インプレッション
ジャガー「Fタイプ クーペ」
Text by 岡本幸一郎(2014/7/14 11:24)
ホレボレするほどスタイリッシュ
約1年前、「Fタイプ」のコンバーチブルに触れて大きな衝撃を受けた。スタイリングがとても印象深いだけでなく、ドライブしても非常に刺激的なフィーリングで、ジャガーがここまでやったことに驚いたものだ。とにかくジャガーがこんなクルマを造るとは予想外だった。
そんなFタイプの、いずれは出ることが明らかだったクーペバージョンがいよいよ登場した。日本にもオープンカーに憧れる人は大勢いるが、いざ購入するとなると二の足を踏む人は少なくない。Fタイプについても販売的にはクーペが主体となることに違いない。
コンバーチブルもそうだが、このクーペのルックスもやはり印象深い。均整の取れたロングノーズ&ショートデッキのプロポーションに、ボリューム感のあるリアセクションへとつながる美しいラインを描く上半身を加えたクーペもまた、ひと目見ただけでホレボレするほどスタイリッシュだ。
室内の造りはコンバーチブルと基本的に同じだが、インパネのデコラティブパネルには新しい仕様も見られる。シートの後方には基本骨格を共有するコンバーチブルと同じようにバルクヘッドがあり、あまりシートをリクライニングさせることはできない。固定式のルーフを持つクーペも、ルーフ幅いっぱいに広がった開放感のあるパノラミックサンルーフを選べる。
テールゲートはほぼ全モデルで電動で開閉が可能。コンバーチブルでは荷室が狭いという指摘(そんなことを気にする人はFタイプを買わないだろうと筆者は思ったが……)もあったが、クーペは予想以上に広い。容量としては407Lと意外に大きく、ゴルフバッグ2個を収納することができるという。細長い開口部からタイヤハウス側にかけて空間があるので、フロアは高いものの、意外と大きな荷物も積める。
とにかく、このクルマの最大の魅力は目にした誰しもにインパクトを与えるスタイリングにあることには違いない。しかし、Fタイプはそれだけでは終わらない。走りの方も、コンバーチブルに輪をかけて、いざとなればジャガーはここまでやることを見せつけるかのような仕上がりだ。デザインと走りの両面において、ジャガー車の中でも、あるいは競合するスポーツモデルの中においても異彩を放つのがFタイプである。
標準モデルと「S」と「R」の差は?
Fタイプ クーペのグレードおよびエンジンの組み合わせは3タイプある。
エンジンはすべてスーパーチャージャー付きで、V型6気筒DOHC 3.0リッターが2タイプ。標準の「Fタイプ クーペ」が340PS/450Nm、「Fタイプ S クーペ」が380PS/460Nmとなる。そして最上級の「Fタイプ R クーペ」が550PS/680NmのV型8気筒DOHC 5.0リッターとなる。0-100km/h加速は、順番に5.3秒、4.9秒、4.2秒と、いずれも十分に“速い”と呼べるレベルだ。
価格は823万円、1029万円、1286万円と、それぞれ200万円を超える差がある。まず素の標準モデルに対して「S」は40PSの出力向上も然ることながら、装備が充実することもあり、この価格差だったら「S」を選びたくなるところだ。
そしてV6とV8では2リッターも排気量に差があるのだから、手に入れられる世界もそれなりに違って当然だ。コンバーチブルの「Fタイプ V8 S」に乗ったときも、あの暴力的な加速とド派手なサウンドに度肝を抜かれたものだ。今回改めてそれを味わうとともに、さらにクーペのみに設定された「R」のインパクト満点の走りを堪能することができた。出力とトルクがV8 Sに対して大幅に向上(55PS/55Nmアップ)しているとおり、それはもうものすごい加速感。ひとたび味わうと病みつきになってしまいそうだ。
一方で、V6モデルは上にV8モデルがあるとどうしてもスペック的に見劣りするが、こちらも性能的には十分だ。踏み込んだ直後にドンと加速する感覚は、さすがにV8モデルに敵わないが、中~高回転域にかけての伸びやかな加速感は、これまた高性能スポーツカーとして十分なパフォーマンスを感じさせる。アクセルオフ時にマフラーから「パンパン」と音がするのも、V8モデルほど派手ではないにせよ、乗り手の心をくすぐる演出だ。ダイナミックモードを選択すると、走りや音がすべてよりスポーティな設定となる。
340PS仕様と380PS仕様ではいくぶん印象は違うが、どちらも速さは十分だ。ただし、アクセルを踏み込んだときの初期のトルクの立ち上がりが、いずれもV8モデルに比べると若干タイムラグがある。それが340PS仕様のほうがやや小さいので、340PS仕様のほうが乗りやすく感じられるかもしれない。
なお、コンバーチブルについても、これまで設定のなかった380PS仕様のV6 3.0リッターを搭載する「S」が加わり、ラインアップが強化されたことをお伝えしておこう。
コンバーチブルに対するクーペの走りの優位性
クーペとコンバーチブルでは走りの印象も少なからず違う。
試乗会会場にはコンバーチブルも用意されていたので、あらためて乗り比べることができたのだが、クーペの方が操舵に対する応答遅れが小さく、走りに一体感があり、車体のシェイクもなく、ブレーキングでの安定性にも違いを感じる。
とくに、トルクベクタリング機能を持つブレーキやアクティブデフが与えられた「R」は、より鋭い回頭性とライントレース性の正確さを感じる。アルミボディーを持つFタイプは、コンバーチブルだってオープンモデルの中ではかなりハイレベルだと思っていたのだが、やはり屋根付きと屋根なしでそれなりに違いがあるのは当然といえば当然だ。
聞いたところでは、ねじれ剛性はコンバーチブルの実に8割増しというから差は小さくない。この高い剛性感に裏打ちされた一体感と俊敏性のある走りは、競合するライバルを引き合いに出しても、かつて味わったことのないレベルだ。
コンバーチブルでも同様のことを感じたが、足まわりはよく引き締まった中に微妙なしなやかさがあり、スパルタンでありながら不快度は低い。走りの刺激的なクルマというのは、最初は楽しいものの、乗っているうちに疲れてしまうものだが、Fタイプはいつまでも乗っていたくなる。そのあたりの味付けの巧みさにも、Fタイプならではのものを感じさせる。
改めて、ジャガーは大したクルマを造ったものだとつくづく思う。スポーツカーメーカーとしてのジャガーの片鱗をうかがわせ、そしてジャガーのスポーツカーはこうだということを見せつけるかのような、Fタイプ クーペであった。