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トヨタ「液体水素カローラ」、電気抵抗ゼロの超電導モーター導入 京都大学の超電導モーターの仕組みを紹介

トヨタ自動車の液体水素カローラに採用された「京大方式超電導モータ」

スーパー耐久最終戦富士で世界初公開された、超電導モーター搭載の液体水素カローラ

 スーパー耐久最終戦富士で公開されたトヨタの超電導技術採用の液体水素カローラが大きな話題となっている。トヨタは2021年4月23日に水素を燃焼させて走行する水素エンジン(H2ICE[Hydrogen 2 Internal Combustion Engine]とも呼ばれる)車両の開発を「トヨタ、モータースポーツを通じた『水素エンジン』技術開発に挑戦」として公表。当時、バッテリEV一辺倒であったメディアや業界の流れに「私たちのゴールはカーボンニュートラルであり、その道は1つではない」(豊田章男社長、当時)と語り、大きな一石を投じた。

 当時、無謀な挑戦と受け取られた水素燃焼エンジンによる富士24時間レース挑戦は、さまざまトラブルを発生しつつも完走。水素を燃焼させて走るためカーボンニュートラルエネルギー車になる水素エンジン車両の可能性を知らしめるとともに、当時厳しい状況に追い込まれていたエンジン関連技術の有用性をアピール。「エンジンを今否定されてしまうと100万人の雇用が失われてしまう。550万人中の100万人です」(豊田章男自工会会長として発言、当時)と、内燃機関技術に携わる人々の価値を再認識させた。

電気抵抗がゼロになる、超電導の世界

 このときの水素カローラは、FCEV(燃料電池車)である「MIRAI(ミライ)」の技術をフル活用。ミライの70MPaの高圧気体水素タンクを転用し、その圧力を利用して直噴エンジンであるG16E-GTS型エンジンへの水素燃料供給を、デンソー製の水素インジェクターに変更するなどして成立させていた。

 高圧気体水素タンクは市販化もされていることから分かるように、ある意味技術的に確立したものであり、その技術を利用して水素燃焼技術を高めていった。

 そして、2年間にわたって水素燃焼技術を高めた後に投入されたのが、燃料の液体水素化。高圧気体水素から-253℃の常圧液体水素とすることで、ネックだった燃料の搭載性を改善するチャレンジを始めた。

 理論的には、気体水素に対して-253℃の液体水素は体積が1/800になる。しかしながら、70MPaの高圧気体水素は体積が圧縮されており、液体水素とすることでの搭載量は理論的に1.7倍。燃料タンクには魔法瓶方式の真空二重槽が必要となることから、そのままでは若干の改善にとどまる。

 しかしながら、高圧の気体水素では円柱形状が必要であったのに対し、常圧の液体水素では燃料タンクの自由度を高めることができる。実際、トヨタは燃料タンクを楕円化することで容量をアップ。高圧気体水素が7.3kgであったのに対し、常圧液体水素円柱タンクが10kg、常圧液体水素楕円柱タンクが15kgと、水素燃料搭載量を倍増している。

 この液体水素化によって必要となった部品モジュールが燃料ポンプとなる。液体のガソリンを扱うガソリン車にも装備されている枯れた技術であるが、液体水素カローラでは直噴エンジンへ向けての昇圧もこのポンプで行なっている。そのためトヨタの車載液体水素システムでの名前は「液化水素昇圧ポンプ」となっている。

 このポンプは液体水素の場合においては-253℃の極低温化で、さらに油脂類は一切使えない状況下での動作が必要になる。そのため、ポンプの寿命が圧倒的に短くなり、初期の液体水素カローラでは3時間ほどとなっていた。そのため、24時間レースではポンプ交換が発生。その際には、液体水素を燃料タンクから抜いておく必要があるため、(ポンプもでかいし)とても簡単なものではなかった。

車載用液体水素システム

-253℃の液体水素を使う液体水素カローラだからこそ採用できる超電導モーター

水素カローラに搭載した超電導モーターの技術解説を行なう京都大学 大学院 工学研究科 特定教授 中村武恒博士
超電導技術のうれしさ

 今回、超電導モーターが採用されたのは、この電動ポンプ部になる。前提条件としては、-253℃という極低温環境がタンク内にあることというのがあり、電動ポンプを液体水素づけにすることで、電気抵抗ゼロという超電導がおきる条件がそろう。

 超伝導現象は極低温環境下でおきる現象で、電気抵抗ゼロのほか、磁力線遮断のマイスナー効果もおこり、そのため強力な磁力が必要なMRI(Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴画像法)でも利用されている。現在試験が進むJR東海のリニアモーターカーでも使われており、富士スピードウェイ帰りの三島駅でも超伝導現象を説明する映像が流れている。

 絶対零度は分子運動の止まる温度として知られており、-273.15℃(0K[ケルビン])。当初、超電導現象は液体ヘリウムの温度である-269℃の環境下で観測され、さまざまな研究が進んだ。その一つに超電導現象がおきる温度をなるべく上げるというものがあり、現在は液体窒素の温度である-196℃でも超電導現象がおきる物質が実用化されている。

 であるなら、-253℃の液体水素の環境下では超電導モーターの導入はトヨタの視野に当初から入っており、2024年の富士24時間では超電導モーター技術のパネル展示が行なわれていた。京都大学、東京大学、早稲田大学とそれぞれ共同研究を行なっており、今回のスーパー耐久最終戦富士では、どのような超電導モーターが導入されるのかが気にはなっていた。

 今回、搭載されていた超電導モーターは、京都大学 大学院 工学研究科 特定教授 中村武恒博士とともに開発していた「京大方式超電導モータ」であることがスーパー耐久最終戦富士で明らかにされた。

 搭載方法は、液体水素燃料タンク内部に落とし込む方式で、液体水素燃料が走行によって減ってきても、なるべく影響の小さい底部に配置されている。実際の配置状況を見ることはできなかったが、トヨタ 水素エンジンプロジェクト統括 主査 伊東直昭氏によると、「この辺りです」と液体水素燃料タンク外装下部を指し示してくれた。

超電導モーター搭載の液体水素カローラ。完成度が高すぎて普通のGRカローラにしか見えない
しかし、リアハッチをあけるとこんな具合に、なんだか分からない機械が山積みになっている。左上が水素充填コネクタ、右のパイプがボイルオフ用ガイド、そして各種の水素配管
近くにいたトヨタ自動車株式会社 水素エンジンプロジェクト統括 主査 伊東直昭氏に超電導モーターの位置を聞いてみたら、「ここです!」とのこと。この奥に超電導モーターが入っているらしい。「見える化希望」
トヨタ自動車株式会社 水素エンジンプロジェクト統括 主査 伊東直昭氏。水素車両開発を主導する。GRカートも伊東さんが開発担当

 トヨタは加圧ポンプの方式にピストン式を採用している。これは、トヨタはピストン式の内燃機関を内製する(ほとんどの自動車用内燃機関はピストン式)メーカーであり、シリンダーやピストン、ピストンリングに関するノウハウを多く持っているためだろう。油脂類を一切使わないという極端な環境下(かつ極低温による、素材収縮もある)では、どれだけ技術を開発していけるかがポイントとなるため、まずはピストン式から手を付けたものと思われる。

 そのため、トヨタが公開した液体水素内の超電導モーター配置図では、超電導モーター下部にピストンポンプが配置されているなど、液体水素の送り出しには有利だが、超電導環境を維持する燃料の液面変化に不利な構造となっていた。この辺りは、どの形が有利なのか、どの配置が有利なのか、液体水素づけにするのに適した形や形式が探られていくものと思われる。

シンプルでロバスト性の高い「京大式超電導モータ」

超電導モーターの特性。グラフ数値はすべて液体窒素環境下、液体水素環境下ではさらに改善する

 中村武恒教授は、京都大学が開発した超電導モーターは、シンプルな点が特長だという。超電動モーターの効率も99.5%超あり、わずか0.3秒で所定の同期回転数に達する。さらに出力も3.7kWのものが超電導環境下では41kW超と10倍以上の出力を発生する。コンパクトな外形のモーターが、通常の10倍以上の出力を発生していることになる。

 また、フェールセーフ性にも優れるという。超電導モーターでは、電気抵抗が極端に低いため、通常の環境下では流せない量の電流が流れている。超電導環境が崩れた際も、出力が下がるだけだという。つまり、前述の例で言えば、41kW超と10倍以上の出力を出していた超電導モーターは、超電導環境が崩れた場合想定を超える電流によって破壊されるのではなく3.7kWのモーターとして動くという。非超電導状態下でも動くモーターとなっている。

 中村武恒教授はさまざまなグラフで、京都大学が開発した超電導モーターの優れた特性を示してくれたが、実はこれは液体窒素の環境下(-196℃)で計測した特性だという。「(-253℃の)液体水素だと、もっと特性がよいですよ」と語り、液体水素カローラが持つ優れた低温環境がうれしい様子。

トヨタと京都大学が共同開発した超電導モーター

 以前、中村武恒教授と富士スピードウェイでお話した際は、「研究室で開発した技術の出口があるのがうれしい」と語っており、研究室レベルで磨き上げてきたものが、多くの車両に採用される可能性が見えてきたことを歓迎していた。

 今回、超電導モーター搭載の水素カローラはレースを走らず、報道陣向けにテストランを見せたのみに終わった。この理由として中村武恒教授は、水素カローラではスロットル状態によってモーターの回転数を頻繁に変化するため、その辺りの配線強度対応を行なっている最中だという。航空機のような一定回転での使用は問題ないが、小型車両である乗用車、ましてレース車両で発生するG(重力加速度)やスロットル変化への信頼性を確保している最中になる。

 この超電導モーター搭載の水素カローラだが、最近はトヨタの液体水素パッケージ技術が向上してきたせいか、白い煙がもくもく出るなどの見た目の派手さはゼロ。特殊車両感がまったく感じられないものとなっている。

 それはそれで実用車に近づいているということで歓迎すべきことだが、外見から見て「おお、すげぇ」と思わせる部分が少なくなっている。この超電導モーター搭載水素カローラのデビューは2026年の富士24時間レースを予定しているが、その際はボディ側面に自発光式で電気抵抗値やモーターの出力、回転数が出るなど、「おお、すげぇ」と思わせることのできる「見える化」を期待したい。

 モーター用の配線も行なわれていることから、カメラユニットを沈めて液体水素の状態を映像で送ってもらうのもありかもしれない(と書くのは簡単だが、実現はとても大変ですね)。と、勝手な期待が高まってしまう、ワクワクする技術開発である。

 液体水素燃料に超電導モーターなど、技術レベルでは世界の最先端どころか、それを突き抜けた誰もまねのできないエリアでの開発となっている。であるだけに、それを多くの人に分かりやすく「見える化」することは水素社会の支持を得ていくためには必要なことであるだろう。

 なお、トヨタとしては「一緒に技術チャレンジしていただける“仲間”を募集中」とのこと。世界の最先端技術開発にチャレンジしたい方は、トヨタに問い合わせてみていただきたい。

技術チャレンジと課題。「一緒に技術チャレンジしていただける“仲間”を募集中」