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JSAE企画講演「AI単体では勝てず“強みのある産業+AI”こそが日本の勝ち筋」と経産省の渡辺琢也氏

2026年5月27日~29日 開催
入場無料(事前来場登録制)
経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 兼 情報産業課AI産業戦略室/情報技術利用促進課長 兼 情報産業課AI産業戦略室長の渡辺琢也氏

 2026年5月27日、パシフィコ横浜で開幕した「人とくるまのテクノロジー展 2026」。その初日のJSAE企画講演において、経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 兼 情報産業課AI産業戦略室/情報技術利用促進課長 兼 情報産業課AI産業戦略室長の渡辺琢也氏が登壇し「経済産業省のAI政策の動向と展望」という講演を行なった。

 渡辺氏は、生成AIがもたらす「情報処理の自動化」という革命的変化と、日本が直面する人口減少問題を背景に、今なぜAI実装が「待ったなし」なのかを語り、「ビジネスプロセスの再設計」「フィジカルAIへの注力」といったポイントを説明した。

JSAE企画講演「経済産業省のAI政策の動向と展望」

人口減少社会における「AI実装」は生存戦略

 渡辺氏は冒頭、現在の状況を「インターネット以来の革命期」と位置づけた。生成AIは、人間が事細かにプログラミングせずとも、学習を通じて情報処理を自動化する技術であり、あらゆる業務の全自動化を可能にするポテンシャルを秘めている。

日本では生成AIの利活用が進んでいない

 日本にとってAIが不可欠な理由は、深刻な労働人口の減少にある。渡辺氏は生産労働人口が「現在より2040年には今より2割減ると推計されている。移民政策を取らない限りこの流れは変えられない」と指摘。この状況下で経済成長を維持し、エッセンシャルサービスを守るためには、1人当たりの生産性を劇的に向上させる必要があり、AIの活用は「待ったなし」と強調した。

 一方で、渡辺氏は「デジタル赤字」の問題にも警鐘を鳴らす。海外製のAIツールに過度に依存することは、富の流出(デジタル赤字)を招き、その規模はすでに原油の輸入量を上回る勢いで進展しているという。サイバー空間だけでなく、日本の強みであるものづくり(フィジカル空間)まで海外勢に握られることは、産業の根幹を揺るがしかねない。そのため、AIを「使う」だけでなく、「国産AIだけを使えというつもりは毛頭ない」と前置きするも国内で作る力を持つことの重要性を訴えた。

日本のAI法は、規制でなく推進の法律

 そして、日本で2025年にできたAIに関する法律「AI法(人工知能関連技術の研究開発および活用の推進に関する法律)」についても触れた。世界のAI政策を比較すると、EUは厳しい「規制法」となっているが、アメリカは州レベルでの法整備はあるものの、連邦レベルでは制約が少ない状況にある。対して日本は“推進法”なので規制ではなく、イノベーションとリスク対応の両立を目指すものであり、罰則を設けない緩やかな枠組みでAI開発・活用を加速させる方針であると説明した。

人工知能基本計画

AIに一部のフローをまかせるのではなく、業務プロセス自体の再設計が必須

 AI導入を成功させるための鍵として渡辺氏が執拗に訴えたのが、「業務プロセスの再設計(リデザイン)」である。

AIを前提とした業務プロセス等の再設計が必要に

 「日本は人に優しい国なので、デジタル技術を人に合わせようとしがちだが、それをやっている限りAIの破壊力は使えない」と述べ、AIを組織に組み込む際、これまでのように人間中心のフローをそのままにAIを一部に当てはめるのではなく、AIの特性を最大限に活かすために業務そのものを根底から変える必要があるとした。

 その例として挙げられたのが、中国のファッション企業「SHEIN(シーイン)」の事例。同社はSNS上の顧客の苦情やニーズをAIが即座に判断し、デザイナーや製造現場へダイレクトに指示を出すサイクルを構築している。従来、人間が会議を重ねて行なっていた意思決定プロセスをAIが代替し、高速で商品改善を回すことで競争力を生んでいる。

 渡辺氏は「AIは学習し続けることで、いつか人間を超える『人間より賢い道具』になる」とし、その賢いAIを前提とした責任のあり方や業務分担を定義すること、そして何よりトップダウンでのトランスフォーメーションが必要だと説いた。

日本の勝ち筋は「強みのある産業 + AI」――フィジカルAIへの期待

 講演の中で最も強調された点のひとつが、日本がグローバルで勝てる領域としての「フィジカルAI」。渡辺氏は「AI単体でグローバル競争力を持つことは非常に難しい」と述べ、自動車や産業機械といった「世界に誇る日本の強い産業+AI」という掛け合わせこそが、日本の生きる道だとした。

フィジカルAIの重要性

 特に、センサーや触覚を通じて物理空間を理解・制御する「フィジカルAI」の領域は、日本が国際競争力を確保しなければならない最重要領域として、自動車はまさに「ロボットの連なり」であり、この領域で負けることは「日本は何で飯を食っていくのかという状況になりかねない」と警鐘を鳴らした。

 そして、フィジカルAIを支援するため、経済産業省では、計算資源(GPU)の確保やデータセット構築を支援するプログラムの「GENIAC」や、現場の「暗黙知」をAIが学習可能なデータに構造化する手法の研究開発や、組織を超えたデータ共有プラットフォームの構築を支援する「AIレディ化」、社会課題解決のための懸賞金付きのAIアプリ開発コンテスト「GENI Prize」を政策で展開する。

GENIACの概要
AIレディ化の必要性

 さらに、経済産業省は「AIロボティックス戦略」を策定し、2040年に60兆円規模に成長すると予測される多用途ロボット市場において、その3分の1である20兆円の獲得を目標に掲げている。渡辺氏は、AIを実装するハードウェアや中核ソフトウェアの確保、そして需要サイドとのマッチングを加速させる考えを示した。

AIロボティックス戦略の概要

全員がAI人材になり、全社がAI企業に

 講演の最後には、渡辺氏は経営層やマネジメント層に対し強いメッセージを送った。AIは導入直後こそ「新入社員」のような存在だが、適切なデータパイプラインで学習させれば「疲れを知らず、どんどん賢くなる」成長サイクルを高速で回せる組織文化があるかどうかが、企業の将来を左右するという。

「今はまだ本当に始まって間もないので、あまり差が出てきていないかもしれませんが、5年後、10年後、本当に怖いなと」と渡辺氏は述べ、欧米企業との競争力の差が決定的なものになる前に、トップダウンでのトランスフォーメーションを決断するよう促した

 最後に、「全員がAI人材になり、全社がAI企業になりましょう」と話し、講演を締めくくった。

全員がAI人材になり、全社がAI企業になりましょう!と講演を締めくくった渡辺氏