【インプレッション・リポート】
BMW「1シリーズ」

Text by 日下部保雄



 2011年10月からデリバリーが始まった、BMW「1シリーズ」。最初に日本に導入されたのは「116i」と「120i」、それぞれにベースグレードと、スポーティな外観の「スポーツ」。デザイン重視の内外装とした「スタイル」の3グレードが揃う。

 新しい1シリーズはフルモデルチェンジ。同じなのはデザインモチーフとフロントエンジン/リアドライブと言う駆動方式だけだ。

ひと回り大きくなった1シリーズ
 5ドアのハッチバックボディーは旧型に比べて全長で85㎜長い4,335㎜。ホイールベースでは30㎜長く2,690㎜となっている。トレッドがフロントで51㎜、リアで71㎜も広げられており、全幅も17mm広い1,765㎜に拡大されている。つまりひと回り大きなボディーを纏ったことになる。ちなみに全高も1,440㎜と高くなっているので、この意味でも居住空間は大きくなっている。

 サスペンションはフロントがWジョイントのストラット、リアが5リンクで基本的なサスペンションレイアウトに変わりはないが、ジオメトリーの変更やブッシュの見直しなどで大幅にチューニングされている。

 エンジンも新世代だ。ツインスクロールターボにダイレクトインジェクション、吸排気可変バルブタイミング、可変バルブリフトなどを使った1.6リッターの排気量を持っている。116iと120iの2機種のエンジンラインアップだが、エンジンの基本は同じで出力の違いで116iと120iに分けられている。この違いは制御の違いによるものでコンポーネンツは共通である。

 116iの最高出力は100kW(136PS)/4,400-6,450rpm、最大トルクは220Nm(22.4㎏m)/1,350-4,300rpmで広い回転域で大きなトルクを出していることが特徴だ。また120iは125kW(170PS)/4800-6450rpm、250Nm(25.5㎏m)/1,500-4,500rpmで馬力の大きさが120iの性格を物語っている。

 この2つのエンジンに組み合わされるトランスミッションは8速のトルコンATで、今のところMTは日本仕様には用意されない。それにしても8速トルコンATはこのクラスとしては望外の装備だ。

自然吸気並みのレスポンス
 試乗は、立派なファシリティが設置された袖ヶ浦レースウェイを基点として行われた。もちろんサーキット走行も含めた試乗で、幸いにして116iと120iの両方の車両に乗ることができた。

 新しい1シリーズのデザインはボディーサイズがひと回り大きくなったのとリアのトレッド拡大で、従来と同じシルエットでありながら安定感が増し、プレミアムコンパクトとしての存在感が増した。釣り目のヘッドライトも実車では立体感があって、好ましく思われる。

 室内はこれまでの1シリーズがスポーティ、タイトに作られていたが、新型ではこれまでのイメージを踏襲しながら、余裕を持たせている。例えばカップルディスタンス、つまり運転席と助手席の間隔はそれほどかわらないものの、サイドウィンドウ側で余裕を持たせられており、開放感が広がった。

 またカップホルダーもセンターコンソール上に2つ設けられ、同時に小物を置ける場所が増えて使い勝手はよくなった。さらに後席はこれまでの1シリーズではミニマムだったが、レッグルームが20㎜広げられたので、平均的な日本人の身長なら後席のパッセンジャーも少しゆとりを持って座れるようになった。

 さらにラッゲージルームも拡大され、後席を使う状態でも従来の330Lから30L増えた360Lの容積があり、数字以上に容積を感じる。

 またリアシートのバックレストを倒すと、1,200Lの大きな荷室が生まれる。新1シリーズは居住空間の面でも旧型から一段と使いやすくなっていることがわかる。

 さて116iのエンジンは前述の様に基本的には120iと共通。ボア×ストロークは77×85.8㎜という超ロングストロークでこれを見ても燃費とトルク特性に振ったエンジンであることがわかる。この4気筒エンジンは135iなどで好評価を得た直列6気筒3リッターのツインスクロールターボの流れを汲むもので、高トルクと燃費の両立を図ったエフィシエント ダイナミクスの理念に基づいて開発されたものになっている。

 これまで自然吸気では大排気量にならざるを得なかったものが、ターボ化によって制御技術の進化でターボラグという欠点をカバーしつつ、燃費の向上を図った欧州ダウンサイジングエンジンの先端を行くものだ。

 古い話だがBMWは1973年の2002で最初の量産ターボ乗用車を発売し、1983年には1.5リッター4気筒ターボのF1で初めてチャンピオンを取ったのもBMWだった。BMWにはターボに対して長い伝統を持っている。

 ツインスクロールターボは4つのシリンダーを2組に分け、排気マニホールドだけでなく、ターボ内部も2系統になって、排気流の圧力をタービンを速く回す方向に使っている。これによってターボラグを減らし、大排気量の自然吸気並みのレスポンスが得られている。またバルブトロニックなどの補機類も従来に比べるとかなり軽量コンパクトになっている。

 116iのドライバビリティは日常的に使うならこれで十分で、サーキットランでも116iと120iを比較しなければ不満を感じることはない。

 注目のエンジンは低速回転からトルクが出て、しかも8速ATはワイドレシオで、これも多段トランスミッションの強みで低速からカバーできるために、さらに低速トルクの不足を感じることはない。このトランスミッションのよさは、変速ショックが少なく、多段化ATにありがちな変速が多すぎて煩わしい、いわゆるビジーな感じがしないことだ。変速をしている感覚はドライバーに伝わってくるが、素早く行われ、感動的ですらある。ドライビングを邪魔せず心地よいシフト感を感じるのはBMWらしい。

フラットでマイルドな乗り心地に
 1シリーズと言えばBMWの中でもキビキビとした持ち味が特徴だった。そのセリングポイントは新型になっても継承されている。出来のよい電動パワーステアリングによる滑らかな操舵フィールはシャープすぎず、クイック過ぎないバランス感を持っておりBMWらしい味付けになっている。あえて言えばフィーリングは従来の1シリーズと似ているものの、穏やかな印象だ。

 そして一番の驚きは、その乗り心地にあった。もともとBMWはコーナリング時のボディー剛性の高さには定評があるが、それがさらに向上されると共にボディー後部の剛性が上がっているようで、乗り心地にも大きな貢献をしている。もちろんサスペンションはジオメトリーからかなり見直されて、特にリアのブッシュへの入力方向は相当に効果を上げて、リアからの突き上げはかなり低減された。まるで5シリーズにも匹敵するようなフラットでマイルドな乗り心地になっていたのだ。

 コンパクトカーらしく路面からの突き上げにダイレクト感はあるものの、従来の角のある突上げ感とは異なってマイルドだ。

 205/55 R16のランフラットタイヤも進化しており、乗り心地にとってはかなり大きなメリットになっている。通常のタイヤに比較すると重さは多少感じられるが、それでも言われなければ気付かないほどランフラットの完成度は高い。

 乗心地には遮音性も含まれると思うが、ボディー剛性の向上と遮音材の用い方で、籠り音が大幅に低下した。低音圧や高周波の音がカットされており、キャビンは快適だ。

 ドライブモードを切り替えられる「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」には「ECO PRO」と「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」の4つがあり、スポーツ+を除いてそれぞれはアクセルのレスポンスや、トランスミッションの制御が異なっている。

 通常のドライブではコンフォートでバランスがよく、アクセルの反応もシフトもちょうどよい。ただしさらに燃費を意識した運転を自然にしたければECO PROが適している。こちらは分離クラッチ付エアコン制御に始まり、トランスミッションも早めの変速でエンジン回転を低く抑えており、燃費はかなり向上する。このモードを選ぶと、反応は鈍くなるが、通常の街中のドライブでは妥当で、不満はない。

 通常でも新1シリーズはブレーキエネルギー回生システムでバッテリーに充電してオルタネーターの仕事量を減らすシステムなどで細かくエネルギー効率を向上させているが、いちばん分かりやすいのはアイドルストップだろう。

 信号待ちなどで停車するとすぐにアイドルはストップし、エアコン制御も強く入るのでアイドルストップが長くなるとECO PROでは真夏日ではキャビンが若干暑くなるほどだ。条件によってはアイドルストップは機能しなくなるが、かなりの頻度で止まり、逆に止まらないと不自然な感じがする。もはやドイツ車で新しく出るクルマにはアイドルストップが常識になりつつある。

 話題が逸れた。スポーツではアクセルのレスポンスが向上し、ギヤも高い回転までホールドするが、これもBMWらしく節度感のあるステップの切り分けでスポーツモードらしい味を楽しめる。山道を適度に流すには丁度よい感じだ。

 スポーツ+はさらにアンチスピンデバイス「DSC」が一部を除いて解除されるモードになる。このモードはサーキットなどで有効だが、コーナリングブレーキは解除されないようで、やや煩わしく感じることもある。またスポーツ+モードでは電子式デフロックが作動して、コーナーの立ち上がりなどでトラクションをかけやすくなる。このあたりのインプレッションは次に乗った120iに譲ろう。

装備充実で実質値下げ
 120iは本国では118iと呼ばれているモデル。116iと違い可変バリアブル・ステアリングがオプションで装備されているのと、タイヤが225/45 R17になるのがシャシー面の大きな違いとなっている。

 バリアブル・ステアリングはBMWが早くから取り組んでいたが、徐々に熟成されており、違和感が少なくなっている。この120iでも突如レシオが切り替わって驚かされることは少なくなり、低速ではわずかな操舵量で大きく切れ、高速ではレシオが遅くなる設定がよりナチュラルになった。好みにもよるがノーマルでも結構クイックかつBMWらしいスッキリとした味を持っているので、バリアブル・ステアリングにこだわることはないが、装着すると確かに街中などでは僅かな操舵量で角を曲がれることを実感する。

 サーキットでは積極的にスポーツ+で走ったが、前後重量バランスを50:50に拘ったBMWらしい回頭性の良いハンドリングを堪能することができた。折からの雨上がりで路面の一部はウェットという難しいコンディションで、時として限界が高く、シャープなハンドリングを持つ120iは路面ミューの変化によって乗りづらさを感じさせたが、コーナーの限界速度は結構高いことを実感する。またアンダーステアはなかなか消すことができずにアプローチでは苦労させられた。

 またコーナーの立ち上がりでアクセルを強く踏み込むと電子制御デフロックでトラクションはかかりやすいが、ドリフトを維持するにはやや制御が物足りない。もっともこれが普通の5ドアハッチバックであることを忘れてしまい、意識する以上にレーシーに走れるからそう感じるのだろう。

 限界点の高さがそのままサーキットでは現れるが、ワインディングロードではフロントのグリップさえ感じて走っていれば、かなり安全マージンを高く取って走行することが可能だ。ちなみにスポーツではDSCの介入がなかなか上手で、スポーツドライビングに邪魔にならない範囲で姿勢を安定させてくれる。

 エンジンパフォーマンスはさすがに116iよりは高く、2割増しという感じだろうか。市街地ではやや過剰なほどだが、エンジンマナーはよく、スタート時の滑らかさにも問題は全くない。

 BMW1シリーズは116iの318万円から始まる。これまでの1シリーズよりも値上げになっているが、装備の充実ぶりからすれば実質的な値下げにも匹敵する。旧型3シリーズに乗っているユーザーはかなり迷うのではないだろうか。


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2012年 2月 15日