試乗レポート

トヨタとスバルが共同開発したバッテリEV「bZ4Xプロトタイプ」にサーキット試乗

トヨタがスバルと共同開発した本格的なバッテリEV「bZ4X」

トヨタがスバルと共同開発した本格的なバッテリEV「bZ4X」

 全方位開発を行なうトヨタ自動車が本格的に参入したバッテリEVの第一弾が「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」だ。現時点ではコンセプトとネーミングされているが、いよいよ実車に乗ることができた。発売もそう遠くないと言われている。試乗コースは袖ケ浦フォレストレースウェイ。路面は一般公道と同じ舗装で、グリップのよいサーキット舗装ではない。

 陽の下で見るbZ4Xは直線基調でRAV4との共通性のあるデザインだと感じたが、さっそうと伸びた4690mmの全長に2850mmのホイールベースは前後オーバーハングが短く、新しい時代を感じる。全幅は1860mm、全高1600mmでRAV4に近いが少し背が低いため大きさは感じない。

袖ケ浦フォレストレースウェイでbZ4Xのプロトタイプに試乗

 パワーユニットの考え方を表すのがe-Axle(イーアクセル)。広いキャビンを実現するために駆動系はモーター、トランスアクスル、インバータを一体化することで軽量コンパクトに作られた。そのモーターはアクスルの真上に搭載されて適正な荷重が駆動輪にかかるように配慮された。等長ドライブシャフトの採用も動力伝達へのこだわりだ。

 フロントモーターのサイズは横からの透視図では前後長410mm。リアモーターの全高は303mmと低く、内燃機関では難しいレイアウトを実現した。興味深かったのはハイブリッドでつちかった技術を応用して抵抗の小さい低粘度オイルを使って電費低減した話だった。私のような電気音痴にはモーターという乾いた語感にオイルと聞き新鮮だった。モーターにも潤滑は大切なことを忘れていた。ちなみに水冷オイルクーラーも内蔵している。

 FWD(フロント駆動)モデルのフロント用モーターの出力は150kW。4WDモデルは、フロント、リアとも80kWのモーター出力となる。バッテリはリチウムイオン電池で96個のセルを使い電池総電力量は71.4kWhとなっている。バッテリサイズは必要な航続距離と適正なコスト、サイズ、そして技術とのバランスの結果だ。

RAV4と同じ最低地上高を持つが、全高は抑えられている
4WDの試乗車は18インチモデルとなっていた

 バッテリには冷却水を通して温度管理を徹底している。バッテリの底に水路があるがアクシデントの際にバッテリセルと触れないように厳重に保護されている。このバッテリパックは強固なボディ構造材の役割も果たしており、圧倒的な剛性感に大きく貢献しているというがその感触は後述する。

 バッテリのサプライヤーはプライム・プラネット・エナジー&ソリューションズ。元町工場、つまりトヨタで生産される。

 プラットフォームはe-TNGA。バッテリEV専用に開発された新規プラットフォームだ。バッテリEV専用としたことでエンジン車では制約によってできないことも自由にレイアウトできた。このプラットフォームは今後続々と登場するトヨタバッテリEVの第一号で、これをベースにコンパクトからラージまでさまざまなカテゴリーのバッテリEVに応用される。

最低地上高はRAV4と同じ200mm。驚くほど剛性感が高く、静かなクルマ

驚くほど剛性感の高いボディを持つbZ4X
ボンネットの中にはぎっしりと制御機器が搭載されている

 RAV4と同じ最低地上高200mmのbZ4Xのドライバーズシートに座る。フロアは高いが特に意識しないで乗り込むことができた。ヒップポイントは高いがドライビングポジションも少し踵が起きる程度でそれほど違和感はない。コンパクトなエアコンユニットで足が伸びるのだ。広い車内は新鮮だ。

 インテリアもスッキリしたデザイン。最近のトレンドでダッシュボードセンターに大きなディスプレイが置かれる。ドライバー正面のメーターは小径ハンドルの上に視認でき、距離も離れているので、目線の移動が小さい。そのためヘッドアップディスプレイの必要性がなくなった。ちょっと気になったのは数字が小さいこととドライバーの姿勢によってはメーターの下部が少し隠れることだ。走行中に実際に障害になることはなかったが、開発中のステアバイワイヤを見据えたレイアウトなのだろうか? そのうちハンドルは操舵輪のようになるのかもしれない。

bZ4Xのインテリア
ステアリングまわり
X-MODEを備える
センターコンソールまわり

 最初に4WDモデルに乗る。前後に独立したモーターを持ち、車両重量は2005kg~2015kg、最新のバッテリEVでとしては妥当な重量だ。

 スタータースイッチを押してシステムを起動させる。電動車の常でメーター類が表示されるだけで無音である。ダッシュボード上にあるダイヤルを右に回してDに入れる。

 スルスルと動き出す。やはり無音である。アクセルを踏んでもスーっと加速していくだけ。静粛性が高く、ロードノイズも丁寧に抑えられている。これは速度が上がっても変わりなく、遮音には相当注意が払われている。

 ビックリしたのは剛性感の高さ。余分な振動はゼロだ。いくら路面の滑らかなサーキットとはいえ、これほど静かに走るクルマは余り経験ない。乗り心地にしてもさらに加速してもフロアの微振動は相変わらずゼロだ。

 低速ではアクセルにコントロールの幅があり、飛び出し感がないのも扱いやすい。アクセルOFFの減速感も自然だ。市街地での取り回しに柔軟に対応できる。日常での使い勝手を重視しているのがよく分かる。

 一方、加速力はバッテリEVらしく速いものの破壊的なところはない。例えば高速道路のランプウェイを想定して作られたコースではアクセルを踏み込むと抜群のレスポンスで加速し、明らかに速い。シートに押し込まれるような加速感はないが、いつの間にか速度が乗っている感じだ。。

 フル加速でもボディは大きなトルクをしっかりと受け止め、ビビリ振動も横ブレもなく強固な箱に入っているようで安心感が高い。

 コーナーでは低重心を活かした上に前後のロール軸が素晴らしく適正で、スーと旋回する。サスペンションもロールをうまくコントロールして重いクルマでもドタバタしたところは感じられない。

 ハンドル応答性も素直だがセンターが適度に緩いので過敏に反応しないところが好ましい。ハンドルのビルドアップ感はもう少しほしいと感じたが操舵力は適度だ。

 コーナーでは深さによってリアモーターが積極的に駆動力をかけ、旋回力を高く保っている。そのためライントレース性はかなり高い。前後で自在に駆動力を変えられるツインモーター4WDらしい仕上がりだ。グリップ限界も予想以上に高かった。

フロントシート
リアシート
ラゲッジルーム
リアシートは6:4の分割可倒式

 一方、フロントモーターのみのFWDモデルはさすがに4WDほどのハンドリングの素直さはないが静かで速いクルマであることに変わりはない。あえて言えばブレーキングからターンインにかけての動きの中で少し応答遅れがあり、前後のピッチングも大きめだった。ドライビングの高揚感は4WDモデルがはるかに上だった。

 走る曲がるについてとても素直なクルマで、バッテリEV第1号として最初から完成度がかなり高い。今後展開されるラインアップにも期待できそうだ。

 そしてバッテリが販売価格の多くを占めるバッテリEVにとって今後の大量販売を見越したよい意味でのコスト低減が見え将来性は高い。

 販売については高価なバッテリのリサイクル、メンテナンスを考え、同時に資源保護のためKINTOなどのサブスクで販売されることも検討されているようだ。

 bZ4Xはトヨタ初の本格的なバッテリEVとしてグローバルに販売していくには最適サイズに違いない。ちょうどRAV4が世界的に成功したようにSUVのカテゴリーもサイズもRAV4に匹敵している。トヨタの本気度をうかがわせる。

試乗会場にはスバル「ソルテラ」(右)も置かれていた
bZ4Xとソルテラは兄弟車ではあるが、ずいぶん異なった雰囲気を持つ
フロントまわりは、異なる造形テーマが用いられている
リアコンビネーションランプが大きく異なっている

主要諸元 日本仕様

仕様2WD(FWD)モデル4WD(AWD)モデル
車両重量1920kg~2005kg~
車両総重量2195kg~2275kg~
最小回転半径5.7m
一充電走行距離(WLTCモード)500km前後460km前後
全長4690mm
全幅1860mm
全高1650mm(アンテナ含む)
ホイールベース2850mm
室内長1940mm
室内幅1515mm
室内高1160mm(ノーマル/ソーラールーフ)
乗車定員5名
モーター交流同期電動機
最大出力(フロント)150kW80kW
最大出力(フロント)80kW
最大出力(システム)150kW160kW
動力用電池リチウムイオン
総電圧355V
総電力71.4kWh
AC充電器最大出力6.6kWh
DC充電最大出力最大150kW
サスペンション フロントストラット式コイルスプリング
サスペンション リアダブルウィッシュボーン式コイルスプリング
加速性能(0-100km/h)8.4秒7.7秒
TOYOTA bZ4X Prototype
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛