ナノレベルで分子構造を3D可視化したダンロップのタイヤ開発 スパコンをフル活用した「4D NANO DESIGN」開発技術説明会 |
エナセーブ PREMIUMのタイヤパターン。同社のシミュレーション技術が活かされている |
ダンロップ(住友ゴム工業)は、東京モーターショーの会期中に低燃費タイヤブランド「エナセーブ」のフラッグシップモデル「エナセーブ PREMIUM(プレミアム)」を発表。エナセーブ PREMIUMは、ラベリング制度の転がり抵抗性能「AAA(一部サイズはAA)」、ウエットグリップ性能「c」を実現したタイヤで、215/45 R17 91W~185/70 R14 88Hの全15サイズを用意し、新材料開発技術「4D NANO DESIGN」採用した第1号製品になる。東京モーターショーの同社ブースで技術展示が行われていた4D NANO DESIGNだが、12月12日に報道陣向けの詳細な技術説明会が開催された。
■シミュレーションは、構造設計から材料分析へ
説明会は、住友ゴム工業 常務執行役員 材料開発本部長 研究開発本部長 中瀬古 広三郎氏による概要説明から始まった。中瀬古本部長は、タイヤが地球環境に貢献できる3つの方向性「原材料」「低燃費性」「省資源」を示し、それを製品レベルに落としていく際に4D NANO DESIGNを使い、「ナノ(10億分の1)の世界を見える化し、ナノのレベルで素材を自由にコントロールしていく」ことが、大切だと言う。
住友ゴム工業 常務執行役員 材料開発本部長 研究開発本部長 中瀬古 広三郎氏 | タイヤが地球環境に貢献できる3つの方向性 |
同社では、1992年にシミュレーションの専門部隊を立ち上げ、1993年にスーパーコンピューターを導入。製品開発の基礎となる「仕組みが見える、分かる」をCAR(Computer Aided Research)、開発段階の試作や評価をCAE(Computer Aided Engineering)、技術の蓄積・伝承をCAK(Computer Aided Knowledge)とし、製品開発を行っていると言う。この3つの略語の内、CAEは一般的な用語だが、CAR、CAKは同社の造語となる。
第1世代のシミュレーション技術「DRS I」では、タイヤの転動特性である「コーナリング」「NVH(ノイズ、バイブレーション、ハーシュネス)」「摩耗」を再現。第2世代の「DRS II」では、それらに加えて、路面環境や車両の要素を追加。第3世代の「DRS III」では、タイヤ内部の空気の共鳴やパターンによる騒音をシミュレーションすることが可能になっている。これらDRSは、タイヤの構造解析技術となり、タイヤの形状設計に関するシミュレーション技術は完成していると言う。
一方、材料シミュレーションは、「デジコンパウンド」と名付けられ、ゴムのミクロの構造を2Dで再現。これが4D NANO DESIGNでは、ナノの世界を3Dで再現することが可能になり、低転がり抵抗性能とウエットグリップ性能という背反した性能を両立させる開発に寄与でき、転がり抵抗性能「AAA」をマルチサイズで展開するエナセーブ PREMIUMの製品化につながっている。
住友ゴムのシミュレーション技術の狙い | シミュレーション技術の変遷 | 今後の方向性 |
■スーパーコンピューター「京」の活用も
4D NANO DESIGNの詳細については、同社 材料開発本部 副本部長 松尾俊朗氏が説明。これまでの低燃費化材料技術は、タイヤを構成する素材「シリカ」「ポリマー」、シリカとポリマーを接合する「変性基」のうち、主にポリマーに着目して行っていたと言う。
新しく導入した4D NANO DESIGNでは、ゴムの内部の可視化を高精度にシミュレーションすることができ、分子構造の制御でより優れたタイヤ素材を作ることが可能になっている。具体的には、放射光施設「Spring-8」で素材を分析。分析結果をスーパーコンピューター「地球シミュレータ」で解析シミュレーションすることで、ゴム中のシリカの3D ナノ構造を可視化している。
住友ゴム工業 材料開発本部 副本部長 松尾俊朗氏 | タイヤ開発技術の進化 | これまでは、ポリマーに着目 |
4D NANO DESIGNに、同社の技術を結集 | ナノレベルでの材料開発を実施 | 第1号製品となるエナセーブPREMIUM |
実際にシミュレーションで得られたシリカの分布 | 拡大画像。シリカは偏在している | 青い線はポリマー |
シリカとポリマーは、黄色や青色で示された変性基で接続されている | これまでは、2Dでのシミュレーションだった |
Spring-8と地球シミュレータで、3Dシミュレーションが可能に |
これらにより、発熱(エネルギーロス)個所の特定などが可能になり、シリカ、ポリマー、その接合材である変性基の最適配置が行えるようになった。エナセーブ PREMIUMでは、これらの知見を用いて、変性基の位置と強度を最適化した両末端マルチ変性ポリマーを合成。シリカの分散性を向上させる、断熱高反応結合材も用いている。
同社では今後、4D NANO DESIGN技術を使い、新たなスタッドレスタイヤ、ハイグリップスポーツタイヤを開発するほか、先日、世界最速の計算速度を達成したスーパーコンピューター「京(けい)」を将来的に活用していくことで、3D解析に加え、時間軸を加えた動的材料解析を行っていく。
発熱予測などを行っている | 断熱高反応結合材を新たに使用 | |
両末端マルチ変性ポリマーを新たに使用 | スタッドレスタイヤや、ハイグリップタイヤの開発にも使われる | 世界最速のスパコン「京」で、さらなるシミュレーションを行っていく |
■低燃費タイヤを多数ラインアップ展開
エナセーブ PREMIUMを含む低燃費タイヤの販売戦略については、同社 執行役員 ダンロップタイヤ営業本部長 山本悟氏が説明。山本営業本部長は、ダンロップは世界初の空気入りタイヤ、自動車用国産第1号タイヤ、世界初の特殊吸音スポンジ搭載タイヤなど「先駆ける商品開発」が特徴であると紹介し、現在は環境配慮商品の開発に注力。2004年の「デジタイヤ ECO(エコ)」がその先駆けとなっており、エナセーブ PREMIUMに代表される転がり抵抗を低減した「エナジーセーブ」タイヤと、「エナセーブ97」や「100%石油外天然資源タイヤ」のプロトタイプに代表される「ネイチャーセーブ」タイヤのラインを展開していると言う。
エナジーセーブタイヤでは、2015年にデジタイヤ ECOと比べて50%転がり抵抗を低減したタイヤの発売を、ネイチャーセーブタイヤでは、2013年に100%石油外天然資源タイヤの発売を予定している。
住友ゴム工業 執行役員 ダンロップタイヤ営業本部長 山本悟氏 | 同社の特徴である、「先駆ける」商品開発 | エナジーセーブとネイチャーセーブ、2つの環境対応商品ライン |
エナセーブ PREMIUMについては、発熱を抑制した低燃費ゴムにより従来製品より転がり抵抗を約39%低減。燃費も約6%向上していると言い、ウエットブレーキ性能も約9%向上させた。また、ラベリング制度についても、約35%の消費者が認知しており、東日本大震災後エネルギー節約や環境に対する意識も高まっていると調査結果を紹介した。
同社では、エナセーブPREMIUMを15サイズで展開するとともに、バン用「エナセーブ VAN01」、小型トラック用「エナセーブ SPLT38」も用意。低燃費タイヤを豊富にラインアップすることで、消費者のニーズに応えていくと言う。
ラベリング制度の解説 | ラベリング制度に関する意識調査結果 | 震災による意識変化調査 |
エナセーブPREMIUMの特徴 | 低燃費タイヤは、5製品220サイズを用意 | 商用車向けにもエナセーブを用意 |
(編集部:谷川 潔)
2011年 12月 12日