深田昌之のホンダ「N-VAN」で幸せになろう

第3回:N-VAN用のスタッドレスタイヤ選び

連載第3回はスタッドレスタイヤについて

 ようやく街で「N-VAN」を見かけるようになってきた。10月の時点で1万台くらい納車されたようなので、12月には2万台くらいはいっているのだろうか? まあ、なんにしろホンダさんには生産を頑張っていただき、納車を待っている皆さんにこの「使える道具」をなるはやで届けていただきたい。

 さて、自分のN-VANだが、ひと月にだいたい2000kmのペースで走っていて、12月後半の時点で走行距離は6000kmを超えている。N-VANの中では間違いなく距離が伸びているほうだと思うが、ここまでトラブルや不具合は1度もない。取材の仕事は時間厳守なので、機材車のトラブルで遅刻というのは絶対に避けたい。そんなことからも個人的にこの点はとくに評価したいところだ。

 燃費に関しても、6000km走ってエンジンに当たりが付き、乗り方的にも落ち着いてきたであろう状態で14~16km/Lが普通。エアコンONが基本で、アイドリングストップはOFFにすることが多く、仕事の移動ではだいたい大人1人分ぐらいの重さの機材が乗る。走るペースは一般道では流れに合わせたもので、高速道路では主にACC(アダプティブ クルーズ コントロール)を使うので80~100km/hペース。そんな感じの乗り方で平均してこの数字。660ccターボの4WD車としてはわるくない気がする。

買う前は長距離移動が多いので「軽貨物車で大丈夫か?」という不安はあったが、N-VANはまったく問題なし。ただ、自分のN-VANはターボモデルなので、今後は自然吸気車を借りて長距離ドライブを試してみたい

やっぱりスタッドレスもバン・小型トラック用じゃなきゃダメなの?

 では、ここからが本題。この時期といえばスタッドレスタイヤへの履き替えのタイミングである。降雪や路面凍結がある地域はもちろん、都内でもタイヤ販売店やガソリンスタンドは12月になるとスタッドレスタイヤへの履き替えで混雑する状況だ。

 自分も毎年、この時期にスタッドレスタイヤへの履き替えを行なってきたが、N-VAN用のスタッドレスタイヤはまだ用意していない。そこで新しく購入することにしたのだけど、N-VANは軽貨物なので標準装着のタイヤはバン・小型トラック用タイヤとなっている。そのため、乗用車用タイヤでは外径や幅が同じでも車検に通らないので、スタッドレスタイヤもバン・小型トラック用を選ぶ……。それは分かるのだけど、スタッドレスタイヤの種類は乗用車用のほうが圧倒的に種類が豊富で高性能を謳う製品も多い。それだけに「冬の間だけだから乗用車用でいいかも」と考えたりした。

 でも、N-VANは自分と同じく乗用車からの乗り換えが多いと思うので、スタッドレスタイヤ選びの時に同じような疑問を持つ人は多いはず。それならいい機会なので、タイヤ購入を兼ねてプロからのアドバイスを受けることにした。

N-VANは軽貨物車なのでタイヤもバン・小型トラック用。これをスタッドレスタイヤへ履き替えるときはどうすれば? それを今回聞いてきた
タイヤを買いに行ったのは、東京都江東区枝川にある「コクピット豊洲店」。所在地は東京都江東区枝川1-2-3
対応してくれたのは店長の鷲頭潤一さん。スカイライン GT-R(BNR32型)に乗るクルマ好きな方だ

 以前のクルマで履いていたスタッドレスタイヤがブリヂストンの「ブリザック」だったので、N-VAN用もブリヂストンで探すことにしたが、乗用車用と比べるとバン・小型トラック用のスタッドレスタイヤは種類が少なく、N-VANに合う12インチとなると「ブリザック VL1」「W300」という2種類になる。そこでまずはブリザック VL1とW300の違いを鷲頭店長に伺った。

 ブリヂストンのスタッドレスは、「安全・安心なドライブを楽しんで頂きたい」ために、氷上・雪上性能を重視し開発するのが基本。ブリザック VL1とW300の発売時期は同時期であり、一部サイズで重なるが、ターゲットは明確に分かれていた。まずW300だけど、これは「軽商用車用」として開発されたもので、「スタッドレスタイヤとして必要な基本的な性能(氷上・雪上性能)は持っている」スタッドレスタイヤ。

 次にブリザック VL1だけど、こちらは名前に「ブリザック」が付くのがポイント。ブリザック VL1は「軽商用車だけでなく、多くのさまざまな商用車」を対象に開発され、乗用車用スタッドレスタイヤ同様に氷上性能をさらに高めた作り。使用しているゴムも「LT(ライトトラック)専用メガ発泡ゴムII」という新配合ゴムで、これは路面温度ごとにゴムの硬さを最適化する性能があるので、雪のない道では高い走行性能を確保。そして氷雪路になるとゴムの柔らかさによりトレッドが路面に密着し、氷上での高いグリップ力を確保できるというものだ。

 また、このタイヤは前作の「ブリザック REVO 969」で要望が多かった摩耗ライフを伸ばすことも実現している。

これが「ブリザック VL1」。デビューからちょっと経っているが、凍結路に強い作りで軽貨物を仕事で使う人からの支持は高いという
ブロック高は乗用車用より高めという。摩耗しにくいのもこのタイヤの特徴
サイズは145 R12と細い。奥に並べた「ブリザック VRX2」は195/65 R15だが、こんなに違う

ポイントは「最大負荷能力」の違い

 こうした違いを聞くとブリザック VL1を選ぶほうが正解ということは分かるが、N-VANのタイヤサイズは145/80 R12なので、乗用車用のスタッドレスタイヤも(車検には通らないが)履こうと思えば履ける。それにバン・小型トラック用より乗用車用のほうが高性能なイメージもあって魅力を感じる。それだけに、乗用車用のブリザックを履くという選択肢は捨てきれない。そこで今度はこの点を聞いてみた。

 この問に対して鷲頭店長は「乗用車とバン・小型トラックではタイヤに掛かる荷重の設定も違いますし、それに伴って空気圧の設定も違います。つまりN-VANも履いているバン・小型トラック用タイヤは、車体の重さと高い空気圧に耐えられるように作られているので乗用車用タイヤとは作りがそもそも違っています。だから比較できるものではないのです」と語った。

 なるほど、確かにそうだ。最大負荷能力や空気圧の設定はタイヤの設計において核となる部分だけに、そこの前提が違っては比較の対象ではない。

 では、例えばN-VANに乗用車用のスタッドレスタイヤを履かせて、空気圧のみN-VANの設定に合わせたとする。N-VANの空気圧はフロントが280kPa、リアが350kPaだが、同じ空気圧で乗用車用「ブリザック VRX2」を使用してもバン・小型トラック用タイヤの最大負荷能力を下まわる。タイヤの作りがその空気圧に適応していないので、仮に空気圧を上げたとしてもバン・小型トラック用タイヤの最大負荷能力には満たず、負荷能力不足による事故が起きかねない。また、空気を入れすぎればおそらく高内圧によって跳ねるような乗り心地になったり、トレッド面がキチンと路面に接地しなくなる。すると氷雪路だけでなく乾燥路、雨天の道路などすべてのシーンでグリップの低下が起きるだろう。つまり、乗用車用スタッドレスタイヤのほうが高性能だとしても、軽貨物車用の空気圧で乗るとそれが生かせないばかりか、危ない状態になることもあるというわけだ。

N-VANのタイヤ空気圧はフロントが280kPa、リアが350kPaとなっている。この空気圧は最大負荷能力に関わる重要な数値
最大積載量350kgのN-VAN。今回初めてタイヤを外したが、そこで見えたリアサスに驚き。ダンパーのストロークが非常に長く、スプリングは軽商用車とは思えないほど線径が太く自由長も長い。これがあの乗り味と荷物を積んでも姿勢が変わらない秘訣だ

 空気圧を下げたとしても、1人か2人で乗って重い荷物も積まないならタイヤ的には問題ないと思うかもしれないが、最大積載重量に対して最大負荷能力が不足している(1輪で約75kgぐらい不足する)のは事実であり、そもそも車検には通らないチョイスだから、タイヤ販売店では装着してくれなかったり、ディーラーで整備を断られる可能性もある。

 そんなところから、自分はブリザック VL1の145 R12 6PRをチョイスした。ちなみにこの6PRというタイヤの耐荷重表示は「プライレーティング」というもので、6PRだと1輪の最大負荷能力は450kgとなる。

 純正タイヤはロードインデックス表示なので表記は違うが、最大負荷能力は同じく450kgなので車検も問題ない。

 それに何より、やはりキチンとマッチするタイヤを使うことはシンプルで気持ちいい。正直なところ、けっこう直前まではブリザック VRX2に興味を持っていたけれど、これを使うと中途半端にハッキリしないところが出てきてしまう。自分としてはN-VANはそういうことを抱えて乗るクルマではない気がするので、鷲頭店長の話を聞くうちに「らしくないからヤメ」という気持ちになったというわけだ

 また、W300を選ばなかった理由だが、これはやはり性能の差を考えてのこと。確かに実売価格ではW300が安く、4本セットではブリザック VL1と比べて約1万円前後も安くなるのだけど、雪道は走行不能になったり事故も起こしやすい環境なので、無事に走り切れるかどうかはタイヤの性能に大きく依存する。N-VANを含む軽自動車は燃料タンクの容量が少ないので、給油のタイミングを逃すと残り10L以下になることは多い。そこに2018年の初頭でニュースになったような「大雪立ち往生」などにハマるとガス欠の心配もある……。そんなことを考えると、1万円前後の差は許容するべきということからブリザック VL1になったのだ。でも、高い方を買ったとは言っても交換工賃を含めて4万円ほど。12インチ万歳なのである。

窒素ガスを入れてもらった。酸素も混じる空気と比べ、窒素だけの方が抜けにくいという特性がある
タイヤを組む時はビードの部分にビードワックスを塗るが、コクピット豊洲店ではビードの表だけでなく裏、そしてホイールにも塗る。こうした方が組み付ける時にタイヤにかかるストレスがより少なく済む
コクピットとタイヤ館では「センターフィット」という装着法を取り入れている。これはホイールを車両に取り付ける時にセンターを確実に出すためのもの。軽くナットを締めた状態で微振動をタイヤに与えながらナットを締めていくと、ハブボルトとホイールの穴のセンターがきっちり出せる。ホイールによってはハブボルトが通る穴がハブボルト径に対して少し大きめなものもあり、そんな時にはとくに有効となる
ホンダ純正ホイールはナット穴の台座が球面でナット側も球面だ。ホイールを別に用意する場合はナットの選択に要注意。ホイール側の台座とナットの形状が合わないといくら締めてもトルクがしっかり掛からないので外れる恐れもある。ホンダ純正ホイールを使うならナットも純正。社外ホイールなら確認の上、ホイールに合うテーパーナットなどを別途用意しよう
まだ都内でしか乗っていないが、タイヤ自体は標準装着の「エコピア」よりしっかりしている印象で、乗りにくさは一切ない。ブロックパターンでエアポンピング音が出にくいのか、音も意外と静か。関東近県に積雪があったら試走に行きたい
次回はN-VANならではの使い方や装備の話もしたいと思う。これは後席を格納してアウトドア用テーブルとイスを置いた「移動オフィス」(?)形態。即上げの原稿や渋滞回避のついでに写真整理とか、すでにかなり使っている。けっこう快適に作業できて、なぜか集中もできる

深田昌之