奥川浩彦の「撮ってみましたF1日本グランプリ 2009」
3年ぶりに鈴鹿にF1が帰ってきた


 今年は3年ぶりにF1日本グランプリが鈴鹿サーキットに帰ってきた。筆者にとっては21回目の鈴鹿サーキットのF1だ。昨年と同様、筆者の撮影記をお届けしよう。

 鈴鹿サーキットはF1開催にあたり大規模な改修を行った。最も変化したのはピットビルだが、グランドスタンド、シケインスタンドも大幅にリニューアルされたし、S字、逆バンク、ダンロップ、130Rに新たな常設スタンドが用意された。

 観戦する人にとって、今年の日本グランプリの特徴は「全席指定席」というチケット販売方式だ。過去20年の鈴鹿サーキットのF1を振り返ると、アイルトン・セナとアラン・プロストが激突した1990年前後のピーク時は200R(今年のJ席)やスプーンにも仮設スタンドが設置されたこともあったが、その頃でも自由席はあり、それなりに撮影ポイントも残っていた。

 前回の2006年は、ミハエル・シューマッハ引退でかなり混雑したが、それでも東コースでは逆バンク、ダンロップは自由席、西コースもヘアピン以外は自由席だったと記憶している。今回は誰でも観戦できるエキストラ・ビューエリアが用意されたが、会場に来ている人と話しても、Webの掲示板の書き込みを見ても、エキストラ・ビューエリアの設置場所には不満が多く、全席指定に関しては評判がよくなかったようだ。

 普通に観戦する人にとっても3日間、5セッションを同じ場所で見るというのは、少々寂しい感じだろう。それ以上に観客席から撮影する一般のカメラマンとって、全席指定は好ましくない方式だ。撮影スタイルは人それぞれだが、以前であれば、初日はスプーン、ヘアピンで撮って、2日目は逆バンク、決勝は観戦といった変化を持たせることができたが、今年はそれができない。割り当てられた席が撮影に不向きなら、3日間あってもまったく撮れない可能性もある。

 筆者が観戦と撮影の両方のバランスが取れると考えた席はC1/C2席(1~2コーナー)、D席(S字~逆バンク)、I席(ヘアピン)だ。最終的に用意した指定席はD席、その中のS字2つ目付近だ。1~2コーナーからS字まで見ることができ、逆バンクは一瞬見えなくなるが、ダンロップをチラッと見ることができる場所だ。結果としてD席を選択したのは大正解だった。

 D席は撮影にも観戦にも適した場所だが、それ以外の席でも撮影がしたい。たまたま義理の弟からのメールに「会社の人も、木曜のピットウォークからF1に行く」と書かれていたので、「その人にどこかのセッションでチケットを交換しないか聞いてみて」と頼んだらOKの返事が返ってきた。これでA2席(ストレートエンド~1コーナー)が確保できた。

 さらに9月29日のCar Watchに掲載された「【読者投稿】SUPER GT第7戦富士に行ってきました」にF1に行くと書かれていたので、編集長に「チケット交換のために読者に連絡を取ってもらえないだろうか」と頼んだ。無事、記事を書かれたかとぴんさんからOKがもらえたので、C2席も確保できた。

初日の練習走行は雨
 10月2日金曜日、初日は朝から雨だった。平日なので通勤ラッシュで混むことは分かっていたので、6時30分に名古屋の自宅を出発。伊勢湾岸自動車道 みえ川越IC(インターチェンジ)までは順調に行ったが、料金所手前から渋滞に遭遇してしまった。国道23号線の渋滞が料金所の手前までつながっていたのだ。普段の平日の朝の混み具合を把握していないが、筆者自身はこのICで渋滞するのは初めてだった。四日市市内まで渋滞が続いたが、鈴鹿市内に入ってからは順調に流れ、9時頃に道伯町付近で車を駐め、そこから自転車に乗り換えて逆バンクゲートから入場した。

料金所を過ぎてもまったく動かず。「F1鈴鹿は……」の看板が設置されていた逆バンク裏のオアシスはまだ空席があった

 逆バンク裏のオアシスの人の入りはまぁまぁで、テント下のテーブルにはまだ空きがあった。D席のスタンドはガラガラ、逆バンク側から撮影ポイントを確認しながらS字方向の自分の席まで移動した。気になったのは「F1流し撮り講座 2009」第3回 鈴鹿の撮影ポイントを紹介【東コース編】」で紹介したカメラホールに中継用のテレビカメラが設置されていたことだ。撮影し辛そうな雰囲気だ。

D席、逆バンク側はガラガラこの席は、なんとなくかわいいカメラホールにテレビカメラが……

 S字側から東コースを見ると、観客が一番入っていたのはA1/A2席で3割程度、B1/B2席、C1/C2席は1割程度だった。1カ所だけ、異常に人が密集している場所があった。C席とD席の間のエキストラ・ビューエリアだ。ほんのわずかなスペースに100人ほどが集まり、前の人の頭と頭の隙間からコースを覗くように見ていた。

エキストラ・ビューエリアは3重の人垣でコースは見えない警備の方が崖が崩れるので下がるように警告急造のスペースっぽい地面。フリー走行2回目終了後に撮影

 筆者が事前に紹介した【東コース編】では、このエキストラ・ビューエリアが最も撮影しやすいポイントと書いた。筆者の予想はC席横の斜面で、S字がすぐ正面に見える広いエリアだったが、実際のエキストラ・ビューエリアの場所は、予想もできない小さなスペースだった。

 言い訳になるが、少し前にサーキットに来たときに、鈴鹿サーキットの制服を着た人に「この斜面がエキストラ・ビューエリアですか」と訪ねたところ、指定席の図の丸印を指さし「そうですね。ここがエキストラ・ビューエリアです」と言っていたのだ。過去のF1でも自由席として人気の高いエリアだったので、封鎖されていたのは残念だった。

コースはこんな風に見えたC席横の広いスペースは封鎖され観戦できないように幕が張られていた

 ここのエキストラ・ビューエリアは通路の脇に、急造で用意された感じのスペースで、雨のため崩れるおそれがあり、警備員が押しかけた観客に下がって見るように大声で警告していた。筆者の事前情報を読んで、ここに行かれた方には、大変申し訳ないと思っている。

 雨は小康状態、まもなくフリー走行1回目がスタートだ。この時点では決勝のD席は混み合うので、空いているこのセッションで逆バンク側の撮影をしようと考えた。カメラホール越しの撮影ポジションはテレビカメラが設置されたので1人しか撮影できない感じだ。そこで準備している人に「2人は無理ですかね」と話しかけ、しばしレースの話やカメラの話題で雑談。途中で移動するとのことなので、後で来ますと言って上段に移動した。

 10時、フリー走行1回目がスタートした。最初の1枚は先頭を切ってコースに出たセバスチャン・ベッテルだ。各マシンもインストレーションで比較的ゆっくり走行。撮る側もウォームアップ感覚で、速めのシャッター速度で撮り始めた。この日用意したカメラ機材は、キヤノンのEOS 20Dと40Dに加え以前にも紹介した各種のレンズ。キヤノンのAPS-Cカメラは、35mmフィルム換算で焦点距離が1.6倍になる。以下、記事では換算値も記載する。このポジションでの撮影は、筆者の焦点距離300mmのレンズ+1.4倍のコンバーターでは少々短い。トリミングすることを前提に撮っている。

D席から逆バンクはこんな風に見えるそこから420mm(672mm相当)で撮るとやや遠いトリミングすれば使える

 インストレーションラップを終えピットに戻ると、雨のためかしばらく誰も走ってこない。こちらもしばし休憩だ。スタンドの後ろのオアシスを見ると、金網沿いに望遠レンズが何本も並んでいた。D席、隣のE席よりもオアシスの金網の方がはるかに密集度は高い。

逆バンク裏のオアシスはほかの席から撮影に来た人がたくさんいたダンロップ側のE席もガラガラ、その手前の階段には望遠レンズが……

 少し暇になったので、金網に集まっている人達のところへ行って「どなたかヘアピンのチケットを持っていたら交換しませんか」と話しかけてみた。I席(ヘアピン)の仮設スタンドを持っている方がいたので交渉成立、明日のフリー走行3回目はヘアピンで撮影することになった。ほかの方から「おー、そんな手があるのか」と声が上がったので「皆さんどこで撮るんですか」と聞いたら、「C席のエキストラ・ビューエリアに行ったけど撮影できないからここに来た」「西コースも撮るところがない」と今回のチケット販売方式に対する不満の声が続出した。

 10分ほどして走行再開、しばらくは上段で撮影、その後カメラホール越しのポジションに行って、先に場所取りしていた方に譲ってもらった。この場所は鈴鹿で最も低い角度からマシンを撮ることができる。300mm+1.4倍(672mm相当)ではやや足りないのでトリミングを前提に撮影している。

カメラホールから撮るとこんな感じ。600mm(960mm相当)以上のレンズが欲しいかもトリミングすれば使える下ってきたマシンは少し大きめに撮れる

 10分ほど撮影して再び上段へ移動。今度はレンズを200mm(320mm相当)に代えて流し撮りだ。マシンを真横から撮るとフレームいっぱい、その前後は少し小さめ、300mm(480mm相当)のレンズでは前後でフレームいっぱい、真横の位置だとフレームからマシンの前後が切れる。自分の席から離れた逆バンクでフリー走行1回目の撮影を終了した。

200mm(320mm)のレンズで流すとこんな感じ。真横でフレームピッタリ
300mm(480mm相当)のレンズだと入り口で丁度よい横位置ではフレームアウトする。ヤルノ・トゥルーリの顔が写っているのでさらにトリミングした

 すぐそばのオアシスで食事をして午後のフリー走行2回目を待つことにした。この頃から雨が激しく降り出してきた。C2席のチケットを持つかとぴんさんとメールと電話で連絡を取り合い、午後のセッションのチケットを交換した。かとぴんさんはLEGEND HONDA COLLECTIONとして限定発売されたセナのミニカーを朝8時から3時間並んで購入していた。「手際がよくない。お陰でフリー走行が30分しか見られなかった」とのこと。最終コーナーのオアシスでミニカーを購入し、C席まで行く時間はないので130Rへ行ってわずかな時間だけ観戦したらしい。G席とH席の間のエキストラ・ビューエリアは「コンマ何秒しか(マシンが)見えない」とのことで、筆者が期待したH席の横の土手は開放されなかったようだ。

お弁当の料金はリーズナブル
C席はプチ洪水となった。気付いたらカメラバッグの底が水没

 14時、フリー走行2回目がスタートした。午前中ほどではないが、指定エリアはガラガラだ。豪雨の中ハイメ・アルグエルスアリとセバスチャン・ブエミが1周してピットに戻ると誰も走らない時間が延々と続いた。さらに雨は強くなりスタンド内もプチ洪水状態、現地実況のピエール北川氏と佐藤琢磨氏の雑談を聞きながら耐えるしかなかった。

 1時間近く待つ間に、ピットレーンを折り紙の船が流れていく映像が大型モニターに映し出された。結構な距離をそこそこのスピードで流れていく。ウィリアムズのピット前で一瞬座礁(?)しかけるが、再び流れに乗ったところでレースオフィシャルが回収してしまった。帰宅して録画したスカパー!の生放送を見ると、中嶋悟氏の「取っちゃダメじゃないの、楽しんでるのに……。あそこら辺にユーモアがないよなぁ」とのコメントが印象的だった。フジテレビNEXTのこのセッション解説は小倉茂徳氏と番組初登場の中嶋悟氏だった。インディジャパンで小倉氏と会ったときに「F1は中嶋さんと解説」と言っていたのを思い出した。1時間も誰も走らないと、放送現場も大変だっただろう。

 セッション開始から1時間が経過、雨足は弱くなってきた。ピットでヘルメットを被るドライバーの映像が大型モニターに映し出されたので、こちらもレインカバーを付けて撮影準備を始める。残り30分になったところでフェルナルド・アロンソが1周だけ周回した。その後もパラパラとコースに出るマシンはあったが、複数台の走行が始まったのは残り10分になってからだった。本来なら2コーナーを正面から撮って、S字方向に移動してストレート部分を流し撮り、さらにS字進入でステアリングを切り込んだところも流し撮りと考えていたが、セッション終了後のスタート練習まで入れても15分、チェッカーまで正面から撮影して100mほど走って移動、わずかな時間を流し撮りしてこの日の撮影は終了した。せっかくのC席だったが、消化不良となってしまった。かとぴんさんもせっかくのD席だったが、撮影時間が短く残念だと言っていた。

ここも420mm(672mm相当)で撮るとやや遠い少しトリミングS字に向かうストレートを流し撮り

 オアシス横の喫煙所でタバコを吸っていると、カメラホールを譲ってくれた方がいて雑談。同じ趣味を持つ者同士ということで携帯の番号を交換。天気も悪かったので早々に帰宅することにした。自転車の効果は絶大で16時過ぎには車に乗り、17時30分に名古屋の自宅に着いた。

 帰宅すると、この日発売されたEOS 7Dが届いていた。設定項目が多いので、取りあえずオートフォーカスまわりだけ取扱説明書を読んで確認した。プチ洪水でカメラバッグがずぶ濡れになったので、ベランダに干して翌日に備えた。

 セッションの合間に1通のメールが届いていた。ネットオークションに日曜日だけヘアピン常設席を出品していた人からだった。金曜日、土曜日は観戦し、用事があって観戦できない決勝だけ現地手渡しで譲るという方に、筆者から1セッションだけチケット交換をしないかと連絡した件の返事が来たのだ。

 筆者はD席を3枚持っていて、1人は子供の運動会で日曜日だけ参加となっていた。すでに2枚はヘアピン仮設スタンドと交換が決まっていたので、残りの1枚を交換することにした。

2日目は快晴。EOS 7Dデビュー
 2日目は通勤ラッシュがないのと、セッション開始が11時ということで7時過ぎに出発。1時間で鈴鹿市内に着いたのでスーパーマーケットのマックスバリューでノンビリ買い出しをしてサーキットに向かった。9時にメインゲートでヘアピン仮設スタンドを2枚、常設スタンドを1枚交換して、そのまま自転車で西ストレートゲートまで移動してヘアピンに向かった。

 前日の雨が嘘のような晴天。スタンド裏の日陰で時間待ちをしていたが、1時間以上あったのでスプーンの様子を見に行くことにした。逆バンクのオアシスにいた人から、スプーンでの撮影はできないと聞いていた。実際に行ってみると、スプーン入り口から幕が張られてL席、M席、N席のチケットを持っていない人はスプーンから先で見ることができない様になっていた。筆者の記憶では、過去21回のF1で指定席券がないとスプーンで撮影できないのは、今回が初めてだと思う。スタンドだけ指定にしてくれれば隙間で数百人は見られる場所だけに非情に残念だ。

スプーン入り口から先は指定席券がないと観戦不可幕の上から撮るとこんな感じ。スプーンを代表する撮影ポイントだけに残念

 エキストラ・ビューエリアの看板がないのでスタッフの方に聞いてみると、少し離れた所だと教えてくれた。その場所には1人も観客がいなく、おそらくスプーン手前の高台で観戦した方も実は違う場所がエキストラ・ビューエリアだとは気付かなかっただろう。

スプーン手前の坂。実はこの右上がエキストラ・ビューエリア。誰も気付かないだろう反対側から見ると左上にオレンジの看板がある
エキストラ・ビューエリアには誰もいないエキストラ・ビューエリアからスプーンを見る

 J席の反対側のエキストラ・ビューエリアからチラッとバックストレッチのO席が見える。その横もエキストラ・ビューエリアで、O席とほぼ同じ条件で観戦が可能だった。金網で撮影には不向きだが、観戦目的なら悪くなさそうだ。

J席の向かいのエキストラ・ビューエリア。セッション開始まで時間があるせいか空いていたJ席の様子バックストレッチのO席。隣の赤いフェラーリ旗の場所がエキストラ・ビューエリア。指定席と大差ないかも
J席向かいのエキストラ・ビューエリアの横には救護所、授乳室、インフォメーションインフォメーションの横には掲示板が設置されていた

 ヘアピンに戻り、日陰と喫煙所を3回くらい往復して時間を潰し、10分前に常設スタンドに入った。客の入りは7~8割、混んではいるがそこそこ空席もある。EOS 7Dに300mmのレンズと一脚、40Dに200mmのレンズを付け準備に追われていると、隣の席の若い娘が「誰のファンですか」と話しかけてくれた。セッションスタートまでしばし雑談。彼女は大阪から、知人が東京から来る予定だったが、チケットを忘れて静岡でUターンしたので今日は1人で観戦とのこと。過去に何回か観戦してるが、今回は全席指定で見るところがないと不満を漏らしていた。

ヘアピンのI席から正面を見る。普段は観戦エリアだが、ここも封鎖されてた。テレビ中継でも誰もいない風景が映るのは寂しい感じだH席の様子。エキストラ・ビューエリアは右側のG席横の高台。コンマ何秒かマシンが見えたらしいG席の立体交差側。下段の常設席と上段の仮設席の間の空間が不思議

 EOS 7Dのデビューは晴天の鈴鹿となった。初めて買ったデジタル一眼レフ、EOS 20Dのデビューは台風接近で豪雨の鈴鹿だった。5年が経過したが20Dは今でも現役、秒5コマが遅く感じることと、1.8型の液晶モニターが筆者の老眼で見辛くなった以外は大きな不満もなく、あらためて名機だったと思っている。

 EOS 7Dは何もテストしていないので、取りあえずピクチャースタイルは忠実、シャープネスを7段階の6、色の濃さをプラス1に設定、フォーカス設定は撮影中にゾーンAFと領域拡大AFを切替ながら撮影してみた。今回は手探りでの撮影、何枚かはRAWで撮影したので、少し時間ができたらどんな設定が適当なのかを検討したいと思っている。ヘアピンではクリッピングポイントを正面から撮影、立ち上がりを流し撮りで撮影。絵は帰宅してパソコンで見てみないとわからない。秒8コマは気持ちよく撮れるのだが、枚数が増え、後処理が大変だなと感じた。

EOS 7Dの連続写真。秒8コマだが7コマ目まではExifのデータで同じ秒に入っていたその中の1枚。300mm(480mm相当)ではこんな感じトリミングするとこんな感じ
立ち上がりを200mm(320mm相当)で流し撮り引きつけるとフレームに入らないトリミングしてドライバーをアップ

 セッション終了後、ヘアピンのチケットをD席に戻し、義理の弟と同じ会社の方とチケットを交換した。今度はA2席だ。過去に10回以上観戦しているそうで、F1グッズをほとんど身に着けていない筆者と異なり、いかにも、という格好だった。

 逆バンク裏のオアシスは前日とは異なり観客であふれていた。座る場所もないのでグランドスタンド裏のGPスクエアを見に行くことにした。そこは人、人、人であふれかえっていた。こっちのステージには中嶋悟氏、あっちのステージには鈴木亜久里氏とブリヂストンの浜島裕英氏、ステージに近付くことができないくらい多くの観客が集まっていた。

予選前のグランドスタンド裏の様子。人、人、人…ステージには中嶋悟氏こちらのステージには鈴木亜久里氏と浜島氏。司会者の「山手線でサインを求められるスーパーサラリーマン」の紹介には笑った
トヨタブースのゲームも長蛇の列セナ・フォーエバーのブースも満員だった中にはマクラーレンホンダのマシンなどが飾ってあった……入れなかったけど
ドライバーと記念撮影ができます。あるドライバーの前は長蛇の列だった

 人だけ見てGPスクエアを通り抜け、A2席の巨大な仮設スタンドの日陰で一休み。通路脇で横になったら爆睡してしまった。予選開始10分前にスタンドに入ると、ほぼ満席状態。正面から日が当たるので異常な暑さとなっていた。

 ガラガラだったD席と違って、指定の席以外で撮ることは不可能。座った10列目はレコードラインが金網に遮られていたので、コンパクトデジカメで様子だけ撮影して、一眼レフはカメラバッグから取り出すこともなかった。

A2席真ん中辺り、10列目の風景。レコードラインは金網越しとなる

 14時、Q1開始。ストレートエンドはさすがにマシンが速い。FMの現地実況放送をイヤホンで聞きながら、撮影モードから、観戦モードに切り替えた。ふと、周りのスタンドを見るとB1/B2席は8割、C1/C2席は7割ほど観客が入ってる様に見えるが、D席は相変わらずすいているようだ。

 最初はストレートエンドのマシン速度を堪能したが、すぐに飽きてきたし、すいているD席を見て撮影がしたくなってきた。中嶋一貴選手もQ1敗退となったので、Q1終了後にD席に移動することにした。余っていた3枚目のチケットがまた役に立ったのだ。

A2席から出るときに階段から撮影。1コーナーへ突っ込むマシンの底から火花が見える位置。でも撮影は無理そうB席のスタンド裏から近くを通る中勢バイパスを見ると、「音だけ観戦?」する人がいたC席とD席の間のエキストラ・ビューエリアはいつも混雑

 スタンド裏に出ると、先ほどまで人であふれていたのが嘘のように閑散としていた。早足でB1/B2席の裏を抜けD席に向かうが、2コーナー付近でQ2が始まった。これじゃ、Q2の撮影は無理かなと思った瞬間に赤旗が出て中断。ノンビリ歩いてD席に戻ってきた。

 昨日は雨だったが、今日は快晴。昨日とは違った絵が撮れるはずだ。もう一つの違いは、そう、カメラがEOS 7Dに代わっていることだ。前日とほぼ同じ場所を移動しながら撮影、晴れたので金網越しの撮影は、目の前の緑の金網が反射してファインダーを覗いた瞬間に色が被っていることと、コントラストが落ちていることが分かったが、レタッチソフトに頼ることにしてそのまま撮影した。やはり金網は黒のつや消しにしてほしい。

カメラホールから撮影。晴れたので緑の金網の影響が出ている。上の横のバーはコース側の金網のバーレタッチしてトリミング
上段からはこんな感じ。晴れるとまた違う絵となる予選終了の頃には日差しがかなり傾いていた

 赤旗が3回も出て、異常に長い予選が終了した。筆者は場所的に避けたが、デグナーのエキストラ・ビューエリアはこの予選は楽しめただろう。親戚の同僚の方とチケットを戻した際にD席の感想を聞くと満足していたようだ。A2席は4万7000円、D席は3万7000円、コストパフォーマンスはD席のほうがよさそうだ。決勝スタートの迫力はA2が最高だと思うが、撮影したい人にはD席の方が数段価値があるだろう。

 オアシス横の喫煙所に行くと、昨日カメラホールの撮影場所を譲ってくれた方がいて、「記事、読んでました」とのこと。携帯番号を交換したときの、奥川という名字と、カメラホールを通して撮影してトリミングという言葉が気になってCar Watchを見て確認したそうだ。読者様でしたか……感謝感謝。「D席は明日もガラガラで、何処でも撮影できそう」「友人がヘアピンで600mmをもてあましてる」と、しばし雑談をした。

赤旗中にオアシスを見ると、ここも混んでいた喫煙所から予選終了後にオアシスから見た逆バンクの様子。ほんの一瞬しか見えないE席横のエキストラ・ビューエリア。常設スタンドなので、快適度は一番かも

 帰る前にダンロップコーナーのE席横にあるエキストラ・ビューエリアを確認。常設スタンドのデグナー側半分がエキストラ・ビューエリアとなっていた。ここも金網があり撮影には不向きだが、土手に座るO席横のエキストラ・ビューエリアよりは快適そうでお得感は高かった。

 この日も自転車で駐車場まで移動。途中、正面駐車場の前にあるミニカーショップの「GPコレクション」に寄るが、以前のような1/18モデル1000円といった激安品はなかった。16時30分過ぎに駐車場を出発、国道23号線の四日市手前の渋滞は裏道で避け、18時頃帰宅した。

 さっそくEOS 7Dの画像をパソコンに移すのだが、40Dの数倍は時間がかかった。解像度が最大3888×2592ピクセルから5184×3456ピクセルになり、ファイルサイズが大きくなったのに加え、秒8コマで撮影枚数が増えているからだ。数枚見て、特に問題はなさそうなので飲みに行ってしまったから土曜日はここまで。

決勝も今回は撮影モード
 決勝のスタート時刻は14時。この日は10時過ぎに名古屋を出発。1時間で鈴鹿市内へ。この日もマックスバリューで買い出し、加えて友人がイヤホンが壊れたとのことで100円ショップも回ってノンビリとサーキット入り。

 昨年はホテルからバスで向かったので、決勝日は一眼レフに200mm(320mm相当)だけ付けて、基本は観戦モードだった。鈴鹿の例年の決勝は身動きできない状況なので観戦モードなのだが、今年は不人気のD席なら自由に移動して撮影できそうだ。機材は減らさず、逆にカメラホール用に折りたたみの踏み台を椅子代わりに追加してコースに向かった。

 東コースの1~2コーナー側の各スタンドは所々に空席があるが、基本的には満席に近い。D席もS字側はそこそこ入っているが、逆バンク側はすいている。ダンロップ、シケイン、最終コーナーもかなり空席が目立っていた。帰宅後にテレビ中継を見ると、西コースはヘアピン、スプーンは満席の様だった。

スタート直前のA1/A2席A2席のアップ手前がD席のS字側。上段は混雑している。その向こうにC席とB席
B席のアップC席のアップD席の逆バンクは国内レースより観客が少ない
E席も空席が目立つシケインのQ1/Q2席。Q2は空席が多い最終コーナーのR席。仮設スタンドの上段は観客が多い

 逆バンクやダンロップは元々自由席だった場所なので、3万円台は高すぎだったのだろう。筆者も観戦目的ならばS字はあっても逆バンクを選択することはない。

 オアシスの日陰でノンビリ過ごし、レース開始10分前に指定の席に到着。EOS 7Dに300mm+コンバーター(672mm相当)、40Dに200mm(320mm相当)、カメラマンベストのポケットに標準ズームを入れて準備完了。FMラジオも感度良好、スタートを待つだけだ。携帯のワンセグも市街地とあってしっかり映っているが、大型モニターもあるし、撮影と相性がよいのはFMラジオなので携帯はポケットへ。

 14時、決勝スタート。ヤルノ抜かれた~、一貴の後ろにアロンソ、抜かれるか……抜かれないねぇ……と最初10分ほどは完全に観戦モード。レース展開も落ち着いたので撮影モードに切り替えた。席からは前の人の頭が写るので座ったままの撮影は難しい。10mほど逆バンク側に移動すると下段はほぼ空席、数人が撮影していたので、そこに移動して撮影開始。

S字二つ目を200mm(320mm相当)のレンズで流し撮り

 下段だとコースが近くなるので200mm(320mm相当)のレンズではフレームギリギリとなる。加えて10m逆バンク側に移動したので、S字が見えなくなり、誰が来るのかが分かりづらい。順位を頭の中でよく整理していないと狙ったマシンが撮れない。ベッテル、ハミルトン、ヤルノの3台は2秒ほど離れているので連続して撮れるが、アルグエルスワリ、一貴、アロンソは1秒以下の接戦、アルグエルスワリを撮ると一貴は撮れない、といった感じだ。もう少しS字側の上段で撮りたいが、観客が多いので逆バンク側に移動することにした。

 指定席になったためか、逆バンク付近は国内レースより観客が少ない。最初は上段の空席に座って撮影、その後最前列に降りて金網越しにカメラホールから撮影。踏み台を椅子代わりしたので楽に撮影できた。隣のカメラホールに初日に場所を譲ってくれた方がいたので、椅子を貸して上段へ移動した。流し撮りをしていたらセーフティーカー導入、標準ズームに切り替え観覧車を入れたバックショットを撮ってみた。レース再開、車間が一気に縮まったので正面からの撮影に変更。残り1周で自分の席に戻って、ウィニングラップを迎えた。最後尾を一貴が走ってきたので、一応撮影、機材をしまって撤収だ。

逆バンク進入を縦位置で撮影。バックに観客が写るのはF1だけ上段から流し撮り
カメラホールから3枚
セーフティーカーが入ったので観覧車を入れて鈴鹿っぽい風景これもセーフティーカーで車間が縮まったところを撮影ウィニングラップ、最後尾の一貴を撮って撮影終了

 途中、エイドリアン・スーティル、ヘイキ・コバライネンの接触や2度目のタイヤ交換でヤルノがハミルトンを抜くシーンはラジオと大型モニターで一時的に観戦モードに切り替え、展開が落ち着くと再び撮影モード。そんな感じで3年ぶりの鈴鹿日本グランプリは終了した。

 S字から逆バンクに戻り、椅子を受け取って喫煙所へ。カメラホールを譲ってくれた方とまた一緒になったので、来年もヨロシクと挨拶してサーキットを後にした。逆バンクゲートを出て自転車で駐車場へ。2日間は置きっぱなしにした自転車を2台積んで4時頃出発。この日も国道23号線の四日市手前の渋滞を裏道で避け17時30分に帰宅した。

 決勝でこんなに撮影したのは、最近では記憶にない。D席の選択は撮影面では大正解だった。だが、プロ野球の中継でもガラガラのスタンドが映るのは、決して好ましいものではない。車載カメラや空撮の映像に空席のあるスタンドが映り、それを世界中に人が見ると思うと、やはり残念だと思う。来年はもう少し価格を見直してほしいものだ。

 加えて、全席指定という販売方式を歓迎する人には1人も出会わなかった。特に、何度も鈴鹿でF1を見ているリピーターの方には不評のようだった。あえて言えばチケット交換とガラガラのD席を組み合わせた筆者は、結果として満足度が高かった。

 エキストラ・ビューエリアもダンロップ、デグナー、200R、バックストレッチはまずまずだったと思うが、S字のC席横、スプーンのL席手前は、そこに大きなスペースがあっただけに残念だった。ヘアピンの進入側も普段入れるエリアが封鎖され、テレビ中継でも誰もいない映像が映っていた。1987年、1988年の映像を確認すると、ヘアピンはグルッと全域が観客であふれていた。経済状況もあり、モータースポーツを盛り上げる側面から見てもチケットの販売方式、観戦エリアの見直しが望まれる。

 ちなみに筆者がかつてモナコGPを観戦したときは、初日、2日目、決勝と別々の席を購入するシステムだった。予選はカジノ前、決勝はプールサイドと自分で選べるようになっていた。どうしても全席指定を継続するなら、例えば初日スプーンが3000円、予選ヘアピンが6000円、決勝2コーナー2万円といった販売方式もありだろう。これなら土日仕事の方も金曜日だけ観戦することができる。事実、数年前は金曜日のみのチケットが存在した。金曜日は現地で当日指定席の販売もあった。仕事で接するモビリティランドの方は優秀な方が多い。モナコにできるなら鈴鹿でも可能だろう。

 だが、昨年までの富士と比べると鈴鹿には自由な雰囲気が溢れている。駐車場も豊富でどこの駐車場に駐めるかも個人の自由だ。入場ゲートもどこから入るのかも自由だ。市街地なので飲食を調達して入るもよし、場内の飲食の値段もリーズナブル。ドリキンカレーは決勝には150円値下げしていた。筆者の通った平田町方面から道伯町へ向かう道では、予選日5000円/日だった駐車場が決勝では3000円に値下げ、でもすぐ隣は3000円を2000円にと統一感のなさが微笑ましい。

 以前は指定席の後ろに高い脚立を立てて観戦する人や、古い映像を見ると看板によじ上って見ている人もいた。土日は終夜ゲートオープンでサーキット内で一晩過ごすこともできるなど、自由な伝統は残っているが、わざわざ観戦エリアを封鎖するのは、鈴鹿らしくないだろう。大人の事情は多々あると思うが、市民からも愛され、モータースポーツファンからも愛される鈴鹿サーキットなので、来年以降は自由な観戦スタイルを取り戻してほしい。

 前夜祭が楽しかった、白子駅までのバスの運行も過去にないほどスムーズだった、渋滞が少なかった、と快適なF1だったとの声が多い。さすが鈴鹿サーキットと絶賛する方もいる。できれば2012年以降も、鈴鹿でF1グランプリが開催されることを願っているのは筆者だけではないだろう。来年はもっと観客席が埋まるイベントになることを期待したい。

 モビリティランドでは、今回のF1グランプリに関するアンケートを募集している、参加された方は是非アンケートに協力していただきたい。

2009FIA F1世界選手権シリーズ“フジテレビ日本グランプリ”アンケート
http://mls.mobilityland.co.jp/mobile/ct/mg.aspx?id=0910040007
2009FIA F1世界選手権シリーズ“フジテレビ日本グランプリ”交通アクセスアンケート
http://mls.mobilityland.co.jp/mobile/ct/mg.aspx?id=0910040008

 3日間撮ってきた写真は後ほどフォトギャラリーで掲載したい。気になるEOS 7Dのインプレッションも後日掲載を予定している。

(奥川浩彦)
2009年 10月 7日