深田昌之のホンダ「N-VAN」で幸せになろう

第2回:約5000km乗った感想です

 夏の終わりに納車された本田技研工業「N-VAN」。走行距離はもうじき5000kmというところまで伸びている。まあ、取材の仕事はアチコチに行くことなので、走行距離が伸びるのは当然のこと。過走行は宿命(?)でもあるのだ。

 でも、距離を走っているぶん、N-VANの乗り味とか機能とかをいろいろと体験しているので、今回はその点について紹介していきたいと思う。

先進機能を使いつつ、100km/hペースがちょうどいい

 筆者のN-VANは「+STYLE FUN・Honda SENSING」の4WDターボモデル。カメラ機材や撮影道具やらを積んで、都内の渋滞から高速道路、郊外の道に峠道など、いろいろな場所を走っているという感じだ。

 では、まず走行性能について。N-VANに搭載するエンジンは最高出力64PS、最大トルク10.6kgfmというスペック。出力的には軽自動車のターボとして一般的な数字だが、トルクは他より大きく、しかも発生回転が2600rpmと低回転から力強い特性。

 加えてトランスミッションはCVTなので、走行時は最大トルク発生回転数あたりをキープ。この組み合わせのおかげで、車重が1tを超えている軽自動車ながら街中はキビキビ。減速から加速に移る際も、アクセルをあまり踏まずとも加速感がスムーズでメリハリの効いた走りができる。また、キープする回転域が3000rpm以下と低めなので、エンジンノイズの発生が少ないのもいい点だ。

速くはないが普通に乗るぶんにはエンジンの性能的な不満はない。低速トルクがあるので、アクセルを軽く踏むだけでほかのクルマとの流れに乗って走れる
N-VANのトランスミッションはCVT。機構的に変速ショックがないので、+STYLEのように個人向けのクルマにはATより合っているかもしれない。ただ、希望を言えば渋滞時やちょっとした速度調整用にシフトダウン側だけでもマニュアル操作ができるといいのだが……

 次に高速道路走行について。軽自動車も制限速度は100km/hとなっているが、N-VANの場合、まさにそこが巡航速度としてちょうどいいところ。この速度ならエンジン回転数は3000rpmと回りすぎることもないし、車内の騒音もほどほどで助手席の人との会話も普通の声のトーンでできる。そこで、高速道路に乗ったらACC(アダクティブ・クルーズ・コントロール。Honda SENSINGにある機能)を100km/hにセットして、走行車線を80~100km/hで走るトラックの後ろに付くのがいつものパターン。トラックはペースが安定しているので後ろは走りやすいし、カーナビの到着予想時間もほぼピッタリになる。

 なお、ACCの車間距離は「短」「中」「長」「最長」の4段階で調整できるのですべて試してみたところ、道路が空いているときは「長」がちょうどいいと感じた。ちなみにマニュアルによると「長」は車速が80km/hのとき車間距離が約47mで、100km/hでは車間距離が約59mとなっている。

 次にクルマがそこそこ多い状況だけど、このときは少し車間を詰めた方が「流れ」との協調性が出ると思うので「中」にすることが多い。この設定だと車速が80km/hのときの車間距離は約33m、100km/hでは約40mとなっている。

 あと、N-VANにはACCのほかにLKAS(車線維持支援システム・Honda SENSINGにある機能)も付いているが、これもかなり使えるものだ。

 というのも、背高ボディや小径タイヤが影響しているのか、高速道路で路面のうねりがあるような状態ではふらつきやすい。そのため、ステアリングはしっかり握ったほうがいいし修正舵も多くなる傾向だけど、ここでLKASをONにするとクルマの動きにグッと落ち着きが出て、ステアリングは軽く握る程度でまっすぐ走行できるようになる。

 LKASはACCと併せて使うと運転がかなり楽になるので、高速道路を走るときにはこれら機能をONにするのが筆者的には基本。軽バンというと長距離移動がキツそうなイメージはあったりするけど、Honda SENSING付きのN-VANはそうでもなかったりするのだ。

ステアリングの左側はオーディオやBluetooth接続のスマートフォン操作などのスイッチ
右側に運転支援機能系のスイッチがある。ACCは「MAIN」を押すと起動。丸いスイッチの上の「RES+」を押すと設定速度アップ。下の「SET-」を押すと設定速度ダウン。右を押すと車間距離の設定が行なえる。LKASのスイッチは右下
マルチインフォメーションディスプレイの上にACCやLKASの表示が出る。クルマの絵の後ろのコマが車間設定の表示。「短」「中」「長」「最長」の4段階ある。これは中の設定
車間設定を「長」にするとこんな感じ。空いた道ではこの設定にすることが多い
車間設定を「中」にするとここまで詰まる。交通量が普通にあるときはこの設定。後続車から「車間を開けすぎ」とも思われないし、前走車に対してもよけいなプレッシャーをかけない距離だろう

 そして燃費。街中、高速道路を合わせた平均が14~16km/Lという数値だ。筆者としては背高ボディ&車重1t超えでターボエンジンなら「こんなもの」と思っているのでこの数字に不満はないのだが、N-VANに限らず今どきの軽自動車は燃料タンク容量が少なく、2WDのN-VANも27Lという設定。これでも少ないと思うのに、フロア下にプロペラシャフトやリアデフが付く4WDモデルは2WD車より2L少ない25Lタンクなのだ。そのため、満タンスタートから給油なしで行ける航続距離がおよそ370kmとちょっと短い。

 まあ、一般的なクルマの使い方なら問題ないタンク容量だろうけど、取材の移動では1日で300kmほどの距離を走ることが多い。すると、戻ってくる頃には残量があまりなく、次の日の航続距離が心許なくない。だから必然的に給油の回数が増えているのだが、ちょくちょく給油に行くのもちょっと面倒だったりする。でもまあ、これは仕方のないことなので慣れるしかないでしょう。

1Lあたり15kmを走るとしても、375kmしか航続距離がないのが筆者的に厳しいところ。1回の取材で100kmの移動は普通で、日帰りで往復300kmも珍しくないので、タンク容量はせめて40Lくらい欲しい
燃料警告灯が点いた時点で残量はおよそ3.7L(2WD車はおよそ4L)なので、警告灯の点灯後、約50km以内の給油が必要と覚えている

助手席の座り心地はどうなの?

 N-VANは荷物の積載性を重視しているので、運転席以外のシートは簡素である。まあ、軽バンなので後列シートが簡易的なのは納得できるとして、N-VANの購入を検討している人にとっては、床に折り畳むためのダイブダウン機能が付いている助手席もけっこう簡素な作りになっているのが気になるところだと思う。

 そこでSUPER GT 第6戦の取材でスポーツランドSUGOに移動する際、Car Watchで活躍する高橋学カメラマンに犠牲……、いやいや協力していただいて、2人で交互に助手席に乗る約400kmのインプレを行なった。

 走り終えたあとの高橋カメラマン&筆者の意見は「見た目ほどキツくない」であった。時間で言うと2時間以内ならオシリが痛くなることもなく座っていられた。

 ただし、これにはちょっとしたコツが必要だ。N-VANの助手席は座面が硬め。そこで、背面のリクライニング角度は少し多めに付けるなどして、オシリにかかる体重を分散させた方が楽だ。

 なお、助手席シートには身体をサポートする張り出しがないので、カーブにかかると助手席の人は身体がずれないようにどこかで踏ん張ることになので、それが長時間続くと身体に疲れを感じるだろう。そういう面からも2時間くらいで1度の休憩をしたほうがいいという結論だ。

N-VANの購入を考えている人のほぼ全員が気になるであろう助手席の座り心地。ずいぶん簡素だが、身長170cmくらいならダッシュボードと膝のクリアランスもある。足を前に投げ出すことはできないが、窮屈というほどでもない
こちらが身体を張ったインプレをしてくれた高橋カメラマン。われわれの実証実験では、リクライニング機能でオシリにかかる体重を調整したところ、2時間くらいならガマンせず座っていられた。とはいえ快適とも言えないので、助手席の快適性を重視したい人だとそもそもキツイというのが正直な印象
助手席の座り心地のフォローは、休憩を小まめに取ること。また、座面に低反発クッションなどを敷けば快適性は上がるだろう。身体の横のズレに関しては、腰ホールド用のクッションがカー用品店で売っているので、それを使って補助するのもアリ。工夫次第で助手席は快適にできるはずで、それを考えるのもN-VANの楽しみかも
常磐自動車道で行ったので、東日本大震災で大きな被害を受けた地域も通る。高速道路には放射線量計があり、帰還困難区域を通過するときは道路から当時のままの民家などが見える。通るたびになんとも言えない気持ちになる
荷物を積むクルマなので、いろいろ積んでもクルマの姿勢が変わらない。これはSUPER GTの取材でスポーツランドSUGOへ行く途中に撮ったもの。2人分のカメラ機材に2泊分の荷物を2列目シートとリアに積んだ状態。それでも後ろ下がりになっていないし、通常時と比べて乗り心地や直進安定性に変化はない
乗り心地に関しては街中も高速道路も不満はない。強いて言えば、荷物がまったく載っていないとリアが多少固い気もするが、不快なものではないし、跳ねたりもしない。コーナーではシート高の高さもあって、傾きがちょっと怖い気もするが、実は意外と安定している。ただ、ステアリングの角度が寝ているので、ポジションによっては切り足しにくさが出て、結果「手アンダー」が出やすいかも
ある日、リアの下まわりを覗いたら牽引フックがご覧の状態。これは何かと購入したHondaCars東京中央 調布インター店に問い合わせると調べてくれた。N-VANは「リアからの牽引はしないように」と解説書にあるので、後ろから引かれるのも、ほかのクルマを引っ張ってあげるのもNG。そこでこのような形状とのこと。でも、それならフック自体を付けなければいいと思うけど、内側にあて板を入れることで強度を増して「ジャッキアップポイント」としているということだ

深田昌之