インプレッション

三菱自動車「アウトランダーPHEV(2015年モデル)」

徹底的に改良された2015年モデル

「新型車を造るレベルで改良に取り組みました」と語っていた「アウトランダー」の開発陣。近年のマイナーチェンジは、多くのクルマが見た目だけの小手先で終わらせることなく、少しでもよくしようと改善の努力をしているが、今回のアウトランダーはどうやらそれとも少し違っているようだ。

 2014年のパリモーターショーで発表された、コンセプトモデルの流れを受けて誕生した新たな「アウトランダーPHEV」は、三菱自動車工業の新たなフロントフェイスの考え方である「ダイナミックシールド」を採用。押しの強いデザインへと改められ、上級SUVとして十分な質感を出したように見受けられる。また、テールガーニッシュやリアコンビランプもLEDを使って豪華さを増したことなどがポイント。個人的にはアウトランダーの最大の物足りなさはエクステリアだと感じていただけに、「コレなら欲しい!」と思える仕上がりになったことは歓迎したい。

 あとひと声要求するなら、床下のバッテリーを避けるように配管されているマフラーをブラックアウト化するか、カバーでもしてもらえれば最高だ。右側面から見た時にマフラーの存在がチト目立ちすぎるように感じるのは僕だけではないはずだ。

7月に「新型」として登場した「アウトランダーPHEV」。従来モデルから内外装デザインを大幅変更するとともに、燃費、操縦安定性、乗り心地なども改善されている。ボディーサイズは4695×1800×1710mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2670mm。写真のG Premium Packageは459万円
18インチアルミホイールはアウトランダーPHEV専用の2トーン切削光輝タイプ。タイヤサイズは225/55 R18。新型ではフロントキャリパーを従来のシングルピストン仕様から欧州仕様で採用されている2ピストン仕様に変更し、ブレーキ力などが高められている
アウトランダーPHEVが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター「4B11」エンジン。最高出力は87kW(118PS)/4500rpm、最大トルクは186Nm(19.0kgm)/4500rpm。さらにフロントとリアそれぞれに最高出力60kW(82PS)の電気モーターを搭載、エンジンとモーターを組み合わせた4WDシステムを採用している。ハイブリッド燃料消費率(JC08モード)は20.2km/Lをマークするとともに、充電電力使用時走行距離(JC08モード)は従来の60.2kmから60.8kmに引き上げられた

 一方で、インテリアもまた質感を高めたことは明らか。これまでの3本スポークから4本スポークへと改められたステアリングは、レザーのグレードをアップさせ、さらにピアノブラック加飾を施すなど、見た目も触れた感覚も上質感が得られている。またドアトリムやフロアコンソール、そしてパワーウインドースイッチに至るまで同様の考えで仕立てられていることも見逃せない。新たに設定されたブラウンインテリアの色合いも上々。以前と比べれば車格が一段引き上げられたかに感じてしまう。

こちらは新たに設定されたブラウンインテリア。G Premium Packageに標準装備、G Navi PackageおよびG Safety Packageにオプション設定となる

 改良はそんな見て分かるところだけではない。静粛性を向上させようと、ドアの内側にポリエチレンフィルムや合成ゴムシートを追加。ドアの閉まり音を高めるために、リアドアのアウターパネルにウェザーストリップを追加してみたり、ドア枠にスポンジを加えてみたりと、かなり地道な改良を施している。この効果を知ろうと、新旧でドアの閉まり音を比較。すると、甲高い音を立てながらバタンと閉まっていた旧型に対し、新型は“パフッ”という低音で閉まる感じ。分かるかしら?(笑)。言葉にするには難しいが、とにかくかなり違うのだ。

 また、ドア表面を小突いてみれば、中身が詰まったような音を感じることができ、旧型とは明らかに違うことが伝わってくる。ちなみに、ここで紹介したのはほんの一例で、吸音材、制振材、ダイナミックダンパーの追加は、実に30点以上にも及ぶというから恐れ入る。こんな細かいことを、よくもまあ積み重ねたものだと感心せずにはいられない。

G Premium Packageのインテリア。今回の改良では、プレミアム感を高めるべくメタリック感のあるブラックウッド調の加飾や光飾アクセントを施したインパネ&ドアトリムオーナメントパネルを採用するとともに、シート表皮やステアリングに使われるレザー素材を変更。メーター内に備わるマルチインフォメーションディスプレイでは「ポジションインジケータ」が新たに追加された
G Navi Package/G Premium Packageに標準装備される7インチWVGAディスプレイ メモリーナビゲーション「MMCS」では、駆動用バッテリーやエンジン、タイヤにおけるエネルギーの流れを確認できるほか、EV航続可能距離、電力消費量などPHEVに関するさまざまな情報を見ることが可能

 こうした真摯な姿勢は走りに対しても行われている。違いはボディーとサスペンション、さらには駆動力配分制御に至るまで、あらゆる領域で改良が施されているというのだ。狙いはハンドリングの正確性を高めることと、乗り心地の質感向上である。

 まずボディーでは、入力を正確にボディーに伝えようとサスペンションの取り付け部付近の剛性アップが行われている。フロント側はバルクヘッドからストラットタワー上部へかけての部分と、フェンダーアーチ後部に斜めのガセット補強が行われている。一方、リア側はフェンダーアーチ内側にガセットが追加され、サスペンション上部の取り付け位置がたわまないようにしているところがポイントとなる。その上で、新作のフロントクロスメンバーを与え、サスペンション設定を変更。リアショックはシリンダー径をφ25mmからφ30mmに引き上げていることもトピックの1つだ。おかげでシャシー側の余裕が生まれたことで、駆動力配分は以前よりもリア寄りにセットすることが可能になったのだという。

 このほかプラグインハイブリッドEV制御の最適化や、エンジンのフリクションロスの低減により、ハイブリッド燃料消費率(JC08モード)は従来から1.6km/L向上の20.2km/Lを達成。充電電力使用時走行距離(JC08モード)は0.6km/L向上の60.8km/Lとしたところも見どころだ。

PHEVとともに、ガソリン車でも改良を実施。ポイントはエンジン制御とCVT制御の協調制御を最適化したところにある。CVTはエンジン回転と車速をリニアに連動させたことが特徴的で、グッとアクセルを踏み込んでもエンジン回転が簡単に跳ね上がることはなく、トルクで車速を重ねて行く仕上がりをしている。結果、燃費は直列4気筒SOHC 2.0リッター搭載車で0.8km/Lアップの16.0km/Lを達成。直列4気筒SOHC 2.4リッター搭載車では0.2km/Lアップの14.6km/Lを実現している(ともにJC08モード燃費)

乗り心、静粛性などが確実に進化

 そんな新生アウトランダーPHEVに乗ってみると、たしかに質感向上は五感に伝わってくる。触り心地にソフトさが備わったステアリングには、確実な路面からの反力が伝わり、意図した通りにクルマを動かしやすくなっている。これなら例え低μ路であっても、インフォメーション性能は高まり、より安全に駆け抜けることができるだろう。以前はどこかステアリングに伝わる路面の感覚が希薄なところがあり、正確性が薄かったことは比べてみるとよく理解できる。それでいてアシがハードにされた感覚はなく、むしろソフトに入力をいなしている感覚に溢れている。よりユッタリと、けれども狙い通りに動く感覚はなかなかだ。ハコが強くなって、足がきちんと動くようになったとでも言えばよいだろうか。

 特にリアまわりの乗り心地については以前とは雲泥の差で、車格が引き上げられたかのような余裕が生まれている。残念ながらリアへの駆動力配分が引き上げられたことは、即座に感じることはできなかったが、これは低μ路で機会があれば試してみたいところ。スロットルでクルマの姿勢を操れる感覚が得られているそうだから、楽しみなところ。ボディーやシャシーの感触も確かなものがあるから、きっとコントロール性も引き上げられていることだろう。

 一方で静粛性については、特にEVモードになった時に感じられる。クルマから発するモーターやインバーターの音も排除されている感覚があり、とにかくスッとクルマが動く感覚が高まったところがイイ! PHEVはエンジンがかかっている時はもちろん、それ以上にエンジンが停止した時にこそ静粛性が重要になる。ガソリンエンジン車なら、エンジンの音でかき消されてしまうものが、そのままダイレクトにクルマに進入してしまうからだ。だからこそ今回のような地道な努力があったのだろう。その回答には確かなものがあったと肌で感じることができた。

 これら以外にも、誤発進抑制機能をメーカーオプション設定したり、マルチアラウンドモニターをMグレードを除く全車に標準装備したりと、充実極まりない進化を果たした新型アウトランダーPHEVには、三菱自動車の本気が詰まっているように思える。ランエボを最後の最後まで進化させようと躍起になっていたあの精神は、今このアウトランダーPHEVに脈々と受け継がれているのである。

G Premium Packageでは、駆動用バッテリーの電力を車載コンセントから最大1500Wまで出力でき、非常時等の際に家電製品を使える100V AC電源を標準装備。有事の際に電力を使えるのもまた、アウトランダーPHEVの魅力になっている
こちらは新型アウトランダーPHEVをベースにしたクロスカントリーラリー出場モデルのレプリカ。10月22日~24日ポルトガル東部のポルタレグレ県で開催される「バハ・ポルタレグレ500」に出場する。ベース車両からPHEVシステムの高出力化や、ツインモーター4WDの専用セッティングなどを実施。ロールケージなど安全装備も追加されている

Photo:安田 剛

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。