インプレッション

2016 ワークスチューニンググループ 合同試乗会(無限編)

「無限(M-TEC)」「NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)」「TRD(トヨタテクノクラフト)」「STI(スバルテクニカインターナショナル)」という4社の合同グループ活動である「ワークスチューニンググループ」。

 日ごろのモータースポーツシーンではライバルとして切磋琢磨しているが、アフターマーケットでは競合しないとのことから、お互いのレベルアップと効率化を図ろうと、1993年より合同で活動している。

 その目的はモータースポーツとスポーツドライビングの振興にあり、一般ユーザー向けのサーキット走行会なども実施している。また、1年ぶりに舞台を伊豆の日本サイクルスポーツセンターに移して開催された報道向け試乗会もその活動の一環である。

 無限が今回の試乗会に持ち込んだのは、750台が期間限定で販売されたあいだに商談の申し込みが限定数の10倍以上あったという「シビック TYPE R」に、無限製パーツをフル装着した車両と、5月末に発表された限定660台が用意される無限のコンプリートカー第3弾となる「S660 MUGEN RA」という2台である。

試乗前に無限の各担当者から「シビック TYPE R」「S660 MUGEN RA」についての解説を受ける筆者

シビック TYPE R 無限パーツ装着車

 シビック TYPE Rは“ツルシ”のままでも文句のない走りを実現したクルマだと感じていたところ、無限では「ダイナミックパフォーマンス」をコンセプトに、さらに多岐にわたって手を入れている。

シビック TYPE R 無限パーツ装着車

 足まわりは完成度の高いノーマルの電子制御サスペンションをそのまま生かしており、タイヤもOEM品を履いているが、アルミホイールは無限製となり、スポーク側面の切削加工などによって大幅な軽量化を図っている。そして、風洞実験を重ねて完成したという各種エアロパーツが効いて、ノーマルでもかなりのものと感じた路面への追従性がさらに高まっている。空力を極めるとこんなにもなることに驚いた。

 エキゾーストシステムはテールパイプをチタン製とした無限製に換装。新しいTYPE Rのエンジンにはついにターボが採用されたわけだが、ニュアンスとしては、かつての自然吸気エンジンを搭載していたTYPE Rのような軽快な走り味を目指したとのことで、まさしくその感覚を楽しむことができた。レスポンス遅れを感じさせることなく、軽やかに吹け上がるさまは痛快そのものだ。

標準装備のバンパーと入れ替える「フロントエアロバンパー」はリップ形状の最適化でダウンフォースを増加させ、軽量化と合わせて回頭性を向上。左側ヘッドライト下に「TYPE R」のバッヂを装着しているのも個性的
標準品のアルミホイールから約3kg/本の軽量化を実現する専用設計の切削鍛造ホイール「MFC」
角度調整が可能なGFRP製「リアウイング」。前後のエアロバンパーやディフューザーもダウンフォース量に合わせてバランスを最適化する
純正リアバンパーと交換装着する「リアエアロバンパー&リアディフューザー」
手作業のTIG溶接で生産し、スムーズな排気を実現する「スポーツエキゾーストシステム」。センターパイプをステンレス、テールパイプをチタンとして軽量化も手に入れる

 ホールド性を高めたセミバケットシートはスポーツドライビングにも十分に応えてくれるもので、それでいで乗り降りもしやすい。“FF量産車最速”を誇るパフォーマンスをさらに高めた、スペシャル感満点の走りを楽しませてくれる仕上がりであった。

シートはフルカーボン製ボディシェルで軽量化と剛性を両立させたフルバケットシート「MS-R」(写真)のほか、セミバケットシートの「MS-Z」をラインアップ。どちらもショルダー部分に“無限カラー”のアクセントが施される
アルミニウム素材に本革を組み合わせた「レザーシフトノブ」。写真のレッドのほか、レッドステッチを施したブラックの2タイプを用意

S660 MUGEN RA

 続いて、もう1台の「S660 MUGEN RA」。車名の「RA」は、レーシングスピリットの「R」と、アルファベットの最初の文字である「A」を組み合わせたもの。その意味するところは、過去の2台(2007年に発売した「CIVIC MUGEN RR」、2012年に発売した「CR-Z MUGEN RZ」)ではベース車にフルに手を入れて「これ以上はなにもやることはない」と言えるレベルまで無限が仕上げ、まさしくコンプリートカーとして販売したのに対し、このRAは性格が異なり、この車両をベースに、手にしたオーナーがさらにカスタマイズを楽しむ余地を残す方向でまとめられている。

 ゆえに、外装パーツについては無限のコンプリートカーの証であるドライカーボン製フロントグリルこそあれ、あえてエアロパーツを装着してない。ただ、外からは見えない部分については非常にていねいに作り込まれている。

S660 MUGEN RA。価格は6速MT、CVTともに289万円
外装では無限のコンプリートカーのアイデンティティとなっているドライカーボン製のフロントグリルと、リアバンパーの専用バッヂ装着が主な変更点。フロントグリルはカーボンの編み目を中央部分から放射状に広がっていくよう仕上げている
BBS製の切削鍛造アルミホイールは、前後セットで純正品から約5.8㎏の軽量化を果たす。ビルシュタイン製の車高調整式サスペンションは、純正状態から+10mm~-25mmの幅で車高を調整可能
つや消しブラック塗装のオリジナルフィニッシャーを採用。オールステンレス製となる

 赤を基調としたコクピットには本革のカラーシートを採用。ステアリングホイールやシフトノブも専用品が与えられる。とてもハイグレードに仕立てられていることが写真からも伝わることだろう。これだけでもけっこうお金がかかっていそうなところだが、さらには足まわりに、無限としては初めてとなるビルシュタインの単筒倒立式の車高調を採用していることにも要注目だ。

 これに、大幅な軽量化を図ったBBS製の鍛造アルミホイールを組み合わせる。ステアリングフィールには、しっかりかつしっとりとした手応えがあり、サスペンションがしなやかにストロークして路面の凹凸をなめるようにいなしてくれる。

大きなコスト増にはなるが、ユーザー個人では変更がしにくく、車内のイメージを大きく変更する部分ということでレッドカラーの本革製専用シートを開発
0時部分に“無限カラー”のレザーを配する本革巻ステアリング
メーターパネル中央のデジタルスピードメーターにも無限ロゴを表示
通常はメーカーオプションの「センターディスプレイ(スマートフォン連携ナビ対応オーディオ)」を標準装備
カーボンシフトノブ(写真)は6速MT車専用。CVT車では専用かラーステッチの本革巻セレクトレバーとなる
オプション品(1万7280円)の専用スポーツマット

 S660 MUGEN RAはスポーティであることに加え、とても上質なドライブフィールに仕上がっていた。この充実した内容で、価格は289万円と300万円を下まわっているのだからさらに驚く。限定の660台は7月中旬時点で残り70台を切ったとのこと。9月30日18時の受付期間終了を待つことなく、早期に完売となってしまうのではないだろうか。

【お詫びと訂正】記事初出時、S660 MUGEN RAのホイールの軽量化に関する記述が間違っておりました。正しくは1台分セットで約5.8㎏の軽量化になります。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一