日下部保雄の悠悠閑閑

羽田で自動運転バスに乗った

自動運転バスに乗った。自動運転の燃料電池バスは、トヨタ自動車「SORA」の改造車

 自動運転バスに乗ってみた。

 内閣府が主導するSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)は第2期に入り、自動運転も実証実験が本格化している。本来なら東京オリンピック・パラリンピックに際して、7月に臨海副都心や羽田イノベーションシティ(HICity)でデモを大々的に行なう予定だったが、新型コロナウィルス禍で実験も遅れ、東京オリンピック・パラリンピックの延期で試乗会のチャンスも失われてしまった。今回の実証実験は自動運転の現在を知るために公開されたものだ。

 冒頭、葛巻清吾プログラムディレクターからSIP第2期の活動の説明があった。実は第1期、渡邊さんが座長をされていた時にカンファレンスに参加したが、近未来の自動運転に向けて内閣府がイニシアチブを取っていることが新鮮だった。

 第1期は現在開花したダイナミックマップの基本構想などの土台作りが行なわれ、急逝された渡邊さん後を受けて葛巻さんが第2期を引き継いできた。

 実際にメーカー独自の開発では限界があった自動運転だが、SIPが推進力となって日本の自動運転の底上げが急速に進んだと思う。第2期は法制整備、メーカー技術、さらに大学との連携、つまり産学官を強化することでドライブに拍車がかかっている。

 最初の実証実験の取材は、自動運転技術に早くから取り組んでいた金沢大学の菅沼直樹教授による路車間交通だ。臨海副都心、つまりお台場では交差点での運用や、高速道路での合流など、実際にどのように運用されているか知ることができた。気を付けて見ていると台場周辺には数多くのセンサーとアンテナが取り付けられたポールが立っており、数年前よりかなり増えている。自動運転車は交通量のある道路での左折や右折もスムーズで違和感がない。

金沢大学が率いる自動運転車。レクサス「RX」の改造車でLiDAR(ライダー)、ミリ波レーダー、GPS受信機、カメラで武装している。黒いのはライダーで、上からだけでなくフロントフェンダーからも下を覗いている

 次に進んだのはHICity。羽田空港に隣接するこの施設は店舗やオフィス、研究開発施設、コンベンションホールなどからなり、日本の文化と先端技術を集結させた新しい街だ。グランドオープンは2022年だが、一部先行オープンして徐々に街の形を整えている最中である。

HICity(羽田イノベーションシティ)

 このHICtiyから羽田第3ターミナルへ向かい、環状八号線を回って戻るルートで燃料電池バスでの実証実験が行なわれている。HICityには大規模な水素ステーションもあり、FCバスの運行には事欠かない。

 路線バスの特性上、乗客は立って乗るケースも想定しており、取材は立ったり、簡易シートを利用したりして行なう。ドライバーは乗っているが、発着時や緊急時に対応するオペレーターの役割だ。駐車場から出るまではドライバーに任せるが、その後はAUTOに切り替えてドライバーは基本的にタッチしない。音と振動が極めて小さいFC電動バスは粛々と動き出す。

運転席は多数のモニターに囲まれています

 実証実験中のバスはゆったりと走り、20~30km/hほどでルートを巡回する。ブレーキも極めて慎重で、かなり手前から減速し始め、立って取材をしていてもわずかな減速Gしか感じない。交差点では一定の減速Gを維持したままピタリと止まる。乗客の動きは車内カメラで追っており、外部からも車内をモニターでき、車両の状態も把握することができる。つまり万全を期しているのだ。

 右折に備えて車線変更をする際も、早いタイミングでゆったり行なわれるのでいつレーンチェンジしたのか分からないほどだ。右折時に前から直進車両がくる場面でも、余裕を持って右折するので安心感が高い。お台場で見学した路車間通信の完成度を体験した。

 自動運転で曲がる場合、パワーステアリングの出力のためか小刻みに操舵していた。人間のように一発で決めるのはもうちょっとデータを集めなければならないのかもしれない。

 いよいよ第3ターミナルに入り、バスは電動車らしく軽快に加速する。コロナ前なら停車車両がひしめき合っているはずだが、昨今の移動の制限でクルマが少ない。混雑する中を自動運転車がどのように対応するのか見てみたかった気もする。

 今回は体験できなかったが、第3ターミナルに自動運転バス用のバス停が架設されており、FCバスはそこに停車するルーティンになっている。

 通常はどんな巧者のドライバーでも、停車場と道路との隙間は20cmほど開いてしまい、車いすを乗せる場合はドライバーがブリッジを渡す必要があるが、自動運転のFCバスは数cmの隙間でピタリと横に付けることができる。もちろんインフラ側の停車場の整備も行なう必要があるが、車いすも自力で乗ることができるメリットは大きい。

 隙間なく止まるにはシカケがあり、誘導路のように路面に磁気センサーが埋め込まれていて、バスはこの磁気センサーに導かれることでバス停にピタリと止まることができる。

 磁気センサーはシンプルなもので正確に配置する必要はなく、バス側で認識できればよいので、インフラ整備側の利便性は高い。どれがそうなのかよく見ないと分からないぐらいなので踏んでも問題ない。今後は耐久性などを確認していくことになるが、同じルートを走る循環バスでは有効な武器になるに違いない。

 ルート上の環八にも左側1車線は10時~17時の時間帯でバス専用レーンが敷かれている。そのレーンを磁気センサーに導かれて悠々と走れるはずだが、路上駐車のトラックが多く、今回のケースではマニュアルモードでドライバーが車線変更をしていた。それも含めての実証実験である。ちなみに磁気センサーはルートの大部分に配置されていた。

自動運転中であることを表示しているディスプレイ。たまにマニュアルになります

 さて、ブレーキのタイミングや加速など、乗客に与える負担は最小限だが、安全マージンとの挟間をどこまで詰められ、実験を積み重ねて混合交通に溶け込ませていけるか、法整備も含めてこれからもSIPの推進力はますます必要になる。

 最後にHICityから空港を見た。そこには便数減で多くの旅客機が駐機しており、活気を失った空港はとても寂しそうだ。よく走る環八もクルマが少ない。見慣れた羽田とは違う景色だ。早く活気溢れる日本が戻って、自動運転車の開発にも拍車がかかってほしいと切に思う。

駐機場の多数の旅客機。とても寂しい光景で早く大空を飛ぶ姿が見たいです

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。