試乗レポート

ポルシェ、バッテリEV「タイカン4クロスツーリスモ」の質感が高いシャシーワークに感服

タイカンのCUVモデルとなるタイカン4クロスツーリスモを試乗した

男も惚れる、イケメンっぷり!

 ポルシェ初の量産BEV(バッテリ電気自動車)である「タイカン」。そのルーフ&ハッチを延長した「タイカン4クロスツーリスモ」を眺め、久々に超美形なエステートが登場したな! と胸が躍った。

 もっともポルシェはこのクロスツーリスモを、タイカンよりも20cmほど車高を上げることによって、エステートやワゴンではなく「CUV(クロスオーバー・ユーティリティ・ビークル)」と呼んでいるようだが。

見てください。このイケメンっぷりを!(あ、クルマのほうですよ)

 そんなタイカン4クロスツーリスモの完成されたイケメンっぷりは、BEVだからこそ実現できた。フロントセクションにエンジンを積まないBEVだからこそ、これだけ低く構えた(車高は高いが)ノーズが得られ、美形のエステート……もといCUVとなったのである。

 ちなみにポルシェはタイカンを「電動スポーツカー」と呼んでおり、実際走らせるとその言葉に間違いがないことを思い知らされる。しかし、そのロングホイルベースな4ドアボディをノッチバックしたスタイルは、どちらかといえばサルーンであり、実はかなり落ち着いたルックスである。

 対してタイカン4クロスツーリスモは、そのCUVスタイルが断然若々しい。そして大容量バッテリを積むためのロングホイルベースが、間延びせず理にかなって見える。

ボディサイズは4974×1967×1409mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2904mm。空車重量は2245kg(DIN規格値)、最大積載量640kg、最大ルーフ積載量75kg
最高出力は280kW(380PS)だが、ローンチコントロール時のオーバーブースト出力は350kW(476PS)で、0-100km/h加速5.1秒、0-160km/h加速10.1秒、0-200km/h加速15.6秒を誇る。最高速は220km/h、航続距離はWLTPモードで360km
ナンバープレートの下にカメラやセンサー類を装備
ハイグロスブラック塗装仕上げのルーフスポイラーを装備
19インチのタイカン エアロ ホイールを装着。タイヤはミシュラン「パイロットスポーツ4」でサイズはフロントが245/45R20、リアが285/40R20。ブレーキはフロントが6ピストン アルミニウム製モノブロックキャリパーでリアは4ピストン仕様となる
バッテリ総容量は93.4kWhで正味容量は83.7kWh。運転席側は普通充電ポートで、11kW ACで0%→100%が約9時間
助手席側は急速充電用CHAdeMOポートで、50kW DCで0%→80%は約93分となっている

 同時にタイカン4クロスツーリスモは、CUVボディのベーシックモデルながら、その装備もちょっと豪華である。

 後輪駆動の一番ベーシックなクーペ・タイカン(分かりやすくするためにあえてこう呼ぼう)が1モーターの326PS(ローンチコントロール時は408PS)であるのに対して、こちらは2モーターの4輪駆動となる。それゆえ「パフォーマンスバッテリプラス」が標準装備になってパワーも380PS(ローンチコントロール時は476PS)に上がっている。

 そしてその足下には、スマートリフト機能を搭載するPASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント)付きのアダプティブエアサスペンションまで付いてくる。

 ただし、航続距離については重量差やパワー差のせいだろうか、タイカンの354~431Kmに比べて360kmと、ほとんど差がないばかりか、場合によっては短くなるようだ。

エアサスは走行モードに合わせて自動的に車高を調整してくれるほか、車内から自在に調整も可能
コンビニや立体駐車場など、いつも利用するような施設を登録しておけるスマートリフト機能も付く
一番低い状態
一番高い状態

 それでいて価格は、タイカンの138万円増しだけなのである。1341万円という価格は、絶対値として高い。また、ポルシェをゼロ・オプションで買うことなど実質ないから、その値段はさらに上がる。ちなみにオプションてんこ盛りの試乗車は、1800万円オーバーのゴージャス仕様であった。

 それでもタイカン4クロスツーリズモは、アーリーアダプターのみならず、目の肥えたポルシェ・ユーザーの心も上手にくすぐるだろう。なぜならそのルックスや使い勝手だけでなく、ポルシェ・シャシーで味わうBEVの気持ちよさが格別なのだ。

運転席にはさまざまな情報を表示する16.8インチの湾曲ディスプレイを装備
走行モードはバランスのとれた「ノーマル」、サスペンションの減衰力がスポーティになる「スポーツ」、航続距離を最大にする「レンジ」、さらに「スポーツクロノパッケージ」には、シャシーが最低レベルまで下がるとともにフロントのエアインテークフラップが必要に応じて開く「スポーツプラス」、個別設定が可能な「インディビジュアルモード」が搭載される。また、「オフロードデザインパッケージ」を選択すると最低地上高がさらに10mm増加し、ラフロード走行に対応する「グラベルモード」が標準装備される
4輪のタイヤの空気圧や、バッテリの状態などもモニタリング可能
ステアリングの右にあるレバーのダイヤルを回すことで走行モードを切り替えられる
ダッシュボードにはオフロードらしさのあるコンパス付きの時計を配置
後席
前席
フロントの収納スペース容量は84L
ラゲッジスペースの容量は後席を倒すと最大1212Lを確保できる
下段にも収納が用意されている
後席を倒すとフラットな状態でラゲッジスペースが広がるので使い勝手も高い

 路面からのフィードバックは極めて正確で、それでいて操舵感は軽やか。カドのない、適度に引き締まったエアサスの乗り心地もポルシェらしさに溢れている。

 加速力は0-100km/h加速が5.1秒とローンチコントロール時の476PSでも、実はテスラ「モデル3 ロングレンジ」に及ばない。全開加速も目がくらむようなロケットダッシュをするわけではないのだが、4WDのトラクションとリニアなモーターレスポンスが、欲しいときに欲しい加速をきちんとくれる。

4WDのトラクションとリニアなモーターのレスポンスが気持ちいい

 もちろん飛ばせばかなり楽しい実力の持ち主だが、ゆっくり走らせていても質感が高いから、日本の道路環境にはすごく合っていると思う。そしてこういう走りを支えているのが、ポルシェのシャシーワークである。

 面白いのはこのタイカンシリーズに呼応するように、内燃機関のシリーズ、特にモデルチェンジを果たしたタイプ992型「911」のターボやGT3が、マッシブな乗り味を表現してきたことだ。「心地いい走りはタイカンで」とばかりに、その本質を解き放ってきたことである。

 やはりその歴史が長い分だけ、ポルシェは大人なのだと思う。大げさな回生ブレーキを提供しないその姿勢からも分かるが、彼らがタイカンで表現した走りには、子供っぽさがない。童心に返りたいのなら「911」や「ボクスター/ケイマン」をどうぞ……。極めて贅沢な無言のメッセージだが、それこそがポルシェというブランドの気高さであり魅力である。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してSUPER GTなどのレースレポートや、ドライビングスクールでの講師活動も行なう。

Photo:高橋 学