日産、攻勢に転じる中期計画「日産パワー88」発表
6週間ごとに計51台の新車投入、世界シェア8%狙う

カルロス・ゴーンCEOとリーフNISMO RC

2011年6月27日発表



 日産自動車は6月27日、2016年までの中期経営計画「日産パワー88」を発表。神奈川県横浜市の同社グローバル本社でカルロス・ゴーンCEOがその詳細を説明した。

 計画名の「88」は、2016年に世界市場シェア8%、営業利益率8%という目標を意味する。2010年はそれぞれ5.8%、6.1%で、販売台数は約408万台だった。同社は2016年の世界自動車販売台数を9000万台超と予測しており、生産能力の増強もこの数字を前提として行う。同社の販売台数はシェア8%なら単純計算で720万台となる。

「日産パワー88」は、8%のグローバルシェアと8%の営業利益率を目標とする2016年までの中期計画。新興市場とサステイナビリティを柱とする

 ただしゴーンCEOによればこの目標は「コミットメントではない。必達目標ではなく努力目標。会社の実力、技術、商品開発、参入する市場に照らすと、このあたりが実力ではないかと考えている。8%を達成する実力はあると思うが、結局のところ7.8%や7.7%になるかもしれない」とのこと。推測に基づく数字が前提となっているため、市場の動向次第では数字にブレが出る可能性があるからだが「重要なのは、成長を目指すということ、攻勢をかけるということ」と、同社にとっての大きな挑戦であることを強調。

 「この中期経営計画は、初めてハンディキャップのない形で開始する中期経営計画だ。例えば、利益やキャッシュポジションや技術的な弱みはないし、商品上の不足もない、マーケットプレゼンスやマネジメントも問題ない。始めから攻勢をかけられる中期計画だ。何かを復活させたり守勢に回る必要がない、初めての中期計画だ。だからこそ私たちは自信を持っている。もちろん多大な努力が必要だ。ただ、攻勢をかけていく」と、アグレッシブに高い目標を追求する姿勢を見せた。

6つの柱

51の新型車投入で販売拡大
 ゴーンCEOは目標達成のための戦略として6つの柱「ブランドパワーの強化」「セールスパワーの向上」「クオリティの向上」「ゼロ・エミッション リーダーシップの有効活用」「事業の拡大を通じた成長の加速化」「コスト リーダーシップ」を掲げた。

 この中でもっとも日産パワー88の特徴を表しているのが「事業の拡大を通じた成長の加速化」。具体的には、平均で6週間ごとに新型車を1車種投入し、ブラジル、インド、ロシア、アセアン諸国、中国といった新興市場でのプレゼンス拡大を図る。これにともない、中国、ブラジル、北米の生産能力を増強する。

 現在64車種で80%の市場とセグメントをカバーしている同社だが、車種統合と新型車の投入により、66車種で92%をカバーする。また、北米で発売しているミニバン「クエスト」と「エルグランド」、やはり北米の「アルティマ」と「ティアナ」を統合するといったように、車種統合で13車種を廃止、15車種を新規投入する。

6週間ごとに計51車種を投入。66車種で92%のセグメントと市場をカバーする。また、期間中に90の先進技術を採用する

 アルティマ、ティアナ、キャシュカイ(デュアリス)、ティーダなどは、台数増の牽引役「グローバル成長モデル」と位置づけ、刷新する。一方で、「マーチ」のVプラットフォームベースのグローバルカーを2車種から3車種に拡大、販売台数を100万台以上に引き上げる。また、新興市場のエントリーカーもパートナーと共に開発する。さらに、小型商用車にも力を入れ、業界リーダーを目指す。

 このほかインフィニティ・ブランドのラインアップを拡充。現在は36の市場で7車種を販売しているが、71の市場、10車種以上に拡大し、グローバルのラグジュアリー・カー市場で10%のシェアを獲得、50万台の販売を目指す。

本社ギャラリーには日産/インフィニティの海外モデルが展示された。写真は左から「クエスト」「ムラーノ・クロスカブリオレ」「インフィニティQX56」
インフィニティG37コンバーチブルタイタン(左)とパトロール手前は中国で発表された新型「ティーダ」。奥にはその3ボックス版「サニー」が見える
ティーダなどはグローバル成長モデルと位置づけて注力するインフィニティは10車種に拡大、EVも投入する
Vプラットフォームは2車種から3車種へ小型商用車でもリーダーに

 

グローバル全体需要のうち、2016年には新興市場と成熟市場の割合が逆転、新興市場が6割を占める

新興市場に注力
 ゴーンCEOは「我々が得られるであろう成長の殆どは、グローバルでの販売台数の増加が期待できる。今から2016年まで、日本の市場は安定しているはずだ。おそらく450万台くらいの全体需要だろう。しかしグローバルの市場は9000万までいくだろう。欧州や日本を外れた地域だ。成長を遂げるためには生産能力をそういったマーケットで得なければならない。だから中国やアセアン、ブラジルでも能力を拡張する」と述べ、新興市場での生産・販売拡大に注力する姿勢を示した。

 地域別に見ると、中国は、現在のシェア6.2%から10%への拡大を目指し、生産能力を現在の2倍の120万台まで増強する。

 ブラジルでのシェアは現在のところ1.2%にとどまっているが、5%を目標とし、20万台の生産能力を持つ新工場を建設する。

 インドでは、アショック・レイランドとのアライアンスで7月に小型商用車を投入するのを皮切りに、合計5車種を投入する。

 アセアン5カ国(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)はタイ日産が生産・輸出のハブ拠点となるほか、ジャカルタ近郊の生産能力を増強。アセアンでのシェアを現在の6%から15%に伸ばす。

 欧州では、アジア・ブランド最大の販売台数を目指す。ロシアではアフトワズにルノー・日産アライアンスとして50%を出資。アフトワズのトリアッチ工場を近代化し、生産能力の拡大を図る。これにより日産のロシアにおけるシェア7%、ルノー、日産、アフトワズの合計で40%のシェアを狙う。

 このほか現在、世界で6000店ある主要販売拠点を7500店舗に拡大し、新興市場では販売網の確立を、成熟市場では顧客の定着率改善と1店舗あたりの販売台数増を目指す。

事業拡大の方針中国ではシェア10%を目指すブラジルでは生産能力を高め、シェア5%以上を目指す
インドでは新型車5車種を投入アセアン5カ国はシェア15%が目標メキシコはトップシェアを維持
欧州ではアフトワズへ出資。ロシアでのシェアを7%に

 

販売台数増とアライアンスでコスト削減
 「コスト リーダーシップ」、つまりコスト削減策も、原材料費の上昇傾向と円高傾向が続く中で特徴的なところだ。これまで続けてきた原価低減策に加え、部品やシステムの共用率向上、物流費や内製コストの削減により、トータルコストを年間5%下げていく。また海外工場の部品の現地化を進める。

 またパートナーシップもコスト削減に活用する。三菱自動車工業と軽自動車の合弁会社を設立したほか、メルセデス・ベンツのエンジンをインフィニティに搭載し、ディーゼルエンジンやパワートレーン技術で協力。メルセデス・ベンツとのコラボレーション製品は早ければ2012年、遅くとも2014年には登場する。

 さらに、販売台数の増加を効率の向上につなげる狙いも明らかにした。ゴーンCEOは「(5%のコスト削減は)既存のサプライヤーのコストを削減するのではない。サプライヤーには当然利益を出してほしい、健全であってほしい。だから5%の削減は販売台数を伸ばし、効率を上げることで達成したい」と述べ、1モデルあたりの販売台数を増やすことをコスト削減につなげる考えを示した。

 具体的には、以前の中期計画「日産バリューアップ」で1モデルあたり年間5万5000台販売していたものを、日産パワー88により平均で1モデルあたり11万台に倍増させ、2016年には1モデルあたり15万台を目指す。「生産に関わる効率の向上、パーツの共有化、協力、低コスト地域からの調達、いろんなことでコスト削減をやりたいと思っている。サプライヤーを弱体化させるつもりはない。サプライヤーが強くなければ我々は成功できない」。

 一方で、ルノー・日産アライアンスを持株会社制にするといった、経営効率化は考えていないとし、「各社は業績を上げるために一生懸命やっている。ルノーの業績はルノーの従業員が、日産の業績は日産の従業員ががんばっている。アライアンスはこれらの業績を支える梃子であって、置き換えるものではない。アライアンスで創出するシナジーは、日産とルノーの業績に寄与するものだ」「アライアンスは合併ではない。1社ではなく2社だ。もちろん協力関係にあるが、各社が自らの業績の責任を負い、戦略を策定し、各社のアイデンティティを維持する。この関係は変わらない。アライアンスがあるからこそ、我々は時間を短縮したり、スピードアップして、コストと投資を削減をして、技術を選択的にやっていく。そのためにアライアンスがある」という考えを示した。

物流費や内製コストにも眼を向けるアライアンスとパートナーシップもコスト削減に活かす

 

ゼロ・エミッションは全方位で
 「ゼロ・エミッション リーダーシップの有効活用」は、「おそらく2015年までの間に次のライバルが量販ゼロエミッションを出してくるだろう。それまでは日産が供給が追いつかないほどの販売をするということになる」というように、EV「リーフ」での先行者利益を活かしつつ、EV以外のゼロ・エミッション技術も活用する。

 EVは「主要な技術」として、ルノー・日産合わせて8車種のEVを投入。日産としては商用車を投入するほか、インフィニティにもEVを投入する。

 その一方でメルセデス・ベンツと燃料電池の協業を進め、2015~2016年には量販車を投入する。「我々はある1つのゼロエミッションのソリューションで行こうとしているのではない。複数のソリューションを用意して、常にゼロエミッションのモビリティを提供している。まずEVから始めたのは、EVの技術が準備できていたからで、燃料電池を無視していたのではない」と、さまざまなゼロ・エミッション技術を採用する構えを見せた。

ギャラリーには松田次生選手がドライブするリーフNISMO RCが登場したリーフを住宅の蓄電池として使う技術展示
ルノー日産アライアンスで150万台のEVを販売するEV以外の環境技術も採用

(編集部:田中真一郎)
2011年 6月 28日