NXP、自動車関連製品の説明会を開催
ラジオ、キー、センサーなど発表

2012年10月26日



 蘭NXPセミコンダクターズは10月26日、都内で記者説明会を行い、同社の自動車関連技術及び新製品の発表会を開催した。先日は米フリースケール・セミコンダクタの同様な記者説明会があったばかりだが、見比べてみると両社の方向性の違いなどが明確でちょっと面白かったので、レポートしたいと思う。

 NXPセミコンダクターズという会社は、元々オランダのフィリップスという、こちらは読者の皆様も聞いたことがおありであろう巨大電機メーカーの半導体部門がスピンアウトして設立されたメーカーである。日本ではNXPセミコンダクターズジャパンという子会社があり、本社が恵比寿にあるほか、大阪に支店が、名古屋には営業所がある。

 さてこのNXP、半導体業界の中ではさまざまなマイコンをリリースしているほか、最近はLED照明のコントローラ、それと(日本でも携帯に搭載されはじめてきた)NFCでは高いシェアを持っているメーカーである。

 そのNXPであるが、自動車業界でも目立たないところで実は大きなシェアを持っている。ひとことで言えばネットワーク系ということになるが、車内ネットワークやRKE(Remote Keyless Entry)、ラジオなどがその主体である(Photo01)。自動車そのもののマーケットはそれほど成長していないが、自動車向けの半導体のマーケットは拡大傾向にあり(Photo02)、これはNXPにとっても成長の機会であるとしている(Photo03)。

Photo01:車内ネットワークとしてはCAN/Lin/FlexRayといった従来から使われている規格に対応した製品に加え、最近はEthernetも追加された。またリモートキーでは非常に高いシェアを持つし、国外の衛星ラジオでもやはり高いシェアがある。もう1つ、センサーの分野でもシェアは大きいがこれは後述Photo02:左の縦棒グラフでROWとは「その他(Rest Of World)」。要するに欧米や日本ではマーケットの拡大が少ない、あるいは縮小傾向だが、中国やその他の国ではまだ拡大傾向が大きいとしている。右上の折れ線グラフのTAMはTotal Available Marketの略Photo03:NXPの場合、自動車業界の中で手がける分野を極端に絞り込んでおり、あまりあれこれ手を出さずに堅実な成長を目指す、というのが今回のメッセージ

 ではどう成長してゆくかというと、これは自動車業界のメガトレンドに乗った形で、という話である(Photo04)。もう少し具体的にPhoto04をブレークダウンしたのがPhoto05。NXPはこうした分野向けの製品とソリューションを提供済みあるいは今後提供予定、という話である。

 もう少し具体的にこれを示したのがPhoto06で、現在の中核事業を引き続き維持しながら、今後の成長分野でも確実にシェアをとってゆきたい、としており、このため各分野においても新技術を搭載した製品やソリューションを提供してゆくとしている(Photo07)。

Photo04:このメガトレンドそのものの説明は必要ないだろうPhoto05:娯楽性や利便性に関してはすでにソリューションがあり、一方運転補助とか衝突防止は、その一部をソリューションとして提供している。カーシェアリングとか道路利用料金制度などは、今後何かしらのソリューションを提供してゆきたい、という分野である
Photo06:LEDドライバとは自動車向けのLED照明関連の話。LED照明そのものはNXPの得意分野であるが、自動車向けはこれからという状況Photo07:横軸が時間、縦軸が1台あたりのコストである。例えばカーアクセス(左上)の分野だが、最初は簡単なRKEで、これは低コストである。ただこれがイモビライザー、PKE、2-way RF、Smart Keyとどんどん進化してゆくことで、その機能進化に見合うコストを得られるようになって行く

 

Photo08:Drue Freeman氏(Vice President, Global Automotive Sales and Marketing)

 さて、ここまでの説明は同社のDrue Freeman氏(Photo08)によるものであるが、引き続き氏により、今回発表された新製品の説明があった。

 今回の製品はカーエンターテイメント向け、もっと正確に言えばカーラジオである。「いまさらカーラジオ?」という声も出そうだが、AM/FMしかない日本とは異なり、米国ではXMラジオと呼ばれる衛星を利用した2.3GHz帯のラジオ放送が2001年からサービスされ、100chを超えるラジオが利用できるほか、衛星という関係で日本よりはるかに広い国土を持つ米国でも至る所で利用できるというメリットがあり、昨今の米国向けの車はほぼこのXMラジオへの対応がなされている。

 こうした衛星を利用したラジオは米国だけでなく欧州でもサービスが始まっており、こうしたものを一般に「デジタルラジオ」と呼ぶが、このデジタルラジオは受信の方式などが細かく異なっているため、これまでは方式別にそれぞれ別の回路を組み込むといった対応がとられていた(Photo09)。

 こうしたマーケットに向けて同社が発表したのが「SAF775x」というシングルチップのラジオである(Photo10)。一番大きいのは内部にDSP(Digital Signal Processor)と呼ばれる高速/高効率なデジタル処理エンジンを搭載したことで、これで電波の変調方式の違いなどをソフトウェア的に吸収したことである(Photo11)。

 さて、これによるメリットは何か? Photo12が、前世代の「SAF35xx」と今回のSAF775xを比較したものである。従来だとチップ自身に加えてさまざまな外付け部品が必要であり、またシールドケースなども必要だったため、どうしても基板は大型化するし、部品点数が多いということは部品代以外に部品を基板上に実装するためのコストも余分にかかることになる。

 ところがSAF775xでは、こうした外付け部品自身も大幅に削減されている。なので、コントローラそのものは以前より値段を上げても、全ての部品代+基板代(これはほぼ基板面積に比例する)+部品の実装代、というトータルコストではむしろ値段を下げることが可能になる。

 これは機器メーカーとしても受け入れやすい提案である。加えて言えば、基板面積が小型化すると、ラジオを組み込む際の設計の自由度が大幅に高まる、というメリットがある。CAYMAN世代のリファレンスボードだと、どうしても1DINの幅をまるまる占有することになるが、SATURNの世代なら(意味があるかどうかはともかく)1DINの中にラジオを4つくらい実装するのも可能だろう。もちろん昨今だとラジオを単体で入れる、ということはなくDVD/CDプレイヤーやその他の機能も全部入れたものが車に収まるから、ラジオ部のサイズは小さければ小さいほど機器メーカーにはありがたいという訳だ。

Photo09:当然機能が複雑になる分、コストもやや上がることになる。最近はこれに加えてオーディオアンプの機能も統合することで、最終製品単価の削減(これは機器メーカーにメリット)と部品単価の上昇(これはNXPにメリット)を両立させるという難しい芸当を可能にしているPhoto10:下が従来製品で上が新発売のチップ。どう違うのか、は後でPhoto12を見ていただくと分かりやすい
Photo11:DSPはCPUなどと似ており、ソフトウェア的に動作を行う処理機構だが、CPUよりも効率よく処理を行える半面、柔軟性はずっと低いという特徴がある。そこでさまざまなラジオの変調方式に対応したDSPのプログラムそのものはNXPから提供することで、ハードウェアは同一で、プログラムだけ入れ替えれば各国のデジタルラジオの規格に対応できることになるPhoto12:左のCAYMANという製品がSAF35xx。中央のCAYMAN BGAは、機能そのものは全く変わらないが、パッケージのみを小型化してトータルの基板面積を削減することでコストを抑えようとしたもの。右のSATURNがSAF775xである

 さて、Freeman氏の説明はこれで終わったが、続いてカーアクセス製品についてVolker Graeger氏から説明があった。

 カーアクセスとは要するに自動車の鍵で、先程もちょっとあったとおり昔は単に無線を使った一方向のリモコンで、キーについたボタンを押すとドアロック/解除できる程度だったRKEが、その後は盗難防止のイモビライザーや、キーをポケットに入れたままで開錠が出来るパッシブキーレスエントリを経て、最近は車の情報を表示できる2-way RF、あるいはスマートフォンなどと連動して情報を表示できるスマートキーに進化している(Photo14)。

 ただご存知の通り、最近はキーの高機能化が進んでおり、これに対応して同社が既に出荷しているのが「NCF2960」とか「NCF2983」である。このうちNCF2983は、特に米国向けに引き合いが強いそうで、日本メーカーのアメリカ向け車両にはNCF2983が採用されることになったそうだ(Photo15)。

Photo13:Volker Graeger氏(Vice President, General Manager of Product Line Car Access and Managing Director)Photo14:NXPは、RKEとイモビライザーをあわせて8億個のキー用のコントローラを既に出荷しているとかPhoto15:この2way-Communicationとは、本当にエンジンが掛かったか、とか空調をOnにしたか、といったことを車からキーに対して連絡してくれる機能。こうした要望が多いのは、ガレージと玄関の距離が離れている米国ならでは、という気もする

 最後にStephan zur Verth氏(Photo16)が、同社の車両向けセンサーについて紹介した。自動車向けセンサーというとさまざまなものがあるが、同社が提供するのは磁気を使った角度センサーである(Photo17)。最初に提供されたのはABSセンサーで、これは4つのタイヤのそれぞれの回転率を測定するもので、この回転率からABSの動作を制御するというもので、以後位置センサーや速度センサー、最近ではステアリングバイワイヤーに向けてのステアリングセンサーなどの用途やエンジン制御などの用途も視野においているそうである。

 ちなみに今後の展開についてFreeman氏に後で伺ったが、NXPはあくまでも現在の製品ラインナップをより充実させる方向で展開を考えており、ルネサスエレクトロニクスやフリースケールのように車体制御などの分野まで乗り出すつもりは無いとのこと。

 逆に同社はネットワークに強みを持っており、例えば自動車向けEthernetではBroadcomが「BroadR-Reach」というよい技術(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20111214_498602.html)を自動車業界向けに開発したが、実際に量産に入るにあたっては、自動車メーカーからNXPに対して、このBroadR-Reachの対応製品を作ってほしいとリクエストが来るというエピソードを教えてくださった。こうしたポジションを堅持しながら、確実に成長してゆきたいというのが同社の方針とのことだった。

 同社のセンサー特徴は、ホール素子を使わないことである(Photo18)。ホール素子とは、ホール効果と呼ばれる原理を使ったもので、ある種の半導体に電圧をかけた状態で磁場に晒すと、磁場の強度(正確には磁束密度)に比例した電位差を取得できるというものを応用したセンサーであるが、このホール素子の製造にはいくつかのレアメタルが必要である。このレアメタルを使わないのが同社の強みとしており、具体的にはHDDのヘッドなどと同じMR(Magnetic Resonance:磁気共鳴)という仕組みを使ったものを提供している。

 ところでこの磁気センサー、Photo17にあるように将来的にはステアリングバイワイヤーやスロットルバイワイヤーの用途を狙っているが、このためにはISO26262への対応が必須である。これについて、既に同社のKMA220はASIL-A/Bには対応しており、ASIL-C/Dへの対応は現在行っているとのこと。具体的には、2つの磁気センサーとこれを制御するためのコントローラをワンパッケージ化した構造になっており、これで冗長性を確保することでASIL-C/Dの故障率を満たせる、ということだそうだ。この製品は来年から量産に入るそうで、現在は自動車メーカーにサンプル品の出荷を行っているとのことだ。

Photo16:Stephan zur Verth氏(Vice President, General Manager of Sensor Business)Photo17:ABCD9というのは、Advanced Bi-polar CMOS DMOSの略で、この第9世代にあたる。ちょっと専門的な話をすると、このABCD9はNXPの自社工場のみで利用される独自技術で、140nmプロセスのSOIを利用したものだ、という話だった(流石に細かくなりすぎるので詳細は割愛)Photo18:まぁレアアースの話はとってつけた感がなくはないが。センサー部門では、単に自動車向けのみならず、もっと幅広く利用されることを狙っており、そのうちの1つがBLDC(ブラシレス直流)モーター向けだそうだ

(大原雄介)
2012年 11月 1日