インプレッション

トヨタ「プリウス プロトタイプ(4代目)」/岡本幸一郎

走りと乗り心地に力を入れた

 オープン2シータースポーツの登場に沸いた2015年も残すところ2カ月を切っているが、まだ最後に大物が待っている。トヨタ自動車の新型「プリウス」だ。そのプロトタイプに、発売に先立ってひと足早く触れることができた。

 すでに東京モーターショーでも実車を公開済みのその姿は、あまりに奇抜なせいか賛否両論あるようだが、筆者としてはなかなか好み。このところ、トヨタはどの車種でもかなり思い切ったデザインを見せて我々を驚かせているが、プリウスだったらなおのこと、これぐらいやってもいいように思える。非常に凝ったボディーパネル形状やランプ類のデザインは、4代目プリウスを象徴するものとなっていくことだろう。

 4代目はドアを閉めるときの音からしてこれまでとは違う。いかにもボディー剛性が高そうに感じさせる重厚な音質だ。シートに収まると、3代目よりもヒップポイントが低くなったことを直感する。ボンネットも低くなり、ピラーまわりの死角が小さくなったおかげで視界もよくなっている。

 エクステリアだけでなく、インテリアもとても印象深い。丸みを帯びてより未来的なデザインとなったインパネは、機能的にも使いやすそうな雰囲気。クールグレイ色のコーディネートも印象的で、シルバーやクロームの使い方も上質感を高めている。また、駆動用バッテリーの搭載位置が変わってラゲッジスペースが広くなったことも、新旧で比べると一目瞭然だ。

プロトタイプということで詳細なグレードなどは明らかにされなかったが、試乗車の内装色は「クールグレイ」と紹介された。未来的なデザインで使いやすそうなインテリア
駆動用バッテリーは後席シートバック後方から後席の座面下に移動。ラゲッジスペースのフロアが下がって荷室容量が拡大された

 さっそく、会場となった富士スピードウェイ内の1周約5kmという構内路を走行。比較用に3代目プリウス(登録から1年未満で走行距離は約1万3000km)が用意されていて、新旧モデルを乗り比べることができたおかげで、その差を如実に感じることができた。

 天候は雨。郊外路では全開走行ではなく、一般道を想定した走り方を心掛けたのだが、まず感じたのは静粛性が極めて高いことだ。これまでも静かだったが、4代目はさらに輪をかけて静かで、「隔壁感」と表現しても言い過ぎではないほどだ。

 走りについて、開発陣はプリウスの弱みは走りの楽しさと乗り心地にあると分析し、4代目ではかなり力をいれて開発したというので楽しみにしていたところ、まさしく期待どおり。これまでのプリウスでは、アクセルレスポンスやブレーキフィーリングにおいて気になるところが多々あったものだが、全体的にかなりよくなっている。走り出しからなめらかなで、アクセルを踏み込むと力強く加速する。まだ満点ではないが、加速感はずいぶんリニアになった。

 ブレーキフィーリングもスムーズになり、低速域での扱いにくさが軽減された。ステアリングもしっかりとした印象になったのも3代目との大きな違いだと感じた。乗り心地もよい。きれいな路面を普通に走っていても振動が減っているように感じたのだが、コースの途中に設定されていた、10km/hで通過することを想定したラフロードで感じた衝撃の大きさもまったく違う。4代目は穏やかで、入力があまり強く伝わってこないのだ。

構内路での試乗で新旧プリウスを比較

 ただ、今回ひさびさに3代目に乗って、こんなによかったっけ?と見直した部分も多々あった。開発陣に訊いたところでは、実は4代目に向けて開発した新しい要素を、3代目でも年次改良などで徐々に先行導入していたらしい。登場した当初はいたるところに荒さを感じていた3代目も、マイナーチェンジで大幅に改善され、さらにその後も改良が施されていたということのようだ。

雨天の限界走行での印象も上々

 続いてショートサーキットでの試乗。ここでも新旧を乗り比べることができたのだが、朝から降り続いていた雨がここに来て激しさを増し、路面がかなり滑りやすい状態での試乗となった。しかし、だからこそ分かった部分もある。ここでは構内路で感じたことが、より強調されて感じられたのだ。

 3代目は重心が高いので、ロールやピッチなどの挙動が大きく出るところ、4代目はそれらがだいぶ小さい。ステアリングのフィーリングも、3代目はやや曖昧で舵角が一定しないのに対し、4代目は正確性が高くライントレース性にも優れ、意のままに操れる感覚がある。また、3代目はフロントの2輪だけで走っている感覚が強いのに対し、4代目はリアもしっかり使えている。

 これは、大幅に高められたボディー剛性や、リアサスペンションがダブルウィッシュボーン式の独立懸架になった恩恵だろう。路面ミューはかなり低かったのだが、3代目は前も後ろも早い段階からタイヤが滑るのに対し、4代目は少し粘ってからリアが流れ始める。強い雨が降るなかでも、4代目のほうが不安感がずっと小さい。

 また、4代目のシートはなかなか仕上がりがよさそうで、構内路を走った時点で長距離を走っても疲労感が少なそうだと感じていたのだが、サーキットでも身体があまりぶれることがなく、収まりのよさ実感した。

先進装備も充実

 最後に、富士スピードウェイにある交通安全センター「モビリタ」に設定されたコースで、「Toyota Safety Sense P」の歩行者検知機能を持つプリクラッシュセーフティを試した。30~35km/hでまっすぐに走行し、ダミー人形に反応して停止することを体感。これまた雨のなかでのテストとなったのだが、このような状況であっても、約1m手前でしっかり止まった。

 制御としては2回に分けてブレーキングが行われる仕組みで、初期の利きがよくなるよう、最初に軽くブレーキをかけてブレーキパッドをディスクローターに押しつけ、フル制動に備えて準備態勢を整えたあと、障害物に接近してもドライバーが回避操作をしない場合には本制動させる。その際、タイヤが受ける力から車両側で演算して路面状況を判断し、障害物の約1m手前で止まれるよう作動を制御するという。

 高い速度域からの制動でも40~50km/hは減速できるとのことだが、むろん路面ミューが低い場合には、もっと低い速度でも障害物にぶつかってしまう可能性はある。なお、アクセルを8割まで踏んでいても制動の制御は行われるが、もっと強く踏んでいる場合は、ドライバーの意思が優先されて制動はキャンセルされる。

Toyota Safety Sense Pでは、Toyota Safety Sense Cで採用するレーザーレーダーに替え、フロントノーズにミリ波レーダーを装備。単眼カメラとの組み合わせで車両前方の状態をモニターする。ミリ波レーダーを使うことでより遠方までチェック可能になり、車両に加えて歩行者も検知できる

 また、10月にマイナーチェンジした「クラウン」やフルモデルチェンジしたばかりのレクサス「RX」に続いて、ITS(高度道路交通システム)専用周波数(760MHz)を活用して路車間、車車間で相互に情報を通信し、安全運転を支援する「ITS Connect」が採用されたのも大きなトピックの1つだ。プリウスのように台数が売れるクルマに、こうした先進装備が設定されたことを大いに歓迎したく思う。

 このように大きな進化を遂げた4代目プリウス。執筆時点では明らかにされていない価格も、開発責任者の豊島浩二氏が「エコカーは普及してこそ意味がある」と述べていることだし、あまり高くなることはないよう期待したい。また、市販されたときにはJC08モードで40km/Lを達成(一部グレード)したという燃費性能のほうも、実際にどのくらい伸びるのかぜひ試してみたいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛

Photo:堤晋一