日下部保雄の悠悠閑閑

伊東旅行が中止になって災害について考えた

松川の川辺に建つ東海館。伊東と言えばこの景色で温泉地らしい風情があります。今は宿泊はできないけど館内見学はできると思う。今年は行けなかったので昨年の写真です

 この夏休み、恒例の家族で伊東旅行の計画を立てた。

 伊東は小学生時代のほとんどを過ごした地で今でも多少の縁がある。学生時代に電車で伊東に帰るたびに温泉饅頭をふかす甘い匂い、川から上がる温泉の独特の香りが鼻をくすぐった。そしてもう少し成長してからは夜中にクルマで伊豆スカイラインを通って帰省する際に見えた、左に相模湾のイカ釣り漁船の掲げる白い集魚灯、右に駿河湾に浮かぶ漁船の光、幻想的な光景が伊東の象徴だった。

 温泉が流れ込む市内を縦断する松川に大きな鯉がたくさん泳いでいるのは昔も今も変わりないが、この地もシャッター街が増えた。

東海館は夜はこんな感じでライトアップされる。川に映る姿も美しい

 多少の縁というのは狩野川台風という大きな嵐が伊豆半島を襲ったときのこと。ウチも床上浸水に遭い、小学生だった自分は浮き上がった畳の間に落ち込んで危うく溺れかけた。水害は水が来たと思ったらあっという間に浸水してしまう。

 嵐が過ぎた夜中、避難先に向かって一面海のようになった道をとぼとぼ歩いていたとき、周囲が青く明るく感じて空を見ると月が何事もなく静かに見下ろしていた。嵐の獰猛さとその後の静寂が子供心に強く印象に残っている。

 さて、その嵐でどこからか流されてきた水神様の碑が水害後の家に祀られていた。二度と水害に遭わないようにとの思いからだと思う。今では伊東にゆかりはなくなってしまったが、その碑は区の人々の手で私たちが住んでいた場所に祀られている。水神様詣でにかこつけて毎年伊東温泉に行く。

 ところがである。楽しみにしていた伊東行きは直前になってキャンセルとなってしまった。宮崎県沖の地震で南海トラフ関連の注意喚起が出た地域に伊豆半島が含まれ、長男からの提案もあって取りやめた。旅行代理店を通して宿泊予約をしていたが事情をくんでキャンセル料もかからず。思いやりの気持ちにほっこりした。移動はクルマではなくJRを予定していたが、こちらも手数料だけで済んだ。その代金は家族の焼肉パーティーにかわり、今年の夏休みは終了した。

水害のときに流れてきた水神様。旅館を営んでいた実家を長い間も守ってくれた。今はその場所にこじんまりと祀られている。水神様詣でを口実にしていたがこの夏は行けなかった

 天災はまだまだ人知の及ぶところではない。先人が残した知恵を活かして過ごすのがせいぜいだと思う。これは水害の夜の満月から心に刻まれている。

 遠い昔の水害を思い出していたら世田谷区から防災ギフトが送られて来た。世帯人数に応じてポイントが配られ、その中で防災グッズをゲットできるシステムだ。活用させていただきたいと思う。辰年の今年、どうか龍神様暴れないでくださいませ。

世田谷区が世帯に配布した防災ギフト。9月1日の防災の日を前に各家庭に届けられた。世帯の人数によってポイントが決められて防災グッズと交換できる。ちょっとしたものだが防災意識の向上につながります
防災カタログの中身は例えばこんなモノ。このほかにも防災ラジオやトーチ、トイレや折り畳みヘルメットなど多彩

 この夏休み地震に始まり、台風に見舞われ、多くの人が予定の変更やキャンセルを強いられたと思う。平穏な日々が続きますように。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。