インプレッション
ホンダ「シャトル」
Text by 河村康彦(2015/6/10 00:00)
全幅が1.7mを下まわる“5ナンバーサイズ”のボディーに、2WD(FF)仕様で実現されたパレット式駐車場対応の1545mmの全高。一部グレードを除いて5.0mを切る最小回転半径を実現させた上で、全グレードに4WD仕様を設定。そして、全4グレードのうち3グレードをハイブリッドモデルとする……と、こうした様々な基本スペックからも、「日本のユーザーを念頭に開発された」ということが明確なステーションワゴン。それが、本田技研工業の最新モデルである「シャトル」だ。
従来の「フィット シャトル」の場合と同様、その基本骨格やランニング・コンポーネンツなどはベース車両であるフィットからの流用。にもかかわらず、今回は敢えて“フィット”の名称を車名から外したのは、「思った以上に両者の顧客層は異なることが分かった」というリサーチの結果からであるという。
基本的には、いずれもフィットのワゴン版というキャラクターの持ち主。だが、それでも全長や価格帯の違いなどから、フィットシャトルを「より上級なモデル」と受け取るユーザーが少なからず存在したという。
かくして、新たな車名では“フィットファミリーの一員”というイメージを薄め、独立したモデルであることを強調する狙いが込められているのだ。実際、そんな新たな狙いどころは、見た目上のイメージからも表現されることになっていた。
「実はフロントフェンダーとガラス部分も含めた4枚のドアは、フィットと同じアイテム」というシャトルは、ホイールベースの数値もフィットと同一。「クラス最大」という容量を謳い、フィットシャトルでは少々きつかった「フルサイズのゴルフバッグ4個を楽に搭載」というラゲッジスペースの基準をクリアするため採られたのは、リアのオーバーハングを延長するという方策だった。
そうした一方で、「全長は無闇に増やしたくない」という思いからフロントのオーバーハングを短縮。結果として、4400mmという全長スペックは、フィットシャトルとの比較で10mmのマイナスを実現させている。
そんなシャトルに乗り込んでみると、エクステリアの印象以上に“フィット臭”が薄く感じられるのは、ダッシュボードやコンソール周りに独自のデザインが採用されているからだ。なかでも、センターパネル部との連続感を強調する「ハイデッキセンターコンソール」は、「(MTのない)AT専用モデルと割り切って、パーキング・ブレーキを足踏み式とした」ことで実現できたものであるという。
広い範囲にソフトパッドを採用したダッシュボードは、縫製を思わせるステッチ形状の処理なども含め、なるほど触れてみるまでもなくフィット以上の上質さが実感できる仕上がり。最上級グレードの「ハイブリッド Z」に採用された木目調パネルの風合いもなかなかユニークで好感触だし、上級グレードでは複数のインテリアカラーが選択できる点も嬉しい。
一方で、フィットの場合と同様になんとも厳しい評価とならざるを得ないのが、タッチ操作式の空調やメーカーオプションであるナビゲーション・システムの使い勝手。見栄えはすっきりしているものの、操作時に最後まで注視が必要なこれらの装備は、“自動車用”としては相応しくない出来栄え。特にナビゲーション・システムは、地図の縮尺変更にも無用に気を遣うほどで、現行のフィットシリーズが持つ最大のウイークポイントと言っても差し支えない。
後席足下の広さを大きく改善した現行フィットからコンポーネントを譲り受けたシャトルの居住性は、大人4人が相当の長時間を過ごすとしてもなんの不満も感じないと言えるもの。もちろん、ホンダ特許の“センタータンク・レイアウト”を生かした後席アレンジ性の高さもフィット同様だ。それに加えて、リアオーバーハングの延長によって広大なラゲッジスペースを獲得したのだから、シャトルのユーティリティ性の高さは絶大と言ってよい。
上級グレードのシートバック背後に設けられた「マルチユースバスケット」は、なるほどデッドスペースを生かすホンダらしいアイディアもの。ハイブリッドモデルにも採用されたラゲッジボード下のアンダーボックスも、なかなか大容量で使いやすい。
ちなみに、後席のアレンジ時に要する力が比較的小さなもので済む部分は、多くのモデルに共通する日本のステーションワゴンのよき伝統。後席クッションを跳ね上げるチップアップ・モードにも、驚くほど簡単にアレンジ可能だ。
フィット ハイブリッドを上まわる静粛性
4.0mを余裕で切ったフィットと比べると、シャトルでの全長増加分は445mm。当然、それだけ重さも増す理屈で、その差はおおよそ60~70kg分と考えられる。実際、そんなシャトルの加速が、同じパワートレーンを用いたフィットよりも「幾分マイルド」と感じられることは間違いない。ただし、それがハイブリッドモデルでもガソリンモデルでも、決して“鈍重”と思えるような印象ではないこともまた確か。シャトルの加速は、同じ心臓を積むフィットよりもやや軽快さに劣る、と、そんな表現が適切であるように思う。
ハイブリッドモデルの走りは、微低速シーンではモーターがレスポンスよくサポートし、ひとたびエンジンが始動すればシームレスかつダイレクトに駆動力を伝達するDCTならではの走り味が小気味よく、動力性能は秀逸。一方で、CVTと組み合わされるガソリンモデルの1.5リッターエンジンがもたらす走りも、日常シーンでは必要にして十二分だ。
ただし、そんな両者の間では、実は静粛性に関する印象の差が小さくない。これは、ハイブリッドモデルにはエンジンを始動させずにEV走行するシーンがあることに加えて、ウインドシールドなどに独自の防音・遮音対策が加えられているから。特に「ハイブリッド X」「ハイブリッド Z」というハイブリッドの上級グレード車には、吸音効果の高いアンダーカバーが採用されるなど念入りな対策が施されている。走り始めてすぐに、ロードノイズなども含めて「これはフィット ハイブリッドよりも静かだな」と感じたのは、決して気のせいなどではなかったということだ。
今回テストドライブを行ったのは、最初にそうした好印象を抱くことができたハイブリッド Zと、2WD(FF)仕様で34.0km/Lというシリーズ最高のJC08モード燃費を誇るハイブリッドのベースグレード。そして、ハイブリッドシステムを採用しない唯一のグレードであるGという3台。試乗車はすべて2WD(FF)仕様となった。
いずれもフットワークはなかなかしなやかで、この部分でも好印象を抱いた。ただし、そうしたなかにあっても、やはりハイブリッドモデルの上級グレードであるZの仕上がりがもっとも上質だと感じられた理由には、このモデルが唯一16インチのシューズを履くのに対して、残り2台が履いていた15インチのシューズが、特に低転がり性能に特化した“エコタイヤ”であったことも関係があるように受け取れた。
そんなシャトルでちょっと気になったのは、この登場によって先行デビューを果たした「ジェイド」の立ち位置がやや不明確になったことと、ガソリンモデルが単なる廉価バージョンとして位置づけられていること。
例えば、毎月数百kmしか走らないようなユーザーに対しては、生産時により多くの資源を消費し、価格も高いハイブリッドモデルは、明らかに“エコロジー”にも“エコノミー”にも反する商品になっているはず。であるならば、「より装備の充実したガソリンモデルが欲しい」という需要も、きっとあると思えるのだ。