インプレッション

ボルボ「V40」「V60」「XC60」(クリーンディーゼル搭載車)

数値面での優位性を知っただけでも欲しくなる

 前々から情報のあったボルボのディーゼルエンジンがようやく日本にも導入される運びとなった。それも、「V40」「V40 クロスカントリー」「S60」「V60」「XC60」という、ボルボの販売の9割を占める主力5車種で一気に同時設定というから驚きだ。

 いずれの「D4」モデルにも搭載される「D4204T14」型という名前の直列4気筒2.0リッター直噴ターボディーゼルは、すでに日本に導入されている「T5」モデルの「B420」型2.0リッター直列4気筒ガソリン直噴ターボと兄弟関係にある。「D4204T14」が持つ最高出力140kW(190PS)/4250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpmというエンジンスペックは全車共通で、環境性能については、XC60で18.6km/L、そのほかの車種では20km/L超という良好なJC08モード燃費を実現している。

 これをガソリンの「T5」と比べると、最高出力は40kW(55PS)低いが最大トルクは50Nm(5.1kgm)上まわり、JC08モード燃費では、もちろん燃料自体が違うので単価に差があることに加えて、数値としても5km/L近く上まわる。さらにいうと、最大トルク440Nmの「T6」モデルに対しては、燃費で2倍以上の開きが出てくる。

「V40 D4」
「V40 クロスカントリー D4」
「S60 D4」
「V60 D4」
「XC60 D4」
5車種ともに車両後方の右側に「D4」バッヂを装着

 こうした経済的なベネフィットがありながら、車両価格はガソリン車と比べて25万円高にとどめられた。エコカー減税による税制面での優遇を計算に入れると、モデルにもよるが実質的な差額は15万円ほどに縮まり、燃費や燃料費の優位性によって3年ほどで初期投資の元が取れることになる。むろん、ドライバビリティ面でも恩恵にあずかれることが期待できる。

 ディーゼル車がブームと呼んでもよいほどの状況になってきた日本であればなおのこと、ここまで知っただけでもすでに食指の動きはじめている人も少なくないことだろうが、以下を読んでいただくと、さらにその思いが高まることと思う。

力強くスムーズで、回して楽しめる

 試乗会会場である軽井沢のホテルの駐車場にズラリと並べられた試乗車の中から選んだのは、執筆時点ではセグメント内で国内初、そして唯一のディーゼル設定となるV40のほか、安定した人気を誇るV60、車両重量を考えるともっともディーゼルの恩恵が大きいであろうXC60の3モデルだ。

 さて、ディーゼルのメリットとデメリットをあらためて整理すると、メリットは言わずもがなだが、ランニングコスト、トルクフルな出力特性、そしてエコカー減税で優遇されていることなどが挙げられる。デメリットは、重量増、エンジン音が大きいこと、価格が高くなることなど。これらのデメリットを補うだけのメリットがあれば、ディーゼルを選んだほうが合理的ということになる。

 なお、ガソリンのT5エンジンとディーゼルのD4エンジンは、25%が共通部品、50%が類似部品、残る25%が異なる部品となっており、まさしく兄弟関係にある。すでにガソリンのT5エンジン搭載車を何度かドライブして、この印象が非常によかったので、D4エンジン搭載車もそうであってほしいと期待していたところだが、実際にもその思いを裏切られることはなかった。

試乗会会場に用意された「D4204T14」のカットモデル
インジェクターごとに圧力センサーを備える「i-ART」が精密な燃料制御を行うポイント
ボルグワーナー製の2ステージターボチャージャーを採用。触媒コンバーターにLNT(リーンNOxトラップ)とDPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)を組み合わせ、尿素水溶液を必要としない点も大きな特徴

 低回転域から力強く加速するディーゼルらしさはもとより、アクセル操作に対するレスポンスがよく、吹け上がり方が非常にスムーズであることが印象的だ。これには緻密な制御を実現した「i-ART」燃料噴射システムや、2ステージターボチャージャーといった最新技術の採用が効いていることに違いない。軽くアクセルを踏んだだけで、1000rpm台から伸びやかな加速を示す。組み合わされる8速ATのトルコンと多段ギヤも実にいい仕事をしている。

 重箱の隅をつつくようだが、欲を言うと上り勾配で加速しようとしたときに、状況によってまれに加速がついてこないときがある。そう遠くないうちに解消されるよう期待したい。また、やはりディーゼルなのでエンジン自体の振動や騒音はガソリンに比べて大きめであることには違いない。とは言え、十分に手当てされていて車内は快適に保たれており、よほどでなければ大きな不満は感じないはずだ。

 アイドリングストップでのエンジン停止~再始動のマナーも、ディーゼルとしてはかなりスムーズ。これまでいろいろ乗った経験からすると、ディーゼルとアイドリングストップというのはあまり相性がよろしくないと感じていたのだが、D4エンジンはその印象を覆した。ガソリンのT5エンジン搭載車に乗ったときにはまるでハイブリッド車のようにスムーズだと感じたのだが、D4エンジンは一般的なガソリン車並みというイメージだ。

 ちょっと攻めた走りを試すとトルクステアを感じるほどの力強さがあり、踏み込めば5000rpm近くまでよどみなく吹け上がる。ディーゼルながら「上まで回して楽しめる」というスポーティな側面も身に着けているのだ。

XC60 D4のインパネ。基本的なデザインに変更はない。センターコンソールにアイドリングストップの機能をOFFにするスイッチは非搭載で、スポーツモードを選択することでアイドリングストップOFFとなる

身軽なV40にディーゼルを搭載すると……

 V40、V60、XC60を乗り比べてみると、同じパワートレーンでもやはり静粛性や振動は車格相応に手当てされていて、このなかではXC60が優れているわけだが、かと言ってV40が騒々しいわけではまったくない。V40でも十分な快適性が確保されている状態から、強いて比べるとV60やXC60のほうが上まわる、というニュアンスだ。

 また、動力性能面でもSUVで車両重量が1800kg(試乗車は電動パノラマ・ガラス・サンルーフを装備して1820kg)とかさむXC60でも余力を感じさせる。なお、一連の5車種でエンジンスペックは共通だが、XC60のみファイナルギヤ比が差別化されている。XC60については、T5エンジン搭載車でもとくに不満がないとは言え、低回転域ではやや線の細さが感じられたところだが、その点でもディーゼルを選ぶメリットはやはり小さくない。あとは、現状では2WD(FF)車のみが設定されているXC60のD4エンジン搭載車でも、4WDが選べるようになることに期待したい。

電動パノラマ・ガラス・サンルーフを装備して1820kgの車重になるXC60 D4だが、400Nm(40.8kgm)の最大トルクで走り出した瞬間から軽快に加速する
ファイナルギヤ比は、XC60(左)のみ3.075で、ほかのモデル(右・S60)は2.666となる

 これに対し、V40でD4エンジン搭載車を選ぶ価値は反対で、軽量コンパクトな車体に大トルクのエンジンという組み合わせにより、小さなアクセル開度から湧き上がるようなトルク感を得られるところにある。V40の身軽さにこの加速フィールという組み合わせが快感だ。また、2015年モデルからV40の乗り味がゆったりとしたテイストに変わったことも、このエンジン特性と相性がいいように思える。高速道路での巡航走行からの再加速といった状況も大得意。それに高速道路を走ると、ディーゼルのノック音もほぼ聞こえなくなるので、高速道路をよく使うユーザーにはなおのことD4エンジン搭載車をおすすめできる。

 筆者自身は基本的にガソリン派なのだが、このところ各社から世に送り出される最新のディーゼルに乗るたび感心しきり。ボルボの一連の車種についても、戦略的な価格設定もあり、よほどガソリンがいいという人以外には選ばない理由などないと言いきれるほどの完成度であったように思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一