トピック

100周年を迎えた「ZF」が東京モーターショーにEVコンセプトカー出展

ドイツの職人気質を現代に伝えるZFの最新技術を東ホール1 1001で見よう

100年前の創業当時から、フォントなどをわずかずつ変えながらも一貫して使い続けられているZFのコーポレートロゴ
2015年10月29日~11月8日(プレスデー:10月28日~29日、プレビューデー:10月29日、一般公開日:10月30日~11月8日)開催

ZFブース:東ホール1 1001

 開催目前となった「第44回東京モーターショー2015」。多くのCar Watch読者もこのイベントに足を運ぶことだろう。さて、東京モーターショーにはたくさんの見どころがあるのだけど、新車に関する情報だけでなく、クルマに用いられる最新技術といった深い部分にも興味を持つCar Watch読者のみなさんに見ていただきたいのがパーツサプライヤーが出展するブースだ。

 みなさんもご存じのとおり、自動車メーカーが発売する最新車両に搭載される革新的な技術は、自動車メーカーとパーツサプライヤーが協力して作り出しているものが多い。そしてそのような棲み分けだけに、東京モーターショーのような場所では、自動車メーカーは新しい技術をコンセプトカーのようなクルマとして披露し、パーツサプライヤーは自社の最新技術やパーツが利用されている状態などについてよく分かる形態で展示を行う傾向にある。

 それだけに、一見してパーツサプライヤーのブースは少し地味でインパクトに欠けることもあるのだが、実際のところではこれから先に登場するクルマに搭載されるであろう未来の技術などが展示されているケースもある。これを見逃す手はないはずだ。

ZFといえば輸入車のトランスミッションを製造するメーカーとして広く知られているが、今や世界トップ3に入るグローバルメガサプライヤーとなっている

 本記事では、10月29日から一般公開がスタートする東京モーターショー2015に出展するパーツサプライヤーの中から、ドイツに本社があるゼット・エフ・フリードリヒスハーフェンAG(以下ZF)を紹介する。クルマに詳しい方なら、ZFという社名を聞けばトランスミッションを作る会社というイメージを持っていることだろう。実際のところZFはギヤメーカーとしてスタートした企業で、その歴史は古く、設立は1915年。ツァーンラート・ファブリーク(Zahnradfabrik)という社名だったが、これを日本語に訳すと「歯車工場」という、まさにそのものズバリのネーミング。このZとFの頭文字が現在の社名になっている。

 このツァーンラート・ファブリークが作っていたのが、当時のドイツでツェッペリン伯爵が開発した飛行船(ツェッペリン号)用や航空機用のランニングギヤである。ちなみに1929年には旅客用のグラーフ・ツェッペリン号が北半球周遊を行ったが、そのときに日本の茨城県にある霞ヶ浦に寄港したという歴史もある。そして第一次世界大戦の終わりになると、ZFはクルマ用の変速機市場へと参入していったのだった。

1915年の設立から今年で100周年を迎えたZF。フランクルフルトショーに続いて東京モーターショーにもブースを出展する
こちらはゼット・エフ・ジャパンで広報を担当する中村典子さん
東京モーターショーの出展に合わせ、東京都内で11月までの予定でラッピングバスを走らせている。走行ルートは東京駅 丸の内南口と東京モーターショー会場である国際展示場正門前を結ぶ「都05」と、渋谷駅~新橋駅を結ぶ「都01」の2ルート。デザインはZFのイメージカラーであるベージュが基調。通行人の視線の高さにメッセージや取り扱う製品のイメージがデザインされている
“歯車工場”という名前で設立されたZF。当初から飛行船のツェッペリン号や航空機用のランニングギヤを製造
1930年代にはZFロス・ステアリングギヤのライセンス生産を開始。初年度から1万ユニットを販売した。この時代にはシフトチェンジが容易なアフォントランスミッションの開発にも成功している

 その後、着実にギヤメーカーとしての地位と信頼を築いていくZFだが、時代は再び戦争へ。第二次世界大戦である。その最中にはドイツ国防軍の戦車用トランスミッションの開発、製造を手がけており、ミリタリーマニアに人気のあるドイツ軍の戦車は、そのほとんどにZFのトランスミッションが搭載されている。

 戦後もZFは、建設機器、農業機械、トラック、バスなどのトランスミッションの分野で成長を続ける。そして1961年には、イギリスのレーシングチーム「チーム ロータス」からF1用のトランスミッションの製造を依頼された。このときのチームオーナーはチーム創立者であるコーリン・チャップマン氏。また、同時期にZFが初めて製作したオートマチックトランスミッション「3HP12」は、欧州の中型乗用車市場を席巻する人気となっていた。

ミリタリーマニアに高く支持されているドイツ軍戦車の90%はZF製トランスミッションを採用。戦争中で物資も厳しい環境に加え、十分なテストも行われず実戦投入される戦車に使うパーツを作ることは容易ではなかったはずだ
バス、トラック用のトランスミッションも開発していたが、1950年代は農業機械の製造も行っていた。その売り上げがバス、トラック部門に匹敵するほどに成長。その後、建機用のトランスミッション市場にも参入した
イギリスの名門レーシングチームである「チーム ロータス」の創立者、コーリン・チャップマン氏からF1マシン用のトランスミッションについて依頼されて製造している

 1980年に入ると、ZFの日本法人であるゼット・エフ・ジャパンも設立された。また、これまでのパーツ開発中心の体制から、システム技術を作り出す方向にZFが舵を切った時期でもある。電子制御ステアリングのZFサーボトロニックが生まれ、2000年代にはサスペンションメーカーのザックスが傘下に加わり、オペル「アストラ」用の減衰力連続可変制御ダンパーの量産も行った。さらにBMW用ATやポルシェ「911 カレラ」用となる7速DCTなども開発している。

1980年5月に日本法人のゼット・エフ・ジャパンを東京都港区麻布台に創設。同時期にアメリカ初の生産拠点をジョージア州に設立している。このころからパーツ製造メーカーからシステム技術を提供する企業に転身していく
サスペンションメーカーのザックスが傘下に加わった。そこで開発したのがオペル「アストラ」に採用された減衰力連続可変ダンパー(CDC)だった
トラックの分野でZFが手がけた、車体の設計や用途ごとに補機類の使い分けが可能となる革新的なモジュール式トランスミッション「TraXon」

 2012年にはポルシェ「911」用に世界初の7速MTを発表。2013年には乗用車向けATで世界初となる9速ATを発表した。また、大型トラックの分野では、モジュール式トランスミッションの「TraXon」を開発。これはベースになるトランスミッションに対して付随する5つのモジュールを用意し、これらを車体の用途に合わせて組み合わせるという技術で、車体の設計から走行性能、経済性、快適性などの向上が目的となる。ベースとなるトランスミッション本体にさまざまなモジュールを組み合わせて異なる性能を発揮させるというアイデアは、SFやアニメの世界に登場するメカを見るようなワクワク感もあるだろう。

 そして2015年。前記のとおり1915年に設立されたZFは今年でちょうど100周年を迎えている。そんな記念すべき年に、ZFにとって大きな動きがあった。それは安全関連技術の分野で世界有数のサプライヤーであるTRWオートモーティブの買収。これによりZFは世界屈指のグローバルメガサプライヤーとなっている。

東京モーターショー2015におけるZFブースのキーワードは「THE POWER OF2

 100年ということで少し長くなったが、こんなところがZFの歴史と概要となる。今回の東京モーターショーはTRWオートモーティブを加えた新体制になって初めて日本で開催される国際展示会であることから、ZFでもかなり力を入れているとのことだ。そして東京モーターショーでの展示において柱となるのが、自動車技術の「効率」「安全」「自動運転」という3項目。来場者に向けてのメッセージとして「THE POWER OF2(ザ・パワー・オブ・ツー)」というキーワードを用意している。

 これは、ZFとTRWが一緒になることで得られる力は、単純にそれぞれの得意なところを持ち寄って組み合わせるだけではなく、新しい展開によってもっと広がりが出てくるということを「二乗」の表記で表しているという。イメージグラフィックも用意されていて、ZFのイメージカラーの青とTRWのイメージカラーの赤のラインを組み合わせたデザインになっているので、東京モーターショーの現地ではこの青と赤のラインを目印にブースを探してほしい。また、ZFブースには各種スマートフォンに対応する充電ケーブルが無料開放されるスペースも用意されるので、会場内でスマートフォンの電池残量が心許なくなってきたら、ZFブースに気軽に充電しに立ち寄ってほしいとのこと。ちなみに、ブースの位置は東ホール1のE-1001になる。

東ホール1のE-1001にあるZFブース(イメージイラスト)

機能性をストレートに追究した自動駐車に“歯車工場”100年の歴史を見る

ZFが東京モーターショーに展示する都市型スマートカーのコンセプトカー「アドバンスト・アーバン・ビークル(AUV)」。半自動運転が可能で、都市部での利便性を重視した特性を持つ

 ZFが東京モーターショーでお披露目するものは、ZFが開発したコンセプトカー「アドバンスト・アーバン・ビークル(AUV)」。都市部での利便性を重視したEV駆動のスマートカーである。スマートカーという分野の乗り物はこれまでも登場していて、その多くがクルマとスクーターの中間という感じのかなり小型な乗り物というイメージだが、ZFのAUVは写真でも紹介しているように、5ドアハッチバックボディーを持つしっかりと実用的なクルマ。未来の乗り物という立ち位置ながら、地に足の着いた親近感を持っている。

 さて、気になる中身だが、まずパワートレーンでは、フロア下には3基のモジュールとして格納するメインバッテリー(蓄電容量16kWh、定格電圧355V)を装備。動力部はツイストビーム式のリアサスペンションの左右に40kWのコンパクトなモーターを装備するインホイール式の後輪駆動となる。このパッケージをZFでは「エレクトリック・ツイストビーム(eTB)」と呼んでいる。このeTBはシステムの最大トルクが1400Nmとなり、最大回転数2万1000rpm。最高速は150km/hとなっている。

AUVの透視図。フロア下のメインバッテリーからリアタイヤ直近のモーターに電力を供給して走行。左右別々のモーターを使っているので、旋回時にアウト側の車輪だけを駆動して旋回性を高めることも可能になっている

 次に紹介するのはフロントアクスルについてだが、特徴はなんといってもステアリングの切れ角が75°もあるという部分。つまり、ステアリングを目一杯に切るとタイヤがほとんど真横を向くような状態になり、これによってAUVの最小回転直径はなんと約6.5mを実現。後輪の左右に別のモーターを組み合わせ、旋回時に駆動力のトルク配分を調整できるようになっていることも合わせ、軽自動車でも比較にならないほど小まわりが効くようになっている。これにより、狭い都市部での使い勝手を飛躍的に高めることが可能だ。

 そしてこのAUVは、運転支援機能として自動駐車機能も装備している。ステアリングの切れ角が大きいので狭いスペースでもスムーズな駐車が可能。解説ムービーで紹介されている自動駐車デモでは、車外からスマートウォッチによる操作で無人のAUVが自動駐車するシーンなども収められている。AUVは車体の周囲に12個セットする超音波センサーと2個の赤外線センサーを使って空いている駐車スペースを探す。駐車可能な場所を見つけて車体をリアからスペースに駐車する様子が映し出されるのだが、前出のようにステアリングの切れ角が非常に大きいので最小限の切り返しで狭いスペースに車体を収める光景が印象的だった。このほかに解説ムービーでは、車外でタブレットを使って操作する開発担当者の周囲をAUVがくるくると旋回するシーンなども紹介されている。

ZF アドバンスト・アーバン・ビークル(1分46秒)
ステアリングの切れ角はなんと75°。狭い駐車場や都市部の細い路地などで高い機動性を発揮する
AUVには自動駐車機能を搭載。ボタン操作1つで駐車場内の空き駐車スペース探しから駐車完了までAUVに任せられる。駐車してから乗員が降りる必要がなくなれば、駐車スペースでクルマごとのすき間を詰めて駐車させることも可能になり、都市部のスペース効率を高められるという

 さて、ここからは少し推測だが、エレクトロニクス系の技術に強いサプライヤーがこうした自動駐車システムに取り組むと、多彩なカメラやセンサー技術を駆使して、駐車のために最適な操作開始ポジションや複雑なステアリング操作を披露するシステムになっていきそうな気がする。ところがZFは、ストレートに「ステアリングがたくさん切れるようにしました」という方法を自動駐車機能に盛り込んできた。

 最近は先進技術の競い合いのような風潮もあり、個人的にも高い技術=複雑なものという思考パターンになっていたが、このAUVの自動駐車機能を見て、まさに目からウロコが落ちるという感じでハッとさせられた。シンプルでありながら結果は完璧。100年前に“歯車工場”としてスタートし、長年、理屈より結果というごまかしようがない機械畑を歩んできたZFだからこそ生まれた発想なのだろう。そういう会社だけに、この自動駐車機能のアイデアが会社の顔であるコンセプトカーに採用されたのだという印象を受けた。

 もう1つ、AUVに与えられた機能を紹介しておこう。それはインターネットのクラウドを活用した「PreVisionクラウド・アシスト」という運転支援機能で、これはすべての走行において車両位置、その時点の速度、緯度経度などのデータをクラウド上に保存。そして次回同じルートを通ったとき、クルマが保存したこれまでの経験的データを、今回の走行時に得ているリアルタイムの実走行データと組み合わせて走行支援を行うのだ。例えば進路にカーブがあれば、進入時にドライバーがブレーキング操作を行わなくても、安全に曲がれる速度までクルマが自動的に車速を下げる。この機能は安全性の向上はもちろん、むだな電力を使わない効率のよい走りの追求にもなるので、経験値の多い道路ではバッテリーの節約も図れるということだ。

極めて小さいが、ステアリング上部に有機ELディスプレイを設定。ここにPreVisionクラウド・アシストの動作状況などが表示される

 このPreVisionクラウド・アシストの動作状況は、例えばカーブ進入時の減速トルク値や加速時のトルク値などを、ステアリング上部に埋め込まれた有機ELディスプレイに表示してドライバーに通知するようになっている。これにより、クルマの動きに対応する乗員の反応準備が可能になるという。さらに運転支援機能付きのクルマで最大の懸念となるドライバーの注意力低下を予防するため、このステアリングでは全周に静電容量式タッチセンサーを設定。状況に応じてAUVのシステムがドライバーに警告も行い、必要であれば運転支援機能を作動させる。

 クルマにおける技術の進歩はめざましいものがあり、とても素晴らしい技術が次々と生み出されている。しかし、宇宙開発のような国家プロジェクトなどと違い、クルマはあくまでも生活の道具。機械が機械を作り出すような冷たさを感じる技術のみで構成されるのは似合わない気がする。しかし、ZFが展示するコンセプトカーの構造や機能を見ると、そこにはちゃんと人間の存在が感じられるような作りになっている。このZFのAUVを実際に東京モーターショーの会場で見てもらい、その作りやシステムから、これからの人とクルマの関係についてなにかを感じ取ってほしい。

ここからはZFの製品の一部を紹介しよう、これは2000年シーズンのフェラーリ F1マシンに採用されていた多板式クラッチモジュール。クラッチサイズは3×97㎜とかなり小さい
ハイブリッドカー用モーターである「クランクシャフト・スターター・ジェネーター」。冷間スタートトルクは100-300Nm。ジェネレーター出力は38kW
エクステンドクラッチを備えたDMFモジュール。プリダンパー付きクラッチディスクと摩耗補正機能を持つエクステンドクラッチ、そしてデュアルマス・フライホイールがセットになっている。クラッチサイズは240mm
ZFと言えばやはり多段式ATが有名。これはディーゼルエンジンを搭載する乗用車用の8速AT。ATは内部のクラッチディスクを複雑な油圧制御によって動作させ変速する。シフトプログラムからトルクコンバーターまですべてZF製だ
ZFはAT車用のシフトセレクターも製造。これはシフト・バイ・ワイヤー対応の電子制御シフター。非接触ポジションセンシングと二重系CAN通信に対応
サスペンションメーカーのザックスもZFの傘下になっている。これはストローク依存型可変ダンパーで、快適性の向上が狙いの製品
オペルのアストラに採用されたCDCと呼ばれる減衰力連続可変ダンパー。ハンドリングのよさと快適性を両立させ、路面状況に応じて連続的に最適な減衰力設定を瞬時に引き出せるという優れもの。ロールやピッチングなどの動きも抑制して車体の安定度も保てる

協力:ゼット・エフ・ジャパン株式会社

(深田昌之)