特別企画
【特別企画】容量無制限、空飛ぶインターネット「JAL SKY Wi-Fi」を使ってみた(前編)
VPN接続で仕事もOK。速度は2M~4Mbps。たまには5Mbps近くも
(2014/2/28 00:00)
JAL(日本航空)が2012年7月から開始した国際線機内でのインターネット接続サービス「JAL SKY Wi-Fi」。先日、国内線においても2014年7月からの導入が発表され、空のインターネットの本格的な普及が始まろうとしている。すでにサービス中の国際線用「JAL SKY Wi-Fi」を体験してきたので、本記事にてお届けする。
空飛ぶインターネットを利用できる機種は決まっている
JAL SKY Wi-Fiは、パナソニックアビオニクスコーポレーションの衛星接続サービスを利用したWi-Fiサービスで、現在ボーイング 777-300ER型機においてサービスが提供されている。サービスが提供されているボーイング 777-300ER型機の見分け方は簡単で、JALが「新間隔エコノミー」として打ち出している「JAL SKY SUITE 777(スカイスイート トリプルセブン、以下SS7)」仕様とそのベースになった777-300ER(773)の機材であればサービスが受けられる。
2014年2月現在でJAL SKY Wi-Fiが利用可能な路線は、東京(成田)発着のニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、ロンドン、パリ、ジャカルタ線となっており、3月29日までであれば、悪天候時の機材調整などによる機材変更がない限りはサービスを受けられるだろう(3月30日からは、フランクフルト線の復活や羽田発着路線でのサービス開始が予定されている)。JALの国際線予約ページからは、「SS7」または「773」と表示されているのがSKY Wi-Fiを利用可能な機材となる。また、JALはSS7と同様のシートをボーイング 767-300ERに導入したJAL SKY SUITE 767(SS6)の運用も開始しているが、こちらへのWi-Fiサービスは今後としている。これは、SS7が長距離路線に投入されているのに対し、SS6は主にアジアなどの短距離路線になるためと思われる。
●JAL SKY SUITE 777、JAL SKY SUITE 767導入路線
https://www.jal.co.jp/inflight/inter/rosen/
●JAL、快適装備を充実した「スカイスイート767」を12月1日から運航開始
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20131129_625665.html
●JAL、5cm拡大した普通席などで快適性を高める「JALスカイネクスト」を5月導入
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140130_633228.html
このSKY Wi-Fiでうれしいのは、有料サービスとはなるものの、ファーストクラス、ビジネスクラス、プレミアムエコノミー、エコノミークラスの全クラスで利用可能なことと、1時間プラン、24時間プランの2種類があるがいずれも容量無制限なこと。料金は1時間プラン11.95ドル、24時間プラン21.95ドルとなるが、JALカードなどであれば割引価格が用意されている(そのほか、JALマイレージのJMBダイヤモンド、JGCプレミア会員であれば、実質無料のキャッシュバックキャンペーンもあり)。
今回は、JAL SKY Wi-Fiがサービスされている路線のうち、東京(成田)~ロサンゼルス便(往路:JL062便、復路:JL061便)をとんぼ返りで利用してみた。
快適なインターネット快適を提供するSS7
ボーイング 777-300ER型機は、現在JALが保有する機材の中で最も大きな飛行機になる。777-300ER型機の機内仕様はW82、W83、W84の3種類あり、W83、W84が、ファーストクラスに「JAL SUITE(スイート)」、ビジネスクラスに「JAL SKY SUITE(スカイスイート)」、プレミアムエコノミーに「JAL SKY PREMIUM(スカイプレミアム)」、エコノミークラスに「JAL SKY WIDER(スカイワイダー)」という仕様のシートを搭載したSS7になる。
●JAL 777-300ER
http://www.jal.co.jp/aircraft/conf/777.html
ビジネスクラスのフルフラットになるJAL SKY SUITEは、SKYTRAXワールド・エアライン・アワードで「ベストビジネスクラス・エアラインシート」に輝いたほどの素敵なシートだが、今回乗ったのは往路がプレミアムエコノミーで、復路がエコノミー。SKY Wi-Fiは、シートクラスによる速度差のないサービスのため、全クラスの乗客が利用できる。
機内にWi-Fi接続する機器として持ち込んだのは、アップルの13インチMacBook Air、iOS端末としてアップル iPhone 5s、Android端末として8インチタブレット レノボ YOGA TABLET(以下、ヨガ)、Amazonの電子書籍リーダーKindle Paperwhiteの4台。13インチMacBook Airは、普段からBoot Campで使っており、Windows 8.1とMac OS X Mavericks(10.9.1)をインストールしてある。世の中で多く使われているOSでの接続性を確認してみたかったからだ。
JL062便は、成田を17時5分に出発し、9時50分にロサンゼルスに到着。9時間45分の所要時間となっている。離陸直後は当然のように電子機器などは使えないが、離陸後15分ほどすると電子機器使用禁止解除のアナウンスが流れる。機内モードにするなどした電子機器が使えるようになったわけだ。
早速、MacBook AirをWindows 8.1で起動する。前席のポケットに入っている「JAL SKY Wi-Fiご利用ガイド」という冊子をざっと眺めてWebブラウザを立ち上げると、JAL SKY Wi-Fiのポータルサイトが自動的に立ち上がる。早速、手続きを開始したいところだが、ポータルサイトの右上には「衛星接続無し」の赤い表示が。離陸からしばらくの間は衛星を捕まえることができず、インターネット接続が行えない。離陸からおよそ1時間程度経過すると「衛星接続無し」の赤い表示が「衛星接続中」の緑の表示に変わる。インターネットが使えるようになったということだ。
ここからログイン作業を始めるが、作業そのものは難しくない。画面の指示に従って「1時間プラン」「24時間プラン」のいずれかを選択。9時間超のフライトなので、ここでは24時間プランを選択した。クレジットカード選択画面では、JALカードを持っていたのでJALカードを選択。これで若干の割引が受けられる。その後、画面はドイツの通信会社であるT-Mobileの画面に。名前やクレジットカード情報を登録して、IDとパスワードを得ることができる。これで一定時間の利用権を得たわけだ。
ログイン画面から先ほどのIDとパスワードでログインすると、無事にインターネットに接続された。T-Mobileの画面には残り時間がカウントダウンされているものの、23時間という表示には十分な安心感がある。
無事インターネットに接続できたので、Car WatchのWebサイトなどを閲覧、Twitter、FacebookなどさまざまなWebサービスもストレスなく利用できる。規約上利用が制限されているのは、音声通話・ビデオ通話を含むSkypeなどのVoIPサービス。ベストエフォートサービスであり、限られた帯域を乗客全員で利用するためには仕方のないルールだと言える。
飛行機の中からとくに使ってみたかったのが航空便をリアルタイムに追跡するサービス。「FlightAware」(http://ja.flightaware.com/)や、「flightradar24」(http://www.flightradar24.com/)、「planefinder」(http://planefinder.net/)などがよく知られているサービスになる。FlightAwareでJL062便を検索すると、現在地のほか飛行機の速度や高度が分かる。また、flightradar24であれば、まわりにどんな飛行機が飛んでいるのかも分かる。それだけと言えばそれだけなのだが、使っていて非常に楽しいサービスだ。
Windows 8.1で、あれこれ試した後、今度はMac OS X Mavericksで接続。すでにアカウントは取得しているので、ログイン画面からIDとパスワードを入力すれば問題なくインターネットに接続できた。
そこで、今度はiOS7端末であるiPhone 5sで接続。iPhone 5sに表示されたログイン画面からIDとパスワードを入力すれば、やはり問題なくインターネットにつながる。但し、1つのIDで同時に複数の機器を接続することはできない。iPhone 5sでログインすれば、MacBook Airのインターネット接続は切れるし、MacBook Airを接続すればiPhone 5sのインターネット接続は切れる。これを解決するには2つIDを取得すればよいのだが、そうまでして使う人は少ないだろう。
Android端末であるヨガ、Amazonの電子書籍リーダーKindle Paperwhiteも同様に問題なく接続可能。JAL SKY Wi-Fiで、Webブラウズや書籍の購入などもできた。
接続速度は2~4Mbps出ることも。VPN接続は便利
接続速度については、iPhone 5sから計測してみた。筆者の使用しているiPhone 5sはソフトバンクモバイルの端末で、あらかじめ成田空港で計測したところ26.38Mbpsのダウンロード速度は出ていた。接続レスポンスともいえるPING値は31ms、まあまあ優秀な値と言えるだろう。機内で数回計測してみた結果は、2~4Mbpsという値。ベストエフォートサービスのため計測するごとに値は異なるものの、初期のADSLサービス程度の速度は確保されている。PING値は1000msを超えることがほとんどで、httpリクエストを送ってからの反応もやや鈍い感じを受けた。
JAL SKY Wi-Fiは、ビジネスでの利用にも配慮されている。多くのビジネスマンの場合、単にパブリックなインターネットサービスを使うのではなく、VPN(Virtual Private Network)によって社内ネットワークを使うこともあるだろう。Wi-Fiサービスを提供する機器によってはVPNが使えず、社内ネットワークに入れないという事態が発生する。JAL SKY Wi-Fiであれば、VPNも確立できるので社内インフラにアクセスすることも可能だ。筆者もVPNにより社内ネットワークに接続、社内業務をあれこれこなすことができたほか、東京の自分のデスクにあるPCにリモートデスクトップ接続を行って、ノートPCでは負荷の高い作業を行うことができた。ただ、リモートデスクトップ接続については、さくさく画面が転送される感じにはならず、許容範囲という程度。
ほとんどのインターネットサービスが使えるJAL SKY Wi-Fiだが、インターネットプロパイダーにT-Mobileが使われている関係で、T-Mobileの本社があるドイツのユーザーとして認識されているようだ。これにより問題が起こるのが、海外からのサーバー経由では提供を受けられない、もしくは提供を想定していないサービス。たとえば、大人気のWebブラウザゲーム「艦隊これくしょん(艦これ)」などは海外から接続するとサービスプラットフォームの関係で「このサービスはお住まいの地域からはご利用になれません。」というメッセージが出る。これは、プロパイダーは海外という状態のため、このようなメッセージが出てしまう。
このような状態を解決するのにもVPNは役立つ。住んでいるのは日本、そして日本に籍のある航空機で、場所は公海上、かつOSレベルで日本にあるVPNサーバーと接続することで、Internet ExplorerやGoogle Chromeなどの一般的なWebブラウザで艦これが起動できるようになる。ただ、実際にプレイしてみたものの艦これはデータ転送量も多く、場面転換などでは待たされることが多い。セットし忘れた遠征を行う程度に使うのがよいだろう。
さすがにレスポンスを要求されるWebブラウザゲームを楽しむのにはつらいものがあるが、逆に速度的にはかなり出ているので、Youtubeなどバッファリングを行ってから再生するサービスは通常と同様に再生が可能だ。MacBook AirでもiPhoneでも普通に楽しめるのには驚いた。
唯一トラブルらしいトラブルは、復路にiOS端末でIDとパスワードの発行作業をしたときに、Webブラウザの画面切り替えに長時間かかり次のステップに進めなかったこと。これは、「設定」-「Wi-Fi」にある「Japan Airlines」のプロファイルにある「自動接続」「自動ログイン」の項目をOFFにすることで、次のステップにスムーズに進めるようになった。iOSはバージョンごとにこの辺りの項目が変わることが多く、筆者の場合iOS 7.0.3でこのような症状となっていた。すでにiOSは7.0.6までアップデートされており、SS7の機材によっても振る舞いは異なるのかもしれない。もし、そのような状況になったら、この辺りの設定を変更してみてほしい。
エコノミーシートは快適、しかしながらプレミアムエコノミーはもっと快適
SS7のウリは、このJAL SKY Wi-Fiサービスが行われていることと、シートが新世代のものへと進化していること。エコノミークラスのスカイワイダーは、シート間隔を31インチ(約79cm)から最大34インチ(約86cm)へと最大約7cm拡大。シートバックの約3cmのスリム化と合わせて、約10cm足下空間を拡大したほか、シート幅も約2cm拡大されている。足下空間の拡大も嬉しい部分だが、席の足下(4席なら3つ、3席なら2つ)にAC110V/60Hz(最大75W)電源が用意されているし、各席に1つUSB充電ポートが用意されている。筆者のようにあれこれガジェットを持ち込むユーザーとしては、何よりも嬉しかった点だ。
国際線航空機の楽しみの1つであるエンターテイメントシステムも、タッチパネル式10.6インチモニターとなっていた。映画や音楽、航空機の位置などが表示できる多機能なものだが、正直、JAL SKY Wi-Fiがあるためほとんど使うことはなかった。離陸1時間後から、着陸30分ほど前までWi-Fiサービスが使えると、寝ている時間が足りないくらいだった。通常はもてあましてしまうだろう機内の時間を、仕事や趣味、そして遠征(艦これ)など有効に使うことができた。
肝心のシートだが、エコノミークラスのスカイワイダーは、約10時間のフライトを十分快適に過ごせるものだった。これまでのJALのエコノミーシートからすると本当に快適だ。すべての機体に導入してほしいくらいのできとなっている。そして、さらに快適なのはプレミアムエコノミーのスカイプレミアム。こちらはシート間隔が最大42インチ(約107cm)と、エコノミーと比べて文字どおり桁が違う。電源もAC110V、USBポートとも各座席に1つずつ装備され、隣の人を気にすることもない。また、テーブルもA4サイズのPC以上の大きさを持ち、エコノミークラスよりも楽に作業をこなせるだろう。
そして、ビジネスクラスは……と書きたいところだが、乗降の際に一目見ただけで「あ、フルフラットってよさそうだな」と思えるほどのもの。ビジネスクラスからは食事のグレードも上がるので、ビジネスクラスを必要とする場合は、そちらを選ぶとよいだろう。
1つ言えるのは、JAL SKY Wi-Fiは有料サービスであるものの、どのクラスの乗客でも等しく同じサービスを受けることができ、その容量も無制限だ。1つのIDで複数台の端末を同時につなぐことはできないが、高空を800km/h以上で移動する乗り物で、これだけのインターネットサービスが受けられるのは感動だ。JAL SKY Wi-Fiは、2014年7月から国内線にも拡大されるので、ぜひ乗る機会を見つけて、容量無制限の空のインターネットサービスをお楽しみいただきたい。
後編では、SS7を運行するJALと、SS7の通信機材を担当するパナソニックアビオニクスコーポレーションへのインタビュー記事をお届けする。
●【特別企画】容量無制限、空飛ぶインターネット「JAL SKY Wi-Fi」を使ってみた(後編)
http://car.watch.impress.co.jp/docs/special/20140303_637173.html