ニュース

三菱自動車、燃費不正問題に対する特別調査委員会の報告書提出を受け記者会見

「新小型SUV」のPHEV開発中止を決定

2016年8月2日 開催

特別調査委員会の会見終了後に記者会見を行なった三菱自動車工業株式会社 取締役会長兼CEO 益子修氏(左)と三菱自動車工業株式会社 取締役 副社長執行役員 山下光彦氏

 三菱自動車工業は、4月20日に発表した同社製軽自動車4車種での燃費試験データに関する不正に関連して、4月25日の取締役会で設置を決定した外部の専門家で構成される特別調査委員会が約3カ月に渡って行なった調査をまとめた調査報告書を8月1日付けで受領したことを受け、東京都港区の本社で記者会見を実施した。

3カ月に渡って調査を行なった特別調査委員会の4人。左から弁護士の坂田吉郎氏、委員長を務めた渡辺恵一氏、元トヨタ自動車 理事の八重樫武久氏、弁護士の吉野弦太氏

 会見は特別調査委員会の4人によって実施。4月26日の発表時には元東京高等検察庁検事長の渡辺恵一氏と、弁護士の坂田吉郎氏、吉野弦太氏の3人の名前が公表されていたが、この3人に、自動車環境技術コンサルタントであり、元トヨタ自動車の理事でハイブリッド開発統括を務めていた八重樫武久氏が加わり調査を実施。三菱自動車や三菱自動車エンジニアリング、NMKVなどの一連の不正に関連する会社から資料を集めて精査、検証したほか、それぞれの役職員や元役職員など、計154人に対するヒアリングなどで調査を行なった。

 調査内容では、基本的にはこれまでに判明してきた燃費不正のメカニズムや背景にある不正に手を染めることになった経緯などを詳細に裏付け、解説するものになっており、詳細は三菱自動車のWebサイト内で公開されているPDFファイルの「調査報告書」「調査報告書(要約版)」などで明らかにされているが、このなかで新たに、過去に燃費不正に関連して社内から意見が挙がり、ここで会社として問題があることを把握する機会があったにも関わらず、これに真摯に向き合うことなく見過ごされる結果になったと指摘された。

 2005年2月に行なわれた「新人提言書報告会」では、当時の新入社員から走行抵抗値の測定方法に問題があり、法規で定められた惰行法で行なわれていないと指摘され、2011年2月~3月に全従業員を対象に匿名制で実施された「コンプライアンスアンケート」でも、評価試験の経過や結果において虚偽の報告がある、品質記録に改ざんがあり、報告書の内容にも虚偽がある、認証試験で虚偽記載があるといったアンケート結果が寄せられたが、各担当部署に対するヒアリングで「問題はない」との回答を得たという理由から対策が実施されなかったと報告されている。

 このほかに報告書では、今回の燃費不正が三菱自動車の社内で担当部署である開発本部や性能実験部などの不祥事であり、経営陣や担当部署以外には関係がないという意識が生じ始めているのではないかとの懸念を明記し、これが会社全体の問題であることを強調。また、再発防止策として複数の具体案を検討したが、その内容がこれまでに三菱自動車が経験してきた不祥事の再発防止策と多くの面で共通することになっていると記し、今回は再発防止策を三菱自動車自らが会社一丸となって作り上げ、確固たる決意を持って実行することが不可欠であるとしている。

 その上で、再発防止策を考えるにあたっての骨子として「開発プロセスの見直し」「屋上屋を重ねる制度、組織、取組の見直し」「組織の閉鎖性やブラックボックス化を解消するための人事制度」「法規の趣旨を理解すること」「不正の発見と是正に向けた幅広い取組」という5点を指針として示している。

委員長を務めた渡辺恵一氏
元トヨタ自動車 理事の八重樫武久氏は会見中の質疑応答で再発防止策について問われ、「三菱だけの問題でなく類似のケースは多いかと思いますが、体制まで含めてチェックシステムをしっかりさせること、開発のフロントローディング。また、開発部門はクルマを勉強し、クルマで商売しているということを肝に銘じるということしかないと思います」とコメント
弁護士の坂田吉郎氏
弁護士の吉野弦太氏

2017年度に導入予定だった「新小型SUV」のPHEVモデルを開発中止

 特別調査委員会による会見に続き、三菱自動車の経営陣を代表して取締役会長兼CEOの益子修氏と、6月24日から三菱自動車の取締役 副社長執行役員(開発担当)に就任した元日産自動車の山下光彦氏の2人が登壇。調査報告書の指摘内容にについてや、今後の対応などについて記者会見を行なった。

 この会見で益子氏は、本質的な原因として「自動車開発に対する理念の共有がなされず、全社一体となって取り組む姿勢が欠けていた」と指摘されたことに対し、自動車メーカーの経営者として深刻に受け止めるとコメント。1990年代から三菱自動車が推し進めていった拡大路線が車両開発に過度な負荷となって不正をシステム化する要因になったこと、度重なる経営危機によって開発リソースが慢性的に不足したことなどについて反省の弁を述べ、すでに海外で展開していた3つの生産拠点から撤退し、すでに公表済みの商品計画から1車種の開発中止を決定したことを明かした。

 益子氏は後半の質疑応答で開発中止を決定したモデルが、「アウトランダー」と「RVR」の2モデルのあいだにポジションする2017年度に導入を予定する「新小型SUV」のPHEVモデルであると明言。この理由について、開発部門からこの新型モデルの開発に対して工数的に負担が大きく、開発を続けるとほかの車種に対して影響を与えかねないとの声が出たこと。また、マーケティング面で見ても苦労して開発するわりに事業性が芳しくないと予想されることで中止を決定。ただし、新小型SUVのPHEVモデル以外については計画通りに開発を進めていくとしている。

 また、益子氏は不正問題が起きた背景を「身の丈を超えた過大な車種展開にある」として、今後は日産自動車との提携によるシナジー効果を最大限に生かし、車種や類別の削減に取り組んで選択と集中を推し進め、開発計画の最適化を図って“三菱らしいクルマづくり”に取り組んでいくと語った。

販売店での現状の販売について問われた益子氏は「実は従業員や自治体などの購入による支援で、まだ正確な台数は出ていないものの、販売状況はそれほど大きくわるくなっていない」とコメント。また、過去にeKシリーズを購入したユーザーに1台あたり10万円の補償金を支払うことを決定したことに関連し、新たにeKシリーズを購入するユーザーも同様の車両を購入するという観点から、販売店に対して1台につき10万円の販売インセンティブを支給していることも明らかにした

 三菱自動車の取締役 副社長執行役員に就任して約1カ月ほどが経過した山下氏は、7月1日から「事業構造改革室」を立ち上げて責任者に就任。組織や開発の仕組みにある問題点の洗い出しや改善策の策定に取り組んでおり、同時に経営陣が開発現場について把握していなかったことを大きな問題として指摘。

 現状について「開発部門では部長から副社長といった部分に5階層が存在する。これは他社に例で見ても階層が多いと言わざるを得ないところで、この階層の多さが意思疎通のわるさに直結しているわけではないとしても、情報が上がってくるために時間がかかっている。また、縦に長い組織になっているので、横方向に見ている守備範囲が広くなって全体を把握しにくくなっている。これをフラットな“文鎮型の組織”にして、開発現場により近いところにマネージメント上部を置くことを考えている」と今後の展開について語った。また、会議についても見直しを行ない、役員が現場に入り込んで技術論議をすることが重要であると述べ、自身も開発現場で技術論議に参加できるような仕組みを作り上げていきたいと意気込みを口にした。

質疑応答で今後の活動について質問された山下氏は「身の丈に合った車種展開にも関連するのですが、開発工数の見積もりについて、開発部門ではどれぐらいのエンジニアがいてどれだけの車種を扱えるかと見積もるのは非常に重要な経営ファクターです。ところが、残念ながら我が社は工数を見積もるツールをそれほど多く持っていないと私は思っています。過去の経験からこれぐらいだろうという形で見積もっているのですが、これが正確性を欠くと部署ごとに負荷が偏ったり全体の整合性がとれなくなったりします。これはツールですから、きちんと整備すれば精度の高い工数見積もりができて、この整備をしていきたいと思っています」とコメントした