「ITS-Safety2010」公開デモ、公道試乗レポート
ハイテク交通安全支援システムを公道で体感

臨海副都心地区の公道を、報道陣を乗せて走る実験車両

2009年2月25日~28日
(一般参加日)



 

 ITS推進協議会によるITS(Intelligent Transport System:高度道路交通システム)の大規模実証実験「ITS-Safety2010」の公開デモンストレーションが、2月25日に東京臨海副都心地区で開幕する。会期は2月28日まで。開催時間は25日のみ12~17時、そのほかは10~17時。参加費はすべて無料。同乗走行の応募は終了しているが、空きがあれば当日でも申し込める。

 公開デモンストレーションでは、ITSに関する各種展示やシンポジウムが開催されるが、目玉は一般参加者も、公道で実験車両に同乗走行できることだろう。公道を封鎖しない環境で、これだけの規模で実証実験が行われるのは「おそらく世界初」(関係者)である上に、そこを走る実験車両に乗るチャンスはなかなかない。ITSでどんなことが実現され、どんなメリットがあるかを知るには絶好の機会といえる。実際、300人の乗車枠に対して1000人を超える応募があったとのことで、同乗走行への関心の高さがうかがえる。

 開幕に先立つ2月24日、報道関係者向けに同乗走行が行われた。ここでは、その模様をお伝えする。

ITSは交通安全のための技術
 ITSについてはこれまでも何度か触れてきたが、ここで簡単におさらいしておく。ITSの目的は「IT技術で道路交通を安全にすること」。

 具体的には、道路に設けたセンサーやほかの車から、ドライバーに見えない場所(車の死角、見通しの効かない交差点やコーナーの先など)の危険情報を、光ビーコンや無線通信で車が受け取り、ドライバーに通知することで、事故を防止する。また、交通をスムーズにすることで、自動車による環境負荷を低減する働きもある。

 自動車メーカー、電機メーカーのほか、国土交通省、総務省、警察庁など多数の組織がかかわるため、「IT国家戦略」の1つとして推進されている。

 ITSには「ASV」(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車)、「DSSS」(Driving Safety Support Systems:安全運転支援システム)、「スマートウェイ」の3つのプロジェクトがある。

 ASVは国土交通省自動車交通局が推進するプロジェクト。1991年に、自動車が単独で危険を検知し、回避を支援する技術から検証が始まった。この成果はアダプティブクルーズコントロールや、レーンキープアシスト、レーンチェンジアシストなどの技術として実用化された。現在はほかの車や道路と通信して危険を検知する技術を連携させ、普及させるフェーズ「ASV-4」に入っている。ASV-4では、出会い頭や右左折時の衝突防止、追突防止、緊急車両情報通知などのシステムが用意される。

ASVで実用化された技術ASV-4では車車間通信や路車間通信による安全運転支援を実現するASV-4による安全運転支援には、出会い頭などの衝突防止や緊急車両通知がある

 DSSSは警察庁が推進するプロジェクト。道路上のセンサーで車両や歩行者、道路の状況などを検知し、死角にいるドライバーに伝える。伝達手段にはVICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報送信システム)で使われている光ビーコンなどを使用する。ASV-4同様の衝突防止のほか、信号や一時停止の見落とし防止システムが用意される。

臨海副都心地区の光ビーコン。赤外線で車両と通信する。到達範囲が狭いため、車線ごとにきめ細かい情報を送信できる屋内展示された光ビーコンのヘッドと制御部
ETCやスマートウェイで使われるDSRC(狭域無線通信)によるビーコンも実験されている臨海副都心地区でのDSSS実験箇所

 スマートウェイは国土交通省道路局が推進するプロジェクト。DSSSと同様に道路上のセンサーで得た情報を、ドライバーに通知することで事故を防ぐ。伝達にはやはりVICSで使われている電波ビーコンや、5.8GHz帯と700MHz帯の狭域無線通信(DSRC)を使う。DSRCはETCですでに使われている通信技術であり、従来の通行料金決済機能に加えて、合流支援や前方の渋滞や障害物情報提供、電子標識情報提供などのサービスが用意される。すでに首都高速道路の一部にインフラが設置されており、サービス評価のための一般モニター募集が行われている。

 ITS-Safety2010は、これらのプロジェクトの実証実験を全国各地の公道で行っているものだが、臨海副都心地区では、3つのプロジェクトと17の自動車メーカーが参加し、各プロジェクトの連携などが図られるもっとも大規模な実験が行われている。

スマートウェイでは前方の障害物や交通状況、合流支援などの情報が提供される。また各種観光情報の提供や、通行料金以外の決済(ガソリンスタンドや駐車場など)にも使われる車載器はETC車載器のようなタイプに画像出力機能を載せたもののほか、カーナビへの内蔵も考えられている

各システムをひおととり体験できる同乗走行

スバル ASV-4

 さて同乗走行では、大規模実証実験に参加している車両に乗って、臨海副都心地区の公道や首都高速道路を走行し、ASV、DSSS、スマートウェイの各サービスを体験する。Car Watchにはスバル(富士重工業)の「スバル ASV-4」が割り当てられた。

 スバル ASV-4は、レガシィ・ツーリングワゴンに車車間と路車間の通信システムを搭載したもの。通信機器、アンテナ、画面と音声で情報を伝えられるカーナビが装備されるほか、警告用のディスプレイも別途装備される。

 この車両には、すでに実用化されている同社のASV技術「EyeSight」も搭載されている。EyeSightはフロントウインドウ上部のステレオカメラで前方の状況を判別し、アダプティブクルーズコントロールや自動ブレーキ、ふらつき警報などを行う装備。EyeSightで得た情報と、実験中のITSを連携させることも考えられているが、今回は実装されていない。

車車間、路車間通信用のアンテナはフール後端にマウントEyeSightのステレオカメラがルームミラー両脇に見えるダッシュボード上部にディスプレイが追加されている以外はノーマルと同じ車内
同乗コース。赤い線が50分コースで、高速道路は臨海副都心と大井南の間のみ。140分コースにはこれに青い線の首都高速の区間が追加され、スマートウェイのデモを多数体験できる

 同乗コースは臨海副都心地区周辺を走行する50分コースと、加えて首都高4号線でスマートウェイのサービスを体験できる140分コースがあるが、報道関係者向けには50分コースのみ用意された。運転席と助手席には富士重工業の方が座り、各システムの動作を説明してくれる。同乗者は後席で各システムの動作を体験し、質問することもできる。後席には同乗者向けのディスプレイが装備されていて、カーナビと同じ表示を見ることができる。

 スタート/ゴールの日本科学未来館を出たスバル ASV-4は、まずフジテレビ裏の交差点に向かう。交差点の信号に接近すると、信号に注意するようにというメッセージが車内のディスプレイに表示された。前方に車両がいる場合は、追突に注意せよと言う警報も出る。これは、DSSSの信号見落とし防止支援システムと追突防止支援システムで、どちらのメッセージも路上の光ビーコンから受け取っている。


前席背面には後席用のディスプレイが増設されており、カーナビの画面が表示されるスバルのスタッフのドライブで日本科学未来館を出発フジテレビ裏の交差点。前方の信号が赤のため、上部のディスプレイに警告を表示し、音声でも注意を喚起する

 次に首都高湾岸線に乗り、大井南出入口で折り返す。すると首都高の東京港トンネル手前で、カーナビのディスプレイに東京港トンネル内の状況を撮影した静止画が表示された。これはスマートウェイの前方状況情報提供システムのデモで、トンネル内の渋滞など、1km先の道路情報や障害物情報を得られる。さらに臨海副都心出入口では、一般道にあるDSSS用センサーから情報をもらい、前方の状況を表示してくれた。

 この後、日本科学未来館周辺に戻り、ASVの車車間通信による出会い頭衝突防止システムや左折時衝突防止システムなどを体験。見通しの効かない交差点で、接近してくる車両に車車間通信機器が搭載されていれば、その存在を車同士で確認し、ドライバーに通知してくれる。カーナビのディスプレイには、車車間通信機器を搭載したほかの実験車両が何台も表示されているのが見える。

高速の出口では、出口の先の一般道の情報をもらい、表示できる。一般道のDSSSのセンサーと、スマートウェイの車載器が連携している一時停止標識の見落とし防止システム(DSSS)のデモ。前方の一時停止標識の情報を路上のビーコンから得て、警報を表示している出会い頭衝突防止システム(ASV)。右から来る車両と通信して、警報を表示する。前方を横切っている実験車両と通信している
出会い頭衝突防止システム(ASV)のデモを外部から見たところ緊急車両通知システム(ASV)。後方から接近してくる緊急車両と通信して警報を表示する右折衝突防止システム(DSSS)。画面前方の乗用車を路上のビーコンで検知し、スバル ASV-4に警報を表示している
カーナビの画面。赤い矢印が自車(スバル ASV-4)の位置。ASVの車車間通信機を積んだ車両の位置が、青い矢印で表示されている。実際に運用が始まると多数の車両が表示されてしまい、ドライバーが混乱する恐れがあるため、どれを表示してどれを表示しないかというフィルタリングに関して、これから開発する必要があると言う公道デモには車車間通信機を積んだ2輪のASVも参加し、左折時の巻き込み防止デモなどを行っている

各プロジェクトの詳細がわかる屋内展示も必見

屋内展示
 日本科学未来館では、シンポジウムが行われるほか、ITSに関する屋内展示が行われている。ASV、DSSS、スマートウェイの各プロジェクトについてブースが設けられ、説明を聞くことができる。

 路上に設けられる各種のセンサーや光ビーコン、制御装置のほか、センサーで捉えた画像などを見ることができる。センサーがどのように道路上の車両や歩行者を捉え、判別しているのかがわかり、興味深い展示なので、こちらもぜひ見学しておきたい。

 なおこの展示は日本科学未来館の1階で行われるが、見学に同館の入場料は不要となっている。

 また、スマートウェイのDSRC関連の展示については、実用化が最も近いサービスで内容も多いため、別記事でレポートしているので、参照されたい。

路上で車両や歩行者を検知するDSSSのセンサー。左が3Dレーザーセンサー、中がミリ波センサー、右は赤外線カメラ
センサーで捉えた歩行者や車両の画像。歩行者や4輪、2輪を自動判別する
携帯電話に車との通信機能を付加するアタッチメントを付けて、歩行者にも車車間通信(正確には歩車間通信だが)機能を持たせるアイデア。沖電気が提案ASVブースのシミュレーター。アダプティブクルーズコントロールを体験できる。さらに、過剰な自動制御をせず、ドライバーの運転支援のみ行うというASVの理念も体験できる。たとえば前方に停止車両がいる場合は、ASVは音声、表示、シートベルトテンションやシートの振動、ブレーキ予圧などでその旨をドライバーに伝えるだけ。ASVが自動的に車両を停めたりはしないので、ドライバーが警報を受けて回避操作しなければ、ぶつかってしまう
ITSに必要不可欠な各種電波による無線通信。その規格を管理するARIB(アライブ:電波産業会)もブースを出す地上波TVがデジタルに移行した後の“空き地”から、ITSは700MHz帯をもらった。国際的には5.8GHz帯を使うが、市街地など遮蔽物が多い環境では低い周波数帯が有利なため、日本では700MHz帯もITSに割り当てられた
ARIBが参考展示した79GHz帯ミリ波レーダー。アダプティブクルーズコントロールなどに使われるミリ波レーダーには、現在は76GHz帯に400MHzの帯域幅が割り当てられているが、79GHz帯に2GHzの帯域を割り当てることが検討されている。帯域幅が広がることで、レーダーの分解能(形を判別できる最小のサイズ)が1mから30cm程度に細かくなり、従来は判別できなかった歩行者などを判別できるようになる

各メーカーによる屋外展示のデモも

屋外展示会場。手前はコース、奥の白いテントがブース

 さらに、日本科学未来館の隣にある東京都屋外駐車場では、屋外展示が行われる。こちらは自動車メーカーがブースを構え、各社の車両や技術を展示。また、駐車場内にコースを設け、アダプティブクルーズコントロールやプリクラッシュセーフティーブレーキなどの走行デモを行う。当日申し込むと、車両に同乗できる。

 また東京都が、この駐車場から葛西臨海公園駐車場までのコースで、スマートパーキング(空き駐車場情報提供システム)とダイナミック・パークアンドライド(公共交通機関と自動車の連携情報提供システム)の同乗デモを行う。

 屋外の展示と東京都のデモについては、追ってレポートする。

屋外では各社がASVを展示し、デモを行う

 

(編集部:田中真一郎)
2009年 2月 25日