは自分でもなかなか、と思っているのだが、みなさんいかがでしょう。