【インプレッション・リポート】
トヨタ「ワクドキ体験会」【前編】~国内未発売モデル

Text by 岡本幸一郎


 あのトヨタがこんなイベントをやるなんてビックリだ。「ワクワク」「ドキドキ」を意味する「ワクドキ体験会」というネーミングの報道メディア向けイベント。用意された車種は、GRMNのデモカーや、通常は試乗機会のない海外導入車ばかり。これらに、富士スピードウェイ内の構内路やショートコース等で試乗するというもの。試乗会ではなく体験会ということで、1台あたりで与えられたのはごく短時間ではあったが、われわれモータージャーナリストでもふだんは接する機会のない、いろいろなクルマに触れることができた。

 総勢11台+Wingletといったクルマ以外コンセプトモデルも体験できたので、前後編に分けてお届けする。今回は国内未発売モデルのレポートだ。

FJクルーザー
 2003年のデトロイトショーでコンセプトモデルが最初に披露されたときの世の反響は大きかった。そして2年後の2005年のシカゴショーではプロトタイプを発表。2006年には、北米を皮切りについにFJクルーザーが市場投入開始。「まさかトヨタが!?」が現実のものとなった。生産は、トヨタから委託を受けた日野自動車の羽村工場。現在、アメリカ、カナダ、メキシコ、南米、アフリカ、中国、中近東など、欧州以外の多くの国で販売されている。

 言うまでもなくデザインが特徴のFJクルーザーだが、ネーミングの「FJ」に加え、丸いヘッドライト、グリルのデザインや「TOYOTA」ロゴ、白いルーフなど、往年のFJ40型ランドクルーザーのアイコンがちりばめられている。ボディーサイズは4670mm×1905mm×1830mmで、プラドよりもだいぶ短く、3列目シートはない。

 クルマの成り立ちとしては、先代プラド/サーフとの共通部分が多いが、両サイドにピラーレスの観音開きドアを採用しているのが特徴で、リアにはスペアタイヤを搭載した横開き式バックドアと、単独で開閉できるガラスハッチが与えられている。4リッターV6エンジンはプラドと共通で、パートタイム4WD式を採用する。フレームシャシーながら、ドライブフィールはいたって軽快だ。

 室内はいたってシンプルなつくりで、アウトドアユースに対応すべくフロアやシートは防水仕様となっている。今回試乗したのは、なかでも「TRDパッケージ」という、よりオフロード色を強調したという仕様。すでに多くの並行輸入車が日本国内に持ち込まれているが、年内導入とのウワサもある右ハンドル仕様がトヨタディーラーで販売されることになったら、再注目されるかもしれない。
はたして実際どうなるんだろうか?

日本でも人気が高く、並行輸入車を見かけることも多い
試乗車はTRDモデルのため、ホイールもTRDモデルとなっていたドアは観音開きバックドアは横開き。ガラスだけの開閉もできる
インテリアは直線を基調とした、オフローダーらしいデザイン。若者向けにポップな雰囲気も
シートは2列の5人乗り。そのままでも十分な荷室があるが、ダブルフォールディングの2列目を倒すと、フラットでより広いラゲッジルームが完成

FORTUNER
 「IMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)」プロジェクトによる、トヨタの世界戦略車シリーズのひとつの中のSUVタイプ。製造は11ヶ国で行なわれており、今回の撮影車はタイ生産となる。北米、中国をのぞくほぼ全世界で販売されており、左右ハンドルがある。ジェネレーション的には先代プラドと共通部分が多く、シャシーはラダーフレームで、多少サスペンション構造が違うという。

 エンジンは4リッターV6ガソリンではなく、ユーロ4対応の3リッターの直4ディーゼルで、とてもパワフル。フレームを持つクルマとしては、乗り味はとても乗用車的で、フレーム特有のユサユサ感はなく、スポーティな雰囲気。もし日本に入れるとしたら、300万円を切りたいと担当者は述べていたが、実用にも十分に耐えうる3列目シートを持つので、本当はミニバンには乗りたくないのに……というお父さんにも喜ばれそうな気がする。

フレーム車ながら乗用車のような乗り味を実現していた
3列シートで広々とした室内。試乗車は本革シートだった
シートアレンジは、3列目は5:5分割で左右に跳ね上げ。2列目は6:4分割で前方へ倒す形となる

アベンシスワゴン
 現行モデルと同じくUKで生産された先代(2代目)モデルは、日本にも導入されて話題を呼び、そこそこの人気を博した。2008年11月に発売された3代目となる現行モデルは、ワゴン市場の縮小や為替の問題もあって日本に導入されていないわけだが、知らない間にずいぶんスタイリッシュになったなというのが第一印象だ。

 ちなみに2代目ではセダン、リフトバック、ワゴンがあったが、3代目ではリフトバックがなくなりワゴンに統合されている。エンジンは2リッターのバルブマチック仕様で、シフトパドル付きのCVTが与えられ、スポーツモードも備わる。また、欧州で人気の高い固定式の大面積パノラマルーフを設定したのも特徴だ。2代目では過剰なまでに欧州テイストを追求・演出していたように見受けられたが、3代目は肩の力が抜けた印象で、いたって乗りやすく仕上がっている。

スタイリングもよく機能性も高そうなアベンシスワゴン
大きなパノラマルーフのおかげで明るいインテリア

MATRIX
 こちらは2008年に登場した2代目で、日本仕様よりもサイズの大きな北米向けカローラをベ―スに、若い人向けにワゴンタイプにしたクルマ。足まわりなどはアメリカのカローラと同じで、日本より少しワイドトレッドとなっている。価格はカローラよりも少し高め。

 生産はカナダのトヨタ工場で、同じ内容のNUMMI生産モデルが、GMブランドで「ポンティアック・ヴァイブ」として販売されていたが、ご存知のとおりの事情により、そちらは今年8月いっぱいで生産中止となっている。

 試乗車のエンジンは2.4リッターの直列4気筒で、5速ATが組み合わされる。ユーティリティ面では、ラゲッジルームの使い勝手に大いに配慮されていて、背もたれの裏面はヘビーデューティにも耐えるようになっているし、マウンテンバイクも積載可能と言う。こうした日本にはない特徴的なカラーリングが、海外向けには用意されているところは、ちょっとうらやましい。

いかにも若者に人気が出そうなスポーティでアグレッシブなデザイン
インテリアはシンプルながら質感は悪くない
ヘビーデューティにも耐えられるラゲッジルーム。助手席を倒すことで長尺ものも積載可能

サイオンtc
 トヨタが北米で展開する若者向けブランド「サイオン」の手頃なクーペモデル。2BOXの後ろを伸ばした感じのハッチバックスタイルで、実用性も高そうだ。見た目の印象も、カッコイイというよりはカワイイ感じでとっつきやすい。少し前まで日本にもいっぱいあったようなクルマだけど、時代が変わってしまった日本では売られなくなって残念。

 右手で操る6速MTのシフトフィールもカチカチとしていて小気味よく好印象。ピュアスポーツというわけではないけれど、引き締まった足まわりと、軽い鼻先の感覚により、ステアリングを切ると素直に向きを変えてくれる一体感が気持ちよく、乗っていてとても楽しい。せめてFT86が市販されるまでの間だけでも、かわりにtcを日本でも売ってくれればよいのにと思わせる1台だ。

クイックなハンドリング、小気味のよいシフトフィールは乗り手をその気にさせる、安くて楽しいスポーツカーだ。日本でもぜひ発売してほしいスポーティなインテリアデザイン。ドアには3ウェイのスピーカーが付く
グリップの太いステアリングは乗り手をその気にさせる広くはないが5人が十分乗れる広さを持つ

アイゴ
 欧州進出を図りたいトヨタと、Aセグメントのラインアップを持ちたいというPSAプジョーシトロエンにより企画・開発され、2005年に登場し話題となったモデル。チェコに合弁会社TPCAの工場で生産され、トヨタでは「AYGO(アイゴ)」、プジョーでは「107」、シトロエンでは「C1」として、エクステリアを差別化し、3ブランドそれぞれで販売されている。

 全長3415mm、全幅1615mm、全高1415mmというコンパクトなボディと、キュートなデザインが特徴。小さなボディーを最大限に活用した合理的なパッケージングも光る。ラゲッジルームはガラスハッチのみを開閉するしくみ。

 1KR-FE型3気筒エンジンは軽自動車+αだし、シフトフィールはグニャグニャである半面、意外やフットワークは好印象。ステアリングは据わっているし、走りにはしっとり感がある。もっと軽薄なクルマかと思っていたが、PSAとの共同作業の甲斐もあってか、意外なほど「ネコ足」していた。生活のための足として、必要なものは十分に満たしているし、とにかくデザインがイイ!

 iQだけでなく、アイゴも国内で売ってくれればよいのに……。

パワーは非力なものの、その足の仕上がりはなかなか
内装や静粛性に安いクルマだということを感じさせるが、それで十分と思える説得力があるドアミラーの角度調整は手動式。でも小さなボディーで手が届くのだからそれで十分と思える

 朝から夕方まで丸一日掛けて様々なクルマを体験することができたワクドキ体験会。他にもGRMNのコンセプトモデルにも乗ることができた。ということで、続きは後編でお届けする。

2010年 10月 22日