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DTMと車両規則を統合したSUPER GTの2014年型車両を3メーカーで共同発表
直列4気筒 ターボエンジン搭載のLEXUS LF-CC、Nissan GT-R Nismo GT500、NSX CONCEPT-GT
(2013/8/16 14:01)
GTカーを利用したレースシリーズ“SUPER GT”の運営、プロモーションを統括するGTアソシエイション(以下GTA)、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)は、三重県鈴鹿市にある鈴鹿サーキット内において共同記者会見を開催し、GTAとドイツのレースシリーズであるDTMが共同で策定した新しい共通車両規則に対応した、2014年型GT500車両を発表した。
トヨタはレクサスブランドの「LF-CC」をベースにした「LEXUS LF-CC」、ホンダは2015年に市場投入を計画している新型NSXのコンセプト車両「NSX コンセプト」をベースにした「NSX CONCEPT-GT」、日産は同社のフラグシップカーとなる「GT-R」をベースにした「Nissan GT-R Nismo GT500」を発表した。記者会見が行われた8月16日の午後には、招待された一般のファン向けのお披露目会、各メーカーによる新型車両のチェック走行などが予定されているほか、SUPER GT第5戦鈴鹿の予選日(8月17日(土))にはピットウォークで、決勝日(8月18日(日))にはデモ走行が予定されているなど一般のファンへのお披露目が予定されている。
SUPER GTがグローバルなシリーズとなるための次のステップとなるDTMとの車両規定統合
冒頭で挨拶にたったGTAの板東正明代表は「2009年より、DTMを統括するITRとの話し合いを続けてきて、それがようやく具体的な形になった。3メーカーやJAFなど関係各位の協力があってこそであり感謝したい。新しい車両規定は、DTMやSUPER GTだけでなく、米国で行われているグランダムシリーズでも利用される予定であり、欧州、アジア、北米という3つの地域が同じ規定でレースをすることになり、ツーリングカーレースがよりグローバルになっていくと考えている。しかし、それぞれのレースは車両規則こそ共通化したが、レースフォーマットがそれぞれ異なるなど工夫もしており、それぞれの形で発展していくことになる」と述べ、車両規則の統合により、世界規模で同じ車両を利用してレースすることでそれぞれのシリーズが発展していくだろうと、その意義を語った。
DTMにしろ、SUPER GTにせよ、それぞれの地域(ドイツ、日本)では非常に人気があるシリーズだが、世界規模で見ればローカルなシリーズであることは間違いない。このため、DTMならドイツの自動車メーカー(メルセデス、アウディ、BMWなど)、SUPER GTなら日本の自動車メーカー(トヨタ、ホンダ、日産)が参加しているが、それぞれの地域を飛び越えて参加するということはなかった。しかし、自動車ビジネスは基本的にグローバルなビジネスであり、自動車メーカーは国境を越えてビジネスを展開している。モータースポーツがそうした自動車メーカーにとってプロモーションの場である以上、DTMなり、SUPER GTなりがこれまで以上に発展していくには、そうしたエリアを飛び越える必要があったのだ。そこで、DTMを統括するITRと、SUPER GTを統括するGTAは、2009年から話し合いを続けてきて、2014年からSUPER GTでDTMの車両規則を導入することを決定し、日本の3メーカーはそれに併せた車両を開発し、本日それを発表したのだ。
新しい車両規定の目的はグローバル化と開発コストの削減
その車両規則だが、坂東氏から詳しい解説が行われた。坂東氏は「GT500の車両規則は、原則としてDTMと同じになる。その目的は2つあり、1つはSUPER GTのグローバル化であり、もう1つがDTMとの共通規則を採用することによるコスト削減だ」と述べ、グローバル化とコスト削減が目的であると説明した。
今回GTAが導入するSUPER GTの2014年型GT500車両の車両規則は、2012年にDTMが導入した車両規則と基本的に同じになる。この規定は、北米でグランダムというツーリングカーの選手権を展開しているIMSA(International Motor Sports Association)が、2015年から開催する予定のDTM規定のツーリングカーシリーズでも採用されることになり、欧州、北米、アジアの3地域で利用される。このため、自動車メーカーにしてみれば、1つのレーシングカーを作れば、(若干のモディファイは必要になるが)、ほかの選手権に参加できるメリットがある。
また、2012年のDTM車両規定では、共通のモノコックを採用し、車両を構成する部品も認定部品が多く使われるため、自動車メーカーは低コストでレーシングカーを作ることができる。坂東氏によれば「低コストを実現する秘訣は空力の開発を抑制し、ウイングなどの空力部品を共通化している。また、60品目を超えるパーツを共通化するだけでなく、ほかの部品も公認パーツとすることで一定期間の開発の凍結化を行う」と述べ、空力部品の共通化、各種パーツの共通化などにより開発コストを抑制すると説明した。
自動車メーカーがある程度自由に設計できる部分は限られており、ボディーワークに関しては各メーカーがGTAなどに申請したロードカーの意匠をそのまま生かしたオリジナルの形状を維持することになる。これはメーカーのアイデンティティをレースカーに反映し、それを市販車のプロモーションにつなげるためだ。このため、トヨタはレクサス LF-CC(2012年9月のパリモーターショーで発表した2ドアクーペのコンセプトカー)を、ホンダはNSXコンセプトを、日産はGT-Rをベース車両として、その意匠を生かしたデザインになっている。自動車メーカーとしてはそれ以外の部分(車体下部のボディーワーク)の空力開発が許されており、今回発表された3社のGT500車両でもその部分に差異があることが確認できた。
なお、これ以外の部分(車両のモノコック、フロア、リアウイング、ブレーキ、ダンパー)などに関しては共通部品が利用されており、カーボンモノコックに関しては東レカーボンマジックが製造し、クラッシュテストなどに関してはすでに終わった状態でメーカーに引き渡される。その点もコスト削減につながるという。
ただし、2014年シーズンのエンジンに関しては、日本独自の規定として、2.0リッター直列4気筒 直噴ターボエンジンが導入される。NRE(Nippon Race Engine)と呼ばれるこのエンジンは、スーパーフォーミュラとも共通化されており、燃料リストリクターの採用により、レースの速さと燃費の両立を実現することを狙っており、世界的なトレンドのエンジンのダウンサイジング化に合わせたものとなっている。GTAの板東会長は「これらのエンジンは将来市販車への展開も検討されているほか、DTMやIMSAとの会合の中でも高く評価されており、近い将来にドイツや北米でも採用される予定となっている。将来的には3地域への参加者が一同に集まり交流戦の開催も視野に入れている」と述べ、近い将来にDTM、DTMアメリカシリーズ、SUPER GTのエントラントが一同に集まって開催する世界戦のようなイベントも検討していることを明らかにした。
トヨタと日産はFR、ホンダはミッドシップハイブリッド
この他、記者会見には3メーカーのモータースポーツ部門の代表者が登場し、新型車両の除幕式を行ったほか、現在の進捗状況に関しても説明を行った。
トヨタ自動車 モータースポーツ部 部長 高橋敬三氏は「3社協同で14年型車両を発表できることを喜んでいる。弊社の車両はLF-CCをベースにしており、将来レクサスブランドで投入されるスポーツエントリーモデルを示唆する車両になっている。優れた性能を持っているだけでなく、環境性能に関しても高いモノをもっている。なお、残念ながら今回の車両に関しては、トラブルが発生しており、本日の午後や日曜日予定されていた走行はできなくなってしまった」と述べ、同社の新型GT500車両が、昨年9月に開催されたパリモーターショーでお披露目されたレクサス LF-CC(別記事[http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120918_560387.html]参照)をベースにした車両であることを明らかにした。
本田技研工業 モータースポーツ部 部長 佐藤英夫氏は「ホンダが2015年に投入する予定のNSXコンセプトをベースにした車両。市販する予定のNSXと限りなく一致することをコンセプトとしており、GTA様、トヨタ様、日産様のご協力をいただき、ミッドシップとハイブリッドを搭載した。このこともあり、本来はFR用として用意されている共通部品をミッドシップに使うことが必要になるほか、重量配分などでハンディを背負っているが、その中でも開発者はそうしたチャレンジに取り組んでいる。ハイブリッドは、市販車ベースではなく、現在GT300のCR-Z GTに搭載しているレーシングハイブリッドをGT500用に進化させたモノになる」と述べた。なお、DTMの車両規定では、エンジンはフロントに置いて後輪駆動というFRである必要があるのだが、ホンダはGTAおよび、ライバルとなるトヨタ、日産の許可をもらい、ミッドシップへコンバートすることを特別に許可されているのだ(板東代表が“原則としてDTMと同じ規則”といったのは、こうした日本特別ルールがいくつか存在していることを意味しているのだろう)。
NISMO社長 宮谷正一氏は「日産はベース車両をGT-Rにすることに迷いはなかった。GT-Rは日産の技術をつぎ込んだクルマであり、1969年以来さまざまなレースで勝利を挙げてきた歴史がある。また、新しい2リッターエンジンは、現代の自動車メーカーに求められているエンジンの形に沿ったモノで、将来の市販車へのフィードバックという意味でも重要だと考えている」と述べ、日産のベース車両はすぐにGT-Rに決まったと説明した。
この後、DTMを統括するITR、IMSAの代表者によるお祝いメッセージのビデオが公開された後、質疑応答が行われた。記者団からは「事前に行われた4時間テストによる状況を教えてほしい」という質問が出たが、トヨタの高橋氏は「日産様と一緒に8月に菅生で4時間のテストを行ったが、残念ながらトラブルが発生し走行できる状況ではなくなってしまった」と述べ、事前に菅生で行ったテストで何らかのトラブルが発生し、その結果本日および日曜日に走行できなくなってしまったと説明した。ホンダの佐藤氏は「7月下旬にツインリンクもてぎにおいて4時間のテストを行った。初めてのテストで各部をチェックしただけ」、NISMOの宮谷氏は「トヨタ様と一緒に行った菅生のテストでは共通の部品を試した程度。少し不具合が出たけど、今回デモ走行ができるぐらいにはなった」と述べ、ホンダと日産はプログラムどおりに進んでいると説明した。