インプレッション

スズキ「SX4 S-CROSS」

 超軽量で剛性の高いボディーにターボエンジンを組み合わせた軽自動車のホットハッチモデルとして登場した「アルト ターボRS」の試乗会で、脇役として控えめに用意されていた新型モデルの試乗車があった。

 設定された試乗時間や会場で車両解説を担当したエンジニアの人数、話題性などで言えば、やはりメインはアルト ターボRSだったが、欧州生まれのクロスオーバーだというこの脇役は、かなりの完成度と高いバランスを持ち合わせた逸品であり、陰に隠れがちな存在ながら好印象が心に深く刻まれたのだった。決して主役の完成度が低かった訳ではない。だが、好演をした脇役のインパクトがあまりにも強かったことから、それだけ印象が深くなったと言える。

 その新型モデルとは、ハンガリーの「マジャールスズキ」で2013年から生産を開始している「SX4 S-CROSS」。今年2月から日本国内でも導入が始まっている。

SX4 S-CROSS(ブーストブルーパールメタリック3)

 2006年に登場した初代「SX4」は、テスト走行も含めてわずか2年という短い期間ながらWRC(FIA世界ラリー選手権)に参戦するなど、モータースポーツシーンでも活躍した車両だった。また、モータースポーツにおける活動とともに、スズキの世界戦略車として欧州や中国、インドなどで高い人気を得ているモデルとなっている。

 ネーミングの変更はあったが、実質的な2代目となったSX4 S-CROSSは、欧州発のクロスオーバーとして、乗用車の使い勝手と確かな4WD性能に裏打ちされた力強さ、個性を主張するSUVテイストの外観を併せ持つことが特徴となる。

 ボディーサイズは、初代SX4に対して全長を150mm伸ばした4300×1765×1575mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースも100mm延長した2600mm。さらにラゲッジルームの容量は167L拡大して420Lになっているなど、広い居住空間と荷室を持っている。エクステリアデザインはフロントとサイド、リアの下部にガーニッシュを設け、ボディーラインの抑揚を持たせることで、力強く質感の高いクロスオーバーに仕立てている。

SX4 S-CROSSのインパネデザイン
全車に標準装備される本革巻ステアリングは、上下のチルト機能、前後のテレスコピック機能を備え、7速マニュアルモードのパドルシフトも設定
大型2眼式の自発光メーター。タコメーターとスピードメーターのあいだに液晶表示のマルチインフォメーションディスプレイを設定

 搭載されるエンジンは直列4気筒DOHC 1.6リッターのM16A型のみで、トランスミッションは副変速機付きのCVTとなる。駆動方式は前輪駆動の2WDか、スズキの最新4WDシステムとなる「ALLGRIP」の2タイプから選択できる。

 優れた走破性と安定性をもたらすALLGRIPは、「電子制御4WD」「4モード走行切替機能」「車両運動協調制御システム」を組み合わせている。4つの走行モードは「AUTO」「SPORT」「SNOW」「LOCK」があり、それぞれの目的に合わせて前後輪のトルク配分やアクセル、パワーステアリングなどの特性を変化させる。

 通常走行で選択するAUTOは2WD走行がメインとなっており、タイヤのスリップを検知したときだけ後輪にトルクを配分するようになっている。

M16A型エンジンは最高出力86kW(117PS)/6000rpm、最大トルク151Nm(15.4kgm)/4400rpmを発生
タイヤサイズは205/50 R17。純正装着するアルミホイールはブラック塗装と切削加工を組み合わせたデザイン
M16A型エンジンと副変速機付きのCVTの合わせ技で、JC08モード燃費は2WD(FF)車が18.2km/L、4WD車が17.2km/Lとなる
「ALLGRIP」のモード切り替えスイッチをシフトセレクター後方に設定する

ストローク量が豊富なサスペンションはハンドリングと乗り心地の両面で効果的

 アルト ターボRSと同様の走行ステージだったので、試乗したのはワインディングが中心。SX4 S-CROSSにとって理想的なコースではなかったかもしれないが、それでも走りの気持ちよさを十分に感じ取ることができた。

 M16A型エンジンは、最高出力86kW(117PS)/6000rpm、最大トルク151Nm(15.4kgm)/4400rpmと、同セグメントの車両と比べてお世辞にもパワーがあるとは言えないが、CVTとの組み合わせによって最適なトルクバンドをキープするので、物足りなさを感じることはそれほどないはずだ。

 新設計されたサスペンションフレームやリアトーションビーム、そして大柄となったにもかかわらず、初代SX4に対してトータルで50kg軽量化されたボディーは剛性感と軽快さが高く、優れたハンドリング特性をみせる。ワインディングを走ってもフロントまわりに軽さを感じ、スムーズにコーナリングをしていく。その動きは、やや鈍さのあるクロスオーバーSUVではなく、俊敏性さえ感じさせるものだった。また、車両制御システムのALLGRIPのモードをSPORTに変更すると、その旋回性がさらに高まるとともに、CVTもエンジン回転を高い状態でキープするようになるなど、アクセル特性もスポーティに変化する。AUTOモードでも十分にワインディングを楽しめるのだが、優れたハンドリング特性をフルに引き出せるようになるのがSPORTモードとなっている。

 優れたハンドリングとともに好印象だったのが、ストローク量が豊富なサスペンション。起伏のある路面でもしっかりと追従するこのサスペンションは、乗り心地の面でも有利に働く。フラットライド感が高く、常に安定感を乗員に与えてくれる。乗り味やハンドリングに関しては、欧州のライバル勢にも負けないよう徹底的に煮詰められたことを随所から感じ取ることができた。また欧州だけでなく、日本の使用環境にもマッチしてると言える。

ストローク量が豊富なサスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアがトーションバー式を採用

 近年、熾烈化しているコンパクトクロスオーバーのセグメントで存在感を出すことは容易ではない。だが、先進性の高い車両制御システムと欧州仕込みのハンドリングを持ちながらも、ハイエンドモデルで225万7200円というプライス設定は、戦略的で非常にコストパフォーマンスに優れていると感じるもの。スズキから発表された年間の目標販売台数はわずか600台とかなり低い数字だが、プロモーションに力を入れれば、この目標をあっという間に超えていくポテンシャルは十分に持っている。

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。

Photo:安田 剛