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橋本洋平の86/BRZレース 2018年シーズンを語る「神保町フリーミーティング #09」レポート

シーズン最終戦鈴鹿サーキットに向けて波乱の各レースを振り返る

2018年10月22日 開催

 10月22日、TKPガーデンシティPREMIUM神保町で橋本洋平氏の86/BRZレース 2018年シーズンを語る「神保町フリーミーティング #09」が開催された。

 このイベントは、休日にサーキットなどで開催されることが多い自動車関連のイベントを、平日に交通の便のよい神保町で開催することで、会社帰りなどに気軽に立ち寄ってもらえるように、読者参加型の無料イベントとして企画されたもの。

 今回で9回目となる神保町フリーミーティングでは、Car Watchで「橋本洋平の『GAZOO Racing 86/BRZ Race』奮闘記」を連載中のモータージャーナリスト・橋本洋平氏が、今週末の10月27日に参戦する鈴鹿サーキットでのクラブマンシリーズ最終戦を控え、意気込みと共に2018年シーズンを振り返った。ゲストとして、橋本氏の“走りの師匠”でもありプロクラスに参戦中のレーシングドライバー 佐々木雅弘選手、橋本氏の奥さんとしてプライベートから支えるカーライフ・ジャーナリスト まるも亜希子氏の2人も参加した。

いつもは編集部のある神保町三井ビルディングで開かれる神保町フリーミーティング。今回はTKPガーデンシティPREMIUM神保町での開催となった。受付には橋本洋平氏に加え、ゲストの佐々木雅弘選手、まるも亜希子氏が並び、Car Watch誌上で募集を行ない、抽選で選ばれた読者の方を出迎えていた
編集長の谷川潔の司会で開幕!

 イベントが開会し、橋本氏をはじめ多くの参加選手にタイヤ供給をしている株式会社ブリヂストン 日本タイヤモータースポーツ・広告・イベント推進部 日本タイヤモータースポーツ推進ユニット ユニットリーダーの塩谷聡一郎氏が挨拶した。

株式会社ブリヂストン 日本タイヤモータースポーツ・広告・イベント推進部 日本タイヤモータースポーツ推進ユニット ユニットリーダー 塩谷聡一郎氏

 塩谷氏は「今シーズンは最終戦を残すのみ。ブリヂストン装着勢にとってはなかなか苦しいシーズンとなっているが、終わりよければすべてよしということで、2人のドライバーには頑張っていただきたい」とエールを送った。

 また、ステージ前には2017年シーズンにクラブマンシリーズで使われた「POTENZA RE-71R」、今シーズンからの「POTENZA RE-12D」、プロクラス用の「POTENZA RE-07D」の3種類のタイヤが用意され、「思う存分、タイヤについて語っていただき、踏み込んだ話題も期待したい」とリクエストした。ちなみに、ゲストの佐々木選手はRE-12D、RE-07Dの開発ドライバーでもある。

ステージ前には2017年シーズンにクラブマンシリーズで使われた「POTENZA RE-71R」(左)、2018年シーズンから採用となった「POTENZA RE-12D」(中央)、プロクラス用の「POTENZA RE-07D」(右)の3種類のタイヤを用意
RE-71Rは、ブリヂストン独自のシミュレーション技術「アルティメット アイ」を駆使し、サーキット走行で想定されるタイヤの動きを細部まで計測。路面と接地する面積を最大限確保するパターンを採用することで、サーキット走行で重視されるドライ路面でのグリップ力、コントロール性を高次元で両立した
RE-12Dは、専用開発されたコンパウンドを採用し、形状、パターン、構造を最適化することでコーナーリング時の接地性を向上。さらに、ドライ性能とウェット性能を高いレベルで両立した
RE-07Dは、専用開発されたコンパウンド、形状、パターン、構造を採用。ウェット性能とドライ性能の両立をさらに高いレベルで追求した

開幕戦鈴鹿。2018年シーズンから変わったタイヤの感触は?

橋本氏、佐々木選手、まるも氏が登壇して、トークスタート!

 塩谷氏の挨拶に続いて、橋本氏、佐々木選手、まるも氏が登壇し、今シーズンの開幕戦である3月末の鈴鹿戦から振り返った。まずは、シーズン開幕の大きなトピックからということで、橋本氏は「去年まで履いていたRE-71RからRE-12Dに変わり、慣れていくことにとても苦労した。なかなかいいスタートダッシュは切れなかった」と、タイヤが切り替わったことを挙げた。

 3月末のレースは、結構寒い状況だったという。橋本氏はそれまで履いていたRE-71Rについて「市街地からワインディングまで想定しているようなタイヤだったので、結構使いやすかった」とすると、佐々木選手が「一般に冷えた路面から高温時まで、かなり対応できるタイヤですね」とフォローする。橋本氏は「それがRE-12Dになると、ちょっとプロクラス寄りになるというか、考えて使わなきゃいけない」とやや困惑したことを明らかにすると、佐々木選手は「パターンも違い、少し幅が広い部分があって、若干ですが熱が入りにくい。でも、サーキット半周くらい温めれば通常のグリップが発生します。もちろん、グリップが上がることによってタイムが出ますが、どこに重きを置くかですね。グリップがあるタイヤで、コーナリング性能も上がる。でも、コーナリング性能を一生懸命に引き出そうとするより、もっといいのが縦に使うこと。強くブレーキをかけて短く止まれる、そこをしっかり理解してトラクション重視(縦)で走ると、ものすごいメリットがあります。鈴鹿ではどのコーナーも該当しますが、コーナーでブレーキを短く強くかけられる。そうするとブレーキを早くリリースできる。横で耐えられても車速を高くしてしまうと滑ってしまうので、ちょっと手前で減速して早めのアクセルONっていうのを心がけると、今までのタイヤより速く走れるはずです」と解説した。

 その解説を聞き、橋本氏は「聞くと簡単そうでしょ? そんなうまくいかないんですから、ホントに」と会場の笑いを誘った。橋本氏はRE-12Dに変わって安心感が高まったと言うと、佐々木選手が「逆に、その安心感があるから、行きすぎてるところがハッシー(橋本氏)のいいところでもあり、わるいところでもあり」と笑いを取り返した。

 まるも氏に、サポートする立場から意見を伺うと「今回はタイヤのこと以外に大事件があったんですよね」と話を膨らませた。というのも、橋本氏は開幕戦で、テストの初日からガス欠症状が解消できず、毎晩クルマをバラバラにしていたという。「それでもハッシーはちゃんと予選できたんですが、僕ができなかったんですよ。テストの時は何もなかったのに、予選でガス欠症状が出てしまった」と嘆く佐々木選手。急にそのような症状が出たのには理由があるという。

「タイヤがグリップすることで予想以上のGがクルマにかかってしまい、ロールもしますし、ロールしても滑らないからどんどんイン側が浮いてくる。そうするとどんどん燃料が傾いてしまって。普通のクルマは、ガス欠になりかけたらガタガタしてガス欠になりかけているのが分かる。でも、『86』は直噴エンジンなので、ちょっとのガス欠でも圧力が下がってエンジンが止まってしまうんです。ちょっとのエア噛みでもエンジンが止まってしまう。それで何台も止まってしまった。その中の1台が僕だった」と、タイヤのグリップが増したことによるものだと佐々木選手は語った。

 さらに、橋本氏がガソリンタンクについて「86の燃料タンクは浮き輪が左右つながっているような形状で、左側に吸い口がある。ずーっと左側に回り込むスプーンコーナーを駆け抜けると、その後で必ずガス欠症状が起きる。あの周辺で止まっているクルマが多かった」と説明。橋本氏が原因を探っていた経緯については記事に書かれたとおりだが、対策として先日、主催者から通達があったのだという。「今週末の鈴鹿のレースでは、キッチリとゲージ半分以上入れてくださいとあった。ガソリンを入れることで対策する。僕らはちょっと少なく入れすぎてたのかな、ちょっと攻めていたというところもあるんだろうなと」。

 橋本氏の鈴鹿での最終的な順位は4位。「クラッシュがあってレースが途中で終わってしまい、不完全燃焼だった。もっとスッキリできたらよかった」と橋本氏は後悔しているという。

第2戦で佐々木選手の基準タイムを初めて上まわった橋本氏。でも結果は……

スポーツランドSUGOで行なわれた第2戦について語る橋本氏

 スポーツランドSUGOで行なわれた第2戦については、「なんと人生初、佐々木選手のタイムを破ったという事件が起きまして」と湧く橋本氏。毎回レースウィークの最初に、橋本氏のクルマに佐々木選手が乗って基準タイムを作り、橋本氏はそのタイムにいかに近付けられるかをやっているとのことで、今回は橋本氏がその基準タイムを上まわる走行ができたということだ。

「全力じゃないわけではないんですけど、僕はアタックモードで行ってないんですよ」と弁明する佐々木選手。「ちゃんとすべてを感じて、アドバイスできて、しっかりいいデータを取れる走りなんですね。しっかりデータを取ってハッシーに渡して、ハッシーがポールポジションを取れればいいなと思いながら。そして1ラップしかしていません。フリー走行って30分くらいしかない中で、僕が2周とか3周とか走ってしまうと橋本選手が乗る時間が少なくなる。……って言い訳っぽいな~」と、説明する佐々木選手に、ここぞとばかりに喰い付く橋本氏。「まあまあまあ、負けは負けだから(笑)。でも、こんなコトないんで、これは1回でもあったら声高に言っとくしかない」と声のトーンを上げると、「恩を仇で返すような事してねー、ホントに」とまるも氏にあきれられるコントのようなやりとりも展開する。

 佐々木選手は冷静さを取り戻し、「元々、しっかり走るとタイムは速いなと思っていました。いつも行き過ぎているだけで、データロガーなどいろいろなところを見ていくと速いところも多くあります。ロスをしないよう走ればいいタイムが出るということは分かっていたので、この時はうまくまとまったんだと思いました」と橋本氏をほめると、橋本氏は「それを本番にやれって話なんだよね」と自虐的に返す。さらに、「冷静に走ることがいかに大事か、平常心で走ることが難しいですよね、レースって」とやや反省気味に。まるも氏は「SUGOでは前年に優勝しているので不得意じゃないはず。でも、佐々木選手と比べて体重が10kg重いので、上りがきついSUGOでは不利かとも思いますね」と切り出すと、「でも、上りがきつい分、下りは速いんだぞ!」と橋本氏が反撃。そこに「プラマイゼロじゃんかー」とまるも氏がかぶせてますます会場が沸いた。

佐々木選手と比べて体重が10kg重いというまるも氏のコメントに、橋本氏が反撃。まるでコントのようなかけ合いが繰り広げられた

 話題は笑い要素を含まない方向へ軌道修正され、橋本氏は「RE-12Dはテストで何ラップしても、ちゃんとタイムが出るのがすごい」とタイヤについて触れると、佐々木選手は「そうなんです、そこが優れている部分なんです。クラブマンの人は周回を重ねて練習するので、そこでパフォーマンスに波が出てしまうと、何がよかったのかわるかったのかが分からない。RE-12Dは常に安定したグリップ(で走れる)というのが最大のメリットだと思う」と追従する。橋本氏は「走れば走るほど、タイヤに慣れていく。いっぱい走れば、どんどん走りも安定してくる。RE-12Dはそれを訓練できるタイヤで、本当にありがたかった。でも、SUGOの結果はリタイア。他車と接触してクルマが壊れてしまった」と悔しさを表した。この接触した瞬間をGAZOOのテントで見ていたまるも氏は、「カミナリ落ちそうなんで撤退します」と先に帰ってしまったという。

 橋本氏にこのようなことが起きた際、励ますことはしないのかと聞かれたまるも氏は、「励ますどころか、熱した鉄みたいになってしまって、触れられないんです。もう、静まるのを待つしかないんですよね」とレース後の状況を告白。橋本氏をよく知る佐々木選手も「そこを直せば、本当にシッカリ速いんですよ」とわずかながらフォローする。「すみませんね。瞬間湯沸かし器って言われているんで」と恥じる様子もない橋本氏に、「近寄らないのが1番なんです」とまるも氏が冷めたひと言を浴びせた。

自走で参加した第3戦オートポリス。慣らし運転をするとしないはやっぱり違う?

 第3戦のオートポリスでは、第2戦のクラッシュの後、足まわりの部品や駆動系などパーツを入れ替えたため、距離を稼いでフリクションをなるべく落とすべく、あえて自走で参加したという。まるも氏の証言によると、出発する前数日も、夜中に1人で300kmほど走っていたとか。

 いわゆる慣らし運転であるが、やると違うのか? という問いに橋本氏は「違うのではないかと言われているのでやっている感じ」とあいまいな根拠を返答する。それを佐々木選手がフォローするお約束の流れで「機械なので、新品だとドライブシャフトやハブベアリングなど硬い部分があります。パワーがそんなにあるクルマではないので、わずかでも抵抗になるところを慣らしてあげることによって、かなりフリクションがなくなってスムーズに動いて速く走れるっていう感じです。やらないよりはマシというより、100%やった方がいい」と擁護する。橋本氏も、「そういう時にありがたいですよね。ナンバー付きで距離を稼げる」と自身の行動に自信がついたようだ。

橋本氏のコメントを佐々木選手がフォローするような流れで、トークは進んだ

わるいことの後にはいいことが!? 大事件のあった第4戦岡山

 第4戦岡山では大事件があった。橋本氏は岡山でもいい成績を残そうと事前テストに行き、岡山にある佐々木選手の知り合いの工場にクルマを預けて1度帰京。翌週、本番に向けて佐々木選手と2人で電車移動していた際に、アナフィラキシーショックで救急搬送されることになったのだ。

「記憶をなくした後のことは分からないですが、佐々木選手が僕の命を救ってくれました」と感謝する橋本氏。佐々木選手はその時の状況を細かく説明する。「新幹線を降りて在来線に乗っていた時、喋りながら隣の席でハッシーはコーヒーを飲んでたんですね。そうしたら急に喋らなくなって、『気持ちわるい』とか言いだして動かなくなってしまい、緊急停止ボタンを押して電車を止め、雨の中ハッシーをホームに寝かせました。救急車を呼んで近くの救急病院に搬送し、その時に『死んだらまずい』と思い、とりあえず奥さんに連絡しようと電話をしたら、かなり冷静で『え~、そうなんだ』くらいの感じでした」と会場の笑いを誘う。

 これを聞いた橋本氏は「毎日飲まされているサプリ。あれ、なんか入ってたのかな~」と、笑いをかぶせる。佐々木選手は「でも、僕はマジで焦ってて、会話ができないくらい意識がない状態で、救急車の中で救急隊員の方に『大丈夫ですか?』って聞いたら、『とりあえず命に別状はないと思います』と言われて。そこから、死なないということは大丈夫だと思って写真を撮り始めて……」と語り出すと、橋本氏は「ひどいですよね、救急搬送されている人を写真に撮るなんて」と、さらに会場を笑いで盛り上げた。

岡山での救急搬送という大事件も、橋本氏と佐々木選手、まるも氏の手にかかれば笑いに変わる

 橋本氏は一時、血圧が上60、下40というような危険な状態だったらしいが、そこから復活してきてICUに1泊し、翌日から練習走行を普通に始めたという。しかし、レースではまた別の問題が起こった。「予選でまたガソリンを攻めすぎちゃったんですよね。アタックラップでセクター1、セクター2で全体ベストを出し、会場が沸いていた時にガス欠症状が出たんですよ。結果、タイムを記録することができず、Bレースに出ることになってしまった。命は落としかけるわ、予選はうまくいかないわ、なんにもいいことないと思っていたら、周囲から『そんな機会もなかなかないからやってみなさい』と言われてBレースに出たら、ほぼ最後尾からスタートして優勝できた」と、橋本氏。佐々木選手も「スゴかったよね。スタートして2周目にはトップに立ってたよね」と感嘆している様子。

 橋本氏は「Bレースに参加している皆さんは、僕の瞬間湯沸かし器ぶりを知っているので、『後ろからやばいヤツが来るから避けよう』とか、そういう話もあったみたいですけど(笑)。本当にクリーンなレースをしてくれる選手ばかりで、怖い思いをすることなく落ち着いて走れたので、平常心を保てる環境でスムーズに抜くことができた」と振り返る。さらに、Bレースの優勝賞品でタイヤを1セットもらい、「なんていい週末だろう」と心変わりしたとのこと。

 佐々木選手は「本当に決勝は冷静に走れていて、コンスタントラップが速くていいレースでしたね。冷静に減速して、加速で抜くっていうことができていたんですね。毎回、そうやって走れれば……」と嫌みを交えると、まるも氏も「今まで、抜くのがヘタってみんなに散々言われていたから、それが1レースで20数台抜いたっていうのは、タダで練習させてもらったようなもんですよね」と乗っかってきた。

橋本氏と気心の知れた夫婦ならではの、キレのあるコメントをしていたまるも氏

第5戦富士は、体もレースも熱かった!

 第5戦富士は、橋本氏は高熱を出しながらレースウィークを迎えたという。時期的にも暑いレースで、「窓もそれほど開けられないし、エアコンも付けられないクルマの中なので体がキツい」と弱音を吐く橋本氏。佐々木氏も「SUPER GTなども乗らせてもらっているが、クルマの中がドライバーに優しくできているんですね。レーシングカーって意外に長距離を乗るため、人間に負担がないように作られています。86は一般車なので、スゴく暑いんです。それで30分をフルに走らなければいけない」と86の苦労を語る。

 このレースは参加台数が110台と多く、予選は3組に分けられ、橋本氏は速い選手たちがいる組に交じって予選は7位。「これだけ沈むと希望が持てない」という橋本氏に佐々木選手は、「富士は抜きやすい。日本のサーキットの中でもオーバーテイクのしやすいコースなので、『あきらめるな』って言った覚えがあります」とアドバイスした記憶をよみがえらせる。

「スタートがうまくいって2台抜き、先頭から数珠つなぎ状態で『これなら安心してバトルできるか』と考えていた矢先、Bコーナー進入時に後ろから突っ込まれたんですね。ブレーキングで抜こうとするクルマが止まりきれず意図せず突っ込むことはたまにあるのですが、この接触で冷静になれた。『今日は大事に行こう』と思えた。その後、次々と抜いて、最終的には2位に。ほかのクルマはラップを重ねるごとにタイムダウンしていく中で、コンスタントに走れた。以前聞いた話では、環境によっても違うと思うがRE-12Dはラップあたり(タイムが)0.2秒くらい落ちる計算で、それに近い感じで冷静に走ることができた」と、佐々木選手の助言を活かせた橋本氏は語る。RE-12Dは、暑さにも本当に強かったという。

タイヤが変わった当初は苦戦するものの、徐々にRE-12Dの特性をつかんでいった橋本氏

 まるも氏は「このレースは7位からの2位だから、かなり価値があるな、と。見ていて格好よかった」とほめると、橋本氏は「なんか、久々に言われた気がする」と照れる。まるも氏は「娘も『パパ、すごい』みたいな感じで見てましたね」と重ねた。

 佐々木選手も「内容的にすごいいいレースをしていた。ファイナルラップでも1台抜いている。まあ、こういう性格(瞬間湯沸かし器)なので、ファイナルラップではあきらめてしまうというか、離されてしまうとモチベーションが下がって、最後まで攻めるという姿勢より、暑いとか疲れたとかで集中力が奪われることが多いので、最後に抜いたときに、『最後まであきらめずに、自分をコントロールして、タイヤをコントロールして走った成果が出た』と思った」と褒めたたえた。

 橋本氏はステージ前に並べられた3本のタイヤを指し、「レースのスタートからゴールまでの時間って、この3本の中で、実はRE-12Dが一番速いんだよね。プロクラスのタイヤよりもタイムが安定していて速い」とタイヤの持っているポテンシャルに助けられたことを明かした。

今年はひと味違った! 第6戦十勝

 第6戦十勝だが、2017年の十勝の記事がよく読まれていたと聞いた橋本氏は、「2戦連続リタイアという前代未聞のことが起きまして、家に帰っても熱が冷めなかったっていう……。反省しています」と意気消沈ぎみに。「少し大人にならなきゃと思ったレースでした」と橋本氏は反省を重ねる。

 その1年後の十勝のレースとなった今回は、予選では4番手。「2ヒート制で、予選の時に2レース分のタイヤを2セット使えるというルール。予選が15分しかない中で2セット。自分のベストタイムが1レース目の予選順、セカンドタイムが2レースでの予選順という特別なルールだった」と複雑なルールを解説してくれる佐々木選手。2セット使えるにもかかわらず、橋本氏は使わなかったという。「アウト側2輪だけ換えて、もう1回出ていこうと。十勝は左コーナーが2か所しかない特殊なレイアウトで、タイヤが暖まりきらないのではないかと思った」と語った。

 その作戦について「15分の中でベストタイムを2回出さないといけない。他社メーカーと違って、RE-12Dは換えずに2回ベストタイムを出せる。その中で、減る方の左側だけおいしい新品タイヤに換えて、右側は暖まったそのままのタイヤでいく」と、佐々木選手も説明を追加する。「……という作戦でいったんですけど、左側だけ換えて出ていったら、またガス欠症状が出てしまった。保険で2ラップ連続して走った1ラップ目、2ラップ目が割とよくて、1レース目が4位、2レース目が3位ということになった」と、作戦が活かせなかったことを橋本氏は悔やんだ。

 決勝の結末については、「第1レースは4番手からで優勝した。フライングしてしまったかと思ってヒヤッとしたくらいスタートが大成功して、1コーナーに入るまでにトップのクルマに並ぶことができた。しばらく並走して、4コーナーでイン側についたものの加速できなかったが、立ち上がりで後ろからプッシュされて加速。ライバルに助けられてトップに立てた。人生一のスタートダッシュだった」と感懐を述べる橋本氏。

レースのオンボード映像を流し、トークをする場面もあった

 話題はスタートダッシュに移行し、どのくらいの回転数でスタートするのがいいのかという問いに、「僕は、6000~7000rpmですね」と回答する佐々木選手。すると橋本氏は「そこから僕の計算が始まって、向こう(RE-07D)のグリップがいいはずだから、自分は5500rpmでいこうみたいな。アドバイスを鵜呑みにしないで失敗していたんですけど、今回はアドバイス通りにやったら成功でした。第2レースは3番スタートなので、勝てると思うじゃないですか。それが、雨が少しパラついていて路面コンディションが少し変わって、スタートするときの感覚も変わってしまった。ちょっとホイールスピンが多かった」と無念がる。

 佐々木選手は「僕がいつもハッシーに言うのは、『スタートで抜こうと思わない方がいいよ』と。スタートで抜こうとすると、ホイールスピンが多めになるなど失敗して自分の順位を下げているので、順位をキープしてラッキーで抜けるっていうのを心がけた方がいいと言っている」と、まさにその状況の橋本氏にぴったりのアドバイスをしていたことを語った。

走りに対して常に冷静に分析し、的確なアドバイスを行なっていた佐々木選手

第7戦もてぎでは、冷静さが大切と再確認

 第7戦もてぎは、「記事にも書きましたが、予選のアタック時に完全に前を塞がれてしまった。アタックラップが終わる寸前のダウンヒルストレートのエンドにスロー走行する2台がいたんですが、なかなか避けてくれなくて1回引いたんです。その次のラップ、RE-12Dの連続アタックはタイムが出るという話があったので、行こうと思ったら、慌ててしまったのか目の前でスピン。散々な結果で総合13番という予選結果でした」と嘆く橋本氏。さらに、「決勝は最終的には8位でしたが、1回6番手まで上がることができたんです。頑張ったんですけど、あまりにブレーキの使い方が荒かったのか、完全にフェードさせてしまった。それは、ABSをガンガン入れながら走る使い方によるところが大きいと後で教えてもらいました」。

 これについて佐々木選手は「去年、ブレーキパッドのメーカーと僕で一生懸命開発したブレーキパッドにかなりの恩恵を受けて、いい順位を取れた。今年はそれに輪を掛けていいブレーキパッドを作ってもらって、もてぎ専用パッドみたいなものがあった。それを普通にちゃんと使うと、僕らのパッドメーカーだけが優位に立てる状況だったんです。でも、(橋本氏は)後ろからスタートしていることでカッカ来ているわけですよ。そうするとブレーキを荒く使ってオーバーヒートさせてしまい、半分くらい走ったら『ブレーキがもう効かない』って言いだして」と橋本氏を分析する。

 橋本氏は「ABSを常に介入させるようなブレーキングをしていると、フェードしやすくなるの?」と疑問を投げかけると、「なる。ブレーキパッドがディスクローターを強い力で何度も挟むので、どうしてもオーバーヒートしてしまう」と佐々木選手が回答する。そこで橋本氏は、「今までのイメージだと、初期制動力を思い切り出してABSも介入させて走った方がいいっていう話もあったでしょ?」と問うと、「ハッシーの場合、コーナリングのターンインのところまで長く引きずってしまっている。リリースするポイントを決めて、しっかりリリースしないといけない。ABSはもちろん効かせてもいいけど、効かせたら最後に戻すところを作ってあげなきゃいけない。戻さずに強い力で踏み続けていると、オーバーヒートしてしまう。特にもてぎはなりやすい」と答えた。橋本氏は「つらいサーキットで、カッカして走っていると、そういうことになると。やっぱり冷静に、ということですね」とうまくまとめた。

真面目な話と笑いをうまく組み合わる軽快なトークで、2018年シーズンのこれまでを振り返った

RE-71R、RE-12D、RE-07D、3種類のタイヤの違いとは?

 シーズンの振り返りが終わり、改めてステージ前に並ぶ3本のタイヤについて話題が移った。橋本氏は現在使用しているRE-12Dのパターンを見て、「太い縦溝も入っているし、雨でもいける感覚がありますよね。プロクラスのタイヤのRE-07Dと比較してみると、RE-12Dの方が溝が多いと思うんですけど、実際どうなんですか?」と開発ドライバーでもある佐々木選手に尋ねる。

トークはレースの結果も左右するタイヤの違いについてまでも及んだ

 佐々木選手は「タイヤの溝面積が規定されている中で、RE-07Dはドライとウェットを両立できる溝面積になっていて、RE-12Dはより一般の方でもコントロールしやすいようにチューニングして溝面積を決めている」と回答した。

 また、RE-12Dと2017年まで使っていたRE-71Rを比較して、RE-71Rの溝の多さと深さについて、「RE-71Rはサーキットや一般道、ドライやウェットなどあらゆる条件を想定してこのような溝設定になっている。そのRE-71Rからさらにグリップを上げている」と解説した。

橋本氏の手元に用意されたカメラでタイヤをスクリーンに映し、溝の深さやパターンの違いなどを説明

最終戦鈴鹿への意気込みを語る!

 いよいよイベントも終わりに近付き、最終戦となる鈴鹿への意気込みを語ってもらった。橋本氏は「春先と同じような気温になってくると思うので、ちょっと難しい方向になるのかな、と思う。RE-12Dは夏場に強いタイヤというイメージがあったので、そこが不安ですね。1年の集大成がここに……となればいいのですが、あまり大きく出るのはやめておきます」と控え目な様子。

 佐々木選手が「他社メーカーさんが、柔らかいゴムのタイヤにして、去年のプロクラスのタイヤをそのままクラブマンに持ってきている。その中で、このRE-12Dをうまく使っていけば、マイナスじゃないところがたくさんあるので、勝てるのではないのかなと思っているんですが?」とあおると、橋本氏は「はい。佐々木選手の走りを参考にして、うまく走れるように、今夜から一生懸命、車載動画を見ようと思います」と、どこまで本気か分からないコメントを残した。

最後には橋本氏と佐々木選手に直接質問できる時間もあり、熱い質問と回答が飛び交った

「GAZOO Racing 86/BRZ Race」最終戦となる第8戦鈴鹿は、今週末の10月27日に三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットにて開催される。全日本スーパーフォーミュラ選手権など他のレースや、レースウィークにはさまざまなイベントも開催されている。橋本氏の今シーズンを締めくくる最後の奮闘ぶりをぜひ、その目で確認してみるのはどうだろうか。