インプレッション
マツダ「ロードスター RS」
Text by 岡本幸一郎(2015/12/28 12:11)
運転の楽しさを“深化”させたモデル
これまでもたびたび「ロードスター」には触れる機会があり、そのつどロードスターならでは楽しさを堪能してきた。現行モデルとなる4代目にやや遅れて加わった「RS」について、マツダでは「自らの世界に没頭できる走りの質感をより高めた熟成モデル」であり、より深く、よりダイレクトにクルマとの対話を楽しみたい人に向けた、「さらなる質の高い味わいを期する上級仕様」と定義している。
登場を待っていた人も少なくないであろう「RS」だが、時間を要したのはセッティングを煮詰めるための時間が必要だったからだ。この新たに加わったロードスターの“3つめの個性”について、開発責任者の山本修弘主査は、試乗前のプレゼンテーションにおいてその思いを我々に伝えた。
ロードスターのライフサイクルにおいて、世界にある「いいもの」を使ってこのクルマを磨き上げ、世界観を広げていきたい。あるいは技術が進化すると、それまでできなかったことができるようになる。そんな中で、絶対性能を上げるのではなく、“感”を深化させることを目指し、いい材料を選んで時間をかけて造った。それが「RS」なのだという。
そんな「RS」、まずは「S スペシャルパッケージ」との違いが気になるところだが、走ってみて違いを感じる専用装備としては、ビルシュタイン製ダンパー、大径ブレーキ、フロントサスタワーバー、レカロ製シート、インダクションサウンドエンハンサーなどが挙げられる。
これらを知っただけでも「RS」が欲しくなるという人は少なくないだろうが、さらにシートヒーターや各種先進安全装備、BOSEサウンドシステム+音響関連のアイテムなども標準設定されるなど装備が充実している。価格は319万6800円とロードスターのラインアップではやや高めとはいえ、「RS」は装備だけでもなかなか魅力的だ。
専用のビルシュタインダンパーが生む走りは?
むろん「RS」の本質は走りそのものにある。伊豆スカイラインを主体に付近の一般道を走行して確かめた第一印象は、おおむね“期待どおり”と言えるものだった。
これまでロードスターの「S」や「S スペシャルパッケージ」をドライブして、クルマを操る楽しさというのは、パワーや限界性能にあるのではないことを思い知らされた。ただしその一方で、しゃかりきに飛ばさなければ大丈夫なのだが、ペースを上げたシーンではコーナーでのロールが大きく、ブレーキング時のノーズダイブも大きめということが感じられたり、もう少し挙動が抑えられていてもいいような気もしていた。そこに手を入れ、スポーティテイストを強めたのが「RS」だと言える。
サスペンションセッティングはダンパーのみが異なり、減衰力の設定は全体的にやや高めの設定となっている。スプリングやスタビライザーは共通。つまり定常的な条件下では、ロール量の絶対値は同じなのだが、ロールスピードが異なる。
ドライブすると、「S スペシャルパッケージ」との違いは歴然としていた。理屈どおり挙動が抑えられていて、ステアリングやアクセル、ブレーキの操作に対する反応がすべて素早くなっている。まるでクルマ自体の運動神経がよくなったような印象で、より俊敏なハンドリングを楽しむことができる。これぞ「RS」ならではの醍醐味だ。
操舵に対して応答性が高まっているのには、入力を受け止める専用のフロントサスタワーバーもひと役買っていることに違いない。それでいて、ロードスターが大事にしている動きの素直さ、分かりやすさは損なわれていない。そこにはあくまでもこだわったのだろう。
半面、気になったところもある。どうも走りに落ち着きがないのだ。電動パワステの設定は共通とのことで、初期応答が操舵ゲインと上手くマッチングされていない。それゆえに「S スペシャルパッケージ」であった動き始めの心地よい“タメ”が薄れ、軽々しく動いてしまっている。ここはひとつ、ぜひ電動パワステも「RS」向けに最適化してほしいところだ。
また、ビルシュタインダンパーは、やや突っ張った印象もあり、路面の感触をダイレクトに伝えてくる。これがよいという人もいるだろうが、乗り心地に硬さを感じるのは否めない。これが「RS」の味だと言われれば納得だが、もう少し初期段階がしなやかに動いてくれたほうが、より動きも分かりやすくなるだろうし、快適性の面でもよいかと思う。
ロードスターのトップグレードではない
レカロとの共同開発によるシートは、それほどきつく締めつけないものの心地よい包まれ感があり、ハードなドライビングでも身体が安定している。窮屈な感じはなく、運転の操作を妨げることもない。ややヒップポイントが高めなことと、もう少しクッション部に厚みがあると乗り心地の面でも有利なはずと感じたが、現状でも十分に満足できる仕上がりだ。
ブレーキフィールは、ディスクローター径の拡大によりキャパシティが増したように感じられる。対向ピストンキャリパーが欲しいという声もあるらしく、彼らの気持ちもよく分かるし、できればオプション設定で選べるのが理想だろうが、個人的にはロードスターならこれで十分かと思う。
もう1つ、音の楽しみがあるのも「RS」ならでは。インダクションサウンドエンハンサーにより、3000rpmあたりから厚みを増して、マツダが提唱する「パフォーマンスフィール」をより感じさせる味付けとなっている。動力性能についてはほかのグレードと同じはずなのに、心なしか速くなったように感じるほど。よく回るエンジンを、さらに回して楽しみたくなる。
こうした専用装備の数々しかり、コストパフォーマンスという観点でも魅力的な「RS」だが、むしろ今回「RS」をドライブして、「S スペシャルパッケージ」のバランスのよさをあらためて感じた面もある。あるいは「『RS』はロードスターのトップグレードではない」と山本主査が述べる意味もうかがいしれた。
このクルマの本質はあくまで“走りのキャラクター”にある。ロードスターのバリエーションにおける新しい方向性であり、運転する楽しさをより積極的に味わいたい人にとって、いずれにしても「RS」のような選択肢が用意されたことを歓迎したいと思う。