インタビュー

日本で開発、インドで生産 日産の新型SUV「マグナイト」について専務執行役員 ギョーム・カルティエ氏に聞く

インド市場における日産の現状、これからの戦略

新型コンパクトSUV「マグナイト」

 日産自動車は10月21日(現地時間)、インド市場に向けて小型SUVの「マグナイト」を発表。日産は事業構造改革計画「NISSAN NEXT」において、アフリカ・中東・インド市場でこれからの4年の間に新型車8車種を投入すると発表し、マグナイトはその1台と位置付けられている。

 そこで、インド市場においてこのクルマがどのくらい受け入れられそうなのか、そもそもインド市場はどのような特徴があるのかについて、日産自動車 専務執行役員であり、アフリカ・中東・インド・ヨーロッパ・オセアニアマネジメントコミッティ副議長、マーケティング&セールス、AMI(アフリカ・中東・インド)社長のギョーム・カルティエ氏に話を伺った。

クオリティオブセールス向上を軸に

日産自動車株式会社 専務執行役員で、アフリカ・中東・インド・ヨーロッパ・オセアニアマネジメントコミッティ副議長、マーケティング&セールス、AMI(アフリカ・中東・インド)社長のギョーム・カルティエ氏

――まずインドの道路事情について教えてください。例えば舗装路が多いのか悪路が多いのか、また渋滞が激しいなど他国と比べてどのような状況なのでしょうか。

ギョーム・カルティエ氏:インドというのは非常に巨大な国で色々な種類の道路があります。例えば大都市の場合は非常に混雑していますし、一方で田舎もありますので、ある意味日本に似ているかもしれません。特徴的なのは自動車専用道路、高速道路が6万5000kmもあるのです。インフラとしてはまずまず整っている方だと思います。

――そのインドにおける日産のポジショニングを教えてください。

カルティエ氏:現在の市場占有率シェアは十分ではありません(2019年度別乗用車国内販売台数で0.6%。JETRO調べ)。しかし、市場の動向は日本と全く違う測定方法なのです。インドでは卸売ベースで測定しています。つまりお客さまに何台販売したかではなく、ディーラーに何台卸したかという台数で測定しているので、厳密に市場の需要は測れていません。確かにシェアは低いのですが、われわれはクオリティオブセールス、すなわち販売の質を向上させることに取り組んでいます。従って、確かにシェアは限られているのですが、クオリティオブセールスは向上していると考えています。

――直近のデータでは、他メーカーの卸売ベースではコロナ禍の影響から徐々に脱出しつつあるようです。それに対して日産はいまひとつ伸び悩んでいるように見受けられます(2019年9月の1433台に対し、2020年9月は780台で45.6%減と最も下げ幅は大きい。一方ルノーは+5.5%など。JETRO調べ)。そのあたりはどのように考えていますか。

カルティエ氏:クオリティオブセールスの向上に向けて集中的に取り組んでいますので、ディーラーに対して台数を押し込みすぎることは避けたいと思っています。従って、われわれは市場の需要に合わせて供給していると理解してください。というのは、在庫管理に気をつけないと生産上の問題が発生し、キャッシュフローにも悪影響を及ぼしてきますので、マネージメント上それがネックにならないように注意しているのです。

 特にコロナウイルスに関しては気をつけるべきリスクがあります。確かにたくさん台数を生産するのは簡単です。しかし、それらを卸売りして、もし再びロックダウンなどが実施された場合には生産を直ちに止めなくてはなりません。従って円滑に供給し、かつバランスをとりながらマネージメントしています。

――コロナ禍においてインドの自動車市場はどうなっていますか。

カルティエ氏:コロナウイルスの環境下において、状況は非常に厳しいです。ロックダウンが一部あったりもしましたが、徐々に解除しつつあります。そこで、まずは人間、従業員の安全第一を最優先事項としています。次にパートナーの対応です。生産活動を行なっていますので、この安全も確かめなくてはなりません。また、サプライヤーが部品供給をしてくれていますので、われわれもクルマを作り続けられるように部品供給の対策をしなければいけないでしょう。そしてパートナーであるディーラーが大丈夫かどうかということも気をつけていかなければいけません。

 インドは巨大な国ですから、その中をサブ地域として分けて考えていかなければいけません。例えばチェンマイはこういう状況だからこのように対応していく。ムンバイだったらこうというように、状況に応じてオペレーションを継続していくということが大事であり、これが日産の取り組みなのです。

 そういった優先順位をつけながら、そこで大事なのは政府とともに連携をとって状況把握に努めるということです。例えば物流がどうなっているのか、どこの地域がロックダウンされて物流が止まっているのかなど、そういったことを行政と密に連携してできるだけ生産に支障のないように営業を続けてきています。

 そしていまはディーワーリー(ヒンドゥー教のお祝い)のシーズンが始まっており、販売がピークに差し掛かろうとしています。このシーズンで市場動向を見極めれば、中期的な予測がつきますので、確かにGDPも今回のコロナで減少してしてはいますが、この時期で動向を見極めていきたいと思っています。

インドのニーズとマッチしたマグナイト

マグナイトは力強いパフォーマンス、目を引くエクステリア、先進テクノロジーを兼ね揃えたSUV。インドでは日産初となる全長4m以下の小型SUVとなる

――現在インド市場においてはどういったタイプのクルマが売れているのですか。

カルティエ氏:まずはインドのお客さまについて理解を深めてもらう必要があります。インドでは数多くのお客さまが初めてクルマを買う方たちです。ここが最も日本と違うところです。そういった初めてクルマを購入するお客さまは、家族のニーズに対応したクルマや、初めてのモビリティとしてのニーズに対応したクルマを求めています。

 次に買い替え需要というものも確かにインドにはあります。ここで大事なのは、その買い替えをする人の中には自分が人生において成功をしている、つまりステータスシンボルを自分のクルマを使って表現する方々もいらっしゃるのです。そういったことからインドでは常に鮮度の高いクルマが求められ、新しい技術や新しいモデルを次々と導入していかなければいけません。つまり、躍動感あふれる市場の需要に対して応えていく必要があるのです。

 こういった市場のニーズに応えられるクルマがどのようなものかというと、やはり小さめのクルマや中型サイズです。市場においてもAセグメントやBセグメント、そしてB SUVなどの割合が非常に増えています。

 ですから、われわれはこのマグナイトを投入できて非常にワクワクしています。マグナイトはまさにいまお話をしたニーズにぴったりのクルマです。B SUVであり、しかも鮮度の高い全く新しいクルマですから。日本のDNAも兼ね備えており、日本で設計されてインドで生産されています。本当に心を打つ、心惹かれるストーリーができていると思います。

マグナイトは新型1.0リッターターボエンジンを搭載するとともに、205mmの最低地上高を備えた。ヒルスタートアシストや前後のバンパー下部に装着されたシルバーのスキッドプレート、50kgの耐荷重性を備えたルーフレールに加え、先進安全技術「アラウンドビューモニター」などを装備。最小回転半径は5.0mとした

日本で開発、インドで生産

――日本のDNAを兼ね備えているおっしゃいましたが、これは具体的にいうとどういうことでしょうか。

カルティエ氏:まずはこのマグナイトは、日本人が日本でデザインしたクルマです。実際に私自身がマグナイトを初めて見たのは、神奈川県厚木市にある日産テクニカルセンターでした。本当に新しい技術を搭載し、日産の伝統、日産のDNAを表現しているクルマだとそこで感じました。特に日本のメーカーが作ったクルマというのは品質にも定評がありますので、これも力強いメッセージになるでしょう。

 さらに幸いなことに、この7月に横浜のニッサン パビリオン(期間限定のブランド発信拠点。10月23日に閉館)において新しい日産のブランドロゴが発表されました。そしてこのマグナイトにもこの新しいロゴが装備されるのです。ですから、日産で始まった新たなものがマグナイトにも適用されているということですから、これもストーリー上とてもよいものだと思っています。

 このクルマを手がけたデザイナー、チーフビークルエンジニアも日本人です。そしてこのクルマを生産するのはインドなのです。すなわち、日本らしさを実現しているクルマをインドで生産するという大きなストーリーが備わっており、これを強く語っていきたいですね。

室内では7インチTFT液晶のドライブアシストディスプレイを備えたほか、センターコンソールには8インチのフルフラッシュタッチスクリーンシステムを装備し、タイヤ空気圧モニターや360度カメラによるコーナーナビゲーションなどを表示可能。ラゲッジルーム容量は336L

――そうするとインドの人たちから見ると、日本で設計されたりデザインされたりしていることは大きな魅力に繋がるのですか?

カルティエ氏:そうです。これは日本のクオリティが実現されているということが1つ。そして日産らしい、本当の日産が表現されているということもプラスになります。

――本当の日産とは?

カルティエ氏:実際にこのクルマを前から見ると新しいロゴが付いていますよね。そしてこのデザインはまさに日産ファミリーを表しています。例えば、マグナイトと同時にインドで販売しているキックスを並べてみると、すぐにこのマグナイトは日産車だと分かります。本当に日産らしいクルマです。ですからこれが日産のDNA(本当の日産)を表現しているという意味です。先ほどお話したマグナイトを初めて見たときに他のクルマも並んでいたのですが、あ、これこそ日産だ、これこそ私たちのクルマだと本当にひと目見て分かりました。

7月の第41回バンコクインターナショナルモーターショー2020で公開された新型「キックス」

 クルマを見たら好きか嫌いかを判断するでしょう。そして好きだと思ったら中身、技術を見ていきます。その技術を見てもまさに日産ならではです。例えば360度アラウンドビューモニターも日産の汗と財産です。この日産の財産、強みがマグナイトに適用されている。これも第一に日産らしいポイントです。

 また、このクルマはオートマチックギヤボックス(CVT)を採用しています。これまでインドではMTが主流でしたが、徐々にATの比率が上がってきており、現在は約20%を占めています。このCVTというのも日産らしいところですね。さらにクラストップの燃費もあります。こういったさまざまな装備が日産らしいもので、そういった装備がインドに投入されてくるのです。

CVTはゲームチェンジャー

新型マグナイトは日産の栃木試験場で開発を行ない、インドで生産する

――マグナイトにはトルコンタイプのオートマチックではなくCVTが採用されました。その点はインド市場でどのように受け止められるとお考えですか。

カルティエ氏:私はとても自信があります。というのは、日産はこれまでCVTで長い経験を積んできており、これまでにおよそ1500万台を販売しています。このCVTのおかげですごくスムーズに加速するというパフォーマンスが実現できているのです。これはインドの街乗りにピッタリ、まさにストライクゾーンです。この徐々にトルクが上がっていくすごくスムーズなドライビングは、まさにゲームチェンジャー的なものだと考えています。

 また、インドではATはもっと大型車に装備されています。しかしマグナイトはB SUVですから、みんなが手の届くようなクルマなのです。そのクルマにATが搭載され、しかも適正な価格で提供されるのですから、初めてクルマを買うお客さまにとっては、優れたデザインのみならず、日本の品質を実現したまさに素晴らしい機能を備えたクルマが手に入るわけです。

――そうすると、このマグナイトはインド市場においてユーザーニーズをしっかりと捉えたクルマに仕上がっているということですね。

カルティエ氏:そうです、かなり自信があります。理性的に見てこのクルマは凄くマッチしていると思います。まさに日産のモデルで日本のデザインや技術が搭載され、アラウンドビューモニターやCVTも搭載されているのですから。

 さらに大事なのは、お客さまがこのマグナイトを見てどう感じるかということです。われわれは7月にプロトタイプを検証し、その後発表にこぎつけたのですが、本当に大好評を得ています。ですからマグナイトのポジショニングは十分にお客さまに理解していただき、お客さまをワクワクさせていると私は確証しています。

――そのユーザーは初めてクルマを買う人たちがターゲットになってくるのでしょうか。

カルティエ氏:私としてはどのようなお客さまも大歓迎ですよ(笑)。主に2つあると思っています。1つは初めてクルマを購入するお客さまです。本当に鮮度の高いB SUVですから、このようなお客さまに購入していただけると大変嬉しいですね。普通の“通勤用のクルマ”ではないんだぞ、というクルマに仕上がっていますから。

 次に買い替え需要のお客さまです。従来はBハッチバックなどを購入されていたお客さまがB SUVへの乗り換えや、ダウングレードする方々にも購入していただければと思います。実際にそれぞれのお客さまの割合がどうなるかは分かりませんが。

いまある武器で結構幸せ

NISSAN NEXT: From A to Z(1分11秒)

――日産は事業構造改革計画「NISSAN NEXT」において、アフリカ・中東・インド地域に今後4年間で新型車8車種を投入すると発表しました。それに対する期待と欲しいクルマの要望があれば教えてください。

カルティエ氏:このマグナイトはそのうちの1台ですので、日産はグローバルで発表し約束した通りに実行に移しているという証拠です。これは信頼感という意味でも重要なことです。

 そしてインドにはマグナイトに加えてキックスもあります。キックスにもCVTが装備され、新しいパワートレーンであるターボチャージャーも搭載されますので、2台でより市場をカバーできるでしょう。

 まずマグナイトは、非常に鮮度が高く市場に対応した完璧なインド市場のためのソリューションです。次にキックスもありますので、これら2つのクルマで売れ行きを見て成功するかどうかを見極め、その上で今後のラインアップの拡充を検討したいと思っています。

――カルティエさんご自身としてはこんなクルマが欲しいという要望はありませんか。

カルティエ氏:なかなか文句は言えません(笑)。なぜならNISSAN NEXTで8車種も発売すると約束してくれていますので、そんな中で内田社長(日産自動車 代表執行役社長兼最高経営責任者[CEO]の内田誠氏)やグプタさん(日産自動車 最高執行責任者[COO]のアシュワニ・グプタ氏)に「もっとくれ」とはなかなか言えません。ですから、いまあるものでまずは頑張って成功を果たさなければならないのです。そして、いまある武器で私は結構幸せです。

 正直に言って、コアモデル戦略はすごくいいものだと思っています。この戦略は市場に適した商品を出すということです。もっとハッチバックが欲しいとかB SUVが欲しいとかいうこともできるかもしれませんが、それではダメなのです。やはり優れたB SUVで、例えば2つのエンジン(ターボとノンターボ)を揃え、オートマチックトランスミッション(CVT)もあり、最新技術も装備されているこのクルマで成功する。これでかなり市場の大きなところをカバーできるでしょう。そして、実際に業績が向上すればもっと武器をくれるというサイクルだと思っています。