インプレッション

マツダ「ロードスター RS」

運転の楽しさを“深化”させたモデル

 これまでもたびたび「ロードスター」には触れる機会があり、そのつどロードスターならでは楽しさを堪能してきた。現行モデルとなる4代目にやや遅れて加わった「RS」について、マツダでは「自らの世界に没頭できる走りの質感をより高めた熟成モデル」であり、より深く、よりダイレクトにクルマとの対話を楽しみたい人に向けた、「さらなる質の高い味わいを期する上級仕様」と定義している。

 登場を待っていた人も少なくないであろう「RS」だが、時間を要したのはセッティングを煮詰めるための時間が必要だったからだ。この新たに加わったロードスターの“3つめの個性”について、開発責任者の山本修弘主査は、試乗前のプレゼンテーションにおいてその思いを我々に伝えた。

 ロードスターのライフサイクルにおいて、世界にある「いいもの」を使ってこのクルマを磨き上げ、世界観を広げていきたい。あるいは技術が進化すると、それまでできなかったことができるようになる。そんな中で、絶対性能を上げるのではなく、“感”を深化させることを目指し、いい材料を選んで時間をかけて造った。それが「RS」なのだという。

10月1日からラインアップに追加された「ロードスター RS」。デビュー当初の3グレードとモータースポーツのベース車両である「NR-A」に続く“3つめの個性”だ
4代目ロードスターの純正タイヤサイズは全車共通で195/50 R16 84V。アルミホイールはNR-A以外で共通となるガンメタリック塗装
試乗後に、開発責任者である山本主査(右)と試乗した感想や気になった点などについて語り合う筆者(左)。山本主査からは試乗前のプレゼンテーションと同じく、RS開発の主眼について熱く語られた

 そんな「RS」、まずは「S スペシャルパッケージ」との違いが気になるところだが、走ってみて違いを感じる専用装備としては、ビルシュタイン製ダンパー、大径ブレーキ、フロントサスタワーバー、レカロ製シート、インダクションサウンドエンハンサーなどが挙げられる。

 これらを知っただけでも「RS」が欲しくなるという人は少なくないだろうが、さらにシートヒーターや各種先進安全装備、BOSEサウンドシステム+音響関連のアイテムなども標準設定されるなど装備が充実している。価格は319万6800円とロードスターのラインアップではやや高めとはいえ、「RS」は装備だけでもなかなか魅力的だ。

「SKYACTIV-G 1.5」の直列4気筒DOHC 1.5リッター「P5-VP(RS)」型エンジンは最高出力96kW(131PS)/7000rpm、最大トルク150Nm(15.3kgm)/4800rpmを発生。このエンジン出力も全車で共通となっている。JC08モード燃費は17.2km/L。オプションのi-ELOOP+i-stopを装着するとエンジン型式が「P5-VPR(RS)」となり、JC08モード燃費は18.8km/Lに向上する
車内の装備品ではレカロ製のアルカンターラ/ナッパレザーシート、シートヒーター、BOSEサウンドシステム+9スピーカー、CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)などを追加設定
S レザーパッケージでも標準装備となる9スピーカーは、運転席と助手席のヘッドレストに2スピーカーを内蔵。BOSEとレカロのダブルネームのシートとなる

専用のビルシュタインダンパーが生む走りは?

 むろん「RS」の本質は走りそのものにある。伊豆スカイラインを主体に付近の一般道を走行して確かめた第一印象は、おおむね“期待どおり”と言えるものだった。

 これまでロードスターの「S」や「S スペシャルパッケージ」をドライブして、クルマを操る楽しさというのは、パワーや限界性能にあるのではないことを思い知らされた。ただしその一方で、しゃかりきに飛ばさなければ大丈夫なのだが、ペースを上げたシーンではコーナーでのロールが大きく、ブレーキング時のノーズダイブも大きめということが感じられたり、もう少し挙動が抑えられていてもいいような気もしていた。そこに手を入れ、スポーティテイストを強めたのが「RS」だと言える。

 サスペンションセッティングはダンパーのみが異なり、減衰力の設定は全体的にやや高めの設定となっている。スプリングやスタビライザーは共通。つまり定常的な条件下では、ロール量の絶対値は同じなのだが、ロールスピードが異なる。

 ドライブすると、「S スペシャルパッケージ」との違いは歴然としていた。理屈どおり挙動が抑えられていて、ステアリングやアクセル、ブレーキの操作に対する反応がすべて素早くなっている。まるでクルマ自体の運動神経がよくなったような印象で、より俊敏なハンドリングを楽しむことができる。これぞ「RS」ならではの醍醐味だ。

 操舵に対して応答性が高まっているのには、入力を受け止める専用のフロントサスタワーバーもひと役買っていることに違いない。それでいて、ロードスターが大事にしている動きの素直さ、分かりやすさは損なわれていない。そこにはあくまでもこだわったのだろう。

 半面、気になったところもある。どうも走りに落ち着きがないのだ。電動パワステの設定は共通とのことで、初期応答が操舵ゲインと上手くマッチングされていない。それゆえに「S スペシャルパッケージ」であった動き始めの心地よい“タメ”が薄れ、軽々しく動いてしまっている。ここはひとつ、ぜひ電動パワステも「RS」向けに最適化してほしいところだ。

 また、ビルシュタインダンパーは、やや突っ張った印象もあり、路面の感触をダイレクトに伝えてくる。これがよいという人もいるだろうが、乗り心地に硬さを感じるのは否めない。これが「RS」の味だと言われれば納得だが、もう少し初期段階がしなやかに動いてくれたほうが、より動きも分かりやすくなるだろうし、快適性の面でもよいかと思う。

大径ピストンを採用するビルシュタインダンパーは、とくに前輪側の減衰力を全域で高めて正確な荷重コントロールを実現

ロードスターのトップグレードではない

 レカロとの共同開発によるシートは、それほどきつく締めつけないものの心地よい包まれ感があり、ハードなドライビングでも身体が安定している。窮屈な感じはなく、運転の操作を妨げることもない。ややヒップポイントが高めなことと、もう少しクッション部に厚みがあると乗り心地の面でも有利なはずと感じたが、現状でも十分に満足できる仕上がりだ。

 ブレーキフィールは、ディスクローター径の拡大によりキャパシティが増したように感じられる。対向ピストンキャリパーが欲しいという声もあるらしく、彼らの気持ちもよく分かるし、できればオプション設定で選べるのが理想だろうが、個人的にはロードスターならこれで十分かと思う。

前後ブレーキでディスクの外径を高め、さらに厚さも増してキャパシティアップを実現。S スペシャルパッケージと比較して、質量をフロント(左)で5.1kgから6.0kg、リア(中央)で3.3kgから3.8kgに増やし、連続制動時の温度上昇を抑制している
左のRS用は右のS スペシャルパッケージ用と比較して大きく、厚くなっていることが見て取れる

 もう1つ、音の楽しみがあるのも「RS」ならでは。インダクションサウンドエンハンサーにより、3000rpmあたりから厚みを増して、マツダが提唱する「パフォーマンスフィール」をより感じさせる味付けとなっている。動力性能についてはほかのグレードと同じはずなのに、心なしか速くなったように感じるほど。よく回るエンジンを、さらに回して楽しみたくなる。

左右のストラットタワーとバルクヘッド部分を接続するフロントサスタワーバーはRS専用アイテム
エンジンの吸気音で発生する軽快で高い音色を強調するインダクションサウンドエンハンサー。インテークパイプからフロントサスタワーバーの上を通過し、助手席側のバルクヘッドまで繋がっている

 こうした専用装備の数々しかり、コストパフォーマンスという観点でも魅力的な「RS」だが、むしろ今回「RS」をドライブして、「S スペシャルパッケージ」のバランスのよさをあらためて感じた面もある。あるいは「『RS』はロードスターのトップグレードではない」と山本主査が述べる意味もうかがいしれた。

 このクルマの本質はあくまで“走りのキャラクター”にある。ロードスターのバリエーションにおける新しい方向性であり、運転する楽しさをより積極的に味わいたい人にとって、いずれにしても「RS」のような選択肢が用意されたことを歓迎したいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一